牽牛星のよろず日記

自分の興味あることを思うがまま記述したいと思います。

スターリングを考えよう。

ラヒーム・スターリングマンチェスターシティ所属のFWにしてイングランド代表の10番、世界でも有数の知名度を誇る選手だ。

 

しかし、メッシ、ロナウドといった支配層の選手に対する揺るがぬ評価とユニバーサルな知名度がもたらす最大公約数の大きさによって、どのアングルから見ても同様の分析や評価が生じるのと対照的に知名度の割に定点観測者と、それ以外でスターリングの評価に少しと呼ぶに厳しい乖離を感じてならない

 

2022年7月現在、残り契約が1年となったスターリングの去就を巡り様々な噂が囁かれるが、このタイミングで読者様の推しチームにスターリング獲得の噂が上がり様々な感慨を得た人は少なくないはずだ。

 

なので、マンチェスターシティ、正確に言えばペップシティの定点観測者としてスターリングのプレーを集中的に在籍7年間のうち6年見続けた人間として自身の分析や評価を文章として残すことにした。シティズンと非シティズンの間に広がる乖離の正体が見える事を望む。

 

第1章でスターリングが過ごしたシティで起こっていた事をまとめながらスターリングの動向や成長、挙動を付した。

 

第2章では定量的指数を用いた解析によるスターリングという選手の特徴を考察した。

 

第3章では想定される移籍先で見込める活躍の度合いを見込み、現実的な落とし所と理想的な働き場所と運用に関して書した。

 

 

 

 

第1章 定性的議論

 

⓪15/16 翼の実装

 

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自分は序文で述べたように、ペップシティの定点観測者であり、ペップバルサ、ペップバイエルン、そしてペップシティに観察を加えてきた。カタルーニャ独立主義を隠さないクライフの”息子”として愛情と尊敬を集めたバルサ時代とは対照的に保守主義と前任者の3冠の影に加え慢性的な怪我人の多さからCLではベスト4敗退が続き、毎試合スタメンも構成も変容する様を受け、気難しく取っ付きにくい変人指揮官というアングルが支配的だったバイエルン時代、3年の契約を延長する可能性など微塵もないだろうと予測されていた。

 

契約最終年を迎える頃には、ペップが以前から表明していたプレミアリーグへの熱意から英国上陸は盛んに報道されていた。UTD、CHE、ARS、MCIといったクラブからの関心が寄せられる中、バルサ時代の座組みの再現となるソリアーノ、チキのいるMCIはホールポジションにいることが有力視されていた。

 

2016年初頭、バイエルンミュンヘンは声明を出す。

 

来季監督アンチェロッティ内定、ペップ今季限りで退団

 

予想された別れ、レバミュラハイクロス爆撃が堅牢シメオネアトレティコに阻まれ悲願の大耳には触れられず、トゥヘルの5バックの前にPK戦の末、ポカールを獲得しペップバイエルンの3年間は幕を閉じ、シティでの冒険が始まった。

 

ペップバイエルン3年目15/16シーズン、シティもペジェグリーニ政権3年目を戦っていた。アブダビによる資本注入による強靱化、マンチーニ政権でのプレミアリーグ戴冠に続き見据えるは国内での圧倒的な支配力の保持、そしてCL優勝を現実的に狙う地位を欲した

 

後のペップ政権を支えるデ・ブライネ、オタメンディスターリングの獲得がなされたシーズン、モウリーニョチェルシーは崩壊の様相を呈し、ユナイテッドはLVGの下で退屈な日々を積み重ね、リバプールはクロップの下で産みの苦しみの最中、トッテナムは順調に勝ち点を得るものの、このシーズン頂点に立ったのはレスターだった。

 

一方シティはペジェグリーニの南米型4222(偽翼を両翼にして中央にテクニシャンが集結しチャンスを演出し2トップによってゴールを奪うシステム)の改良として両翼にWGを置き、右の同足ナバス、左には逆足のスターリングが起用されていた。

