第1章 英国上陸前
1-1 バルサを追いかけて
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ジョゼップ・グアルディオラとユルゲン・クロップ、プレミアリーグでしのぎを削り時流に乗り遅れつつあったプレミアリーグを欧州列強戦線に引き戻した2人の指揮官は、対比関係によって取り上げられる。
ポジショニングのペップ、ストーミングのクロップ
静的クラシックのペップ、動的ロックのクロップ
バルサの名選手のペップ、叩き上げのクロップ
しかし、この二人は同種の仕事に取り組んできたと言える。
それは”ペップバルサの再現”である。
ゼロ年代最後の覇権集団にして近代最高峰の到達点ペップバルサ。世界のサッカー界の主人公であり主語であり続けたチームは全世界の定点観測対象と化し、10年代におけるサッカー界の最大のイシューはペップバルサの支配力を再現するためには、どうすれば良いのか、であり多くのチームがペップバルサを追いかけ続けた。
それはクロップも例外ではなく、ペップも同様だった。
一世を風靡した集団の本質それは
①可変5トップの形成
②即時奪還模型
③絶対的最終生産過程の構築
この3つに分解出来る。
可変5トップに関しては5レーン理論と呼ばれ、即時奪還構造はゲーゲンプレスと名付けられ、最終生産過程においてはMSNやBBCがその後の覇権を掌握した。
このどれかが欠ければ”バルサ”にはならない。保持は本質ではない。それは手段でしかなくパスサッカーというバルサの形容は間違いであり、ペップがティキタカをバルサはやっていたわけではないと言っていたのは、こういうことだろう。
1-2 五人囃子
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まず5トップ形成に関しては、今や当たり前のように多くのチームが最前列横幅に5枚を並べることを基準として取り組んでいる。初期フォーメーションがどうであれ、攻撃時には相手陣地に5枚を並べることを理想としている。
ペップバルサにおいては433から始まり、攻撃時には両翼は中央に絞り、大外はSBが取る
LSB+LWG+CF+RWG+RSBで5レーンを取っていた。
このモデルを忠実に再現したのがクロップだった。クロップの率いるドルトムントでは攻撃時に両SBが大外を走り両WGは絞り5トップを形成していた。バイタルを蹂躙するために5レーンを埋める、というバルサ再現に挑んでいた唯一のチームだった。
ドルトムントではこの5トップの後ろからトップ下にいる香川、レバ(バリオスがCF時)が飛び出すシャドーストライカーとして暴れ回る。これはペップバルサ4年目におけるセスクに託したロールであり、クロップはバルサの先を見ていたかの如く見える。
リバプールの監督になってからもこの5レーン攻撃は継続しており、中に絞る得点力の高いRWGサラーと右前方をカバーし攻撃的貢献の高いSBのTAAの組み合わせは前期ペップバルサにおけるメッシとアウベスを彷彿とさせ、偽9番フィルミーノの組み込みも偽9番メッシのインポートに見える。
このようにクロップはペップバルサの再現を忠実気味に挑むのと対照的にペップはペップバルサから離れた形で再現に挑む。
バイエルン時代、シティ時代両方ともに強烈なサイドアタッカーを用いて両翼はWGに取らせてハーフスペースにはバイエルンではSTミュラーとIHビダル、シティではIH2人を組み入れたバルサとは異なる設計を持ち込んだ。
この両名の選択が特異性を呼び起こす。バルサの構造的に近似性が強いクロップはバルサとは対極にあるように扱われ、バルサの構造から離れようとするペップのサッカーこそがペップバルサの正当後継として見られるという歪みである。
1-3 嵐を呼ぶ男
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クロップはバルサの本質的な部分に似せた立ち位置をとりながらドルトムントのサッカーとペップバルサのそれは様相を異にしていた。それこそがクロップがコピー出来なかった部分であり、それは経済力に起因する技術力の限界である。
