牽牛星のよろず日記

自分の興味あることを思うがまま記述したいと思います。

#チャビを救いたい

チャビ・エルナンデス。言わずとしれたFCバルセロナのレジェンドにして、バルサ下部組織が輩出した最高品質のIH。無数のルックアップ、そこから最適な場所に最適な強度で極上のパスを届ける天才パサーはバルサに多くのタイトルをもたらしバルセロニスタのみならずフットボール愛好家から尊敬を集めたサッカー界の至宝。

 

そんな男がカタール”留学”を終え、指揮官としてバルサに帰ってきた。昨季途中就任し救世主として迎えられたレジェンドの率いるチームは昨季の暗黒時代の入口に飲まれることなく希望を残し今季、勝負をかけた。

 

未来を切り売りしチャビバルサで何度目かの黄金時代を建築する大博打に打って出た。

 

そして、現在、チャビバルサはCLGL敗退の危機に瀕している。

 

なぜ、苦しむのか、どうすれば救われるのだろうか。

 

今回はチャビバルサの考察と課題、そして解決策の提案を実施することにした。第1章ではチャビを形成したと思われる要素を並べ、第2章では監督としての挙動を雑多にまとめ、第3章では課題の指摘と解決策を提案した。

 

 

 

第1章 選手チャビ

 

1-1 ペップ時代

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ファン・ハール時代に抜擢されたチャビはライカールト時代の栄光(と言ってもCL制覇時は大怪我を負っており彼にとっては苦い印象が多いかもしれないが)を経験し、緩やかにサイクルが終わろうとしていた2008年、チームはレジェンド監督の就任を発表する。

 

ペップ・グアルディオラバルサ監督就任

 

チャビは周囲に、バルサが変わること、うかうかしていると振り落とされるほどの厳しい集団になることを示唆していた。

 

そして、その言葉通り、ペップバルサは時代を作りバルサを再定義した

 

チャビは放出間近でバイエルン行きも進んでいたが、ペップが『チャビなしのバルサを想像は出来ない』と言って引き留め、文字通りの大黒柱にチャビは任される。

 

ペップバルサ4年間、4年それぞれにテーマと新基軸は存在したが、一言で言えば”メッシの得点能力の最大化から逆算されたチーム”だった。バイタルエリアでボールを受けて前を向けば一点、この必殺技をコンスタントに連発してハメ技で殴り殺す事に特化したチーム

 

メッシはバイタルでレシーブするため積極的に中盤に参加する10番と9番の混合種としての偽9番が採用され、両翼はメッシへの突撃を牽制するためCB飛び出し跡への突撃が可能でバイタルを解放するために両SBを押し込むことを目的とした裏抜けが得意な非純正WGのペドロとビジャが起用された。

 

狭いバイタルへのボール供給が可能な選手が中盤では積極的に起用され、チャビ、イニエスタブスケツ黄金の中盤を形成し、カンテラ上がりの脊髄反射の最適配置理解力を活かしたボール保持による支配がもたらされた。

 

4年間で獲得可能な19のタイトルのうち、14ものタイトルを獲得した21世紀のエルドリームチームが終焉を迎えたのは、メッシの得点能力の最大化を果たすための必要なパーツを獲得できなかった、より正確に言うとメッシシフトを破れなかったことにある。

 

中と裏を殺して圧縮するメッシシフトを破るには外攻めor高さが求められる。しかし、メッシの得点能力を活かすために特化し続けたスカッドには多様性がなかった。外攻めはテージョとクエンカという経験不足のカンテラーノに任せるほかなく、裏攻めもビジャは大怪我でサンチェスも常時怪我を繰り返す始末。メッシは酸素の薄いバイタルでは生きていけなかった。

 

メッシシフトを破るためには強烈なサイドアタッカーと裏抜けで脅威を与える中央の選手が必要である。このペップが残したメッシシフト破りの”遺言”が具現化される、それは後にMSNと呼ばれることになる。

 

しかし皮肉にも外へのパス配球を遠慮し中攻めに特化せざるを得なくなる苦しみを一番感じていただろうチャビを、この遺産が退団に追いやることになることを、この時の誰も知るよしもなかったのである。

