牽牛星のよろず日記

自分の興味あることを思うがまま記述したいと思います。

始祖から連なる流転する多角形の物語

 

 

①始祖の宣教

 

 

ジェネシス

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1870年代、フットボール創世期、『母国』英国が中心の時代、現在のクラブチームが覇権を握る時代とは違い、ナショナルチームが先進的イシューを提示していた。ロングボールを中心とするダイレクトスタイルのイングランドに対抗するようにスコットランドではショートパスを中心としたテクニカルスタイルを志向していた。

 

19世紀にフットボールはユニバーサルな競技へと発展。この時の英国のフォーメーションはVフォーメーションと呼ばれる235が中心で5TOPが採用されていた。

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前線5枚というのは、横一列に並ぶ適切な人数として5枚が理想的という、おそらく帰納的な帰結だと思うのだが、現在の5レーン理論に通ずるものと言える。後ろ5枚は2人のフルバックと3人のハーフバックマンマークで5TOPを抑えていた。

 

 

〇始祖のまいた種

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マンチェスター生まれのイングランド人ジミーホーガンは

 

1910年オランダ代表を指導

1912年オーストリアのウィーンFCを指揮

1914年ハンガリーのMTKを指揮

 

彼の『巡礼』が世界のフットボールを動かす

 

ホーガンはスコットランド式のフットボールを好み、テクニカルで流動的なスタイルを3国へ布教した。この3国では、ある思想が発芽し、現在では『トータルフットボール』と呼ばれる。

 

1912年ウィーン布教は、1930年代オーストリア代表の強靭化を生む。偽9番シンデラーを中心とする3223のWMシステムで世界を席巻し、ヴンダーチームと呼ばれた。

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1914年ハンガリー布教は、1950年代にプシュカシュを中心とし、偽9番ヒデグチ擁するハンガリー代表を生んだ。システムは3232なるMMシステム。このMMを頭文字として彼らはマジックマジャールと呼ばれ支配的な集団として君臨した。

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戦争と政変が伝説的なWMとMMを過去の物としても、5人の守備者集団である底の五角形(ボトムペンタゴン)と攻撃集団である前の五角形(トップペンタゴン)による各員の持ち場を守るマンツー守備と5TOP攻撃のダブルペンタゴンが主なシステムだった。

 

 

〇ソリューション6

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『母国』を中心に生み出されたダブルペンタゴンは、『王国』によって破壊される。自国開催W杯となる1950年のマナカナンの悲劇から8年、若きペレのいたセレソンは424システムで初優勝。ボランチ2人は攻守両面での遊兵のように前線に入り6枚の攻撃を可能にし、また下がって6枚での守備を可能にした。

 

相手が5枚で攻守分業なら、こちらは6枚で攻めて守るシンプルな回答を提示した。攻守分業制の終わりとポジションに囚われない遊兵を作るデザインフットボールの世界に大きな衝撃を与えた。

 

そして時計仕掛けのオレンジが動き出す。

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ホーガンが1910年に指導したオランダ代表にはジャックレイノルズがいて、彼は1915年から30数年にわたりアヤックスを指揮し、テクニック重視の思想やウイングを用いた攻撃を植え付けた。その時の指揮下にいたのがオランダトータルフットボールの父ミケルスであった。

 

1970年代にミケルス監督のもとでポジションチェンジとオフサイドトラップを運用したコンパクトな布陣による『ボール狩り』を志向した433のサッカーでアヤックスは大耳3連覇を成し遂げる。その時の中心選手が偽9番クライフ。

 

この3連覇を見届けるように『始祖』ホーガンは1974年に深い眠りについた。

 

〇受け継がれるもの

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クライフは選手時代を過ごしたFCバルセロナの監督に就任し、90年代にエルドリームと呼ばれる栄光をもたらす。

 

システムはオランダ式343で中盤菱形のこのシステムは3つの六角形が見て取れる。

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4番を中心に3バックと3MFで囲まれる六角形

10番を中心に3MFと3TOPで囲まれる六角形

外周の3バックと3TOPで囲まれる六角形

 

2つの六角形が重なり合い、周りを囲むように大きな六角形がある、このトリプルヘキサゴンシステムはボールを保持するというよりも、ボールを狩るための陣形である。

 