 

リバプール退団を巡る様々なネガティブな報道や言動の数々によって5000万ポンドクラスの移籍金でシティにやってきたSASの一員は高額の移籍金とバッシングに苦しんでいた。しかし、このスターリングの移籍は内定監督ペップからの推薦があったのでは、とも噂され、実際スターリングはペップ政権における重要選手となっていく。

 

逆足LWGとしての優位性を確保出来ず、シティはシルバ、ナスリ、KDBの3人のテクニシャンの調和もアドリブ的な爆発力の域を出ず、想定された中央閉鎖を砕く事は出来ず、CLユーベ戦ではあっけなく完封されてしまったし、PSG戦ではKDBの一発で勝てたものの、準決勝マドリー戦では力負けした。

 

中を閉じられた時でもテクニシャンの即興の爆発力に期待する他ない手詰まり感、それを打開するためのWG設置政策の空転、課題を残したままペップにシティは引き継がれた。しかし、絶対軸であったコンパニ、ヤヤ、シルバを輝かせられる相棒としてオタメンディジーニョ、KDBを手に入れシティは黄金期を迎える準備は整ってはいた。

 

 

①16/17 『未来』と呼ばれた日

 

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ペップ政権樹立。予定された到来。バルサカンテラのように下部組織の充実に力を入れ、バルサ黄金期を上役として支えたチキとソリアーノの招聘。シティをバルサ化する上で最適な現場指揮官ジョゼップ・グアルディオラの指揮官就任、世界をスカイブルーに染め上げるグランドデザインの最重要人物がマンチェスターにやってきた

 

ペップの本質はバルサバイエルンでの7年間を見ると、絶対的最終生産者の生産効率の高い生産過程の構築、そこから逆算される最適支配構造の設定によりチームをワールドクラスのチームに変える、というのが自分の見立てである。

 

得点能力に優れた選手はシティでは誰か?

 

愚問であろう、セルヒオ・”クン”・アグエロだ。

 

アグエロの得点能力を最大化するスキームとしてロークロス爆撃が最適と見なされ、バイエルンの時と同様の”逆算”が構想された。WGは突破力と足を組み替えなくても早期にクロスを送り込めるような同足WG、そのWGを外で張らせるために中央でボールを失わずにハーフスペースから配球が出来るシルバとデブ神のIHコンビが形成された。

 

ボランチはIHを一人で支えられる高い戦術眼と防波堤になりうる防御力からジーニョが重用され、CBはハイラインに耐えながら4番マークに対応出来る配球力、SBは強烈なサイドアタッカーを活かせる偽SBを要求された。

 

この結果、少なくない選手達が構想から外れ、1番のインパクトとなったのはジョーハートの構想外だった。SBの粛清は見送られたものの、スターリングはRWGとしての活躍が求められることになった。

 

 

(fig1)スターリングのシーズンヒートマップ(左図が15/16,右図が16/17)

 

シーズンヒートマップを見て分かるように昨季のLWGからRWGへとコンバートされ、逆足で中に入り込む挙動よりも同足で右側からクロスを送り込む役割を担った。

 

ただ、アグエロである。耐久力は高くなく本能的にポジション移動するタイプかつ2トップ取り壊しにより、思ったような活躍が出来なかった。最終生産過程も不安定、始点が揺らぐだけでなく、そこへ接続出来るビルド、特にDFラインとGKのパフォーマンスは悲惨そのものであり、ペップの輝かしい経歴に傷が付こうとしていた。

 

年が明け、チームを覆っていたネガティブな空気は変わる。ジェズス到来。アグエロにはない献身性と守備の強度、加えて柔軟なポジションチェンジとインテリジェンスに裏打ちされたプレーセレクト、両翼からのクロス供給を得点に変換する最高の9番としての活躍をチームにもたらした。

 

独力突破で相手SBを破壊するLWGサネ、周囲と協調しながらボールを進めるスターリング、その両翼と共にジェズスも含めた、SGSトリオはペップから『シティの未来』と評された