 

1-2 ポストペップ時代

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ペップの退陣、続投路線のビラノバ政権は当人の指揮困難状況に伴いレームダックと化し、そしてビエルサ流と噂されたマルティーノ政権で久々の無冠を経験。チャビ自身もサイクルの終焉を認め、バルサは混迷に至ると思われていた。

 

そしてバルサBでペップバルサを”2軍監督”として見て、ローマ、セルタで経験を積んだバルサとマドリーでプレーした混血の名誉バルセロニスタの到来でチームはペップ時代以来の栄光を手にすることになる。

 

ポストペップの2年間、バルサネイマールが加入していた。エンリケは混血なりのクライフ描像の現代的表現を試みる。そしてペップの遺産をきちんと理解していた

 

リーガ経験のある選手であるラキティッチ、マテュー、ブラーボと堅実な補強に加えて、シュテーゲン、フェルメーレン、そしてルイス・スアレスを獲得した。W杯での噛みつきで半シーズンの出場停止を受けた選手を大金を出して獲得した。この獲得は疑問の声も上がっていたものの、エンリケは理解していたのだ。ペップのバルサがなぜ強かったのか。そしてなぜ五年目を迎えられなかったのか、を

 

メッシというバイタルの支配者に酸素を供給するための抑止力を外と裏に置くエンリケスアレスの謹慎明けにWGで使う準備運動を終えてから、満を辞してエンリケの真の狙いが具現化される。

 

LWGネイマール、CFスアレス、RWGメッシ

 

歴史的なトリデンテ、MSNの誕生である。

 

偽RWGメッシはバイタルに移動し、右サイドはアウベスがカバーするペップバルサ初年度の形が具現化され、ペップが望んだメッシの得点能力最大化模型が実現した。しかし、前線の破壊力を最大化するために、聖域なきハイプレス参加は辞めた。それにより中盤に求められるのは狭いバイタルへの供給よりも3トップの尻拭い力が求められた。

 

この事がペップが絶対的司令塔として寵愛したチャビの地位を揺るがす。求められたIHはラキティッチとチャビより若いイニエスタだった。そしてチャビはリードを守るためのクローザーとして試合終盤にイニエスタと交代しティキナチオを具現化する選手へと落ち着いた

 

自分の居場所はない、そう自覚したのだろう。チャビはバルサ退団を決意する。そしてエンリケのMSN、ペップの見た理想は世界を制圧した。チャビにとって2度目の3冠の栄光が包むカタルーニャを後にする男は中東へと向かっていった。

 

1-3 原体験からの学び

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チャビはバルサで多くの経験を積んできた。LVGの若手の抜擢、ライカールトのタレントとの調整能力とクライフのWG描像への積極的な変更、ペップ時代のカンテラを中心としたメンバーによる栄光と特化する強みと弱み、エンリケ時代の質的優位性を押し出した栄光。そして代表のコアチームとしてバルサが輝き、代表でメジャータイトル3連覇を成し遂げた事

 

これらの成功体験と失敗が現在のチャビバルサに活かされている。外攻めの質的優位を重要視し、ビルドアップからの緻密に組み上げるバルサ流を軸にしながらも最適配置に固執するよりも独力で突破できるWGがいないとボールが回らずに苦しむストレスをスペイン代表でもバルサでも経験していたことは後にチャビバルサを見ると活かされていると感じる。

 

また、ペップ時代の絶対的スタメンとして、エトーやイブラと対立したペップを見ていて、ライカールトの融和政策を取るべきではないかと考えていたのかもしれない。問題児を切り捨てるよりも有効活用する重要性を学んだのかもしれない。

 

ペップがメッシの有効活用に固執していった結果として本当に必要な選手がアンリのような外攻めの駒と裏攻めのエトーだったという皮肉はチャビの目には手駒の多様性を確保しながら特化しきらないバランス感覚の重要性を身に染みて実感していたのかもしれない。

 