433で許されていたポジションローテは最小限にし、ウイングが幅を取り、ひとたびボールをロストしても即座に3つの六角形が収縮し奪い去るという設計であった。しかしながら実際はボールプレーこそ美麗ながら、後のペップバルサのような即時奪還の苛烈さはなく、クライフの唱える2局面特化循環の理想までは具現化できなかった。

 

この六角形の中心となる4番と10番は重要ポジションであり、前者を任されたのがペップグアルディオラ、現在のフットボール界の中心人物の一人であり、クライフバルサでの大耳制覇から約20年後にバルサ指揮官としてトータルフットボールを進化させる。

 

クライフは狩りの際に秩序だった六角形を保持すべくポジション変更は最小限にしていたが、ペップはここにコアUTを加えて柔軟な動きを与え、幻惑戦法へと昇華させる。

 

 

②多角形構造の利点と運用例

 

ハニカム構造

 

平面充填(テセレーション)と呼ばれるものがある、早い話が平面に多角形を敷き詰めていくという事である。この場合正多角形一種類敷き詰めであれば敷き詰め可能なのは正三角形と正方形と正六角形である。

 

周長は頂点が増えるほどに円に近づくため短くなる。そのため正六角形を敷き詰める事で最も周を短くし敷き詰めに必要な材料を最小にして強度を高める構造としてハチの巣格子構造(ハニカム構造)が知られる。

 

自分は大学学部時代にグラフェンというハニカム構造物質に注目し、グラフェン中の電子の有効模型がディラック方程式で記述できることに興味を抱き、相対論的量子力学の体系を熱心に学んでいた。

 

ハニカム構造は、ハチの巣や様々な物に応用されており、サッカーにおける六角形構造は人の輪なので、周の短さは人と人の距離の短さに相当する。この事がボールを狩る際に最小限の移動のみで最適な攻撃姿勢の確保と等価である最適守備配置を可能にする。

 

ペップバイエルンでは、多角形構造の採用により、短距離移動(スプリント)は多いのに走行距離は少なく支配率が高くなる特異性が指摘されていた。

 

この多角形構造の適用が現代では一般的となっている。

 

 

〇運用例

 

ex.1)ラングニックのヘキサゴン

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ドイツで『教授』と呼ばれボール狩り戦術の最先端を行く男、ラングニック学派の生みの親ラングニックはRBライプツィヒで自身の戦術を反映させていた。

 

陣形は4222と言われるが、正確には(4+ヘキサゴン)である。

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中央で六角形を作り中央にボールが入れば六角形で囲い込み、奪い去れば数秒でゴールへ向かって一目散に走る。それを怖がってサイドへボールを通されると、サイドラインという『DF』と共同でサイドで圧迫させボールを奪い去る。

 

ラングニックのボール狩りも収縮する六角形構造を用いたもので、六角形を通過されればDFが飛び出し潰すというハイリスクな戦術。ハマれば強敵も食らうが、SBが相手ウイングに対して質的に劣ると厳しくなる。

 

実際、ラングニック学派のシュミット率いるレバークーゼンはペップバイエルンと対戦し、アロンソから対角パスをコスタに通されサイドは蹂躙され敗北した。

 

リスク軽減策として提案されるのが一人減らした五角形構造の採用

 

ex.2)フォンセカのペンタゴン

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20-21シーズンにASローマを率いたフォンセカは興味深い戦術を用いていた。システムは3421、実態は(5+ペンタゴン)である。

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中央で五角形を作り外へ誘導し外でボールを狩る。相手を前へ引きずり出して裏のスペースを突く『疑似カウンター』が主武器で、基本は撤退し、前へ出したところをスピナツォーラが裏を突く構造をしていた。

 

ビルドアップでもボランチを落した疑似4バックと4番の5人で組み立てるなど、面白いスタイルであったと記憶している。

 

しかし撤退されると何もできず、撤退守備を選択しても守り切れない組織的な問題で失点はかさみ上位チームに勝てず、モウリーニョ招聘へと至った。

 

 

ex.3)相ヘキサ

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また、クロップリバプールも20/21シーズン前半のシティ戦で六角形構造で中央制圧を見せると、相対するペップはリバプールのSBを抑制する六角形をぶつけるというヘキサゴンのぶつかりが見られた。同じ六角形でも機能と狙いが異なる。しかし目的はユニットで連動して攻守を両立させていることである。

