牽牛星のよろず日記

自分の興味あることを思うがまま記述したいと思います。

ペップの大耳10年戦争

10-11シーズン、異分子イブラを放出し、最終生産者メッシのバイタル解放を目的とする460システムを完成、モウマドリーに国王杯は獲られるもリーガ、大耳(CL)を獲得し、歴代最高のフットボールを展開。

 

スイーパー型GKバルデス

繋ぐCBピケ

右方全域をカバーするRSBアウベス

ワンタッチで延々とボールを握るMF陣ブスケ、チャビ、イニ

サイド牽制の偽翼ビジャ

プロセスを得点へ変換する歴史的生産者メッシ

 

クライフ描像の具現体ペップバルサは世界中の賛辞と共にあらゆるタイトルとおびただしいほどの勝ち点を獲得した。就任3年でリーガ3回大耳2回という偉業を成し遂げた世界最高の指揮官ペップは大耳決勝に上がるのは10年後となるのだが、そんな天才の10年を振り返る。

 

 

 

11-12 信念と共に

 

343への進化

 

メッシのバイタルフリーと得点が等号で結ばれた集団が全世界の模範でもあり研究対象であった時代、メッシマークを如何に分散するかがバルサの次のフェーズとなるのは自然。そのためサイド突破力向上、バイタル生産者増加をペップは考える。

 

補強としてロッシ(当時ビジャレアル)、サンチェス(当時ウディネーゼ)、セスク(当時アーセナル)といった面々がリストアップされ、サンチェスとセスクの獲得によってペップバルサはメッシを活かす多様性獲得へ歩を進めた。

 

サンチェスによって『外』の脅威が増し、セスク獲得で『縦』テンポ変え、を手に入れた。周囲はチャビの後継者としてのセスク獲得を歓迎したが、ペップは予想の上を行く。開幕ビジャレアル戦で披露されたのは343システム。チャビ、イニエスタ、セスク、メッシという名手4人を共存させた狂気のシステムで5-0マニータ。

 

ペップの親友で、WSDのコラムでお馴染みの御意見番ヘスススアレスの言葉を引く

 

『タレントは絶対に共存すべきなのだ。もし不可能だというなら、それは監督の能力に問題があるからにほかならない』

 

バルサやマドリーのような、その国を代表するクラブというのはそう簡単に時代の流れに翻弄されてはならない。 むしろ崇高な理想を追い求め新たな潮流を生み出していく事こそ彼らに与えられた使命ではないだろうか

 

この言葉に従うようにペップはセスクとメッシの共存、試合の完全支配のため343挑戦を選択した。

 

勇敢であれ

 

『中』のメッシを活かすには『裏』と『外』を強化すべき、という方針のもと、裏抜けし相手DFラインを牽制するセスクとビジャ、SBをピン止めし中央圧縮戦略を破壊するクエンカ、テージョを用いてメッシのバイタル解放に特化したペップバルサは歴史的な破壊力でシーズン前半無双。印象的な試合を。

 

モウマドリーとの前期クラシコ。GKバルデスのミスキックをカウンターに沈められた前半、ペップは343システムを強行し攻め倒しを選択。ペップの言葉を以下に

 

『0-1にされた後、4バックで勇敢に戦うか、3バックでさらに勇敢に戦うか。さらに勇敢に戦うことを決断した。』

 

サイドを捨てた中央圧縮守備からのカウンターというリアクション戦術に対抗するために開発した343でペップバルサは勇敢に戦う事が勝利への最善手であるというカルマを遵守しクラシコにおいても3-1の逆転勝利。この成功体験がペップを10年間苦しめる呪縛の始まりだった。

 

雨のサンマメス決戦となったビエルサビルバオとのリーガ戦、師匠ビエルサバルサ対策の最新作を披露。オールコートマンツーマンバルサからボールを取り上げる真正面からのソリューション、一人でも外されれば大惨事になる危険性もある選択

 

ゾーンの網目の間でボールを受け相手の判断よりも早くボールを弾き間で受けるを繰り返すポゼッションに対しマンツーをぶつけるビエルサ、4バックに4トップを当てるという魔策にペップバルサは溺れていく。そして、この戦術をバイエルンに渡ってからペップは大耳で選択する。

 

苦しむペップバルサを救ったのはメッシ、後半46分にこぼれ球を拾いシュート、2-2のエンパテ、勇敢なビエルサビルバオに苦しめられた試合を振り返りペップは

 

『最高級の試合。両チームが勝利を目指した時、こういった試合が生まれる。キックオフ直後からこんな試合になるだろうと分かっていた。』 

 

勇敢に戦う事こそ勝利への最善手でありビッグゲームほど最上級に勇敢さを見せねばならないという姿勢の大切さを深く感じたシーズンだったのかもしれない。

 

鐘が鳴る

 

CWCにてネイマール擁するサントスに、前線にチアゴ、アウベス、メッシ、中盤はブスケ、チャビ、イニ、セスクという攻撃的布陣、前年の460の進化系となる370を選択してきた。この370はメッシの解放を目指す460とは異なる哲学を具現化した、『コアUTポジショナル理論』。GKと3バックとブスケツ以外は縦横無尽にポジションを入れ替え続けても本職であるかのように振舞い、サントスは散った。

 

460時代の間で受けて弾いて受けるを繰り返すティキタカとは違い、選手のポリバレント性を活かしボールを交換する人も交換し続ける未来のフットボールを披露していた秩序だった無秩序の具現化のためのUT性の高いタレントによる無限ポジション変換と無限パス交換を主軸とする支配理論、これこそがペップの目指す真の理想なのだろう。

 

しかしビジャ骨折による今季絶望という事故もあった。外の生産者ビジャ離脱、そして世界一という達成感が緩やかにチームを変える。

 

プジョルはケガで出場できず、アビダルは病気でチーム離脱、ピケも調子を崩し始め、チャビはプレス強度減退、セスクはテンポの速いパスを選択しすぎてチームから浮き、サンチェスは息を吐くようにケガをし、ビジャは離脱、メッシは守備を辞めた。

 

このことがペップの作り上げてきた作品の精度を乱す。即時奪還と無限保持の2局面特化は陰りを見せ343も機能不全に。その原因を列挙すると

 

①運動量抜群RWBにしてインテリオールにも対応可能なコアUTアウベスがRWだとヨーイドンの突破力はなくRCBとしては単純にフィジカル差で潰され良さが死ぬ

 

②メッシマークを逃す為の外攻めがテージョ、クエンカ、サンチェスが質的に大きくメッシに劣るため捨てられる

 

③メッシ守備放棄により前線プレスが効かず後方に負担がかかるにも関わらずプジョルアビダルの離脱に加えピケの不調で守備がしんどい

 

この3点とペップの混乱も相まってリーガマドリー戦、大耳チェルシー戦の2つを343で落としペップは指揮官を辞し4季間に獲得可能な19タイトルのうち14ものトロフィーを獲得し、21世紀のエルドリームは静かに幕を下ろした

 

就任してからロナウジーニョ、デコを切り、リーガクラブとして初めて3冠を初年度に達成し、イブラという柱を用いメッシ解放へ挑戦、その後メッシと心中する460構築で再び大耳制覇、その後コアUTによる370、セスクを落とし込んだ343への挑戦と常に変化を恐れなかった、ソリッドなチームではなく変幻自在なリキッドなチームという哲学を具現化しペップバルサは伝説となった

 

ペップの343は間違った選択だったのか、メッシという中の覇者を活かす為の外攻めと裏攻めの設定、その答えは後にMSNと呼ばれることになる

 

ペップはColdplayの大ファンでチームバスで『Viva la Vida』をかけていたそうだ。絶大な権力を誇った王が失権し、かつての良き世を思う歌。

 

Hear Jerusalem bells a-ringing

エルサレムの鐘の音が聞こえる


Roman cavalry choirs are singing

ローマの聖歌隊が歌う


Be my mirror my sword and shield

汝の鏡、剣、盾となれ


My missionaries in a foreign field

異国への宣教師となれ


For some reason I can't explain

何と言えばよいか。。


 I know St. Peter won't call my name

聖ペテロは私を呼ばない


Never an honest word

真理なんてなかったのか


And that was when I ruled the world

それは私が世界を統べていた時の事

 

バルサ初年度ローマでチャンピオーネが歌われ宙を舞ったペップは就任4年目のカンプノウで聞いた試合終了のホイッスルの音に聖者必衰の理を抱いたのではないだろうか。この敗北を受けてドイツ、イングランドの2国を巡りクライフ(キリスト)にとっての一番弟子ペップ(ペテロ)は師の提唱する勇敢な思想を胸にバルササッカーの宣教師となる、そこで待ち受けるのは最終生産者メッシがいた時代へのノスタルジアであった。

 

安息の地バルセロナを後に冒険を始める。そして世界はポストバルサ時代へ向かう。ペップを失ったバルサ守備をしない絶対的最終生産者との共存という課題を背負うのであった。

 

 

12-13  休戦

 

ペップNYへゆく。

 

バルサ指揮官を辞し、ペップはアメリカNYへ家族で移住し次なる冒険を見据えていた。各メディアでUTD、シティ、チェルシー、PSGといったクラブ指揮の可能性が報じられる中、ペップの理想は、そのどれでもなかった。送り出すスタメンの如く予想を裏切る第一志望チームが彼にはあった。サッカーブラジル代表通称セレソンである。

 

バルサでクラブレベルで獲得できるタイトルを総なめにした事とバルササッカーの再現を行うに足る戦力を有したクラブはなく全とっかえをして軋轢を招く可能性から代表チームを選ぶのは合理的。

 

ネイマールコウチーニョ、モウラ、ガンソといった若手台頭に魅力を感じ、弟ペッレを通じてブラジルサッカー連盟に意欲を伝えていたそうだ。2014年自国開催のW杯の指揮官としてセレソンを優勝に導く野望にペップは燃えていた。メネゼス政権が風前の灯火にあり、連盟も考慮はするも、自国出身監督に拘りスコラーリが選ばれ夢は幻と消えた。実際スコラリは日韓大会で優勝経験もありベターな選択。それがあんな悲劇を招くとは。

 

用意周到な指揮官はバルサ4年目初頭の親善試合でバイエルンミュンヘンの上層部と密会し『ここ(ミュンヘン)で働くイメージが出来る』という思わせぶり小悪魔台詞で第2志望チームという滑り止めを準備していた。NYの地にてバイエルン会長ヘーネスとの間で13-14シーズンからの指揮で合意しドイツ語の練習に励みバイエルンを研究した。

 

ペップは大補強は不要と伝え、ドイツでのキャリアが動き出した。シーズン終了後に発表する予定であったがイタリア人ジャーナリストであるジャンルカディマルツィオがスクープし13年初頭の発表となりメディアでは新生ペップバイエルンの予想が盛んに報じられた。

 

ペップは最終生産者を求めた。当時バイエルンとペップバルサとの違いは外攻めの大駒であるロベリーがいる事、各ポジションには申し分ない選手を揃え、足りないのはただ一つメッシ。

 

最終生産者メッシをバイタルで解放するためのチームだったバルサのように明確な最終生産者として誰に点を取らせるのか、補強として9番を望み候補者は代理人が自身と同じスアレス、CWCで確認済のネイマール、ドイツで輝きを放つレバンドフスキスアレスが素行面で弾かれ、ネイマールも権利問題の煩雑さや本人のバルサ希望から消え、残る候補者レバは本人との合意も取り付け残り契約1年(ここで売らなければ再来季には無料で放出する事に)である事から獲得確実。しかし所属クラブドルトムントは一年延期しての無料放出を選択。

 

バイエルンフロントも焦りを覚え、新たなアタッカー獲得を考え始める。バイエルン所属のクロースと代理人が同じマリオゲッツェである。本人の移籍願望をクロースを通じて知ったバイエルンは移籍条項(金銭によってクラブの意向を無視し獲得出来るシステム)を行使し獲得に成功する。しかしゲッツェは最終生産者ではない。ペップにとって最初の誤算となった。

 

ペップのいない世界で

 

メッシのチームとなったバルサは343の実装を諦めビラノバのもとでセスクを取り入れた433の構築に着手。犠牲になったのはケガ明けビジャ。セスクの縦意識の高い高速攻撃によってシーズン前半は無敗という圧巻の出来。

 

しかしペップが危機意識を持っていた中央圧縮対策の必要性を後半に思い知る。ビジャをベンチに置いたことで外攻めのオプションは消失しデザインされた守備を持つアレグリミランサンシーロで2-0の敗北を喫し敗戦ムードが漂うもビジャの復帰とセスクのベンチ落ちによってバルサは大逆転でミランを撃破。

 

しかしメッシ依存度は臨界点を超え大耳8強PSG戦で2戦連続のドローによる進出。アルバとアウベス共存リスク、ピケとプジョルの不振と不調、チャビのプレス強度減退、サンチェスの不振、メッシケガという課題を誤魔化し続けてきたバルサに現実を突きつける。大耳4強で合計スコア7-0という大敗北、その相手こそバイエルン

 