 

このシーズンはSGSが全てで、破滅的な守備力と破壊的な攻撃力のどちらが勝つかという戦いが存在していた。そしてジェズスのシーズンアウトにより、チームは緩やかにペースを落としCL権を獲得しながらもCHEの優勝を眺めることしかできなかった。

 

 

②17/18 クロス爆撃開始

 

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4人のベテランSBは放出され、3人のSBが加入。1VS1には絶対負けないウォーカーと破壊力抜群の左足を持ったメンディの加入はチームに変容をもたらした。

 

初めにアグエロとジェズスの2トップを軸とした532が編成され両翼は昨季とは異なり、SBに担わせようとしていた。サネは息苦しさを感じるも、スターリングは徐々に順応し、アグエロも昨季後半から続くプレー水準の回復でスタメンの座を確かなものにしようとしていた。

 

しかしメンディは早々に怪我で離脱。チームは昨季の433に回帰する。そしてスターリングとサネの両翼は輝きを増す。ジェズスもアグエロと9番位置を争い、大幅にアップデートされたDFラインはウォーカーの守備力が光り、冬にはラポルテも加入し、チームはロークロス爆撃集団としてプレミアで支配的な集団へと変貌した。

 

サネは10G15A,ジェズスは13G3A,スターリングは18G11Aと若手3トップは躍動し、エースアグエロは21G6Aと4名はリーグで圧巻の破壊力あるシティ攻撃陣となった。

 

CLではエースアグエロがLIV戦1stlegに出場出来ず、2ndも途中から本調子とは言えない様子で後に決勝へ進むクロップLIVの前に惨敗を喫した。

 

スターリングはシティ加入以降最高のパフォーマンスで、加入初年度からゴールアシスト合計数は3.6倍と、ペップの指導により素晴らしい選手になった、とも言われていた。ただ指導というよりはチームの戦い方と方向性が定まり迷いが減りRWGとしての本来の良さが輝いた、といった様子であろうか。

 

 

③18/19 黄金期

 

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アグエロ時代3年目、昨季のCLでの反省からリード時には積極的にアグエロとジェズスを交代させ、コアプロテクトに勤しんだ。チームの基本構造同足クロス爆撃は継続された。しかし同足ばかりでは厳しいと見たか、逆足RWGとしてマフレズを獲得した。

 

デブ神が体調不良で出れない時期があっても、昨季加入したベルナルドが獅子奮迅の活躍ぶりでチームを助けた。WGでもMFでも活躍出来るUT性はチームにマッチし、ダビドシルバとベルナルドシルバのシルバコンビがIHとなって両翼にボールを供給した。

 

チームは円熟の域に入るも、ペップは次なるトランスフォームを考えてもいた。同足爆撃と逆足攻撃の両立である。RWGに左利きのマフレズ、LWGに右利きのスターリング、といった具合である。

 

(fig2)スターリングの18/19ヒートマップ

 

上図を見ても明らかなように右翼で同足WG、左翼で逆足WGとしてUT化を要求されたスターリングは、この要求に見事に応えた。

 

ペップシティは複数ポジションをこなせるUT(ユーティリティ)を軸とし、各選手が柔軟に配置を入れ替えても本職として振る舞える互換性を全面に押し出す”コアUTポジショナル”なチームへと変わりつつあった。

 

即興的にドリブルを行うマフレズは戸惑っていたがスターリングは右翼でも左翼でも大活躍していて、サネが10G10Aという成績を出しても17G10Aのスターリングの圧巻のパフォーマンスに霞むぐらいであった。

 

しかし、ここで面白いのは有機的に協調しながらボールを運ぶ事が上手くシュートもお世辞にも上手いとは言えなかったスターリングが何故ここまで上り調子の成績を上げられたのか、という部分である。

 

(fig3)ダビシルバ18/19ヒートマップ

 

(fig4)ダビシルバ17/18ヒートマップ

 