オンリーワンのプロセスでナンバーワンを目指すクライフから脈々と続く路線をリスペクトしながらも師事してきた数々の監督から様々な要素を抽出し、カタールで自身の思う実験を施した後に、選手時代の経験を混ぜた合い挽きミンチはチャビバルサというハンバーグに焼きあがるわけだが、その合い挽きの要素は確実に選手時代にあったと結論づけられる。

 

 

 

第2章 監督チャビ

 

2-1 中東にて

 

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カタールに選手時代の晩年を過ごしチャビはすぐさま監督へと転身。そこで実験ラボとしてカタールで様々なアプローチをしていたそうだ。そこで彼が志したフットボールと行動原理についてチャビ自身が語っていたので、分析してみよう。

 

まずボールを支配しゲームを支配する。これが原則だと強調している。そして相手が442で来たと想定した上で話を進めており、チャビは3241システムで説明していた。まず驚きなのがバルサというピボーテである4番を軸にするフットーボールに身を投じた選手でありながら、ダブルボランチを基準としている点である。これは代表でのアロンソとチャビが並んでいた時の成功体験によるものなのか?

 

IHには相手の間に位置することを求めており、両翼は大きく広がり幅を取り相手のDFラインをピン留めすることを求める。ビルド時はDMFを一人おろして4枚のDFラインを形成する。全体では433に変容する。攻め筋としては相手のトップの人数+1をDFラインとして、残りの駒で攻めることを求める。ここは非常にオランダ的。

 

5バック崩しにはポケット侵入をシティのように狙い、プレスに関してはマンツー気味に抑えに行くことを目指す。仮に交わされるのならDFの選手は対人能力で封殺することを求める。

 

自分は大変驚いた。というのもチャビの理想は2ボラSBレスシステムであるということである。より正確に言うとUT性をSBには求めており柔軟な可変に対応出来、またプレスの苛烈さを考えると対人能力も相当に求められるのでチャビのチームでプレー出来るDFは世界最高峰のレベルにあることが求められる

 

この3241システムは本当に恐ろしいビジョンである。と言うより実現するのが大変困難なものと言える。そもそもDFに求めているものが常人のそれではない。CBはSB化可能で、2ボラもアジリティとUT性、SBもCB変換やボランチ変換も求められる。前線の5トップへの要請とは不釣り合いなほどに後方の5名への要求は重すぎると言える。

 

この現実離れしたビジョンの厳しさがアルサッドという人的資本に優れたチームであるが故に暴かれずにスクリーンされてしまったことが、小さくない負の影響を及ぼした。

 

2-2 地獄からの生還

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メッシ退団。いずれ訪れると思われていた歴史的最終生産者の喪失は思ったよりも早くやってきてしまった。ネイマールを失って外攻めの抑止力を失い442へと舵を切ったバルサはローマとリバプールに2年連続の悲劇を経験した。結局のところ中攻めと裏攻めに特化したためペップバルサと同じようにバイタル圧縮による最終生産過程の空転を誘因されるとハイラインの裏を取られるカウンターに弱く一発勝負でのエラーを除けなかった

 

外攻めを失ったチームにとって求められる狭い領域への配球が出来る選手は減っており、大型補強選手、デンベレは耐久力が低すぎて、コウチーニョは偽翼のためバイタルの密度を上げるだけで望んだ外の抑止力になれず、グリーズマンもST系なので外では突破出来ず中に置いてもイマイチであった。

 

かつての覇権は漸次的に失われ、バルベルデが退陣し、セティエン政権では原点回帰が望まれるも、待っていたのはバイエルンによる8-2の虐殺。プライドもズタズタにされコロナ禍で金銭的に苦境に立たされたチームは困った時のオランダ回帰を決意する。

 

ミケルスの撒いた種はクライフが開花させ

LVGとの撒いた種はペップが開花させた

 

種まきのためのオランダ人監督、それがクーマンだった。

 

クーマンは再建を開始する。かつてのオランダ人監督のように若手を使った。アラウホ、アンス、トリンカオ、プッチ、ペドリ、そしてメッシが退団し疲弊したチームは契約切れの選手という古い血を輸血し、チームの柱に年俸削減を迫り、血を流しながらボロボロのかつてのメガクラブはクレの信頼を失いかけていた。