昨季全大会2位という屈辱を受け、4番ハビマル、CBダンテ、運動量抜群のマンジュキッチを獲得しライバルドルトムントのプレス強度を見習い全員守備を徹底、攻守のハードワークとロベリーの破壊力を活かした攻撃で全大会1位という快挙を成し遂げ、ブンデス初の3冠を成し遂げた。

 

マドリーとバルサという2強を中心とした欧州サッカーシーンにハードワークしながら攻守が連動するドイツの2強、そしてスペイン2強に抗う反逆のシメオネアトレティコも台頭。プレミアではユナイテッドのファーガソン勇退し、時代は緩やかに動こうとしていた。

 

バルサ由来のパスサッカーの導入がプレミアで進み、バルサの即時奪還スキームをヒントにドイツではゲーゲンプレスが流行。世界はペップバルサという遺産から新たな戦術開発に着手し、メッシとロナウドのチームの大耳敗北によってハードワークとトータル性の高い戦術が叫ばれた、しかし皮肉にも、この年を境に時代は真逆の方向へと進む。

 

13-14 赤いUT

 

ティキタカという不協和音

 

ペップはバイエルンでの就任会見でドイツ語で受け答えした。通訳を付けず記者の質問に答え続ける姿はNYでの成果を見せると共に『チームを変えるのではなく自分が変わらなければならないという言葉に説得力を感じさせた。しかし周囲も驚くほどにバイエルンは最先端のコアUT理論の具現体へハインケスの面影の欠片もないほどに変貌する。

 

シーズン前練習でバイエルンは思うようにパスが回せない事、生産者不在を露呈する。ペップは選手のUT性を確認していく、リベリ、シャキリの9番適性を見たり、ラームの中盤転用の可能性を考え、MF出身のアラバの技術に注目。ペップは決断する、中盤を補強せねばと。そしてバルサからチアゴを一定の出場機会が無ければ移籍条項を行使できるというザル条件をバルサが見落としていた事でたったの2000万€で獲得。

 

モウチェルシーとの欧州スーパーカップ、クロップドルトムントとのドイツスーパーカップという2つの決勝をいきなり戦い1勝1敗、チェルシー戦ではPK戦にまでもつれ、ドルトムント戦では大敗を喫した。

 

特にドルトムント戦では0トップとしてシャキリが起用され質の低さを見せ、スペース管理能力の低いチアゴが4番で起用され稚拙なポゼッションが空転しカウンターを食らい続けるという前半、ロベリーを張らせた4231に戻し機能性を取り戻した後半、ペップサッカーの導入の難しさを感じる試合となった。

 

キルヒホフは実力不足を露呈しファンブイテンはピークアウト、バトシュトゥーバーはケガで出場のメドも立たない有様でハビマルをCBで運用せざるを得なくなってしまった(もちろんハビはビエルサビルバオ時代にCBを経験していてペップもCBとして計算はしていたフシもあるが)。このバイエルンとにかくCBいなすぎてヤバイ問題はペップ在任中解決されることはなかった。そしてケガ人との付き合いがコアUT理論への傾倒に拍車をかけることになる

 

ハビを後ろに下げたのでチアゴの獲得はあったが中盤は人数が足らず他ポジからの転用が考慮され控えがコンテントの左サイドバックアラバを回す余裕がなくラフィーニャが控えていた右サイドバックのラームが中盤でプレー。

 

『我々は群れで行動する、全員でボールを奪還し全員でボールを運ぶ、そこからは君たちの好きにすると良い。』このペップの基本方針はバイエルンの面々を混乱へとおいやる。バルサのようにパスを回さねばならない強迫観念と柔軟なポジショニングが出来なかった。ペップは決意する、『バイエルンにとってのイデオマを構築せねば』と。

 

低調で生産性のないパス回しに終始するペップバイエルン、マスコミやメディアもペップバイエルン批判を始めた。ペップがバイエルンの文化を破壊している、ハインケスの素晴らしいチームで無理やりティキタカしようとしている。

 

しかしペップは言う、『ティキタカなんてクソだ、パスをするためのパスに意味はないしパスは意図をもって行うものだ、バルサはティキタカとは無関係だ、すべてのチームスポーツの秘訣は敵を片方のサイドに偏らせるため同サイドに自分たちも集結することだ。同サイドに人を集め敵を引きつけ反対側で決着をつける。そのためにパスが必要で、そのパスは意図と意味のあるパスでなければならない。チームメートを集結させるためのパス。逆サイドで決着するためのパス。私たちのプレーは、そうあるべきだ。決して意図のないティキタカなんかするな』

 

整然とした配置につくため中盤で15本の連続したパスをしながら混乱させることができたらボールを持つことには意味がある。敵はボールを奪おうとしてピッチ中を追い回すことになり、気づかぬうちにすっかり混乱しているんだ。もしボールを失ったとしても、その時点でおそらくボールを奪った敵の選手は孤立している。周りを私たちの仲間が囲んでいるので、容易にボールを取り戻すことができる。少なくとも敵が守備のオーガナイズを整えるのを妨害できる。ボールをサイドからサイドへとUの字の形に循環させる毒にも薬にもならないやり方だ。ボールはサイドからサイドへ、足から足へ、本質から外れて循環する。いかなる瞬間も敵のラインを突破しようとしないから、敵は何の努力もしないで守ることができる』

 

『君たちがいま見ているものこそクソッタレのティキタカだ。このタイプのポゼッションは、私たちに何の利益ももたらさない。100%ゴミだ。パスのためのパスだ。私たちに必要なのは、高い位置まで前進するためにメデイアセントロとDFたちがアグレッシブに飛び出して、敵のラインを壊すことだ。このUの字は終わりにしよう。』

 

『もし、私の前に5人のディフェンスラインがあるとする、彼らは私にサイドからサイドへパスを出させようとする。サイドからサイドへ、深くもなく危険でもないパスを。この5人のラインと、その後ろの4人のライン間のスペースはコンパクトだ。2つのラインはサイドのスペースへ私を追い詰めて、危機を回避しようとする。だから私は、2人のウイングを深く広く配置し他の攻撃陣を敵のライン間で動き回らせた。そして、5人のディフェンスラインをあざむく。左右に揺り動かし混乱させサイドに行くと見せかけた瞬間、パーン。攻撃陣に向けてパスを打ち込む。それでおしまい。』

 

ペップは偽サイドバックと呼ばれる戦術を授ける。しかしこれは戦術と言うよりはコアUTを用いたローテーションで、ある指導原理に基づくものであった、現在フットボールを議論する際の必須学問体系となった『ポジショナルプレー』である

 

 

コアUTを主軸とする最適配置理論

 

バイエルンの練習場のピッチに縦線が4本引かれ、2つのサイドレーン、2つのハーフレーン、1つのセンターレーンに分割されることになる。GKを除く10人の最適配置を決める指導原理が導入された。

 

①一列前の選手は同じレーンに配置しない

②二列前の選手は同じレーンに配置する

③一列前の選手は隣のレーンに配置する

 

この5レーン理論に代表される配置理論の目的はクリティカルな決定機をコンスタントに発生させる事と奪取時の囲い込みのセーフティネットワークの両立にある。

 

バイエルンにおける絶対的武器はロベリー。1対1での勝率の高い両翼突破を利用してサイドを切り裂きCBを引きずり出し敵陣最深部へ侵入して決定機を創出する事を目的とした。SBがハーフに配置し敵マーカーを移動させウイングへのパスコースを空ける。SBからウイングへの斜めパスが通ることで、ウイングが1対1で前を向けてバイエルンの必殺攻撃へと持ち込める。

 

ビルドアップのフェーズにおいては2人のCBが横に大きく広がりボランチのラームがCBのポジションまで落ちて疑似3バックを形成(サリーダデバロン)するバルサ流に加え、2人のIHのうち一人がボランチに降りる、大抵クロースでスペース管理に問題がある、そこを助ける目的と前述したウイング活用のためアラバは内側に絞る偽SB戦術を採用。

 

CBがSBのレーンに入るので一列前のボランチ列に入るアラバは内側に絞るのは指導原理に従うもの。ただ疑似3バックとは違いアラバは一時的なボランチとしてだけでなく本職ボランチとしてもプレーできる選手、コアUT選手なのだ。

 

ペップバイエルンはロベリーを活かす外攻めの為にペナ角(ハーフスペース)で有効的な立ち位置を取りCBを引きずり出し致命傷を与えるべく複数ポジションで本職のように振舞えるスタメンクラスの選手を複数起用し無限循環させデザインされた混沌を生み出し試合を支配するコアUTポジショナルチームへ変貌する。

 

 

 無双する巨人

 

5レーン理論の遵守とアラバ、ラーム、ハビといったコアUTを用いたポジショナルプレーは世界の耳目を引いた。3冠を成し遂げたバイエルンにとって必要なのは世界的知名度の獲得。UTD、リバプールバルサ、レアル、ミランといったブランドに肩を並べるべく、異なった指揮官による異なったプレーモデルによる3冠再現という巨大プロジェクトの旗頭ペップは、もう初年度の時点でフロントを満足させる結果をあげていた。

 

ペップやバイエルンを好む好まざるに関係なくサッカーシーンの話題であり続け、コアUTを用いた先進的なフットボールは間違いなく『主語』でありつづけた。そのフットボールを学ぶため後のミラン監督ガットゥーゾや後のマドリー監督ジダンが見学に訪れていた(ジダンは2015年春に見学)。

 

リーグ無敗記録53、史上最速の27節(残り7節=21勝ち点を残し)で優勝に加えドイツカップもクロップドルトムントを破って優勝、クラブワールドカップ、ヨーロッパスーパーカップも優勝、とハインケスの欧州王者のチームを受け継いだとはいえ、素晴らしい結果を残すことになった。

 

そんなペップバイエルン1年目の印象的な試合を。

 

VS ドルトムント(リーガ)

 

 ペップバイエルンのリーガにおけるライバル、クロップドルトムントとの一戦。スーパーカップでは空回るポゼッションを鋭いカウンターで刺殺されポゼスタイルを放棄してハインケス時代のカウンタースタイルに変更せざるを得なかった苦い試合を経てリーガで相まみえる。この試合、両チームともにケガ人がおりドルトムントフンメルス、スポティッチ、ギュンドガンバイエルンはシュバイニーとロッベン

 

バイエルンは中盤にハビ、クロースのIHに4番にはラームを配置。ラームとハビという2人のコアUTを用いてドルトムントを幻惑し、コアUTポジショナル理論を見せる。

 

ビルドアップ時にはCBが大きく開きボランチのラームがCBの位置まで降りる(サリーダデバロン)、その後クロースがボランチの位置に降りてハビはトップのマンジュキッチの位置まであがる。両SBはWBのようにあがる。

 

この配置から激しい前プレに対しては無理せず前方のマンジュ、ハビの『高さ』に逃げたりシャドーのミュラーを裏抜けさせたりロッベンの外攻めを発動するロングボールで逃げた。交わせる前プレなら丁寧に剥がしていくものの厳しいときは無理せず柔軟に逃げる、を繰り返しドルトムントは有効なカウンターを打てなくなってしまった。ただこのロング逃げも3年間かけて恐ろしい暴力的戦術へと仕上がる

 

ここからコアUTの恐ろしさを見せつける。

 

まずマンジュキッチを下げゲッツェに交代、0トップ発動。またラームはボランチからIHへ変換、ハビはボランチに変換し中央制圧。前プレが空転し激しさが止んだ55分過ぎにポゼッション確立、更にボアテンに変えチアゴを投入し試合を眠らせにかかる。ハビはボランチからCB変換、ラームはIHからボランチ再変換し中盤ではワンタッチでボールを動かし続ける。

 

ドルトムントからすれば相対するプレイヤーが変わり、手筋もロング主体の空中戦からショート主体の地上戦へ変容しドルトムントは主導権を完全に掌握される。

 

その混乱の最中、ゴールネットが揺らされる。右に張るロッベンの近くにいたミュラーからラフィーニャ、ラームと渡りミュラーに戻して中央へ移動するロッベンがDFラインを引っ張り、バイタルが広がり、0トップのゲッツェが解放されパスを受けたゲッツェがダイレクトアウトサイドキックで裏切者へのブーイングが響くかつてのホームを絶望へ沈めた。

 

リーグ勝ち点差は負ければ7となりリーガは絶望の様相を呈す、負けられないクロップは力を振り絞り戦う、バイエルンの中盤制圧に負けずボールを獲れると少ない手数でゴールへ迫る。ラフィーニャの後ろ残りのミスで好機を作るもノイアーを中心とするDF陣で弾かれ続ける。

 

ボールを持てる展開ではハビは有効なCBになるが守勢に回るとオバメヤンのスピードにやられている、前述のラファのミスを受け、ペップはラファに変え純正CBファンブイテン投入。ハビはCBからボランチ変換、ラームはボランチからRSB変換。

 

前がかりのドルトムント陣営へ向けチアゴからのロングパスが通り世界最高のデスコルダード(前残り)ロッベンのカウンター攻撃が炸裂しGKヴァイデンフェラーの頭上を舞うループシュートで追加点。

 