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このように現在のフットボールは、線で並び1VS1という時代から面を構成しユニットを組むという時代へと変貌している。

 

この多角形構造は主にバイエルン時代に指摘され始め、日本では庄司悟氏がペップバイエルンに潜む多角形構造を指摘していた。庄司氏はクロップリバプールの失点減少に関しても4321のシステムの中にCB2人とIH2人とシャドー2人の6名による六角形構造があるとして、『魔法陣』と呼んでいた。

 

面によるユニット化を引き起こしたのはペップバルサの影響が大きく、人と人の間でボールを持ち捌き引きつけて正対でパスを繰り返すスタイルへの応手と見て取れる。

 

そんな多角形構造のトリガーとなったペップのこれまでを振り返る。

 

③ペップの多角形

 

バルサ時代

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バルサ就任2年間、圧倒的なポゼッションと即時奪還スキームにより、殆どの試合がハーフコートに押し込んでの展開が多く、コンパクトに攻め守る設計だった。そして押し込んでいる時バルサは235のような陣形を良く見せていた

 

かつてのVフォーメーションのような5TOPであり、初期配置として433からスタートするもののアウベスがRWG化し、メッシは中へ、両WGも中へ入りLBも上がっていた。

 

ビルドアップの際には仮想3バックを形成し保持すると後ろに2枚のCBを残し、チャビ、イニエスタ、4番(ヤヤorブスケツ)の3名が中盤を形成しメッシがそこへ参加する。かつてのダブルペンタゴンとは異なり各員が一定の自由が与えられており選手間距離を適切に保ち保持と即時奪還を両立させていた。

 

しかし幅を取るのはSBなので独力突破が出来ず詰みやすい事や高さがない事もあり苦しむケースに見舞われた。バイタル攻撃至上主義に殉じ不器用に負ける試合もあった。2枚のCBと3枚の中盤からなる5枚、両SBと3TOPからなる5枚、2332のようなダブルペンタゴンが試合中よく見られた

 

3年目にペップは構造を変更する。LBにシウビーニョやマクスウェルを用いていたが、アビダルを起用し、LBと2CBでの3バックへ変更、メッシを中央の初期配置へ変更し、ビルドアップが終わるとアウベスがRWG化し、WGのビジャとメッシが縦関係を形成、中央を4枚とする343へと変貌した。

 

時としてブルペンタゴンになったりトリプルヘキサゴンにも変容する。この3ヘキサ構造の導入による支配構造の高まりから38試合で失点21というリーガでの成績をあげた。ボールを延々と握り、奪われれば六角形が収縮するボール狩りが発動した。

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そして迎えた4年目に初期配置として3ヘキサの343を導入した。アウベスをCBに回して前線の幅取りはテージョといった純正WGにも託された。攻撃力は増し続け、クライフ時代の343と異なり、前線はレーンを『横断』しつづけるコアUTを用いた370とも評されたシステムをCWCサントス戦で見せていた。

 

しかし433から343へは行けても、343を初期配置とするとどうしてもLBが足らなくなる問題から3ヘキサから2ペンタに戻れなくなる問題が起きた。選手入れ替えが必要で厳しく、WGの質的優位にも苦しんだ。

 

そしてLSBのコアUTとWGが強力なチームにペップは向かう

 

バイエルン時代

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ロベリーという強力なWGを抱えトップペンタゴンは強靭化し、マンジュキッチミュラーといった屈強な選手は攻め手の柔軟さを与えた。ボトムではラーム、アラバ、ハビというコアUTの存在から柔軟な組み方が可能で、アラバのボランチラインへの移動は偽SBと呼ばれた

 

バルサ戦術の言語化として5レーン理論が提唱され、トップ/ボトムにペンタゴンを形成し5レーンをどう攻めどう守るかを中心とした落とし込みがなされ、2つの五角形による支配構造が明確に打ち出された。

 

バイエルン時代は特にコアUTを用いた『横断』を頻繁に用いて、ポリバレントにポジションを交換し相手を幻惑する戦術が盛んで史上最速優勝を決め臨んだ大耳4強でボトムは破壊されトップはロベリーの不調と最終生産性のなさもあって完敗し翌年がW杯明けという事も加味し構造を変更する。

 