元々、ダビシルバは左利きのチャンスメーカーで代表ではLWGを担うこともあるくらい左に流れての同足でのチャンスメークが得意な選手である。(fig4)を見ても分かる通り、左に流れながらも左右に揺らめきながら2列目から鮮やかなパスを前線に送る選手だ。

 

しかし18/19では(fig3)を見ても明らかなように左翼方向でのプレーに比重が右翼方向に比べて増えているように見える。ベルナルドが縦横無尽に走ってくれるためにフィールド全域に顔を出してサポートしなくても得意の左エリアでのプレーが可能であったのだろう。

 

シティの左サイドはLBが偽SBで絞り上がる事は少ない。これにより単独突破能力が求められるためサネは左サイドでイキイキプレーする。しかしスターリングもダビシルバの貢献により、輝きを増していたのではないだろうか?

 

シティはLIVとの怒涛のリーグ争いに勝利するも、CLの舞台ではTOT相手にアグエロがPKを外し、そして誤審まがいの判定にも巻き込まれ8強で涙を飲みペップ政権3年目が終わった。

 

④19/20 王位継承

 

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アグエロ時代の終わり、そんな印象を強く与えたシーズンが始まった。まずCB陣の離脱が相次ぎ、まともなDFラインを形成するにも苦労した。

 

ラポルテが半年アウト、ストーンズも耐久力の問題が露呈しコンディション不良、ジーニョがCBで使われる緊急事態に見舞われ、首位を独走するLIVとの差は開き続け、新加入のロドリも適応に苦しみながら2ボランチの4231の使用頻度が増えていった

 

一方前線は、サネは前十字靭帯を断裂、アグエロも怪我がち、必然的に昨季からプレミア屈指のアタッカーとなったスターリングに期待が注がれた。

 

manchester evening newsで取り上げられた様に、メッシやロナウドの領域へ到達可能な選手と言われ始め、次代のバロンドールを競う選手の一人と評され、2019年においては平均得点数はPKを除けばスターリング0.75点でメッシと同程度、そしてロナウドは0.61点である事や枠内シュート率もスターリングが両名よりも上である事から、2019年、間違いなくアグエロの次の最終生産者を担う選手と期待されていた。

 

本人も得点を取る意識が強くなったのか、このシーズンからプレースタイルは得点を取る事にコミットした形で、成績に明らかに表れていて、今季の成績20G1Aという、シティ加入以来最高得点数と最低アシスト数を記録した。

 

ただ、この最高得点数20Gという数字だが、BIG6相手だと、TOTから1点、ARSから2点、LIVから1点取っている。ただ最後のLIVからの得点は優勝が決まっている消化試合だったので何とも言えず、目立つのはウエストハム、ブライトンという格下相手の2度のハットトリックでありゴール数自体は素晴らしいのだが、その内実を見ると強敵相手で得点数が稼げていないように見える。20節から28節までは無得点であり、スランプ状態であった。

 

この突如のスランプの末に待っていたのがCL8強リヨン戦でのシュートミスである。1点目のアシストもしているのだが何より印象が悪すぎた。

 

統計数値を眺めると決して悪い選手ではないし、怪我しない耐久力の高さを考えるとプレミア屈指の名手のはずなのだが、強敵相手のクラッチ力のなさが印象に残り、定量評価と定性評価に謎の乖離が生まれやすい選手なのだろう。

 

 

⑤20/21 不調か不振か

 

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アグエロの肉体が悲鳴を上げ始めた昨季後半、20/21シーズンに入ってからもリヨン戦の悲劇を引きずるようにチームは暗澹たる空気が支配していた。シルバは退団し、中盤の構成力の低下が叫ばれるが、それどころではなかった。最終生産者から逆算するモデルの使い手のペップがストライカーが一人もいない状況で戦わざるを得なかったのだ

 

上手くいったかと思えば負ける、といった悪循環であったが、チームは、とあるCBの加入で緩やかにチームの形を変えていく。

 