中盤でパスを繋ぎ外のロッベンへパス、右から左へドリブルで侵入する後ろからUT変換したラームが追い越し、ラームへパスしてからワンタッチでボックスで待つミュラーへパスしミュラーのシュートで勝負あり、3-0で敵地で完勝。

 

この試合のラームとハビは

ラーム    DMF→IH→DMF→RSB

ハビ        IH→DMF→CB→DMF

 

という4回にわたるUT変換を見せた。移動しても本職としてプレー可能な複数選手の設置とボールの位置によって最適配置を取り続ける指導原理の遵守。試合を支配するための方向性が示されていた。

 

 

 戦争の始まり

 

ペップバイエルンの怒涛の進撃は27節ヘルタ戦を境に鈍化。ホッフェンハイム戦を3-3、それまで27戦で13 失点のチームが3失点。その後アウグスブルグドルトムントに破れ無敗優勝は夢と散り失点は急増。もちろん心理的な安心から来る油断は否定できないが、一番の原因はケガ人多発とバイエルン対策の向上。

 

5レーン攻撃対策としてレーン埋めが打たれた事と、ゲッツェの最終生産性のなさ、マンジュキッチのUT性のなさと技術不足、ハビとチアゴとバドのケガ体質、リベリが背中の痛みに苦しみ、ロッベンも体調不良に陥った、バルサ4年目と同様にケガ人と体調不良選手の多さからパフォーマンスを落しバイエルンも緩やかに落ち込んでいった。

 

優勝が決まってからもセットプレーの脆さ、ロッベリーが止められると手詰まりという弱点が明らかになりリーガ、ドイツカップ、大耳の3タイトルレースにおいてクローズしていなかった2つのカップ戦で大きく苦しむ。

 

マドリーとの大耳4強、ベルナベウでのアウェイ戦で1-0で負け、2ndlegのホームでの試合、バイエルンは地獄を見る事になる。マドリーはバイエルンを研究しておりロッベリ対策とセットプレーの弱さ、コアUTを用いた幻惑戦術も理解していた。

 

マドリーもコアUT理論を実践していた。ディマリアだ。マドリーはアトレティコとの試合を機に433で攻め442で守る布陣を採用した。マリアは433のIHと442のSHを担当しマリアのUT性を用いた可変系によりバイエルンに応手した。

 

2ndlegにおいて現在まで続く大耳ペップバッシングの起点『奇策溺れ』が始まった。424をぶつけてバランスを大きく崩した。433でバランスを整え構えれば良いものをリベリの『攻撃的にいきたい』というコメントを受け、ロベリと心中すべくロベリと2topの前線4枚で攻撃を加えるシステムを採用。ロベリーが封じられ、U字パスを繰り返し、可能性のないクロスが跳ね返されてカウンターを受け、バイエルンの『群れ』の後ろの広大なスペース目掛けてベイルとロナウドが駆け抜けて0-4で敗北。

 

敗因はマドリーの2CBラモスとペペのコンビを中心とした屈強な守備力にマンジュ、ロベリーが完全に封殺されてしまったことだ。今季のバイエルンはロベリを活かす為のシステム構築が中心で433をぶつけたとして勝てたか、は何とも言えない。

 

ペップバイエルンは2年目までロベリーという翼を解放するためのシステムに全精力を注ぐもロベリーは最終生産性がメッシほどなく、メッシほど耐久力もないため主軸として不適、という判断を下すのに時間を潰しすぎたのが課題であった。

 

仮にレバンドフスキを1年目から獲得出来ていれば結果は変わったか、その答えは翌年の2年目に明かされるのだが、そこで分かるのは逆足ウイングとレバの共存の難しさで、ペップはロベリーという翼を活かす構想を捨て去るようになる。ペップバイエルンにはロベリー卒業というサブタイトルが付されていた。

 

バイエルン1年目は終焉し、ブラジルW杯が開催。そこでは大半のチームが5バックを運用し、SBに本職CBを配置するなど守備的なスタンスが見られ、攻撃的なポジショナルチームは沈んでいった。オランダの5バックシステムのデスコルダードとして奮闘するロッベンバイエルン出身者の多いドイツ代表はネイマールとシウバを欠くセレソンを7-1で下し、その勢いのまま決勝5バックのアルゼンチン相手にゲッツェのゴールで優勝を果たした。

 

 

 

14-15 折れた翼

 

 

UT3バック

 

ロベリの耐久性と依存度への懸念から選手獲得に動く。アラバをLSBからUT化させるため、控えの質向上のためバレンシアからベルナトを獲得、絶対数が少ないCBにローマからベナティアを獲得、そして待望の最終生産者レバンドフスキを獲得、そしてバイエルンの生え抜きクロースとマドリーのアロンソを交換。純正4番の獲得によって4番起用されていたラームのUT性も増す。

 

『今季は3バックでいく』ペップの開幕前のミーティングでバイエルンのリキッドなシーズンは幕を開けた。開幕戦のボランチにガウディーノが起用され(ホイベルグ、ガウディーノはペップが目を付けた若手4番だったが両者共にバイエルンでは輝くことはなかった)、ロッベンはWBで使われカオスの様相を呈していた。

 

そして2年目の新機軸3421の正体が判明する。3421は4321の可変系であり、3バックは左からアラバ、ハビ、ボアテンで中盤は左からベルナト、アロンソ、ラーム、ラフィーニャ、前線はレバを先頭にシャドーにゲッツェミュラー

 

ベルナトとアロンソの獲得によるアラバとラームのコアUT化により、アラバは3バックの左にいながら攻撃時には433のIHとなりラームは2ボランチの一角から攻撃時には433のIHとしてタクトを振るう。

 

このシステムの狙いとしてロベリーという外の暴力を用いずにシャドーとWBとUT化したSBの3名でサイドを崩すコンビネーション攻撃というオプション、前年のマドリーのカウンターを受けたことを反省しWBを下げ5バックとして守備増強の狙いがあった。

 

しかしプランは大きく狂う。ペップバイエルンお馴染みのケガ人がとにかく多すぎる問題。チアゴは昨季3月からプレーが出来ず、シュバイニーもトップフォームに戻らず、ロベリ特にリベリはケガに苦しみハビは開幕して右ひざ十字靭帯断裂で今季絶望、シーズンが進んで11月になるとラームも数か月の長期離脱に見舞われ、シーズン佳境ではアラバが離脱し呪われたシーズンとなった。

 

2年目はとにかくケガ人が多く常に満足なスタメンが組めない状況。ペップは就任当初からチームドクターのヴォルファールトの姿勢に不信感を抱いており練習でのケガに対して離れたクリニックで治療を行うという独特の風習にも疑念を持ち、この事がペップと医師団の対立に繋がった。1,2年目はまだしも3年目はケガ人さえ少なければ大耳優勝の可能性は高かったと言え、慢性的なケガ人の多さはペップを苦しめ続けた。

 

苦しみ

 

前述したケガ人の多さに苦しみながらも、ポリバレントな運用でスタメンが発表されても配置や戦術が何も分からない、という嘆きがマスコミから漏れた。UT性の高いスカッドゆえ『乗り越えてしまった』2年目はペップバイエルンの中で最弱であった。

 

ミュラーはレバの周囲を衛星的に飛び回るセカンドしか出来ずウイングに置いても飛び出し以外では貢献は皆無、中盤では技術力もなく転用も出来ない、故にペップは取り扱いに困った、レバとセットで初めて輝く事に気づき翌季から切り替えた。

 

望まぬ『子供』ゲッツェもペップは取り扱いに困った。0トップとして使っても技術力はあれど10番でしか輝かずウイングではスピードがなく、IHでは攻め急ぎすぎてボールロストも多い。そもそもペップが最終生産者を望んだのに、何故10番を獲ったのか誰も得しない補強だ。

 

クロースが居なくなりシュバイニーも使い者にならなかったので純粋なIHは一人もおらずバイタル攻めはダブルシャドーの役割になったのだが前述の通り、あまり機能性もなく外攻めのロベリありきのチームなのにロベリは片側しかいない状況が続きコンビネーション攻撃も同格以上には全く機能せず、そればかりか戦術整備のされた中堅クラブには負けてしまうレベルであった。

 

格下なら戦力の質で押せ、リーガは独走、特に宿敵ドルトムントバイエルンに負けず劣らずの野戦病院であり降格か、というところまで落ちバイエルンは苦しむことなくシーズン前半を過ごした。

 

後半に入ると、リーガではデブライネにバルサ時代のウィルシャーよろしくプレスを無効化され血祭。デブ神を中心にヴォルフスブルグはポカールで優勝し、5500万ポンドでマンチェスターシティへと移籍し、2年後ペップと味方として再会する。

 

シャフタール戦で、後のレバミュラを輝かせる必須兵器コスタと出会い、ロペテギ率いるポルトが仕掛けてきた4番潰しで3-1のビハインドを背負うもアロンソを経由しないロングボールを用いて4TOPに配球する戦術を選択、偽翼にラームを配し中盤を経由しないゼロIH的な中盤省略型だがラームの気の利いたプレーと省略されているアロンソの相手のマルティネスを誘導する動きであったり猛烈なプレスと中盤を省略して前線の圧力で押し切る新たな手筋を手に入れた瞬間であった。

 

 

 悪夢の再会

 

ドイツカップPK戦の末、自軍全員がPKを外す珍事で敗北。結局今季はドルトムントがボロボロだったこともあってリーガのみ獲得という寂しいシーズン。そして最も印象的だったのは大耳4強バルサ戦。昨季BBCに続きMSNという凶悪トリデンテに向き合う。

 

前年度のベイル、ベンゼマロナウドの3topはマリアというコアUTにより442でサイドを封殺し433でカウンターアタックの変則布陣の最終生産ユニット。最終生産者ロナウドを活かすため、運び守るベイルとボックスで影として動くベンゼマのトリオ。ロナウドの良さは運動神経の凄まじさとボックスの中での冷静かつ正確なフィニッシュにあるため、そこを活かす3人だった。

 

バルサが誇るMSN、メッシ、スアレスネイマール。このトリデンテはメッシの良さを活かす3top。メッシの良さは前述の通りバイタルエリアでのコマンド力にあり正確な判断で最適なフィニッシュワークを演出する最終生産者にして歴史的なコアUT選手。では、この『中』の天才を活かす為にはどうすればよいのか。その答えはペップがバルサ監督時代4年目に提出していた、『裏攻め』『外攻め』の囮を用いてバイタルをこじ開ければ良い

 

メッシ解放のため、ペップは『裏攻め』のセスク、『外攻め』のテージョを準備したものの機能しなかった。彼らがメッシに比べて怖さがなかったからである。このペップの残した『メッシ解放マニュアル』をバルサは忘れてはいなかった。

 

ペップの4年目の取り組みは間違っていなかった。ただ囮の質が低かった。正確に言えば最終生産性の高い『外』と『裏』であればメッシは解放される。バルサは、それを信じペップ退任後1年で『外』のネイマール、2年で『裏』のスアレス。ピースは埋まった。ティキタカ戦術を守備として使う為にボールの動くカテナチオ逃げ切り戦術としてスーパーサブのチャビ、といったバリエーションも豊富。3topを攻撃に専念させるために中盤は走る10番ラキティッチを起用し、MSNはペップが考案したメッシ解放スキームの完璧な具現体として猛威を振るった。

 

ペップはMSNの恐ろしさは十二分に理解していた。自分が描いた理想なのだから。違いがあるとすればハイプレスを課すか否か。そしてソリューションも理解していた。ブスケ、チャビ、イニ、セスク、メッシの同時起用で挑んで最も苦しめられたチームはどこだったか、ペップは忘れてはいない、ビエルサという狂気じみた暴力を

 

リーガのビルバオ戦で見せたオールマンツー。あの戦術によってバルサがどれだけ苦しんだか。ペップは『家』カンプノウでMSNに3バックをぶつけ、マンツーを選択した。勇敢なカウンタープレスは早々に怪しさが漂い始める。当然だ、ラフィーニャがMSNの誰にぶつけたとしても抑えられるはずはない。セルヒオラモスが3人いるチームだけが成功する戦術だ。

 

ペップは早期に4バックへ変更しゲームは拮抗状態へ。ノイアーのビッグセーブもあって75分間0-0で凌いでいたゲームは、かつてのビエルサビルバオの時と同様にメッシの輝きによって2ゴールをあっという間に奪われ、バルサはチャビを投入しティキナチオ発動。攻めかかるバイエルンをあざ笑うネイマールのカウンターからのシュートで万事休す3-0で大耳制覇の夢は散った。

 

この敗北を昨年に続き奇策で負けた、と表現するメディアもあったが、これは正確ではない。おそらくどうやっても負けたはずだ。アラバ、ロベリー抜きでMSNと戦うなど無謀極まりなく敗北は妥当である。

 

メッシという『中』の王を活かす為には『外』と『裏』に囮が必要でネイマールを抜かれ『外』候補としてデンベレが獲得されるも順応に時間がかかっている間にスアレスの守備意識が衰え始めメッシシステムの維持と守備組織の両立という極めて難しい課題を抱え、2021年現在も未だに苦しんでいる

 

