牽牛星のよろず日記

自分の興味あることを思うがまま記述したいと思います。

背反の先にあるもの(21/22MCI中間報告風)

 

第1章 『平均』と『最大』

 

1-1 異なる模型

 

『強さ』とは何かという問いに対し、自分は『平均』と『最大』という2種類の異なる強さが存在するのではないかと考える

 

リーグという長期戦、CLのような短期戦、この2つの系は効くものが異なり、ゆえに異なったモデルでの論考が必要と考えた。

 

リーグは『平均値』が重要だ。各試合でのパフォーマンスのムラの無さと換言しても良い。いかに怪我人の影響を最小限にして支配構造を作るかが重要になる。

 

CLは『最大値』が重要だ。絶対的攻め筋と換言しても良いだろう。大耳のような厳しい試合は、目の前の試合で出せる最大瞬間風速がモノを言う。分かっていても止められない絶対的な切り札が重要になる。

 

前者を構成する能力に秀でた監督が名将と呼ばれやすく、後者を構成する能力に秀でた監督はイマイチ評価されない。ジダンエンリケも素晴らしい指揮官なのだが、どうしても人的資本に恵まれただけと見られる。

 

ビッグクラブの監督は『平均値』と『最大値』の両方をどうあげるかという問いに対する回答を提出することになる。異なる2つの指数を高く両立させる事こそ覇権チームの作り方と言える。

 

次節でいくつかの例を眺める。

 

1-2 2モデル理論による各例

 

①ペップバルサ(共存)

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8×8は?と聞かれると日本人なら誰もが瞬時にに64と答える。誰も8を8個足して64という結果を得るのではなくハッパロクジュウシと暗記している。バルサカンテラは九九の如く脊髄反射で典型局面における最適配置の『正解』を暗記している。

 

ペップは、この強みを活かしカンテラ色の濃い布陣を作り上げた。クライフ描像の完全順守を目指し、保持率7割試合が常態化した。

 

最適配置理論に基づきボールを握り奪われたら即時奪還する循環で試合を支配した。これがペップバルサの平均値の上げ方。リーグは4年で3度制覇。最大値はメッシにバイタルで前を向かせる事。組立+保持が終わると、目指す先はバイタルだった。

 

メッシにバイタルで前を向かせるために、外はペドロ、ビジャの飛び出しで相手CBを裏狙いで牽制しピン止め、中盤では狭いバイタルへ安定的に配球出来るチャビ、イニ、ブスケが重用。困ったらバイタルにいるメッシへボールを運びメッシがドリブルと個人能力で得点を奪う。これが最大値だ。バイタルでメッシに前を向かせれば為すすべなくネットが揺らされる理不尽な光景が何度も展開された。

 

カンテラーノの最適配置理解力の高さを前提とした保持と奪還の循環構造によって試合の支配構造を高め、バイタルでメッシを解放する。それがペップバルサ

 

しかしメッシをバイタルでフリーにするための『幅』を取るWGに苦しみ、メッシも守備を放棄し始め攻守の循環による高い平均値が陰りを見せ始め、メッシを活かすシステムとクライフイズムとの両立が厳しく、ペップはバルサ指揮官を辞す。

 

攻守循環による高い平均値、一発勝負において絶対武器になるバイタルメッシフリーという最大値、この両立に成功し、ペップバルサは、あらゆるタイトルを獲得し歴史的チームとなった。

 

 

②MSNバルサ(最大優位)

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メッシが守備を放棄し2局面循環モデルが崩壊し平均値が低下。監督エンリケは最大値全振りを考えた。それがかの有名なMSNトリデンテ。

 

メッシをバイタルで解放するためにサイド突破のネイマール、裏突きのスアレスを用いた。1年目に最大値優先スキームが大成功し3冠達成。最大値を高める事で平均値がモノを言うリーグも制覇。

 

バルサにおける原典クライフ描像の完全順守による平均値の確保、それに反する個人能力に優れたMSNを全面に活かすスキームでも3冠を達成した事実は、その後のバルサに暗い影響を及ぼす。

 

『禁忌』を犯しても成功してしまったことで、バルサが持つ最大の財産である、脊髄反射で仕込まれた最適配置理論マスターのカンテラーノの冷遇に繋がった。スアレスの守備意識の減退、『納税する貴族』ネイマールの離脱により、バルサは緩やかに破滅に向けて歩みだす。

 

MSNは3年で一度しか大耳は獲れなかった。2年目は代表試合でユニットメンバーが疲弊しており、3年目はパリとの有名な逆転劇をもたらすもベスト8でユベントスに0-3であっさりと敗走した。

 

守備をしないアタッカーを抱えての最大値優位型は、どうしても守備の安定性が揺らぎリーグでは苦しむ傾向にあり、両立するにはタレントに『走って』貰う必要があり、守備放棄のリスク管理が難点と言える。

 

BBCレアル(最大優位)