ルベン・ディアス。このシーズンは、この男に尽きる。ペップシティを死の淵から蘇生させた救世主は相方のストーンズのパフォーマンスを良化させ、442で守り切れる、という安心感をもたらした。エデルソン、ウォーカー、ルベン、ストーンズのコア化はチームに計り知れない安定をもたらし、それが、ある”遊び”を許容する可動域をもたらした

 

カンセロロール、SBからボランチへ移動する偽SBの動きに加え、前線に揃う5レーン攻撃部隊の加勢に入る、という2段階のポジション変換をなすロールである。

 

ロークロス爆撃からゼロトップ+カンセロの6人攻めがチームの旗印となり、19戦無敗という支配力を取り戻した。

 

シルバのいないシティにおいて優位性を持ったのは自己完結性であり、独力で複数の選択肢を提示し相手の出方で逆を取る個人能力が優先された。そこでマフレズは輝きを増し、デブ神とベルナルドは中盤で縦横無尽に駆け回りながらボールを回し、生え抜きフォーデンも台頭、そして貴重な得点源としてギュンが重宝された。

 

そしてスターリングだ。自己完結性とは程遠い協調型、かつてLWGとして活躍していた時に傍で支えてくれたシルバはいない。得点は昨季から半減した。アシストこそ増やせたもののトップフォームから程遠い状態に落ち込んでいく。

 

そしてスターリング不調論が囁かれる中、シティは悲願のCL決勝に勝ち上がる。相手はCHE、リーグ、カップで2連敗している難敵相手にカンセロも調子を落としていて、相手の堅牢な5バックを丹念に攻撃するために4番にギュンを起用。そして両翼には逆足のスターリングとマフレズが使われた。

 

強敵相手にはフォーデンとデブ神の閃きに期待するほかなくIHで両者を並べて起用した。しかしデブ神は怪我で途中離脱。シティにとっては、この時点でゲームオーバーだった。CHEはシティの弱点である左サイドの守備力の低さを突く。そしてウノゼロでペップの10年ぶりの大耳制覇は夢と散った。

 

ここでもスターリングは批判にさらされた。残している数字自体は決して悪くはないのだが、何故か印象が悪くなる、という”らしさ”を2年連続で残してしまった

 

 

⑥21/22 変わりゆく中で

 

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EUROでスターリングはシティとは打って変わって活躍した。そのチームでは純正9番のケインが体を張り、LBショーは走るレーン選択が抜群でLWGスターリングを補助、中盤ではマウントやグリーリッシュが黒子に徹し、イングランドはドイツ、ウクライナデンマークを下して決勝に進出した。イタリア戦はPKの末に負けたものの、スリーライオンズの10番スターリングが示唆したものは確実にあった

 

決して不調などではない。LWGとして出るなら純正LBの補助、サイドレーンとハーフスペースを行き来出来る選手の起用、ここまで用意すれば十二分に素晴らしい活躍が出来る、という事を示した。

 

シティは21/22シーズン、純正LBメンディをスタメンクラスとして運用する決意を固め、9番にはケインを獲得しようとし、IHにはグリーリッシュというWGとIH両方でプレー出来る選手を手に入れた。

 

これらが揃えばスターリングは復活する?はずだった。しかしケインは取り逃がし、メンディはピッチには帰れない身となってしまった。

 

こうなるとどうなるか。予想に難くないだろうスターリングはシティに加入してから出場時間が最低を記録した。イニングイートさえ許されないほどに、シティはコアとしてスターリングを扱わなかった

 

チームはゼロトップ3年目の集大成を迎え、リーグでもCLでもギリギリの戦いを強いられた。後半に入るとDFコアが崩れ始め体調を崩すと勝負師カルロ率いるマドリーの最後の大反撃を受け止められる力は残っていなかった。

 

前線選手は幸いにもコアは不変で健康体を維持できた。それは少なからずスターリングの貢献もあったはずだ。しかしアグエロ時代に主役を食う活躍を見せていた男がゼロトップ時代に控え選手になってしまったことは一抹の寂しさを観客に与えるに違いない。