技巧を持たないペップバルサ、乱暴な言い方をするとクロップのドルトムントはこう形容出来る。数年前まで破産の危機にあったクラブがバルサの選手のような人的資本は確保出来ない。だからこそクロップはスケールチェンジを図る。
19世紀、物理学は完成したと言われた。ニュートンとマクスウェルが作り出した古典力学と古典電磁気学で物理現象は説明出来るはずだった。しかし、これはパラメータのスケールが変わると簡単に崩壊した。光のスケールで運動する質点は相対論補正を要し、質点の大きさがミクロスケールになると量子力学の設計を要求した。
クロップが考えたのはプレースピードの高速化によるスケールチェンジである。高速化した無秩序状態にすればどんなチームでもミスは乱発する、そして当時のラインディフェンスを埋めるフィジカルの人の壁の隙間を掻い潜るアジリティを武器にする選手を用いてボールを回せばどんな相手でも対等に戦えると。
こうして秩序立った静的配置からメッシにボールが入ってから高速化するペップバルサの脱構築集団は、常にメッシのボールが入った状態のように狂ったようにプレースピードを上げ続けた、より速くより細かく、この無秩序な嵐の形成=ストーミングがドルトムントだった。
ビルドアップでは中盤を省略し前線に投げ打ちボールを収められる選手を9番起用してボールを運搬し、上手くいかなくても、ボール周辺に人の群れで襲いかかりショートカウンターを炸裂させ、ボールが前線に届けば可変5トップでバイタルを攻め落とす。皮肉にもバルサブームでバルサの表層的な部分をコピーしただけのペップバルサの劣化コピーチームは正当コピーであるクロップのドルトムントの格好の餌食だった。
1-4 最終生産過程の建築者
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クロップが嵐を巻き起こしているドイツに上陸したペップ。選んだチームはバルサとは違い強烈なサイドアタッカーのいるバイエルンを選んだ。ペップバルサの生みの親はポゼッション原理主義者のように語られることもあるが、それは本質的ではない。
小生はこのブログで何度も主張しているようにペップとは最終生産過程の建築、そしてそこから逆算される支配構造の設置の両立が得意な指揮官である。そして歴史的選手メッシを得たことでペップバルサは圧倒的な戦績で伝説となった。
ポジショナルプレー、つまり質的優位、配置的優位、数的優位の3優位を複合的に捉えて具現化する能力に優れ、そのために圧倒的な財力が要求され、それを叶えられるチームとしてバルサの次にバイエルンを選んだ。
そこでペップは5レーンの形成においてバルサ時代とは異なり両翼はSBではなくWGに任せて中央にはマンジュキッチ、両側のハーフスペースにはミュラーとボランチによって埋めてバルサ時代とは異なるクロス爆撃のチームへとデザインされた。
5レーンと即時奪還は可能だったが欠けていたものがある。生産者だ。そして引き抜かれたのはドルトムントで絶対的な軸だったレバンドフスキだった。ペップバルサの再現を目指した二人の率いたチームの栄光をもたらしたのはどちらもレバンドフスキだった。そして最終生産者を失ったドルトムントはレバ退団一年でクロップのドルトムントでの冒険は7年間でピリオドを打つことになった。
2人のポストペップバルサチームでエースとなった男はメッシ退団後のバルサでもエースとして獲得されており、支配チームにおける”メッシ”という要素に最も近しい代替パーツはレバンドフスキなのかもしれない。
レバの引き抜きでクロップはドルトムントを去りリバプールへ向かう。ペップもまたバイエルンでレバの最大値を引き出すハイクロス爆撃集団を作り3年を過ごしシティへ舞い降りた。
第2章 交わる赤と青
2-1 逆襲の赤
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リバプールはアメリカ資本、MLBでマネーボールで世界を制したBOSでの成功をもつFSGが買収を果たした。彼らは野球的なものの見方が強く、クロスが上手いアダムとヘッドが得意なキャロルを獲得すれば得点を量産できるだろうという離散的な物の見方をしていた。そして、そんな彼らがLIVを強化するために考えたのは、一番強いチームだったバルセロナのようなチームを目指すことだった。