今季をもってペップはロベリを捨て新しい翼を手に入れ、レバミュラという最終生産コンビを活かすチーム作りに着手する。そして3年契約最終年、ハインケス時代再現となる3冠を達成すべく、最後の戦いへと挑むのであった。

 

 

15-16 完成

 

集大成

 

ケガでまともなプレーを殆ど出来ていなかった生え抜きシュバイニーを放出しユベントスからビダルを獲得、そして新たな翼、左利きコスタ、右利きコマン(レンタル)を獲得した。レバミュラを活かすべく同足ウイングを用いた4top布陣を選択。

 

開幕すると、同足ウイングのコスタの単騎突破からのクロスが炸裂、ブンデスのDFを切り裂き続け中で待つレバミュラは得点を量産、コマンも徐々にフィットし同足クロス爆撃をレバミュラが決める、というパターンが確立。

 

1年目にロベリー解放のためのワンサイドに密集してボールを回してからのサイドへの展開というパターンと中央をパスで崩す戦術を落とし込んでいた事と、2年目に戦術的な幅を広げるべく様々なポジションでプレーした経験が合わさり変幻自在の攻撃パターンで前半戦は無双。ゼロIHの424で爆撃を食らわせ、IHを加えて334で中攻めも加えたり、と破壊力はペップ政権史上最高レベル。代表的な試合を。

 

VSドルトムント戦(リーガ)

 

バイエルンは334の布陣で3バックは左からアラバ、ハビ、ボアテンで中盤は底にアロンソ、両脇にチアゴとラーム、前線は両翼にコスタとゲッツェ、中央はレバミュラ。

 

対するドルトムントは指揮官が俊英トゥヘルに代わりポジショナルサッカーの導入に着手し、この試合でバイエルンの中盤3+1(ミュラー)にぶつけるように中盤を菱形にした442をぶつけた。トップ下は香川真司

 

ペップバイエルン対策でもあるビルドアップの起点を叩くため4番アロンソに香川をマークさせCBからのビルドアップもオーバとミキタリアンで阻害。また暴力ドリブラーコスタには本職CBのソクラテスをぶつけ、コスタを封殺するギミックを採用。

 

バイエルンは慌てない。ハビとアラバがミキとオーバを引きつけ、ボアテンから長距離パスが外のコスタ、裏のミュラー、中のレバへとピンポイントで供給。1年目のドルトムント戦のプレス回避の『逃げ』と違い、明らかにコントロールが向上しておりボアテンは、この試合で2つのアシストを記録する。

 

ボアテンのロングで裏へ抜けだしたミュラーが先制点を奪い、ドルトムントの深い位置で攻撃が失敗したのを見逃さずロングカウンターが炸裂しミキがチアゴをボックスでファールしPK、4312では外攻めは鈍重でSBにソクラテスを使ったツケもあった。

 

ここでトゥヘルは4231に変更しミキを偽翼へ。クロップ時代のSBオーバーラップと偽翼の中央圧縮による中央制圧の策を打つ。そして中央で香川、ミキの2人の10番による幻惑でミキにバイタルでボールが入り、そこから中央圧縮したバイエルン守備陣を交わすように外のカストロにパスを出し折り返しをオバメヤンがゴール、前半を終える。

 

そして後半早々ボアテンからロングでレバが裏抜けし追加点、後がなくなったトゥヘルは香川に代えてヤヌザイを入れた433に変更、これにぶつけるようにペップはIHのラームをRSBにコア変換し4231に変更。

 

システムが噛み合うと、質的優位性がモノを言いドルトムントのカウンタープレスは交わされまくり攻撃的な『意図を持った』ティキタカで前進しゲッツェのクロスからレバがゴール、致命的な4点目。その後もチアゴゲッツェのコンビネーションから追加点を奪い、ドルトムントは大敗。

 

この事を教訓にトゥヘルはペップバイエルンに対しては532のようにして5レーンをまず潰す事とレバミュラ2topに対抗すべく受け身で構え、リーガ後半戦では0-0ドロー、ドイツカップはPK決着。しかし翌季にフンメルス、ギュン、ミキを奪われる厳しいシーズンが幕を開ける。

 

この試合を機に迫力を増し続けるバイエルンであったがロベリは、このシステムでは異分子と化し、逆足独力突破が主武器の翼はレバミュラとの相性が悪く適合に苦しんだ、またケガ人多すぎて草も生えない問題が再浮上し、ゼロセンターバックと呼ばれる純粋なCBが一人もいない布陣も組まれた。

 

このCB誰もいない問題発生時にキミッヒというラームの後継者が見つかるという副産物はあったものの、ボアテンがいないとロングが打てず苦労する事も少なくなかった。

 

 

最後の戦い

 

年が明け、声明が発表。ペップ今年度退任アンチェロッティ来年度就任の報である。こうしてバイエルンでの冒険は3年で終わる事が決まり最後の戦いへと歩を進める事になった。取り残した最後のタイトル大耳を目指す戦いだ。

 

リーガは独走、ドイツカップも順調に勝ち進み、大耳では16強で強敵アレグリユーベと相まみえる、ペップバイエルンの中でも最高のバウトとなった2ndlegでの大逆転劇はペップバイエルンの集大成ともいうべき試合であった。

 

ユーベホームの1stlegは2-2で折り返し、迎えた2ndlegアレグリはペップバイエルンを研究し尽くしていた。ポグバとモラタの2topにサンドロ、ケディラクアドラードの3枚を加えた5枚でバイエルンに猛プレスを加えた。身長の低いラームにポグバをぶつけロングで競り勝ちボールを前進させて、あっという間に2点を奪い去って合計スコア4-2でバイエルンを窮地に追いやり、ペップバイエルンワクチンである541による5レーン埋めとサイドアタック対策を実施し逃げ切りを図る。前任者コンテが残したバルザーリボヌッチ、キエリーニというBBCトリオが立ちはだかる。

 

2年前と同様に『BBC』に屈するのか、いや今季の暴力的なバイエルンは挫けない。ベナティアに代えてベルナト、アロンソに代えて元ユーベのコマンを投入。キミッヒとアラバのCBコンビを残し、4番にはビダルを起用し、バイエルン3年目の集大成424、RSBラームは偽SBとして動き、ビダル、チアゴ、ラームの中盤で中央を制圧し密集を作ってサイドを解放する1年目のギミックを発動。

 

ユーベは受けの体制でパス回しに過剰に食いつかずゴール前を徹底して死守。コスタがサイドを破り続けクロス爆撃を開始、また新翼コマンも右からクロス爆撃を始め、守るユーベ、クロス爆撃のバイエルンという構図。

 

コスタは中央に位置し、パスを散らしながら自身も突破を続け(スパーズ晩年のベイルロール)ユーベの壁が遂に崩れる。コスタのクロスからレバ、コマンのクロスからミュラーが点を奪い延長へ突入、攻めざるを得なくなるもディバラを欠くユーベの攻撃は空転しカウンターから2失点、バイエルンは強かった。

 

この勢いのまま鬼門の大耳4強、相手はシメオネアトレティコ、1stlegはミュラーをベンチにおいたバイエルンの一瞬のスキをついたサウールの飛び出しで失点し1-0で敗北する。『次の試合に負ければ殺してもらって構わない』ペップの鬼気迫る会見での言葉が大耳への執念を強く感じさせる

 

そして迎えたホームの2ndleg、ペップバイエルンは怒涛の攻めを見せる。4411で守るアトレティコ城を殴り続けアロンソのFKで先制し、そしてPKを獲得する。しかしミュラーが失敗、前半を終える。あと一点、迫るバイエルンのケガからの復帰戦となったボアテンのミスでグリーズマンが抜けだしアウェイゴールを奪われる。必要なのはあと2点、コスタを下げコマンを投入、逆足のリベリと同足のコマンの両翼から殴り続け、遂にレバが決める。あと1点、しかし、その1点は永遠に訪れなかった。

 

試合終了のホイッスルと共に3年連続の大耳4強敗退が決まり、ペップは怒りと悲しみに支配され、選手たちも大きな悲しみを負った。ドイツカップでは541で守り抜くドルトムントとの激闘の末、PK戦で決着。勝利が決まった際にペップは人目もはばからず涙を流した。ペップのバイエルンでの戦いは終わった。

 

 

成功か失敗か

 

就任3年間でリーガ3連覇、ドイツカップ2回、大耳4強3回、という主要タイトルの成績で終わったペップバイエルンに対して、多くの識者とサッカーファンは失敗の烙印を押した。ペップを擁護する人を見つけるのが困難な状況だった。

 

個人的にはペップバイエルンは成功したと思う。大成功だったか、と聞かれると疑問符が付くとは思うが。

 

そもそも、何故ペップはバイエルン指揮官に選ばれたのか、ハインケスの後任という3冠達成チーム引き継ぎ事業のリーダーに何故選ばれたのか、ペップ、モウリーニョアンチェロッティの3名の中から何故ペップだったのか。

 

バイエルンが望んだのは3冠チームに刺激を加えられる人物であり、ビッグクラブから誰もが知るメガクラブへの進化を促せる人物、それがペップだった。

 

ペップバイエルンは3年間、様々なメディアに取り上げられた。公開練習には多くの見学者が殺到し、ミュンヘンから遠く離れた日本でも多くのサッカークラスタに話題と議論を喚起した。海外サッカーを語る上でペップバルサの影響の是非、ペップがバイエルンで取り組む5レーン、偽サイドバック、コアUTを用いた変則布陣に代表される様々な事象に触れずに済ませる事は困難だ。

 

ベッケンバウアーマテウス、カーンといった著名人はペップを失敗と断罪した。圧倒的な戦力を誇るバイエルンの国内での成績は良くて当然であり、国外でのタイトル成績こそが全てである、という考えに基づくものだ。

 

ペップであれ誰であれBBCとMSNには負けていたろうし、3年目が唯一大耳優勝の可能性があったと考えられ、ケガ人がこれだけ出しながら乗り越えられたのもコアUTを主軸にチームを組み立てるペップだから、トゥヘルドルトムントは強かったし3年目のリーガ獲得は評価はされるべきと思う。

 

3年間、サッカー界に少なくない話題を提供し、多くのサッカージャーナリストに飯のタネを提供し続けたペップはバイエルンフロントの期待には応えた、そしてFCハリウッドとも言われるスター軍団のエゴを抑え結果を出す事が、どれだけ難しいか、後任のアンチェロッティコバチが苦しみ続けた事からも明らかだ。

 

ペップバイエルンはロベリを切るのが遅すぎたと言える。同足コスタコマンを中心としてレバミュラへのクロス爆撃システムの構築が遅れたしケガ人が出すぎた。

 

ペップ退任4年後にフリックの下で念願の大耳を獲得する。そのチームではペップが魔改造を行ったアラバがCBを務めキミッヒがRSBを務める。中央では攻めず、レバミュラに向けてサイドを崩しボールを供給し続けるチームだ。ペップが残した『レバミュラ活用メソッド』である。

 

このメソッドがあるのに、アンチェロッティミュラーをサイドで起用する433を使ったりハメスを獲得してミュラーセカンドトップから外され続け苦しんだ。コバチになってからも、この傾向が続き、両者共にロベリを捨てきれず同足翼からのクロス爆撃をレバミュラに供給するというメソッドを引き継ぐことはなかった。

 

レバミュラがロッベリーに代わる新機軸の中心になったのは最終生産性、つまりゴールを獲得できる能力、そして何より耐久力である、レバンドフスキはタフなプレイヤーでオーバーターンをしなくても全力でプレー出来る(このレバが離脱したことでフリックバイエルンは大耳連覇を逃した)。

 

大耳獲得に必要なのは耐久性のある最終生産者を活かすメソッドの開発、でありロナウドを活かすマドリー、メッシを活かすバルサ、レバミュラを活かすバイエルン、といった具合だ。

 

そしてペップはバルサ時代の旧友チキとソリアーノが待つマンチェスターへ向かう。そして、満足する最終生産者がいない苦しみが始まる。

 

16-17 絶望

 

トランスフォーム

 

ペップがマンチェスターに降り立った日、『マンチェスターシティのファンである事に誇りを持ってもらいたい』という言葉を発し、シティをペップ色に染める。

 

シティはペップサッカーを具現化するためには全とっかえに近いトランスフォームが必要と思われる程にスカッドは厳しい様相を呈していた。カタール資本の金満クラブを選んだのも、憧れのプレミア上陸を考えた際に、どのクラブも大幅な改造が必要で、その試行錯誤を我慢してくれる耐性がある事と、改造が可能で移籍計画における権力を掌握できるクラブとしてシティが最適だったのだろう。各セクションごとに見ていく。

 

①GK部門

 

英国産ハートはスイーパーとして展開力をもったキック力はなく、ペップは群れを作って鳥かごでパスを回しながら一方向に集める、というスキームを選択するためDFラインは非常に高く、ハイラインの後ろを狙った相手ロングボールの除去、またビルドアップへの参加が要請されるため、不適で、補強は絶対必要

 