 

独力完結性のなさ、LWGでは相手SBのレベルが中堅クラスでもドリブル突破に苦しみ、RWGでも決して傑出したWGとしてのプレーではなく、堅実に格下を殴るWGのそれであった。

 

リーグ最終戦、奇跡の大逆転劇はスターリングの右サイドからのクロスから始まった。その奇跡の立役者の一人であっても、紙面を飾るのは当然ではあるが殊勲選手のギュン。愚直なRWGからチャンスメーク、そして主役になりきれない惜しさ、あまりにもスターリングらしい最後であった

 

 

 

第2章 定量的議論

 

 

①抜群の耐久力と安定感

 

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スターリングはシティで7季を過ごしている。

 

各シーズンのリーグ戦の簡単な定量指数を。

 

15/16 23先発8途中出場 1928min出場  6G2A

16/17 29先発4途中出場 2517min出場  7G6A

17/18 29先発4途中出場 2593min出場 18G11A

18/19   31先発3途中出場  2777min出場  17G10A

19/20   30先発3途中出場 2661min出場  20G1A

20/21   28先発3途中出場 2537min出場  10G7A

21/22 23先発7途中出場 2127min出場  13G5A

 

7季平均で約2449min出場で13G6Aとなっている。

 

ここから分かるのはシーズン38試合の7割近くの時間をイニングイートし、安定的な試合出場を果たしている耐久力の高さであろう。

 

アグエロを最終生産者とするロークロス爆撃スキームが完成した17/18-18/19はゴールもアシストも2桁を記録し、チームのゴール数におけるスターリングの得点関与の占有率としてスターリング自身の(ゴール数+アシスト数)÷(チームの総得点)をすると

 

15/16 11%

16/17 10%

17/18 12.3%

18/19 30.5%

19/20 20.5%

20/21 20.4%

21/22 18.2%

 

となっている。皮肉にもゴールを狙う”長打タイプ”のモデルチェンジをした19/20は前年度より10%ほど実効性を落としている。ちなみに18/19の得点関与率はアグエロに匹敵するレベルであり、彼のアグエロ時代の活躍ぶりが理解出来る数字となっている。

 

目立った怪我もなく、選手として完成度の上がった18/19シーズンからの3季は安定して20%の実効率の高い得点関与に加えてのイニングイーター、監督から重宝されるのも納得で、特にバイエルン時代、使える選手が常に揃わない苦しみを経験したペップにとって無理が効き、安定した成績を計上出来るスターリングへの信頼は厚いのは仕方ないだろう。

 

 

②絶対性の欠落

 

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前項において、リーグ戦出場時間を列挙したが、お気づきの方もおられると思うが今季21/22シーズンは平均時間を大きく下回っており、ペップ到来後では最短の時間を記録している。その理由は単純である。

 

ビッグゲームへの出場率の低下、である。

 

プレミアBIG6と呼ばれる6強のチーム、MCI、LIV、CHE、TOT、ARS、UTDという6チームはプレミア屈指の強豪として数えられる。所属チームのシティを除いた5チームとの対戦において、21/22シーズン、スターリングは1試合平均で37.6minしか出場出来ておらずゴールは一つもなかった。

 

19/20シーズンの項においても書いた通り数字の見栄えほどの凄さや印象の良さが付随してこないのは、もはやミステリーの領域であり、チャンスに顔を出す頻度もスタミナが優れていることから素晴らしいのだが、強豪相手での勝利打点が少なすぎる

 

例えるなら、阪神タイガース在籍時代の新井貴浩だ。

 

チャンスでゲッツーばかり打っている印象だが、いざ打点を見るとリーグでも屈指のレベルである、よく野次られるが選手としては優秀の部類に定量指数は分類させようとする。

 

左足でのシュートに関しても3割ほど毎年決めており、ヘッドも決して空中戦に強くはないが押し込むだけ、という場面で使用することもある。

 