 

そして会長に返り咲いたラポルタは、かつてのレジェンドをカタールから呼び戻す。契約解除金の一部を自ら肩代わりしチームの危機にやってきたのがチャビ。

 

チームの規律の徹底、そして陣容の整理を敢行し、デンベレの再生を促した。アウベスを復帰させ、オーバ、トラオレ、フェランを加入させ、チームは競争力を取り戻す。ペップシティのように5レーンを選手が取りリーガで最終的に2位、しかしながらELでは5レーンを封鎖してきたフランクフルトの前に沈黙しEL敗退となった。

 

緊急事態を無事に防ぎ切ったチャビにバルサは全てを賭ける。レバーと呼ばれた数々の未来に享受するはずの資産を切り売りし資本化し、チームは22/23に全てを賭けることにした。

 

2-3 レバの運用への疑義

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メッシ無きペップがシティで経験したゼロトップでは限界があるという現実に学んだチャビが手を出したストライカーはペップがバルサ退団後にエースに据えたレバンドフスキだった。更にケシエ、アロンソラフィーニャ、クリステンセン、クンデ、ベジェリンを獲得し、チームはチャビを神輿に担ぎ大勝負に打って出る。

 

前年の途中就任時から、チャビは選手時代の経験をかなり活かし近年のトップクラブの選択した戦略と帰結を理解しているように見える。しかしながらチャビはペップとエンリケの仕事の本質を理解していないのでは、と思える部分がある。それは最終生産過程の設定である。

 

ペップは一番得意としたメッシのバイタル解放、レバミュラハイクロス爆撃、そういった必殺技をハメ技のように何度も連発し続けて相手を殴り続ける永久機関を目指す、例えばレバミュラの場合だと、レバの得意技から逆算している。レバはハイクロス、ロークロス、裏抜け、これらを得意としている。ここから全てをデザインしたのがペップバイエルンである。

 

レバにマークが集中しないように補助としてミュラーを衛星STに指定、両翼は突破とクロスを供給出来る同足のコスタとコマン、両翼へのパスコースを作るためにSBは偽SBとしてボランチ変換するように寄せる。CBは裏に蹴れるようにボアテンが中心、GKもノイアーも積極的に裏に蹴る。このようにレバの得意技から逆算し支配構造を作り出した

 

ペップの後任監督で成功したハインケスとフリック、失敗したカルロとコバチの違いは実に単純でミュラーをSTで使ったか否かであることは面白い。そしてバルサにはレバは居てもミュラーが居ないと思えてならない。チャビはペドリにミュラーになってほしいからこそクリティカルな仕事を要請しているのかもしれないが。

 

エンリケはお子様ランチを作ったわけではない。ハンバーグにエビフライにチキンライスと質的優位性のあるものを雑多に並べたのがMSNではない。メッシの得点能力の最大化から考えて作った模型である。なぜチャビはレヴァミュラという既存の最適解に手を出さないのか理解に苦しむところである。

 

ミュラー役を務められるグリーズマンが恋しいところである。両翼にデンベレとフェラン、2ボラにペドリとガビ、SBが中に入る偽SB化などを見てみたい。ところがチャビバルサデンベレの個人能力に依拠した突破に頼っておりSBも偽化してはいない。レバンドフスキという世界最高峰の支配層FWはもっと出来るはずなのだが。

 

ペップとエンリケには出来なかった問題児の扱いはライカールト譲りの融和政策でデンベレを復活させ、手腕を発揮したと言えるが、折角の大補強で獲得したレバンドフスキを中心としたフィニッシュのデザインは改善の余地があると言えるだろう。

 

2-4 質への過剰要求

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2-1でも書いた通り、チャビは基本的に後方5人に対してはUT性と対人能力を求めている。このことにより純正SB的な選手を好まない傾向にあるように思える。デストやアルバをあまり好んでいなそうに見えるのは、CB変換性や万能性の面で物足りないと考えているからなのかもしれない。RBにアラウホを使うのもカタール時代の彼の発言を聞くと納得出来るところがあってSBにSB以外のCBの仕事を求めたり、対人能力を考えるとなるほどなと。