バルサの始祖であるクライフやLVGをダイレクターとして招聘しようとしており失敗に終わるも、彼らのバルサコピーの野心は消えなかった。当時プレミアで一番バルサっぽいチームだったスウォンジーの監督ロジャースを引き抜く、しかしポジショナルプレー導入は難航し、スアレスとスターリッジのカウンタースタイルはリーグを席巻するも、シティにリーグは取られ、そして途中解任されたロジャースの後任こそクロップだった。
ドルトムントで低予算で結果を出す姿にMLBのヘッドコーチみを感じたのだろうが、この選択はバルサコピー路線を無視したものだったにも関わらず結果的にバルサの再現という宿願を果たすことになる。それはポジショナルプレーに必要な財政的な支援がないため表層的にはバルサのカウンターカルチャーと見られていながらも、実態として極めてバルサ的なチームを建築していたので、気づかれなかったのだろう。
MLBのようにGMがスカッドを決め、監督は現場のいちコーチとして与えられた戦力の最大化を目指す、この極めてMLB的思想と低予算で勝った実績を持つクロップは相性が良かったのだろう。そしてクロップはサポーターに対して疑う人から信じる人になって欲しいと訴え、ヘビーメタルと自称するハードスタイルは労働者階級を中心とする熱心なサポーターのハートをガッチリ掴み、そのことが、このMLBスタイルが緩やかに現場の意見を最大限汲み取るというヘッドコーチを超えた待遇をクロップは掴み取るのである。
そしてLIVはクロップ成分が注入されていく。コスパ重視でクロップに合いそうな選手をピンポイントで獲得していく方針でゆっくりと確実に戦力が集まり出す。そしてサラー、アリソン、ファンダイクを手に入れ、チームは遂にクロップ就任4季目となる18/19シーズンにCL制覇の偉業を成し遂げ、翌季19/20にはリーグタイトルを獲得。クロップ政権は大成功を遂げた。
2-2 変異の発露
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クロップの5レーンはドルトムント時代から不変だ。しかし基本フォーメーションは4231から433に変貌した。前線はマネとサラーの両翼と偽9番フィルミーノのフロントスリーを基調にし大外はSBであるアーノルドとロバートソンがカバー。ドルトムント時代の6人目だった香川やゲッツェの役割は偽9番フィルミーノ、そしてSBであるアーノルドのサイドからのゲームメイクでカバーすることにした。
中を切って外へ誘導するプレスではなく、外を切って中へプレスで誘導し、そこで奪い去りカウンターをするなら外ではなくゴールに近い中の方が良いという発想で、よりクリティカルなカウンターを打つためのプレスが志向された。
ここで発生したのがIHのIH性の減退である。IHに求められるラストパスや攻撃的貢献より重要視されるのは前線の外切りプレスによって誘導された中央への侵入に対しボールを奪い、カウンターのために前線選手の体力温存のためサイドにボールが出されればIHが飛び出して潰すことが要求される。
LIVのIHに求められるのは一般的なIHよりむしろボランチである。拾い潰しカバーし時として前線に飛び出す。このボランチ的素養を有す存在としてチェンバレン、ヘンダーソン、ワイナルドゥムが登用されたのは納得できる。
そしてシティだ。5トップの組み方はLWG+IH+CF+IH+RWGである。クロップと違い参加しないSBは何をするのか、ペップはバルサ退団以降SBには純正の動きを望まなくなった。それは前線の五人囃子に参加させずに、後ろでゲームメイク、もしくはカウンター対策に防波堤になることを求めた。偽SBである。シティにおいてSBは右のウォーカーは3バックの右HVとしてプレーし、LBのデルフ、ジンチェンコはボランチ脇に入り2ボランチの一角としてプレーすることが求められた。
そして生まれるのがSBのSB性の減退である。SBに向いてない選手ほどペップシティではSBとしてプレー出来る。そしてIHはゲームメイクよりもシャドーとしてクリティカルな最終生産過程への参加が求められた。ペップシティ1年目においてギュンを執拗に起用していたのもこうした得点を期待してのことなのだろう。