補強ターゲットはシュテーゲン。シュテーゲンはバルサではカップ戦要員として使われていて獲得に動いた。しかしシュテーゲンを渡したくないバルサが正GKの座をシュテーゲンに約束し、リーガのスタメンGKブラーボをシティに移籍させた。

 

しかしブラーボは言語能力とコミュニケーションによってケアするタイプで純粋なシュートストップには問題があり、守備範囲も決して広くはなかった。ペップが望んだノイアーロールを上手くこなせず無謀な飛び出しで失点を生んだりして、ペップシティの守護神になる事は残念ながら叶わず、ケガもあって2ndGKとしての運用に翌年移行落ち着いていった

 

バルサで正GKとなったシュテーゲンがシティに来ていればどうなったか、それは誰にも分からないが、

 

 

② CB部門

 

大黒柱コンパニはケガ続きでマンガラは努力家ではあるがハイラインでプレー出来るかは未知数でオタメンディはデュエルに強いが足元には不安がある。デミチェリスも退団してしまったので、足元の上手いCBが頭数的に最低1人は必要。

 

ターゲットはユベントスボヌッチチェルシーも昨季冬に狙ったエヴァートンストーンズ。そしてビルバオにいる左利きのラポルテストーンズは獲得出来たものの、ラポルテはビルバオが移籍を認めたがらない傾向(エレーラUTD移籍で緩和)もあり難航したものの来季冬に獲得。ボヌッチに関しては子供が病気を抱えていて通う病院の関係で国内からは出たくない、との事で破断。

 

また、もう一人、ビジャレアルバイリーも獲得リストに載っておりペップが誘ったそうだがライバルUTDに獲られてしまった。UTDはシティが望む選手を掻っ攫う傾向がこの年から始まるが奇妙な事に誰一人戦力にならないという不可思議を毎度我々に提供してくれる。

 

ストーンズは守備面に不安を抱え、3バック時の配置が頭に入っていなかったのかパスミスがあったり戦術面においても不安を残した。コンパニは永年休業状態でオタメンディが徐々にビルドアップ能力を身に着けだしたのとSBが本職のコラノヴがCBで使えるメドがある程度着いた。

 

③ SB部門

 

右はサバレタ、サニャ、左はクリシ、コラノフと実績と名声を兼ね備えたプレイヤーが並び、若手枠でマフェオ、アンジェリーノの2人がいて補強は見送られた。ペップとしても4人ともにタイプが異なり偽SBもこなすだけの戦術理解力は、あるものとみなしていたのかもしれない。そして、この見落としがシーズンを暗黒へと誘う。

 

④ MF部門

 

ボランチを見ると怠惰だが体躯とパススキルがあるヤヤ、中盤より下ならどこでも順応出来るジーニョ、潰し屋でCBマスチェに似た起用が出来そうなナンド、左利きでボールを収める力のあるデルフ、魔法使いの如く偽翼で10番ロールをこなしていたシルバ、そしてペップバイエルンを惨殺した神デブライネが所属していた。

 

シルバ、デブ神のIH起用は確定で残る4番はジーニョかヤヤ、IHに頼れる選手が一人欲しい。ドイツ時代を良く知るギュンドガンを獲得。シーズン前にヤヤをCL登録から外した事に対して代理人がペップを批判したことを受けてヤヤ構想外の処置を下し、ギュンも後半はケガで棒に振ったのでMFは人材不足を露呈した。

 

⑤ WG部門

 

クロス爆撃実施可能性のあったナバス、大金をはたいて獲得したドリブラースターリング、これではウインガーが少ない、こちらもドイツ時代から知る暴力的突破が可能なレフティドリブラーサネを獲得。サネはフィットに時間はかかったがバイエルン時代のコスタの如く破壊力抜群の突破でチームの浮上のきっかけを作った。

 

⑥ FW部門

 

シティの顔アグエロと長身CFナチョを抱えていたが、ペップはアグエロの利他的な動きの少なさ、UT性のなさや守備貢献度の低さから新たな9番の獲得を目指していた。候補はドイツ時代に苦しめられたオーバメヤン。しかし獲得は難航し、最終的にはウイング転用可能なコアUTノリート、ブラジルからリーグの日程上冬からの加入となってしまったがジェズスを獲得。

 

ノリートはマンチェスターにも馴染めず性格面でも難を抱え早期に戦力外となった。ジェズスに関しては悩めるシティの救世主として、そしてペップが望むコアUT系9番としてチームに驚きと希望を与える。

 

こうして手を加えられたスカッド。SBに補強なし、最終生産者の不在、新加入選手ブラーボ、ノリートは役に立たず、ギュンは前半のみ、サネは後半のみの活躍に終わった。

 

 

苦闘

 

シーズンが始まると、基本布陣は三角形成に優れる433を採用。DFは偽SB運用に加えストーンズとオタメンからビルドアップが始まり、4番に便利屋ジーニョ、IHにシティが世界に誇る名手シルバとデブ神、ギュンドガン、前線にはスターリング、アグエロがスタメンとして使われ、アクセントとしてナチョ。ノリートが早々に構想外となった事とサネが順応に時間がかかった事からデブ神がウイングで使われてギュン、シルバ、神の3人同時起用も少なくなかった。

 

シーズン初頭、チームで一番の名手デブ神とシルバをバイタルでフリーにして、そこからサイドへ渡しロークロスでアグエロが決めるのがお馴染みのチェックメイト。こちらも新任のモウUTDとのマンチェスターダービーを制すると、その勢いのまま勝ち点を獲得し続ける。しかしスパーズ戦でカウンターに沈んだ。ここからシティは厳しい様相を呈していく。

 

そもそもデブ神とシルバに最終生産性がない事、これはバイタルで受けられたとしても出し手を消せばよいだけ、スターリングも最終生産性は低くコンビネーションタイプゆえ怖さはそこまでない、ノリートとナバスは突破もなく、早々に攻略された。

 

シティ最大の問題、『結局このチームって誰に点を取らせる目的のチームなのか分からない』問題が浮上する。結局のところアグエロと飛び出すギュンドガンの2名以外期待できる生産過程がないのだ。ボール回れどネット揺れずという光景が広がっていた。

 

そして再現性とデザインされたポゼッションが空転する、故にボールの取り所が予測できず一線級のアタッカーにストーンズジーニョが引きちぎられてストッパーの役割をこなせないブラーボにシュートの雨あられが降り注ぐ

 

GK+2CBからのビルドアップは円滑に行くが、補強の無かったSBは偽SBとして4番ジーニョと共にボールを前進させるが、これが上手く行かない事が多くカウンター対策のための偽SBもいとも簡単に突破され破壊されていた。そこに加えて最終生産性の低さ、である。トップレベルの戦いは勿論、ある程度聡明な指揮官に率いられたクラブでも勝つのは難しくないレベルにあった。

 

前半戦最大のハイライトは大耳バルサ戦でのシルバ、神、ギュンの3人の融合が成功し勝利したこと。後半に入ってからサネ、ジェズス、スタリンがハマりだし、何より外を質的優位性でぶち破れるサネと有機的に動きながら得点するジェズスはチームに活力を与えた。

 

ただ終わってみればペップがトップリーグの指揮官に就任して初めて無冠に終わり、間違いなく失敗のシーズン。最終生産性の低さ、SBの質不足、MFの駒不足、そして全体のクオリティ不足による必然の敗北のシーズンだった。

 

 

17-18 革命のはじまり

 

整備完了

 

昨季の失敗を受け、各セクションを見直し大型補強を施した。

 

① GK部門

 

失望のブラーボを2ndに格下げし、新たなGKの獲得へと向かった。広い守備範囲を可能にする身体能力とビルドアップに参加可能な足元のテクニックを兼備したGKとしてエデルソンが獲得された。低弾道ロングパスを左右に蹴り分ける圧倒的な技巧をシーズン開始当初から見せつけ、シティの絶対的なポルテーロの位置を確保。カップ要員となったブラーボも昨季の汚名を晴らすべく奮闘した。

 

② CB部門

 

コンパニは計算できず、成長著しいオタメン、若さゆえ伸びしろもあると思われるストーンズ、マンガラは対フィジカル要員、補強ターゲットはファンダイクを狙うも金銭面から撤退し引き続きラポルテ、加入は年明けから。左足から放たれる正確なフィードでスタメンを奪取、しかしストーンズがフォームを崩すのと同時であった。

 

③ SB部門

 

昨季の元凶となったポジション。4名全員放出というフルーツバスケット。偽SBになってもフィジカル担保で盾になるウォーカー、そしてコアUTとして破壊力のあるドリブル兵器メンディ獲得。そして左右どちらでもプレー可能なダニーロも獲得。

 

ターゲットとしてはダニアウベスを狙っていたのだが獲り逃し、アウベス獲得後の世界線は後にダニーロのトレード相手カンセロが見せるのは、まだ先の話。左SBに関してはメンディがケガに次ぐケガで、ジンチェンコ、デルフといったMFをコンバートした。

 

④ MF部門

 

シルバ、デブ神、ギュンドガンに加えて中盤に厚みをもたらしWGでも出場できるコアUTとしてベルナルド獲得。4番は引き続きジーニョ。確かに組み立て能力としては純正な4番には劣るかもしれないがセカンドボールの取り合いによる激しいフィジカルバトルの中で安全装置となりうるジーニョは最適な存在であった。

 

冬にはフレッジを狙いにいったのだが、ライバルUTDに掻っ攫われた。アウベスに続き金銭面で押してきたシティには珍しい事象。

 

⑤ WG部門

 

暴力的突破のサネ、コンビネーションで崩すスターリングは両名共に成長していてジェズス、ベルナルドがサイドでプレーが出来るものの本職は一人欲しい、マフレズの獲得を狙った。同足のスタサネとは違う逆足単独突破からの最終生産も可能で狙いに行ったが獲れなかった。

 

⑥ FW部門

 

最終生産者アグエロは今季はペップのオーダーに応えるべく生産性を向上させながら守備への貢献やポジショニングにおいて大きな飛躍を見せた。ジェズスは得点感覚を失ってしまい苦労のシーズンであった。

 

ペップはコアUT型の最終生産者を求め冬の市場でサンチェスを狙うも、フレッジ同様にUTDに掻っ攫われた。金銭面でUTDの方が好条件を出したからだそうだ。サンチェスはムービング型の9番なのにルカクという明確な9番のいるUTDにおいてサイドの独力突破要員を任され鳴かず飛ばずで後にインテルに飛ばされた事を見るに、両者にとって本当に残念な移籍劇であった。

 

 

こうして整えられたペップシティ2.0はプレミアで猛威を振るう。開幕初頭は532でウォーカーとメンディという補強の目玉選手を両翼に置くシステムを採用、メンディが左翼を一人で攻め守れるためサネとの食い合わせの悪さが問題だった。

 

しかしメンディが早々に壊れ、433に戻るとサネの左翼突破が輝きを放つ、ひとりで突破出来るので裏のSBはカウンター対策および偽SBに適したMFの転移が求められ、デルフが左SBのファーストチョイスとなった。

 

前年よりも向上した偽SBの守備力と後方からのビルドアップの安定とポゼッションの再現性によって首位を独走し、難敵リバプールとの試合もマネの一発レッドで試合が壊れ大勝し充実の前半戦を過ごした。

 

迫撃に死す

 

38戦32勝2敗4分で得失点差は+79、勝ち点、総得点、得失点差は新記録を樹立するという圧倒的なリーグ成績でプレミア制覇。ブラーボの健闘もあってカラバオカップも制覇し国内を制圧、クロップリバプールを除いて。

 

ペップバイエルン初年度のように強力3topサラー、フィルミーノ、マネを抱えるリバプールのストーミングサッカーに大耳で沈められてしまった。

 

1stlegではギュンを偽翼として使う4231を採用、アグエロとメンディを欠く中でジェズスが1topに入りギュンが中に入りついていけば大外が空くシステムをぶつけるも、サネのパスミスを拾ったミルナーからカウンターが発動し失点、またウォーカーがぶち抜かれ2点目を奪われ、ラポルテが不慣れなLSBに入ったためか対応を誤りぶち抜かれ3点目を奪われた。卓越した個の能力を軸とするカウンターに沈む、というお決まりの負けパターンにハマってしまった

 

ジェズスが降りたスペースをスタザネ両方が突かず外で張るのみで最終生産性のない攻撃が空転し続け2ndlegでは3421に代えて攻め続けるも個人技と誤審にも泣き大耳8強で敗退する事になった。

 

アグエロを活かすロークロス爆撃というスキームがアグエロの不在とジェズスの得点能力の喪失によって攻撃不全。これはシティの特徴でもあるが有効な指し手を打ち続けていれば自ずと得点は獲れる、という一種のカルマを信奉している節があり質的優位で押せないビッグクラブとの対戦ではパス回れど得点獲れず、という悪いパターンが展開されてしまった。サンチェスの獲得失敗も小さくなく影響した。

 

アグエロの耐久性の不安とUT性のなさはペップを悩ませ続ける事になる。思えば1年目夏のオーバメヤン獲得未遂、冬のジェズス獲得、2年目冬のサンチェス獲得未遂とマーケットが開く度に最終生産者の獲得に向かっていて、不満はあったのだろう。しかし幸か不幸かアグエロがペップの要請に応えるべく努力するためファーストチョイスはアグエロであり続けた。