 

というよりもチャビのチームは基本的にSBを有さないことを求めているように見える。ここはペップと似ていてペップも2332のバイエルン、3223,2323のシティといったようにSBは右はCB的な対人タイプ、左はMF的なボランチタイプを使ってきたように、チャビはSBに対しては対人タイプを置きたいのだろう。出来たら両方に。

 

更に4番についても考えがあるように見える。それはピボーテを経由するバルサ流とは違い2ボラによる運用を考えているということである。よりハッキリ言えばブスケツはチャビの求めるボランチではないのではないだろうか?

 

マドリーに惨敗した3-1もそうだが、クロースを止めきれずパスを出されての失点や、そのカバーに誰も帰ってこれておらずボコボコにされたのを見ても対人能力とアジリティといった部分を多く求めるチャビ流に合ってないように思える。チャビバルサは基本的にDFラインとボランチの5人に求める理想が高く、人的資本の質が下がると極端にパフォーマンスが落ちると思われる。だからこそCLのビッグマッチとクラシコを守備陣が怪我で抜けた状態で当たり散々な結果になったのは妥当と言えば妥当なのだろう。

 

更に後ろは圧倒的な個人能力を要求されるが、前方もそうで基本的にはWGの突破力ありきで個人能力を全面に打ち出し、配置を修正して対応することはあまりない。選手のアドリブでの対応に任せており、クライフに似たバルサの選手なら基本的には1VS1勝てるやろ、という謎の期待感が軸になっているように見える。

 

チャビのバルサが今季、格下との対決が続くリーガでは安定した出力を出せているのにも関わらず、CLやクラシコで苦しむのは、この質的優位性が揺らいだ時の対応策が基本的に存在していないのでは、と思えるのだ。

 

第3章 これからのバルサ

 

3-1 課題編

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ここまでサクッとチャビについてのあれこれを書いてきたが、実際ここまでのチャビバルサの主だった問題点を考えよう。

 

①5バックが崩せない

 

これは前述したがチャビ自身が3241の中盤スクエア型の343のようなシステムを用いて442殺しについて語っていたように基本的にチャビシステムは442,4411,4231のようなシステムには極めて有用に機能する反面5バックを敷かれると途端に手詰まりになりデンベレが突破しない限りは、何も起きないという有様である。

 

というのも基本的にチャビは一気呵成に完結することを望んでいる。後ろからのビルドから延々とポゼッションしていても崩しきれない事、チャビの言葉を借りれば”アンチフットボール”に対する人間の群れの前でU字パスをしても埒があかなかった経験からなのか、縦に早く攻めることを求めている。

 

中盤には強度、DFにはUT性と対人能力、この前提があれば良いのだがガビくらいしか中盤に強さを与えられておらず、相手からすると数的優位のところに突撃してくるデンベレは格好の餌食で、デンベレさえ凍結すればレバも怖く無くなる

 

格下でも5バックには手を焼いており、ペップシティではカンセロロールで6トップを作ったり現在ではデブ神とハーランドの個人能力による解決を目指しているが、ペドリがもう少し決定的な仕事が出来るようになると良いのだが、現状ではDFライン含めビルド面においてチャビが満足出来るレベルにないからなのかペドリが援助に顔を出す事も少なくなく低い位置での仕事が続く事もよく見る

 

5バックは極めて強固な壁である。しかし元も子もないことを言えば2人がかりでしか止められない個人能力を持ったアタッカーを抱えていれば事実上相手は4バックなのである。デンベレが右で2人を引きつけて後ろに渡し開いたゲート目がけてパスを差してレバを解放する、といったプレーがあまり見られないのは不可思議である。

 

②格下にしか勝てない

 

正直これはしょうがないと思う。ペップシティも格下虐殺機関であったし、そもそもが同格や格上との対決は大抵がうまくはいかない。ただ、あえて理由を挙げると、絶対的な理不尽な武器が少ないように感じる。