2年目は大外はベルナト、ラファといったWBに任せ、初期配置の時点でボトムをfixedしておくことで変異遅れへのカウンター炸裂の予防をした。トップペンタも念願の最終生産者レバを獲得し、シャドーにゲッツェミュラーが起用された。

 

しかしWBは独力突破が出来ず、ラームやアラバの補助を必要とし、またケガ人の多さからロベリーは稼働できずハビは靭帯損傷でシーズンアウト、なんとかUTで乗り越えリーガは防衛するので精一杯だった。

 

迎えた3年目に同足のコスタとコマンでレバとミュラーの縦関係の2TOPへのクロス爆撃を中心として猛威を振るった。またダブルペンタゴンの強度を向上させると同時に343の導入にも成功した。

 

442を初期配置として両SBのラームとアラバがボランチラインに入り23ペンタゴンが形成され、ビダルという広範なカバーが出来る選手を底にして強烈な4トップからなるトップペンタゴンが形成しブルペンタゴンになる。

 

442を初期配置としてラームだけがアロンソの前でIHになりミュラーが10番になるだけで343が出来トリプルヘキサゴンとなる。ラームがボランチに入れば2ペンタにも戻りバルサ最終年の課題もクリアされ、理想の布陣を手に入れた。

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残念ながら大耳制覇はならなかったものの多角形構造としては理想形を手に入れたと結論出来る。

 

 

④シティの多角形

 

〇不変の4年

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バイエルンでの毎年の構造変革とは対照的にシティでは4年間ずっとダブルペンタゴンを採用し続け、起用する選手による差異こそあれ、基本的には4番とLSBのダブルボランチをウォーカーがRCBに入った3バックで支えるボトム、シルバとデブライネの2人がハーフに位置し3TOPはサネ、アグエロスターリングからなるトップで固定された。

 

基本的にはWMシステムが採用され、世代交代しながら安定的にリーグ優勝争いと大耳での上位進出という文化の形成のため、大規模な構造変更をすべきでない、とペップが考えたのかもしれない。

 

誤算だったのはLSBメンディのケガ体質と最終生産者の獲得失敗だろう。

 

2年目の大型補強でムバッペに破壊されたボトムの再建としてウォーカーとメンディは獲得された。ウォーカーとメンディを3バックの左右に入れるとDFラインの2CBは片側だけで十分となる。そこでCBがボランチラインに上がる必要がある。これが初年度のストーンズの偽CB的動きであり、ジーニョもこなしていた。

 

人的資本が不足した初年度、ケガ人で溢れかえった4年目は苦しんだが、4年間でダブルペンタゴンシステムはリーグ連覇、FAカップ優勝1回、カラバオカップ3回優勝という国内では圧倒的な戦績をもたらした。

 

すっかりユニットによる攻守の多角形構造モデルが模倣され、ペップシティは5レーンを埋めた相手と対戦する事が増えてきた。

 

 

〇時代は巡る

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5年目というペップの単一チーム監督歴を更新し、シーズン開幕から苦しみ続けた。ペップは終わってしまったのか、そんな声が大きくなり始めていた。

 

時を戻そう。ペンタゴンを壊した1958年のセレソンを思い起こそう。彼らはペンタゴンに対して遊兵を用いて6人を攻守にあてて数的優位性で破壊した。ソリューション6となった424で。

 

シティのトップペンタゴンに2ボランチの誰かが加勢すべく、偽SBでボランチに入る選手がトップペンタゴンに侵入していけば良いのだ。カンセロロールである。

 

ボランチにも回れるハーフ要員がボランチラインに入りボトムペンタゴンを増強したりボランチからトップペンタゴンに加勢、といった形で現代のダブルペンタゴン時代で優位性をシティは確保しようとしていた。

 

結果としてリーガ制覇、カラバオ制覇、大耳準優勝。ぺップは更に、このソリューション6戦略を進めていくと思われる。そしてペップの過去の傾向からシティでの終局も見えてくる

 

 

〇偽偽SBと円環

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バルサバイエルンではいずれも2ペンタと3ヘキサと初期配置は433と442の違いこそあれ、この3陣形を選手の入れ替えなしに円環するスキームを作りピークを迎えた

 

バルサは初期配置433から両SBが上がれば2ペンタ、アウベスだけ上がれば3ヘキサとなり選手を入れ替えずに支配する構造に3年で至った。

 