 

シティのウィークポイントとなった左SBは破壊兵器メンディーが耐久力が一切なくケガをする度に劣化していき控えのいない位置ゆえにデルフ、ジンチェンコという本職MFの選手のコンバートで乗り越えていたが、ビッグゲームになるとクロス対応を含め課題は少なくなかったが、ここもジンチェンコの努力とラポルテの起用で乗り越えた。

 

18-19 不足

 

対策への対策

 

集大成3年目は補強としてジーニョの後継候補かつ司令塔型4番としてジョルジーニョをターゲットとした。本人と合意したのだが所属先ナポリの判断でチェルシー移籍でないと認めない、という謎展開から逃した。昨季から狙っていたマフレズは獲得にこぎつけ逆足ウイングを手に入れることが出来た。左SBは補強が見送られ、デルフとジンチェンコのポリバレントに頼る事になった。

 

シーズンが始まると昨季猛威を振るったポジショナルなシティ対策としてレーン埋めを目的とする541もしくは451を敵軍が選択する事が増えた。SBとCBの間のハーフスペースに位置するMFが曖昧な位置をとる事で相手を幻惑しCBを引きはがしシュートチャンスを作るギミックを抑えるために必ず5レーンに誰かいる、という状態を崩さない事を徹底する、というものだ。

 

そして攻める時は4番をぶち抜けばいい。ギュンドガンジーニョを振り切ることが出来ればDFは剥き出しとなり潰せるオタメンディは不調でコンパニが潰しを担っていたが基本いないのでしんどかった。特に偽SBデルフはよく狙われていた。

 

ペップバルサが中央圧縮によるバイタル縮小に悩み、『裏』と『外』を攻める事を目指して343を開発したように、サッカーとは良く出来たもので、全てのエリアをカバーする事は出来ない。必ずどこかが空くように出来ている。

 

どこが空くか。そう自軍CBとMFの間である。これにより4番とCBはFWのチェックが緩むのでロングボールを用いた戦法が有効となった。故に4番ギュンドガンが効いた。またジーニョをCBで出しながらも、どうせ放置されるのでジーニョがDMF化するコアUTを利用した偽3番も使われた。

 

第25節から最終節まで14連勝という凄まじいラストスパートで勝点98で2位のリバプールと勝ち点差1というデッドヒートを制しリーグ、FAカップカラバオカップイングランド史上初となる国内3冠を達成した。ストーンズは年明けにフォームを崩し、ジーニョやデブ神もいない状況であったが見事な国内制圧だった。

 

リーグ優勝を決定づけたレスター戦、お馴染みの5レーン埋めに対してCBコンパニのミドル弾で1-0で勝利した試合は今季のプレミアを象徴していた。レーンが埋められCBと4番がロングで対抗するシティ、前線にハンマー型がいれば破壊力も増したはずだ、そのハンマー9番がいるチームに泣く。

 

 

非情な結末

 

昨季に続き大耳8強スパーズ戦、1stlegでアグエロがPKを外し0-1で敗れ、2ndlegはジョレンテのハンド疑惑ゴール、VARでアグエロのゴールが取り消され合計スコアはイーブンのアウェイゴール差で敗退。バイエルン3年目以来最も大耳に近づいたチャンスはVARとシティズンが最も忌み嫌うUEFAに全てを壊された。

 

この試合の後、絶望に包まれる中、練習で一人気を吐いていたフォーデンがリーグで活躍する、というリアクションは見せたとはいえ受け入れがたい苦しい敗戦であった。

 

天敵リバポに1勝1分け(引き分けはマフレズのPK失敗含む)となったのは4231システムによってこぼれをミルナーに拾われカウンターを食らいすぎた事への反省からベル、ギュン、ジーニョを中心にセカンドを拾わせず戦い抜いたから。そのシステムをスパーズとの大耳アウェイでぶつけた。

 

リバポと同種のストーミングに対抗するため4231で対抗しスパーズホームで1失点に抑えた、アグエロのPKが決まっていれば1-1事実上の勝利。ラポルトは6試合フル出場の影響からか精彩を欠き3失点を含め結果に大きく関わってしまった。ストーンズがトップフォームを崩していた事も含めCB陣の出来が悲劇を招いたと言えるだろう。またロング戦略でも高さのないシティFW陣にとっては攻め手も限定されてしまい苦しかった。

 

指し手自体は間違いがなかった。それでも負ける時は負ける。どれだけ再現性の高いフットボールを実施しても最終生産過程の出来のみが勝敗を決めてしまう。非情な世界がペップを大耳制覇から遠ざけた。

 

19-20 衰退

 

 

サイクルは終わったのか

 

失望に終わった大耳以外全てを取りつくした最強シティ。ペップがバルサ時代に精神的に摩耗した『4年目』へと向かいピークアウトしていく。バイエルン時代はドルトムントかデブ神のような突出した人的資本のチームくらいしか苦労しなかったもののプレミアは違う。下位クラブでも上を『食う』力はある。

 

補強は念願の4番ロドリダニーロとのトレードでカンセロを獲得。懸案ポジションでもあった高さのあるFWや課題だったLSB、最終生産者は全くの手つかず。

 

迎えた新シーズン、天敵リバプールをPKでコミュニティシールドで破り幸先の良いシーズンが始まると思われた。しかし、これがシーズンの最初で最後の幸福な瞬間になる。

 

シーズン始まってすぐにラポルテが半月板を痛め半年の離脱、ストーンズも負傷離脱、更に前線で破壊力のある突破が出来たサネが前十字靭帯損傷によりシーズンアウト。そこに来てオタメンディがトップフォームを崩し、ジーニョがCB、ロドリを4番で起用する布陣で戦い続けた。メンディはモナコ時代の面影は一切なくコンパニも退団した事でCBの頭数が足らなかった。

 

FAカップは落としたがカラバオカップは何とか獲得し初年度以来の無冠は回避することが出来た。しかし明らかにペップサッカーに必要な質的優位性と配置の優位性が崩壊しており満足なスタメンを組めず苦悩のシーズンであった。4231でないとカウンターを防げないほどにプレスが低下しており、4231を選択するからボールを前進させれず確実性のない攻撃しか展開出来なくなってしまった。

 

 

ジダンとの決闘

 

ペップシティの16強1stlegは今季最も面白いバウトとなった。

 

①ベターなジダン

 

ジダンマドリーの強みはマドリーらしさ、即ち質的優位性に優れる人的資本を使ってフットボールの4局面全てで高品質(だが全局面において特化したチームほどではない)の構えを持っていて苦手戦型を持たない将棋の羽生先生を彷彿とさせるチーム。

 

CLのノックアウトラウンド以降の180分においては得意戦型だけで押し切るには長すぎて、どうしても苦手戦型と出会うことになる、そんな大会において無類の強さで3連覇したジダンマドリーは総合力の勝利と言えるベター派の一つの帰結。

 

そんな伝説的3年の後に無冠に転落したマドリーに再任して迎えるジダンマドリー第2期の今季、CR7という歴史的最終生産者を失った中で、異常な得点力を有する左ウイングを活かすシステムの歪さを感じながらも銀河系の穴は銀河系で埋めると言わんばかりにアザールを獲得し、リーガでは開幕数試合はもたつくものの、しぶとく首位争いにも絡み大耳でもパリに苦しむものの、16強でシティと対戦。

 

マドリーとしてはCRシステムを改良し、ポジショナルな振る舞い、ストーミングな振る舞いという現代トレンドをベターに取り入れるべく外攻め駒としてアザール、インテンシティに優れたバルベルデを取り込んだポストCRシステムの構築を狙う中で、シティというコアUTポジショナル理論を実践するチームとのバウトで求められるのは、相手の苦手局面の出現を促す手を打つこと、即ち短距離追撃、保持に優れたシティが苦手とする、被保持体勢、被追撃のフェーズを繰り返すこと。

 

つまり、保持できる選手と追撃可能な選手のミックスとしてのスタメンで臨むために、走れるヴィニシウス、保持のためのイスコ、中盤で戦えるバルベルデをスタメンに盛り込み、スペース管理に欠点を持つクロースは外した、というのがジダンの考え。

 

②ペップの苦悩

 

 ジダンマドリーとは対照的に保持とカウンタープレスという保持即時奪還2局面特化循環型のシティにとって総合型のマドリーに対しては、おそらく完全支配することは不可能で、苦手局面の出現は不可避で、その時間帯に失点をして劣勢に立つ心配はある。であるならば格上用として建築し続けてきた442を実装させて、ベルナベウでは耐え抜こう、というのが考えられる。

 

今季はリバプールに走られ、ケガ人も多発し、守備も崩壊の様相を呈し、UEFAからはFFP違反による欧州カップ締め出しも食らうという散々な1年。やはり保持の失敗によるミスからの失点に代表されるロドリの不適合、ジーニョの危機管理能力を中盤で発揮できないこと、ラポルテのケガ、ストーンズの不調に伴う潜在的な最終防衛者の質の劣化が重なりリーガは終了の気配。

 

CLにおいてはペップは特にアウェイ戦において相手への応手で奇をてらいすぎて自滅するパターンが続いているのですが、擁護するならば、狙いは分かるが、いかんせん結果に結びつかないことも多く、そこはペップの工夫の受難ともいうべき難しさを感じるところ。

 

今回も例にもれず、格上用442実験として、コアUTによる即時交換を可能にするためUT性のないアグエロは外され、ケガの影響を考えてスターリングはベンチに置いた。しかし今回の奇策は奏功することになるところに、この試合の面白さがある。

 

 

③試合の手筋分析

 

 序 ペップとジダンの新作発表会

 

 CR7がいなくなったマドリーは歴史的得点源を失ったのと引き換えに総員守備体勢の陣を手に入れ、そのことによりオールコートマンツーマンをビッグマッチで採用する手筋を手に入れた。

 

元々人的優位性には優れているのでマンツーではめてもある程度上手く行くのと、局地的数的優位性の確保を阻害することも出来るので作りこみの甘いポジショナルなチームを破壊出来、ジダンは今回もネオマドリーとしてマンツーをかましてきた。

 

しかしながら強度の高い試合においてマンツーは負担も大きく、剥がされたときのファールによる人的リスクがあり、また90分間稼働させるには体力的にも、きつすぎるといった弱点も。

 

一方ペップは格上用442を陣形として選択。守備時の陣形としてジェズス、デブ神を2トップ起用しながら442で守り、ビッグマッチでマンツーを選択できるようになったマドリーを警戒してコアUTポジションチェンジで幻惑しながらもリスクの低い攻撃を心掛けながらアウェイ戦を丁寧に戦おうという意図が見える。

 

また適応に苦しむロドリ、ビルドアップで詰みやすいオタメンディ、メンディーを抱えている以上は丁寧なビルドアップでかわすよりも長いボールで逃げるというのも合理的解決法、あえて中央の急所の弱点をさらして油断したところでコアUT発動による幻惑戦法で勝ちたいところ。

 

キックオフ直後からマンツーで嵌め殺すマドリーと無難にロングを選択するシティ、にらみ合いを続けながら、互いの手筋を確認しあいながら次の手を探す。

 

マドリーからすればシティの442の弱点はボランチ前の急所、そこでボールを握り中へ通すor外に渡してぶっちぎるという形で最終局面までいけば強度の足りないDFラインを壊せば良いだけなので、落ち着いてコアUT幻惑戦法への準備もしながら相手の出方を待てばよいだけ、あくまでもホーム、失点しなければよい。

 

動いたのはシティ、マンツーで来るなら、当然マーカーを幻惑させて思考スピードで差をつけていきたいところ、そのためのコアUT軍団なのだから当然。マーカーの動きが変更して厄介なのは縦変化。縦にポジションを入れ替えられると本当にしんどい、ベルナウド、ギュンが縦に並びデブ神の偽9番を発動、これぞシティという対応、このことで中央での数的優位が発生、偽9番の最大のメリット、相手CBがマークする相手がいないi,e,どこかでマーク出来ないフリーマンを自軍に作ることが出来る。

 

またマフレズ、ジェズスによるサイド牽制により威力も強化。しかし百戦錬磨のマドリーも流石の対応力で応戦。カルバハルをメンディーにぶつけてマンツー。こうしてマンツーで嵌めるレアル、コアUTで幻惑するシティ、応手でマンツーのループが続く。

 

シティはジェズスをウイング、ベルナウドを前線に起用する同時コアUTを用いて急所防衛力の向上とマフ、ジェズスの逆足攻撃も披露。確かにアグエロではコアUT性がないため翼になれず前線で孤立するため、ペップのアグエロベンチ判断も一理ある。

 

ここでペップが見せてきたのがデブ神、ベルナウドというドブレ偽9番。この手はバルサで見せていた攻撃力増強のためのメッシ、セスクのドブレ縦偽9番とは違い、守備力を上げる横偽9番。

 