 

皮肉ではあるのだが質的優位性を優先しているチームにしては、相手からするとマークしなければならない武器は少ないデンベレの突破のみだからだ。レヴァは怖いが注意深くマークしデンベレを凍結させれば一定の問題はない。

 

リーガの格下相手だと質で誤魔化せても、一定のレベルを超えると途端に手詰まりになってしまうのは質が足りてないからである。それこそペップバイエルンやハンジバイエルンのようにレバを活かすためにミュラーという影、そのミュラーの影となりながら中盤に強度を与えたゴレツカ、そして強烈な両翼。その両翼を活かすためのSBの柔軟な配置と選択。レバを3トップの中央においておけば、得点は取れるが、強豪相手になると、更なる強靭化が求められるのではないだろうか?

 

そして守備においてはかなり強度の高いプレスをかけている。デザインが希薄な格下チームならボコボコに出来るチャビバルサの1番の武器だ。しかし、これをロングボールで回避されたり、独力でプレス耐性の強さで乗り越えられると、どうなるか?

 

DFはチャビがカタール時代に述べていたように、数的同数での対応が求められるが残念ながらバルサの後方の質は足りておらず対応できない。バイエルンに一向に勝てないのは、ここが一番大きいのだ。

 

マドリーはクラシコバルサに徹底したプランを叩きつけた。バルベルデをRWB化し仮想5バックを設定、この偽WGバルベルデは、もう一つの狙いがあった。ペドリにあえて余裕を与えバルベルデの位置をペドリに引き渡すことである。これでペドリは低い位置、デンベレの突破は5バックで封殺。ヴィニシウスを前残りに出来た、ロベルトは対人能力には限界がある。プレスが交わされカウンターから何度もチャンスを作っていた。

 

あの3-1は必然の勝利であり、バルサの弱点をきちんと理解しチームに落とし込んだカルロマドリーの実力をまざまざと見せつけたといえる。

 

3-2 解決編

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まず、解決には2つのタームスケールで考える必要がある。

 

短期的、長期的

 

まず長期的にはDFラインのテコ入れと最終生産過程のブラッシュアップが求められるミュラー役を務める選手が必要だ。それがペドリというのは心許ない。やはり彼は崩しやアシストの面で閃きを期待する選手でありSTとして得点を稼ぐ選手ではない。

 

出来たらST系の選手、グリーズマンが最適なのだが、ラウタロ・マルティネスのような選手を獲得すべきだろう。システムも4231でブスケツ退団後の混乱も2ボラで回避出来たら理想的と言える。アンスをトップ下、まさしく10番として作るというのも面白いが。

 

そしてDFに関しては3人程度は補強が必要である。可変しての3241を実行するにしても前線からのハイプレスをかけるにしても後ろのインテンシティは明らかに不足している。数的同数でも守りきれるような守備職人は欲しいところだ。それこそUT性もあるグヴァルデヴォルのような選手は抜群にフィットするだろう。

 

前はレバの得点能力最大化の模型作り、後ろはUT完備の強化と質的能力の増強

 

これが求められるだろう。

 

しかし補強はいきなりは出来ない。現状では調子の良い選手を中心に漸次的に理想型に近づけていくしかないだろう。その意味でジェネリックミュラーとしてメンフィスをIHで用いてみるのは面白い。前述したアンスももっと多くの出場時間で見てみたいところだ。

 

そしてチャビバルサの最大の課題として配置に工夫がなさすぎることが挙げられる。各選手が持ち場所を守るだけでは、相手は慣れてしまい対応されてしまう。パスは相手を動かすため、配置は相手を狂わせるため、より積極的にポジションを交換したりしてマークする相手側を幻惑することが求められる

 

それこそアナーキーなフレンキーを3バックの中央に使って、フリーマンのリベロとして使ってみたり、前線ではアンスやペドリ、ガビらが積極的にぐるぐるとポジションを交換する挙動に期待したい。

 

 