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第2次銀河系が発足しベルナベウで大耳を掲げたスペシャルワンを招聘し実利的マドリディズモを導入、カルロはモウの『遺産』を土台に英国からやってきた新たな銀河系ベイルを迎えアロンソとマリアをバランサーとし銀河系は再び欧州の頂点に君臨。

 

CR7の辞書に守備と言う文字はない。GKへのバックパスを狙う程度で守備をせず、11番の位置から中に入る偽11番だ。

 

ロナウドを活かす為、9番位置から積極的に動くベンゼマロナウドの空けたサイドレーンを埋めるマルセロ、SBが開けた位置に降りるクロースといったスキームでBBCという攻撃ユニットの生産能力の最大化を狙い、見事にデシマを成し遂げた。

 

その後、アロンソとマリアは退団するも、ベニテスの残したカゼミロという安全装置を用いて銀河系の象徴ジダンはマドリーを栄光の大耳3連覇に導く。

 

MSNバルサ同様の最大値優先スキームであり、5年で4度の大耳制覇とは対照的にリーガは5年で1度のみ、平均値は高いとは言えなかった。一発勝負における強さは天下一品だが、試合ごとにムラがあり、最大値を見るとリーガでの戦績は寂しいものだった。

 

④アレグリユーベ(平均優位)

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就任5年でリーグ5連覇。一強リーガ獲得は誰でも出来ると言われそうだが、選手の入れ替えも激しく、毎年仕切り直しによる序盤の躓きに苦しみながらも、最適解を見つけて調整する手腕は見事であり、当代屈指の指揮官であるアレグリ率いるユーベ。

 

しかし大耳ではアレグリユーベは5年間で準優勝2回、16強1回、8強1回と優勝からは遠ざかっており、2度の準優勝時の優勝チームがBBCマドリーとMSNバルサである事は分かっていても抑えられない絶対的な攻撃手段を持つことが重要になる証左に思える

 

ただペップシティとは異なるのが守り切れる布陣があることだ。だからこそ攻めきれなくても逃げ切りが出来る。アレグリは大耳で奇襲プレスで先制して後ろは鉄壁のBBCを軸とした5バックで逃げ切りを図る事が多い。

 

盾はあるが矛がイマイチ、だからいいとこまで行くけど負けてしまう、という事はユーベもアレグリも重々理解しており、だからこそ、ずっとアタッカーを獲得しては矛を作る作業に時間を費やしてきた。

 

マンジュキッチイグアイン、ディバラ、ロナウド、しかし彼らを用いた攻め筋が覇権レベルに昇華する事はなかった。盾で掴んだ2度の準優勝の先を目指し、休養を経てアレグリは再びチームの強化に時間を費やしている。

 

シメオネアトレティコ(平均優位)

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11/12シーズン途中から就任し、今や世界最高年俸の指揮官、闘将シメオネ率いるアトレティコ

 

マドリー、バルサの2強のいるリーガで2度のリーガ優勝、そして2度の大耳準優勝を誇るが、アレグリユーベ同様に442で守り抜く盾は見事だが、矛の強度は覇権チームには及ばず、守備力があるので耐える事は出来るが絶対武器は苦しくジダンマドリーに退却守備を取られると打つ手がなくなった。

 

4年連続BBCマドリーの前に敗退し、17/18はGLで敗退、18/19はロナウドのハットに沈み、4季連続でベスト8より向こう側へ行けずにいる。

 

問題点はユーベと同じ、絶対的攻撃手筋の欠落だ。ファルカオの退団後にコスタ、マンジュキッチグリーズマン、マルティネス、スアレスと次々に理想の生産者を求め続けては絶対的な攻撃力への挑戦マインドを見せ、532という新機軸にも挑戦している。

 

盾を武器とする平均値優位モデルは大耳の一発勝負でも勝ち上がる事は出来る。ただやはり最大値は高くはないため苦しむ傾向にあると言える。セットプレーと鉄壁の442を軸とするカウンタースタイルであっても絶対的な攻撃手段の構築の出来が大耳では重要となるのだろう。

 

⑥ペップバイエルン(共存)

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平均と最大の両立に苦しみカタルーニャを後にしたペップが次に向かったのは赤い巨人バイエルンバルサにはないロベリという屈強なWGを活かすスキームを選択する。

 

縦に強いWGを活かすため、偽SBを用いて経路の確保、そしてカウンターが強烈なブンデスリーガに対応した。

 

SBをボランチ脇に移動させるビルドアップ、数十本のパスで相手をワンサイドに終結させて逆サイドのWGをフリーにして暴力的突破からの中央へレバミュラハイクロス爆撃を目的とした最大値形成を試みた。

 

しかし非常事態が発生する。常時複数名がケガで離脱し満足なスタメンを組めず、ブンデスは一強とはいえ、それでも苦しむはず。しかしバイエルンは、これを乗り越えていく。UT性の利用だ。

 