気にかかるのはドリブル成功率で、加入してから50%を超え、同足RWGであった16/17には56.4%を記録しているが、21/22シーズンは47%と悪化している。ビッグクラブ相手の試合が少なかったことを考えると中位下位レベルのSB相手でも抜きされるだけの能力が減退している可能性もある。

 

 

定量的にはリーグの名手

 

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様々なサッカー統計サイトでスターリングの事を調べると、ペップや世界中の監督が評価するのは理解出来る。これだけ頑丈でゴール+アシストを”計算”出来る選手は、そういない。プレミアクラブからすると国産選手としては最高の部類だろう。

 

出場時間とゴールアシストの効率だけで見れば、ロナウド、サラー、ケイン、ソン、マフレズには負けるとは言え、非常に優秀な数値を記録している。

 

リヨン戦のシュートミスなど、大一番で使うには厳しい部分は否めず、ハイラインの裏を付く以外だと愚直にRWGでクロスやチャンスメークを軸に同格格下相手の出場で結果を出していくしかないだろう。

 

本人はLWGとして得点関与を強めたいところであろうが、あくまで本質はチャンスメーカーであり周囲と協調しながら頑丈な体とスタミナを生かしていくという意味で一発勝負向きというよりはリーグの長丁場でこそ真価を発揮する選手なのだろう。

 

集積するデータのサンプル数の関係上、リーグという長丁場の成績が優先されるのは仕方なくサンプル数を少なく限定的なものにすると異なった姿が浮かび上がるかもしれないが、それだとサンプル数の少なさから統計数値としての疑念も浮上するため、評価するのに大変困る次第である。

 

ただ、確実なのは現在のプレミアリーグで長年にわたる耐久力とゴール関与の数値に関しては優秀そのものであり、2022年夏の市場に出ている獲得可能な選手の中では定量的評価としては最高レベルと評価出来る。

 

 

第3章 if

 

この章では、現実的な落とし所、そして移籍したら/残留したら、という前2章で述べた過去の話とは対照的に未来の話をするとしよう。

 

 

①残留ルート

 

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自分は、このルートが最も現実的であると考える。というのも欲しがるクラブがいるか微妙なところで、また年俸面でも合意に達するかも微妙なのだ。

 

まず、シティでのスターリングの評価は第4FWである。3トップのコア選手、フォーデン、マフレズ、ここにハーランドが加わる。これらのスタメン選手を休ませられる質の高いオーバーターン要員というのが位置付けとなる。

 

スターリングは、この立場に不平を抱えていると伝えられている。そして年俸面である。新加入選手を除いてデ・ブライネに次ぐチーム第2位の年俸を受け取っており、一部報道ではデ・ブライネクラスの年俸を要求しているとも言われている。

 

このムーブ自体は決して悪くない。職業スポーツ選手として、より良い待遇を求めるのは当然であり、活躍していない減俸が予想される時こそ強く出るのは下げ幅を少なくするために当然といえば当然だ。

 

問題はシティがバックアッパーにデブ神というチームの絶対的な選手と同程度の待遇を用意出来るか、という事であり、それは不可能に近い。

 

となれば放出、となるのだが、英国人選手は外国移籍が珍しく、高額年俸とスタメン待遇を用意する、が付け加わると更に困難になる。

 

現状のスターリングはVS格下専用のイニングイーターであり、そんな控え選手に高額年俸を用意出来る国内クラブとなると指の数より少なく、UTDはライバル関係からNGだろうし、LIVもスターリングの移籍の経緯を考えると厳しい。

 

そうなると残るはARS、TOT、CHEとなり、ARSはCLに出られないし、TOTにはケイン、ソンという絶対的なコアがいることを考えても安定的な出場機会を約束するのは厳しく、CHEに関しても3トップ体制のための駒として欲しい可能性はあるとはいえ、クラブ自体もアブラモビッチ体制からの移行期なので、手を出すかが微妙。。

 