3-3 オンリーワン

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ジミーホーガンという始祖がオランダ、オーストリアハンガリーに撒いたタネはヴンダーチーム、マジックマジャール、そしてアヤックスのCL3連覇を産んだ。トータルフットボールの具現を目指したミケルスは1917年にバルサ指揮官に就任し、その流れをクライフが受け継ぎバルサアヤックスからインポートされたフットボールを独自解釈しオンリーワンのクラブへと変容し、そしてライカールト、ペップ、エンリケによってオンリーワンのプロセスでナンバーワンを掴み取るという究極の理想を実現し、世界有数のブランド力を有している。

 

しかし、このオンリーワンの十字架の重みにバルサは耐えられなくなってきている。独自の文化は世界各国に受け継がれ優位性を失い、ソシオ制は衆愚政治を生み、カンテラも供給が滞るようになっている。

 

この現状を見て、チャビはトータルフットボールの新たな形、クライフ主義の王位継承者としてのフットボールではなく妥協されたリベラルな立ち位置をとっているように見える。バルサの保守的建築物を期待したクレにとっては意外に見えるかもしれない。

 

モウがマドリディズモを実利主義と翻訳しマドリーの騎士道的精神を変容したように、チャビはバルセロニズムを書き換えようとしているのかもしれない。オンリーワンのバルサという幻想を捨てようとしているのか。

 

本当にオンリーワンは不可能なのだろうか?

 

オンリーワン、独自性はどうやって生まれたのか?それは歴史に答えがある。

 

1917年のミケルス上陸によるアヤックスインポートである。そしてバルサは100年に渡り、このアヤックスサッカーをカタルーニャ風に書き換えることにより、美しく勝つという美的感覚と様式美を追求し続けてきた。今、バルサを見て、アヤックスのパクリとは誰も言わないだろう。アヤックス側から見ても、これがオンリーワンのバルサのサッカーである。

 

では、新たなオンリーワンのために、他文化からの”輸血”が求められるのではないだろうか?

 

それこそクライフのオランダに土をつけた、ドイツとか。。

 

語弊を恐れずに言えば、今のバルサに求められるのはバルサのドイツ化、バイエルン化なのではないか、と考える。

 

インテンシティで競り負けず、縦に早い攻撃を志向し、ハイクロスも辞さない強度の高いフットボールを導入する。実はチャビはこれに近しいアプローチでバルサを作り直しているように思える。だからこそ、仮にチャビの改革が上手くいかなかったとするなら、トゥヘルやナーゲルスマン、フリックの招聘が叶うなら挑戦して欲しい。

 

クライフイズムとは歴史をなぞることにはない。過去の成功模型を解体し現代風に再現しながら形相的に古典描像に反しても内実を継承することに価値があるはずだ。チャビが、たとえEL送りになったとしても最低でも、もう2年は与えて欲しい。彼がバルサを救う、その日を楽しみに待ち続けたい。

 

 

 

終わりに

 

今、苦境に立たされているチャビを救うべく今回の記事を執筆した。

 

僕は0708シーズンCWCで横浜にやってきたバルサを生で観戦した。そして、そのチームが一人の生え抜きのレジェンドによって革命的覇権集団へと昇華していく姿に心を奪われサッカーを見始めた。そのチームの中心軸がチャビだった。

 

僕がサッカーを評論する時に、ペップバルサを引き合いに出すように、経験してきた原風景や原体験は後の人生に良くも悪くも影響を与える。だからこそチャビが過去の経験に良くも悪くも影響されている様に見えるのは思うところが少なくない。

 

今でもバルサとマドリーの2つの集団の激突をリアルタイムで見続けられたことは僕の人生の数少ない誇りである。

 

カタルーニャ独立主義を唱える唯一無二のクラブを超えたクラブ、アヤックスから伝わった伝統と文化を常に更新し続けるオンリーワンのプロセスでナンバーワンを目指すバルサがいつまでも強くいて欲しいと願っている。願わくば、その中心にチャビがいて欲しい。

 

チャビバルサに栄光が訪れることを祈り、記事を結ぶことにする。