バイエルンは初期配置442から両SBが偽SB化すれば2ペンタ、ラームがIHに上がると3ヘキサとなり選手を入れ替えずに支配する構造に3年で至った。

 

シティではカンセロが上がり、ボトムにカバーが入らなければ3ヘキサ、カバーが入れば2ペンタの構造を可能にした。勿論選手の入れ替えなし。

 

しかしカンセロは守備で穴になる。そこで今季6年目は新機軸2323に挑戦している。かつてのVフォーメーションのようなシステムだ。

 

大耳決勝での外攻め封鎖に応手すべく、偽SBとハーフ要員とWGの3名の三角形で崩すために偽SBの位置が上がっており、加勢に入りやすくなる。またSBの偽SBによる内側への絞りに加えて前線への攻め上がりという純正SBの動きも加えて加勢し、仮に空けたスペースにカバーが入らなければ343となり、カバーが入ればペンタとなる。偽偽SBともいえるSBのハイブリッド化という新機軸である。

 

メンディは混乱していたが、フィジカル的に強くWG化しても十分な質的能力を秘めた選手だけに期待も大きいのかもしれない。

 

ペップが見るシティでの終着は433を初期配置として偽SB×2でペンタゴン化し、偽偽SBで前線に上がりヘキサゴン化433と2323と343を選手を変更せずに自由自在に円環するサイクルの形成こそ真の狙いなのではないか、と予想する。このスキームの左ラテラルはメンディ離脱によりカンセロしかこなせないのが課題で、そこをどう解決するか課題になるだろう。

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来季契約満了を迎えるペップ、どのような帰結を迎えるのか、注目したい。

 

残す最後のタイトル、大耳を獲得するため勝負の2年間が始まる。円環を目指すペップの冒険が幸福な帰結を得る事を心より願っている。

 

 

⑤終わりに

 

サッカーボールは正五角形12個と正六角形20個からなる32面体であり、縫い目は90か所である。ゴールネットは六角形が敷き詰められたものが多く(四角形のものもあるが)、サッカーには多角形で溢れている

 

サッカーの母国が生み出した五角形構造は、現在のフットボールでも頻繁に見る事が出来る。5レーン理論に基づく最適配置理論は必修単元となっており、5人ずつの2つのユニットによる分担はテンプレ化していく。時代は再び多角形のぶつかり合いへと向かおうとしているのかもしれない。

 

1953年、最強イングランドが初めて英国圏以外のナショナルチームにホームゲームで敗れた。勝利したのは英国から『裏切者』と呼ばれたホーガンのDNAを受け継ぐマジックマジャールだった。

 

監督セベシュは『今日、われわれが披露したのは、全てジミー・ホーガンが教えてくれたものだ。ハンガリーサッカーの歴史の中で彼の名は金字塔として輝いている』と感謝の意を示した。

 

始祖ホーガンから脈々と続く『トータル』思想は、レイノルズ、ミケルス、クライフ、そしてペップへと受け継がれている。

 

ホーガンはマンチェスター出身の英国人で、アヤックスで彼の思想を受け継いだレイノルズはマンチェスターシティの選手だったそうだ。

 

(マンチェスター)⇒(アムステルダム)⇒(バルセロナ)⇒(ミュンヘン)

 

ホーガンがアムステルダムで宣教し、クライフがバルサへ持ち込み、ペップがバイエルンへと輸入したトータルフットボールの旅は再びマンチェスターへと帰ってきた。それも赤いマンチェスターではない、レイノルズのいた水色のマンチェスターである。

 

ペップはホーガンやレイノルズを知らないかもしれない。しかしペップへ連なる縦糸にはホーガンとレイノルズがいる。彼らなくしてはミケルスもクライフもなく、ペップがトータルフットボールの宣教師になっていなかったかもしれない。

 

空から今でもホーガンは自身の縦糸に連なる後継者が率いるマンチェスターシティの試合を見ているかもしれない。上空から見るとピッチ上には様々な多角形が描かれる、特に今季はホーガンの時代の基礎フォーメーション235が頻繁に出現するはずだ。それを見て彼は何を思うのだろう?

 

初期配置と五角形と六角形という3つの状態を三界流転するペップの輪廻が、新たな縦糸の始まりとなり、ペップが新たな『始祖』となる、そんな瞬間を我々は目撃しているのかもしれない。