おそらくダビシルバはペップの求めたシャドーではない。しかし、要求を覆すほどの貢献を見せ、スターリングを左翼で輝かせたり圧倒的な貢献でペップに嬉しい妥協を与えた。支配力と柔軟なポジション変更によって国内を支配したペップシティ。LIVに手を焼きながらも国内においては圧倒的な戦績を誇った。
しかし欧州戦線においては苦しみ続けた。アグエロが耐久力に不安を抱え、アグエロ不在時の破壊力は厳しく、それはシャドーにシルバ、ベル、デブ神といった得点力だけ見れば厳しいメンツであることや、スターリングが絶対的な存在になれなかったこと、サラー抜きでバルサ相手に奇跡を起こせたチームとの違いは、この”妥協”にあったのかもしれない。
このLIVにも見られる一部のポジションにおける典型挙動を離れたアノマリーは相手を出し抜くために作り上げる優位性の結果なのだろう。
2-3 正攻法という対策
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強いチームに蹂躙される光景を座して見ているほどプレミアは甘くない。ペップシティの弱点である偽LSBは狙われ、クロップリバプールの弱点であるドン引きを頻発され、対策の対策を提出することが両チームに求められた。
クロップとペップの出した答えは、回答こそ違うものの本質的には同じだった。それは捨て去られた一般性を取り戻し、また特殊性も担保することである。
ペップMCIにおいてRBウォーカーは3バックのHVに加えて純正SBのように攻撃参加するための大外ランニングが求められ、LBジンチェンコにはボランチ脇への移動に加えて純正SBのように攻撃参加することが求められた。右は何とか上手くいったが、問題は左だ。
そして伸び代となったのが適応に苦しんでいたメンディである。大外のアップダウンが出来、素材として素晴らしい伸び代を持つ男に純正+偽のSBロールを仕込もうとした。しかしこの男は社会復帰さえ危ぶまれる状況となり頓挫した。
クロップLIVにおいてIHに求めたのが純正IHの動きに加えてボランチロールもこなせる選手である。そしてメンディ同じく不良債権一歩手前だったナビケイタに期待していたのだろうが厳しく、クロップは思い切った賭けに出た。チアゴアルカンタラの獲得である。
こうしてSBに”SB”させるMCIとIHに”IH”させるLIVという構図が出来た。SBが大外を走りゲームメイクまでするLIVのようなMCIとIHからキラーパスを通しそれに3トップが反応し走り刺すというMCIのようなLIVという同質化が発生した。
こうしてLIVは内容も様相も完全なるバルサコピーを成し遂げた。技術を差し引いたバルサに技術を注入すれば、そりゃバルサになるわな、という必然の帰結である。
ペップシティも433ではなく442で構える事が増えてきた。LIVのダイクのような信頼できるCBであるルベンを手に入れたことで強度も増し、遅攻ではなく速攻で刺すカウンターが有用になり、ハーランドも加え、ますますカウンターは精度と殺傷力を増すはずで、どんどんLIVに似ていくことだろう。
2-4 赤と青の行方
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ストーミングのLIVとポジショナルのMCIは互いに影響を与えることで同質化へと至ったわけであるが、今後2チームはどうなっていくのだろうか。
LIVにおいては歪みが発生しつつある。対策の対策と本来の原点の共存の中でIHのポジショニングはぐちゃぐちゃになってしまっている。エリオットは外に流れ、ミルナーは前線に上がり引いた相手に対しロングを投げざるを得ず空洞化した中盤を経由しカウンターが打たれ続けている。サラーはなぜかRSBの位置からドリブルを始めている。
何がどうなっているのか分からないが、一度原点に戻る必要があるのかもしれない。ドルトムント時代とは異なる状況であり、ポジショニングさえ修正出来れば覇権クラブに戻るはずなので、修正に期待したい。