これらの幻惑UT戦術にマドリーは戸惑い、決定機も作られるが、クルトワのファインセーブで凌いで対応して徐々に慣れてマンツーの組み方を変更して沈静化する、を繰り返した。現代サッカーの魅力、コアUTと柔軟なマンツーの殴り合いは見どころ抜群。

 

 

破 誤魔化しを許さない魔境

 

コアUTで幻惑するシティとマンツーでついていくマドリーの膠着状態はシティの潜在的弱点から生まれる。ロドリ、オタメンはビルドアップ能力が低い。そもそも、そういった弱点をカバーするための安全策としての442。

 

外から中へシフトする偽翼イスコにより、メンディーは浮き、カゼミロはフリーに。これ、実は皮肉なのは442というシステムに対して4番を浮かせるべく433,343を用いたのがクライフバルサ、その時の4番がペップ、面白い。

 

こうした展開でもなんとかマドリーの攻撃にシティが前半耐えながら両者0-0で前半を折り返し。ロッカールームで何があったか、ジダンマドリーはベター派4局面網羅型の真骨頂を後半に発揮。シティの格上用442に対して格上扱いをすればよい、上からたたくのではなく、下からたたく。

 

マドリーは前半の433から442へと陣形を変更し、全体のプレス強度を下げながらシティに対してポゼッションを要請。保持に優れた陣形ではないとはいえ、ポゼッションは大得意、後半はシティが攻め込み、マドリーがはじき返す様相が強くなる。

 

マドリーとすれば狙ったのはシティの組み立て、保持における奪取からの速攻。そして狙い通り後半15分に先制点をカウンターから奪取。あとは逃げ切るのみウノゼロ作戦へと移行。

 

シティとすれば格上用442で安全に蹴って逃げて隠していたロドリ、オタメンの組み立て能力の低さ、そして絶対的なDFラインの強度不足という弱点が、ここにきてアキレス腱となる。しかしペップ相手に退くとどうなるか、モウレアルを思い出そう、あの時はペペが大活躍してアグレッシブなファールが連発されたように、どうしてもヒューマンエラーが発生する。

 

先制点の前にもモドリッチバルベルデがイエローをもらい、このことが後になってきいてくるので大耳において潜在的弱点の誤魔化し、カバーが難しいということを思い知らされる。

 

レアルは、ここから中央圧縮を意識しながらの撤退守備へと移行。ペップは中を閉じるなら外から攻めましょうとばかりに、スターリングをベルナウドと交代で投入して攻め手を増強。

 

マドリーにとっては耐えてウノゼロが理想。モドリッチバルベルデがもうイエローをもらえない中で、とにかく耐えてヴィニシウスの加速力で陣地回復、イスコを使っての中攻めのカウンターをシティにちらつかせながら時計とにらめっこ。

 

ここで前半からのマンツー疲れ、幻惑コアUTへの対抗疲れから70分過ぎから徐々にマドリーの守備強度が弱くなる。そこでジダンはヴィニシウスからベイルへと交代、カウンターでの脅威を向上させようと試みる。

 

CBのラモスが前線に上がっていく様を見ても、随分と焦っていたのでシティに対する恐怖を感じていたのかもしれない。確かに守備力増強の一手もアリだが相手の守備力増強を担っていたベルナウドが下がったのを見て、『守りながらも1点狙おう』という意思をピッチに伝播させたかったのか。

 

集団で秩序立て守り続けてきたマドリーはデブ神の超絶クロスからのジェズスのヘディングで同点に追いつかれる。ペップが命じた外攻めからの神がかったプレーを見せたデブ神によりウノゼロ計画は夢と散った。

 

その後もスターリングのドリブルをファールでカルバハルが止めPK、デブ神が無事に沈め逆転、そこからジダンも動くが、時すでに遅し、シティの逆転勝利。やはり魔境はリスクを最後まで隠そうとすることを許さない。改めて大耳の恐ろしさ、そして個の暴力の凄まじさを感じる。

 

 

急 加速していく世界で

 

 現代サッカーの全てが詰まっていたような激闘の90分の今試合、アップデートされていくフットボールが見せる凄まじさ、個人能力、集団の連動性、ポジションに囚われないUT性、そしてなによりインテンシティの高まり、高速で展開していくフットボールの進化を強く感じる1戦。両者共に素晴らしかった。勝者も敗者もいない本当に素晴らしい試合。

 

しかし結果とは残酷なもので内容そのものを否定してしまう。そしてこの試合を受けてのマドリディスタの反応が『ベイル投入がミス』『マドリディズモを感じない』『負けられないシティとの違い』といったものが多く、個人的に感じたのが、もはや感情論でしか総括できないほど高速化しすぎたサッカーという競技の観戦の難しさ。

 

サッカーは選手のフィジカル能力と最適対応手の考案能力が大きく向上し続ける中で超高速で展開していきフォーメーションの変更は即時実行され、一部の賢明な観戦者しか理解できないレベルへと昇華されてしまっている現状がある。そして、その高速化によるサッカーの難解さが導くのが究極の結果主義と感情論。

 

この試合、80分過ぎまでウノゼロで抑えられていたペップがこのまま終わっていたら格上用442、コアUTによる横偽9番の工夫など無視されて、『アグエロを使わなかったペップのミス』『奇策に溺れたペップ』と非難されていた。

 

今回のジダン批判も似たようなもので、ベイル投入に関しても、カウンターの強度向上は見込み大舞台での経験が浅いヴィニススを途中で下げたのも理解は出来る。むしろオールマンツーと442転移による網羅型トラップなど素晴らしい戦術を見せていたし、この試合を決めたのはデブライネの超絶技巧で、それは監督の責任ではない。

 

サッカーとは結局、デブライネの超絶技巧、クルトワのスーパーセーブといった最終防衛線におけるラストプレーに左右されるもので、そこに監督の能力が入り込む余地はない。

 

今試合も素晴らしい試合として何度も分析して両者を讃えるよりも、感情論と結果論による誹謗中傷といった程度の低い議論が一部で発生するのも高速化する世界とユニバーサルにライトファンの増殖を続ける世界の一致という悲劇なのか。

 

2ndlegを無事に終え、ペップシティは課題の8強へと向かう、そこで対するのはリヨンであった。ペップは、この試合で物議を醸す。

 

 

敗因は奇策?

 

不調になって年が変わっても大耳での8強で散るという結果は変わらない。ユーベを16強で下したリヨンが相手。この試合3バックをペップは選択する。ラポルテ、ガルシア、ジーニョの3バックに大外がウォーカー、カンセロ、2セントラルがギュン、ロドリで前線はジェズスを1topにスータリングとデブ神がシャドーに配置され、リヨンの352をはめ込む布陣となった。

 

リヨンは3バックの両脇を広げアンカーをケアするロールを担うジェズスをピン止めしWBを前線に上げて数的有利を作り先制点を挙げる。ペップは慣れた4231に戻し同点弾を奪うも今度はリヨン本来の布陣の良さが活きてくる。

 

前プレの時は4バック、引いて守る時は5バック、という切り替えでミスを誘発しラポルテのミスからカウンターが発動し失点した。スターリングも決定機があったが外してしまい、追加点を奪われ終了。シティズンを中心にペップの奇策で敗れた、と罵詈雑言の嵐を巻き起こすのであった。

 

ただ最初から4231で挑んだとしても普通に負けていたと思う。4231になってからリヨンを崩すことが出来なかったのを見ていると厳しかっただろうし仮にリヨンに勝ってもバイエルンには勝てなかったはずだ。そこでMSNバルサの時と同様に対応策は打つはずで大敗していたと考えられる。そして罵詈雑言がまた起こっていたはずだ。勝てば官軍負ければ奇策ハゲ、厳しい世の中だ。

 

 

20-21 復活

 

メッシバルサ退団希望により歴史的最終生産者が市場に出たオフ、メッシを誰よりも知る恩師ペップのシティも獲得調査を始めた。

 

『寂しくなってきたよ、都会(シティ)にはなんでもあるけど、君がいないから』という小林賢太郎のセリフのようなメッシとペップの結びつきが最終生産者を欠くシティの大耳獲得に寄与する新たな可能性が取りざたされた。

 

しかし7億ユーロもの違約金と様々な団体からの反対にあい、メッシは残留。ペップシティの最終生産者不在問題は終わらなかった。

 

 

コアUTで甦る

 

停滞したシーズンを受け、コマ不足に陥ったCBにルベン、WGトーレスを獲得。シーズンが始まるとレスター戦で5失点。簡単に点は失うのに点を取るのは難しいという悲惨な状況はリーグ14位という危機を招いた。

 

シルバが退団した事でデブ神に負担が集中し思うようにビルドアップが出来ず得点も取れず、失点もかさんでいた。ペップシティの終わり、一時代の終わりだと皆が思っていた。かく言う自分も最終生産者メッシを取り逃した時点で昨季と同様の結果に終わると考えていた。

 

しかしペップは既に指し手としてシティズンが忌み嫌う『奇策』を静かに仕込んでいた。ペップがバルサ退団以降取り組んできた事、コアUTポジショナル理論の実践、この窮地でペップは、あるコアUTをテストしていた。ガナーズ戦そしてアルビオン戦。その戦術は後に『カンセロロール』と呼ばれる。

 

デブライネを助けるために疑似IH化し中盤に侵入しビルドアップを助け、その後に中盤に深く入る事でウイングへのマークを分散し外攻めを助ける、これによってマフレズは猛威をふるい続けた。カンセロの2番4番6番ウイング転移というバルサのアウベスが担っていたロールを復元した。

 

守備面でルベンが大ヒット、復活したストーンズと鉄壁のコンビを形成。耐久力に不安があるストーンズの事も考えるとベンチにラポルテが居るのは心強かった。アグエロ、ジェズスという9番不在の中、躍動したのはギュン。カンセロからの裏一発に抜け出すギュンは最終生産者の不在に悩み続けたシティにとっての救世主となった。

 

シティも災難であったがリバプールはもっと酷かった。CBのスタメンクラスが全滅し昨年のシティ同様に厳しい状況であった。チェルシーはランプス政権が風前の灯、スパーズもクライシス、優勝争い出来るのは個人能力まかせのUTDしかいなかったのも大きかった。勝ち点86でプレミア優勝、カラバオカップも優勝し、開幕頃の不安は何のそのでコアUT軍団の底力を見せつけた。

 

優勝勝ち点86は、ここ5シーズンで最低の数字であり、リバプールが万全のスカッドであれば優勝出来ていたかは疑問を残す。今季のプレミアは盤石のチームが少なく、その中でペップシティは新たなUTとゼロトップで覇権を獲得した、最終生産者の不在とUT理論の実践というペップシティらしい優勝であった。

 

 

あとひとつ

 

そして今季は、これまでとは違い大耳でも8強の向こう側へ進めた。鬼門のベスト8でドルトムントを倒しバイエルン時代の鬼門ベスト4でもパリを倒し決勝へと駒を進み、10年ぶりの大耳決勝、あの史上最強のペップバルサを率いてUTDを完膚なきまでに叩きのめしたウェンブリー決戦以来。相手は途中就任のトゥヘル。チェルシーをランプスから受け継ぎ見事に再生させた名指揮官だ。

 

ペップクラスタ、そしてシティ初の大耳決勝に胸躍る多くの人々が見守る決戦でペップはギュン4番でフォームを崩していたスターリングを先発させ、またも奇策と騒がれる中で1-0負けで涙を飲んだ。

 

まずトゥヘルはペップシティ対策を徹底してきた。シティが使うスペースを徹底的に封鎖する、バイタルはジョルジーニョとカンテがしっかりと閉め、大外レーンもWBがしっかりと封鎖、そして何よりシティの幻惑に対してバイタル、ハーフの2つは必ず封鎖する事を徹底するためシャドーのマウントとハフェルツは素早く埋める。

 

シティとしては大外をスタリン、マフレズで張らせて偽SBジンとベルがハーフに位置し偽9番デブライネが高めに位置して裏を狙い、ギュンが底で散らしながら、フォーデンはフリーに動く。

 

チェルシーはアスピ、ジョルジーニョ、ジェイムズ、ハフェルツを右側に集めサイドアタックを仕掛け、カンテも積極的に顔を出し(守備に転じても間に合う運動量)ヴェルナーが裏に抜け続ける。しかしキープ力と得点力のないヴェルナーはさほど脅威にはならない。LSBに本職のいないシティに対して左狙いの右サイドアタックは合理的だ。しかしトゥヘルの狙いは右でジャブを打ち左で刺す事にあった。リュディガーは基本的にパサーとしては死んでいるので左より右を抑えにかかるシティ。そこに罠があった。

 

アゴからチルウェルにロングが出てワンタッチでマウントにパスし裏をヴェルナーが走る。このチルウェルにロングワンタッチでマウント、ワンツーでチルウェルが貰い前進するという手筋が得点を生む。

 

GKから同手筋を打ち、ヴェルナーが裏抜けで引きつけ、ギュンとストーンズの間をマウントが鋭いパスで打ち抜く、全体が右へ寄っている。チェルシーのもう一人のシャドーハフェルツを誰がマークするのか、ジンチェンコだ。ハフェルツは裏へ抜けだしジンチェンコを抜き去る、DFが全員抜かれた裏のカバーはGKの仕事なのがペップシティ、よってエデルソンが飛び出す。落ち着いてかわしゴール。