そもそもW杯も考えると環境を大幅に変えることにスターリングが納得するかも微妙なので、シティとしては最悪かもしれないがフリー移籍も覚悟せねば、と考えている。

 

ただアルバレス、ハーランド、パルマーという不確定因子にチームの命運を託す前にスターリングにイニングを食わせて使い潰し、慣れてきた頃からスイッチさせる、というバイトの隣でサポートするパートのおばさん的立ち位置は十分価値があり、これからのシティの未来を背負う若者の体調管理のための管理役としてフリー移籍を許容するのも個人的には十分アリだと思うところではある。

 

繰り返すが控えFWとしては最高なのだ。このクラスの選手を4番手で持って置けるのはシティにとってはアドバンテージそのもので、減俸しての契約延長からの控え容認がベストなのだが本人にとっても、それは厳しいので別れは遠からず訪れるだろう。

 

 

②移籍ルート

 

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残留だと思っていたら唯一の国内で可能性のあったCHEが入札してきたそうだ。ハヴァーツ偽9番でWGに点を取らせるシステムの構築に臨むつもりなのか。

 

現状ではCHEが移籍するなら最有力候補ではあるが、正直ウイングストライカーとしてはシティで限界も露呈していたので格下なら良いが同格格上相手となると起用はおすすめしない

 

シティとの違いはSBの貢献度合いだろうが、チルウェルも大きな怪我をしており無理はさせないだろうからそこも分からない。クロス爆撃の対象もいない偽9番システムで、どこまでやれるか正直心配であり、だからこそCHEが何故獲得したがっているのか分からない。

 

3トップシステムに移行して、”とりあえずのWG”として獲得しておいて、そこから本物を取るにしても、そうなると再びシティの時同様に準不良債権のようになってしまうため、ここも難しいところだ。

 

本人とクラブが納得しているなら良いのだが、年俸をどの程度払うのか、オーバーペイを受け入れるのか、今はCHEが、どう処すか、注目したい。

 

ただいずれにしてもRWGとして愚直に有機的にボールを運び、格下相手のLWGで得点を稼ぐ、というのが現状の最適運用のはずなのでトゥヘルが、どう扱っていくのか、大変興味深いです案件ではある。

 

 

●最後に

 

スターリングという選手について定性的な評価、定量的な評価を下してきたが、序文に書いたアングルの違いによる万能/無能という凄まじい乖離の正体に迫る、というのが本文の狙いであった。

 

関心の度合いで評価が変わってしまう、というのは仕方ないのかもしれない。

 

外様から見れば、前線どこでもプレー出来、2500min程度のリーグ戦出場が可能な耐久力の高さ、年間で20GA程度の出力もしてくれる。年齢も20代後半と脂も乗ってくる年齢で、国内でも関心の高い素晴らしい選手。

 

関心なく、外から見ていると定量的指数を眺める限り主な文句はないのだろう。

 

しかし定点観測している人間から見ると異なった感慨を得るはずだ。格下相手でしか通用しないドリブル、愚直にRWGでチャンスメークすれば良いものを色気を出して元来苦手なシュートに拘り印象的な試合に限ってミスをする。

 

守備への献身も年々低下していて、スタメン落ちギリギリの立場にも関わらず焦りや必死さが全く伝わらないパフォーマンス。ここ数年に関しては、大事な試合でいかにスターリングをベンチに置ける選手層を実現するか、が見どころだったはずだ。

 

シティがCLを取るためにはスターリングを控えに固定出来るようにならなければ難しいだろう、という悲しい諦観が胸に去来しているシティズンは少なくない。

 

結局のところ、思い入れが評価にダイレクトに反映される選手なのだろう。

 

スターリングのお陰で勝てた試合よりスターリングで落とした試合は数試合が数秒で思い浮かんでしまう。それだけ期待していたのだろうし、期待の裏側にある失望が支配的になってしまうのかもしれない。

 

どういう未来が待つにせよ、7年間の労が報いられる良い帰結を望みたい。