MCIにおいても難しい問題に行き着く可能性がある。今のシティの最適な運用はボールを放棄しデブ神とハーランドでカウンターをし続けることなのだ。442で撤退守備をして、相手を誘き出したところでボールを奪取しデブ神からの高速カウンターを差し続ける。これがベストという皮肉を見ている。
LIVとMCIが当たると、チアゴを中心にポゼろうとするLIVと引いてカウンターを狙うMCIという構図になるかもしれず、混沌が展開されるかもしれない。一体どのような帰着を今季のプレミアは見せるのか期待しよう。
LIVはIHのアノマリーを修正し正常挙動に戻し、MCIはSBのアノマリーと正常挙動の両立に挑んでいる。実はこの違いに自分は一番の面白さを感じている。というのもペップバルサも同様の問題に行き着いているからだ。
ペップバルサはメッシの最終生産効率の最大化を目指しデザインされた。だからこそいかにバイタルにボールを入れるかの一点に特化したため、WGは裏抜けの得意なストライカーが使われたことで、メッシを活かすための外攻めの駒の人的資本が枯渇した。そのことがペップバルサ終焉の直接の引き金だった。特異性をもったがために世界を支配し、特異性を持ち続けたためにバルサは時代を終えたのだ。
この失敗を知るからこそ、ペップはアノマリーの温存治療を選択し、クロップはアノマリーの除去手術を実施した。チアゴの獲得で純正IHとなると問題なのは非純正IHゆえに価値の高かったアーノルド起用のデメリットが顕在化する。守備能力にケチがつき始めたのもこのへんか。
このアノマリーの扱いはペップバルサの終焉に対する、2人の名将の意見の相違なのかもしれない。特異性を捨てるか、一般性を付加するか、この選択の違いが、今後どのような帰結を招くか非常に興味深く見ている。
アノマリーで勝ちすぎると、結局のところ、それを捨てるに値するほどの正攻法に対するハードルが上がり続ける。だからシティはLBとCFの補強に難航しているし、LIVにとってもガチムチIHを捨てるに値するほどの価値を見出せる選手はアルカンタラしかいなかったのか。
交わった赤と青は再び平行線を描こうとしている。果たして、どうなるか。ある意味でのペップバルサ5年目の最適解合戦を楽しげに見ていようと思う。サードインパクトの向こう側を描くのに庵野が時間をかけてたどり着いたように、ペップバルサ4年目の向こう側の景色をペップバルサの脱構築集団の2チームを率いる指揮官が見せてくれることに期待する。
終わりに
ペップバルサは11/12シーズンをもって終焉し、10シーズンの時を経た。いまだに覇権チームの輝きは健在で、多くのチームに影響を与えたクラシックとして語られる。ペップバルサのコピーに挑みながら積もっていった挑戦者の屍を前に、ペップバルサの要素から5レーンが提唱され多くのチームで装備され、即時奪還装置も流行し、絶対的最終生産過程建築は富裕層がMSNとBBCという形で具現化した。
この10年というポストペップバルサ時代において、最もペップバルサに近づいたのは、生みの親のペップのチームではなく、クロップのリバプールのように思えてならない。守備構造には興味を示しながらもペップバルサは好みでないと公言していた男が”本家”以上にバルサのコピーを成し遂げタイトルを獲得したのは意外な結末と言える。
各要素を見ると、ペップバルサそっくりで。ポゼッションチームに見えて実はショートカウンターが最大の武器だった当時を思い起こさせる。得点力のあるRWGと異常な攻撃力を持つSBのコンビ、中裏外を突く攻撃ユニットの形成、偽9番の利用。確かにセットプレーの強度やファンダイクのような絶対的CBはいなかったものの、ペップバルサの全試合を見て、心奪われた自分の目から見てもペップバルサの匂いを一番感じさせるチームだ。
チアゴの到来でIHが純正化した今、名実ともにポジショナルプレーのチームになったクロップのチームはLIVのバルサを目指す目的を成就し、更にその先へ向かおうとしている。ペップにとっては過去の栄光という意味でのペップバルサとの戦いに加えて、現在進行形でも”ペップバルサ”と戦うという庵野がエヴァから離れられないような呪いにかかっているようにも見え、この構図もまた脱構築に身を投じた男の人生として面白いものに見える。
さて、次の10年どうなるか。今からとても楽しみだ。