 

縦横バイタルハーフ埋めを受け続けるも丹念にギュンが散らしながらも点は獲れない。こうなると質的優位で潰すしかない。そんな矢先デブ神がリュディガーに潰され負傷交代。残された違いを生み出す駒フォーデンはコンビネーションでバイタルまで侵入し、BOXで得点力を放つアグエロ投入までのお膳立てはした。しかし我慢強い守備の前に扉は開かず、ペップシティの大耳決勝はウノゼロ敗北に終わった。

 

この試合最大の論点4番ギュンの是非であるが、ジーニョであれば我慢強くパスを散らせていたかと問われると難しく、失点シーンもスライディングで防げたか、と言うとそれも何とも言えない。不正解の選択肢を選んだというより選んだ選択肢を正解に出来なかった、というのが正しい

 

スターリングの選択も幅を取りハーフを攻め、根気強く攻撃し続けるためには必要な駒であり独力突破の出来るサネの放出、代わりに獲得したトーレスの適合不全が響いたと言え。幅を獲って深く掘れるのはスタリンしかいないので妥当と言えば妥当である。

 

チェルシーに勝つためには根気強くバイタルハーフを開くために殴り続けるしかなく、分かっていても止められないレベルの個人能力が必要だったが、それを持つデブ神が退場したのは辛かった。何より最終生産者不在が重くのしかかった。

 

バイタルとハーフを埋めて大外もしっかり閉じて幻惑には乗らずに無視して守り、ジンチェンコのいる左側で勝負、を徹底したトゥヘルの勝利だ。

 

最終生産者の不在を誤魔化し続けてきたが大耳という魔境はそれを許さなかった。ペップは授与された銀メダルにキスをした。誰も望まないメダルとは言え、それはペップが10年かけてバルサという歴史的大作を更新しようと働き続けた勲章であった。

 

 

 

coldplayの something just like thisの歌詞の一部を。

 

where’d you wanna go?

どこへ行くつもりなの?


How much you wanna risk?

どうして、そんなにリスクを払うの?


I’m not looking for somebody

僕らが求めてるのは


With some superhuman gifts

飛びぬけた何かじゃなくて

 

Some superhero,Some fairytale bliss

超人的でも伝説的でもなくて


Just something I can turn to Somebody I can kiss

素朴にプレーする、そんなあなたのチームが見たいんだよ

 

I want something just like this

そんな事分かってるよ、僕だって、そうなりたいんだ。

 

最終生産者の不在による完備性のある敵軍への恐怖、自軍への不信、そこから来るオーバーシンキング。もっとシンプルにプレーしたい。3バックで応手なんてしたくないのかもしれない。でも、そうは出来ない。大耳で負け続けるペップの背中は色々なものを語っているように感じる。

 

フットボールはシンプルなスポーツだ。だがシンプルにプレーするのが一番難しい』

 

クライフの言葉は、今のペップにはとてつもなく重い言葉なのだろう。

 

 

 

21-?? 11年目の戦争

 

勝者から学ぶ 

 

 

ペップ・グアルディオラは『大耳優勝以外は失敗』という極めて高いハードルを課された指揮官だ。そもそも大耳は極めて難しいタイトルであり偶発性やケガ人といった要素に大きく影響を受けてしまう。だからこそペップは普段からプライオリティ最上位はリーガである、という姿勢を崩さない。ペップが施す策は時に『奇策』と呼ばれ大耳で実施し負けようものなら『奇策ハゲ』扱いである。しかし奇策を打つから負けているというのが本質なのか。

 

そもそもフットボールとは収支を+にする競技なのだ。得点数が失点数を上回っていれば如何なるプロセスも正当化され、下回れば如何なるプロセスも否定される。そしてそれは戦術も同様だ。メッシ、ロナウドは守備貢献度が極めて低い選手として知られているが彼らは前残りしながらも攻撃に転じれば高確率で得意戦型にハマれば得点を挙げてくれる。一人分の守備力の減退を上回る得点期待があれば収支は+になり正道となる。

 

全てのシステム、全ての戦術、全ての選手に+とーがある。問題は、その収支が+になっているかである。シティの左SBはメンディの低迷による本職MFの起用で常に守備では穴になる。しかしジンチェンコは偽SBとしてビルドアップで貢献するという+を生んでいて、それが守備面の不安という-と足し合わせた時に+になっているのか、が重要になる。

 

ペップの奇策溺れが印象に残りやすいが、大耳でペップが負ける時(殆どだが笑)は戦術云々というより普通に人的資本が足りていない。相手の得意戦型を受け切れないというのが殆どだと思う。10年戦争の9年間のペップの大耳挑戦を見ても、バルサ4年目、バイエルン3年目、シティ3,5年目以外の5年間は戦術をどう打とうが普通に負けていたはずだ。シティ1年目はメガクラブと呼べるかどうかも怪しいレベルであった。

 

BBCレアル、MSNバルサ、クロップリバポ(2019)、ハンジバイエルンの得意戦型に対してペップの当時のチームは成すすべなく負けていたはずだ。そして大耳で安定して勝つために必要なのは、このような絶対的な武器、最終生産過程の確保である。困った時、絶対的な力でチームを助ける得点を奪える選手、そしてその生産者を活かす絶対的な手筋、それを持たない限り安定的に勝ち進むことは困難である。

 

ケガが少なく常時出場可能で最終生産性の高い選手、の確保。これがペップはバイエルン退団以降叶っていない。もちろん簡単な事ではないが、必要だろう。勿論トゥヘルチェルシーのような特例もあるが、大耳優勝クラブには絶対的最終生産者がいる

 

そして過密日程の回避も重要な要素となる。リーグ、大耳、リーグカップの3冠を達成したクラブは2000年以降インテル1回バルサ2回バイエルン2回の計5回である。リーグ戦38試合(ブンデスは34試合)を戦い抜きながらカップ戦まで、となれば極めてタイトであり特にプレミアは異常なスケジュールで更に大耳の試合数を増やそうとするUEFAの動きを考えると負担は更に増すはずだ。

 

 この負担に対してファーガソンやクロップはリーグカップ戦のメンバーをユースチームで構成する、という作戦で対応していた。これは賛否別れるだろうが現実的に考慮に値すると思われる。コアUTだとポリバレントな変換によって過密日程を耐えてしまう、という事情からペップシティはカラバオカップに異常に強いのかもしれない。

 

 

大耳戦争に勝つために

 

以上の事を考えて、ペップシティへの提言をする。

 

① ケイン獲得の為に換金、トレード

 

アグエロの退団も加味すると現行の0トップスタイルはリーグ、国内カップでは有用でも同格格上との一騎打ちにおいては厳しく策を打たねばならない状況になってしまう、それを避けるべく殴り合っても自分達は勝てる、と自信を持てる最終生産過程の創造が望まれる。

 

そのために最終生産者の獲得は必須となる。候補としてベストはコアUTムバッペだが金銭面で非常に厳しい。シティズンが望むハーランドはレバ2世として期待出来る柱となれるが金銭面と代理人がペップと不仲のライオラである事を考えると厳しい。

 

残るターゲットはケインしかいない。スパーズのエースにして英国のNo.9は現実的なターゲットと言える。しかしコロナ禍の影響で資本の余裕のない今では獲得は金銭が足りない可能性がある。故に余剰戦力の換金、トレードを模索すべきと考える。

 

ラポルテ、スターリング、メンディ、ジェズス、この辺りをトレードの弾にする事を考えるべきではないだろうか。それ以外でケインを獲得する手段はないように思える。

 

①' フォーデンの最終生産者変異に賭ける

 

最も現実的な提案としては、0トップを維持し最終生産性を全員で補うプラン。しかしそのためにも偽9番フォーデンを固定しシティのメッシになるのを祈るしかない。フォーデンはドリブルの出来る衛星タイプだが、メッシの様な変異も期待できないわけではない。

 

不動という事ならトーレススターリングが苦しんでいるウイングに一人補強は必要でグリーリッシュを狙うのは理解出来る。しかし個人的に推したいのが柱の確保である。高さ不足に困るケースにおけるソリューションが必要だ。ジルーのようなタイプが一人いるだけで変わってくると思うのだが。

 

また本職LSBは一人欲しいところだ。ジンチェンコはビッグゲームでは辛く、メンディの退化を嘆くところだが、スピードもあり対人に強いLSBにビッグゲームは託したいところなのだが。。

 

② 国内カップを捨てる

 

全ての試合への完全コミットメントを信条とするペップには理解し難いかもしれないが試合数が増大し続ける現代フットボールにおいてはオーバーターンを超えた一種の『捨て』が大事になる。クロップが一度過密日程を理由にユースチームを送った事があり物議を醸したが現実的に考慮すべきだ。

 

FAカップカラバオカップと大耳どちらが重要だろうか。大耳覇者の事は思い出せてもFAカップカラバオカップの覇者など数年すれば誰もが忘れる。ペップシティの狙いはリーグと大耳の2冠、その目的のために国内カップはユースチームの実戦的な大会として使うべきだ。

 

大きな物議を醸すだろうが、ヨーロッパスーパーリーグ発足も試合数が増加し続けるUEFAに対する慢性的不満がコロナ禍の金銭不足で爆発したのが原因だ。国内カップにユースを送り込み続ける事は選手を集金装置としか捉えない現在のフットボールに対してのメッセージとなるはずだし、ペップはリアリスティックになるべきだ。コアUT理論による負荷減退も有用であるがFAとカラバオはユースに任せても良いと思う。

 

リーグと大耳が取れなければ無冠でも良い、それぐらいの割り切りがないと戦争は永遠に終わらないだろう。

 

③ リーグは流動、大耳は不動を徹底

 

ケイン獲得、フォーデン期待、どちらになったとしても大切なのは、リーガはコアUTを用いて柔軟な起用で乗り越えながらビッグチーム相手で最終生産過程のブラッシュアップに時間をかけるべきだ。

 

 リーグはケガの予防と戦術の拡充と実験も兼ねてフレキシブルな起用を心掛け、同格格上との闘いが続く大耳やリーグの重要な試合ではスタメンを完全に固定するのが良いと思う。

 

 433を基調に偽9番フォーデンに両翼がマフレズ、スタリン、中盤3枚はデブ神、ベルナウドのIHに底はロドリ、4バックは右からウォーカー、ストーンズ、ルベン、ジン、GKはエデルソンといった面々で固定すべきだ。逃げ切る際はポリバレントダイナモジーニョを投入、攻め手が欲しい時は飛び出すギュンを投入、で良い。

 

出来ればスターリングの代わりのウイング1枚、純正LSBに1枚、高さのあるFW1枚が欲しいところだ。

 

 

 

終わりに

 

イカバルサのCWC決勝を横浜のスタジアムで観戦しグダグダだったチームがペップという一人の男の下で圧倒的な変貌を遂げていく姿に心を奪われペップバルサを観戦する事から僕のフットボールライフは始まった。初年度の3冠に始まり、3年目の美しい歴史的バルサ、あの美麗な景色を忘れる事はないだろう。ウェンブリーでのファーガソン相手の3-1、歴史が変わったエポックメイキング、あれから10年。義務教育の中にいた僕は今、大学院で物理を学んでいる。あの日の僕は今の僕を見て何を思うだろうか。

 

ペップは10年間、様々な決断と選択をしてきた。その中で様々な喜びや悲しみを人々にもたらしてきた。ペップバルサ終焉以降、世界を制したのは戦術ではなく戦力だった。メッシやロナウドの才能が世界を統べた。戦術進化、テクノロジー進化、分析進化、そういった進化がもたらしたのは皮肉にも才能によって差が付いてしまうという残酷な景色だった。

 

バルサ以外では勝てない、と言われた男はバイエルンで強固なチームでドイツを支配した。プレミアではパスサッカーは不可能と言われた時もシティでイングランドを支配した。そしてペップは終わったと言われたときは今季のように見事に復活して見せた。

 

いつかペップも勝てない日がやってくる。かつての宿敵モウリーニョの様に。そんな日が来る前に彼にはもう一度大耳を制覇して欲しいと切に願っている。ペップは大耳を獲れない、そんな声を覆す成功を心の底から応援している。

 

人生は選択の連続だ。それはまるでゲームの様に目の前にある選択を選び取るようにして未来は作られていく。しかし人生はゲームとは異なる。ゲームにおいてはあみだくじの様に選択肢は必ず正解か不正解かが決まっている事が多い。しかし人生はそうではない。明確に正解の選択肢があるのでなく、選んだ選択肢を正解にしていく過程こそ人生そのものである。

 

ペップはこれからも様々な選択をする。その中には理解に苦しむものもあるだろう。しかし選んだもので成功すれば正道となる。邪道も勝てば正道。選んだ選択肢を正解に導いていくプロセスを深夜3時でも目をこすりながら追いかけたいと思う。

 

 

ペップは大耳を獲得して戦争は終わるのか、この長い10年を超えた戦争がいつか終わる時を願いながら、途方もなく長いブログ記事を結ぶことにする。