ラーム、アラバ、ハビは複数ポジションをこなせる主力、コアUTだ。局面によって選手がレーンを横断し相対する選手が変われば相手は困惑し、その間にボールの安全な運搬が可能となる。

 

このコアUTを最適配置理論を踏まえた形で移動させ続け、相手を幻惑するコアUTポジショナルサッカーがケガ人による離脱の被害を最小限に食い止めた

 

3年目はトゥヘルドルトムントの猛追にあい、ケガ人を多数抱えてもUTによる処置で見事ブンデスリーガ3連覇。平均値はケガ人の離脱にも関わらず高かった。

 

しかし大耳は3年連続4強敗退、初年度はWGのクロスをゴールに導く9番としてマンジュキッチが機能せず、2年目は最終生産に必須の縦に強いWGであるロベリが耐久力が低く出場さえ困難だった。

 

3年目は唯一のチャンスで、ミュラーのPK失敗がなければ運命は変わっていた。あの場面で決めていれば後半はティキタカで時間を潰せば決勝に行けたろうし、マドリーとの決勝は十分勝機はあっただけに残念。

 

4強2ndleg、ボアテングが長期離脱からの復帰戦でもあり、ペップはドクターに向かって『何故、我々の選手は、ここまで回復に時間がかかるのか』と激怒していたが、耐久力の低さをUTで誤魔化せてはいたものの、やはり最後尾と最前列の選手はUTでなくスペシャリストでも良いので耐久力が必須なのだ。

 

コアUTを用いたポジショナルな支配構造、そしてフリーにしたWGの縦への推進力による突破からのレバミュラへのハイクロス爆撃、見事に平均と最大の両立に成功した。ただ耐久力には問題があった。

 

1-3 ペップシティの背反性

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①初頭に見る苦しみ

 

ペップはバルサでポジションに縛られない選手の柔軟な動きに加えバイエルンでUT性を用いた動きで幻惑し、バルサではバイタルでメッシをフリーに。バイエルンではWGをフリーにしてレバミュラへのクロス爆撃でリーグを支配する平均値と大耳を支配する最大値を高く保とうとした

 

シティでペップは、同様にシステム構築を狙った。

 

ハーフスペースにいるシルバとデブライネをフリーにし、そこへボールを運び、両翼のスターリングとサネという同足WGの突破からアグエロへ向けてロークロス爆撃。メッシの囮となったセスクよろしく、ギュンドガンの獲得もアグエロの囮が目的だったろうし、これがシティの最大値。

 

初年度はバイエルンで見せていた円滑なビルドアップを可能にする偽SB戦術が出来ない人的資本の乏しさで平均値は低く苦しむ事が多かった。

 

バイエルンではフリーにするのはWGでレバミュラへクロスを送る。バルサよりも一段ステップが多い。そしてシティ、ハーフにいる(デブ神+シルバ)をフリーにしてサイドへ展開、そこからロークロスでアグエロへ送る。バルサよりも2段ステップが多い

 

アグエロまで『遠い』問題と5レーン攻撃対策がシティに根深い背反をもたらした、と自分は考えている。『解放場所』まで遠いなら、動いてもらう必要があり、そのために、どうしてもUT性を持ちサイドでも本職として振舞えるタイプをペップは求めたのではないか、それがオーバやサンチェスの獲得志望理由なのだろう。

 

②平均に繋がらない最大

 

バルサ/バイエルンの7年間常にCLで4強以上なのに、シティでの5年間では4強以上は1度だけ。何故苦しみ続けるのか。2強ラリーガ、1強ブンデスと異なり、多士済々プレミアで5年で3度の優勝、相変わらずリーグマスターとは対照的に。

 

このズレが疑問で仕方ない。少なくないシティズンはペップが狂った奇策を大耳で放つ事に責任があると言う。果たしてそうなのか。自分は、『プレミアを支配する平均と最大との接続に何かしらの問題をきたしている』と考える。

 

ペップがシティに到来し3223システムが導入され、5レーンを攻める体系を植え付けた。そしてコアUTを用いて流動的なポジションチェンジで相手を幻惑し最適配置理論を導入したコアUTポジショナルを推進した

 

4バックが主流のプレミアでは5レーンアタックは有用で2年目はプレミア史上初の3桁勝ち点で優勝、翌季も勝ち点98で優勝、リーグ制圧に成功した。

 

UTポジショナルの土台に接続するチーム得点王アグエロが帰結になり得るのか、そこが疑問なのだ。アグエロはレーンを横断する事に特徴のある選手だろうか、UT性が後方から前方に至るまで年を追うごとに増すチームでアグエロに点を獲らせるのは果たして良さを引き出せているのか。

 

アグエロを活かすならUTではないだろうし、UTでいくならアグエロの攻撃の絶対軸選定は疑問を残す。

 

③離散

 

シュートの上手い選手を中心に得意な戦型を創出し、それを最大値とし、そこへ接続するためのリーグを支配する構造を作り出す、このメソッドをバルサバイエルンでは徹底していたペップは何故、アグエロの得意戦型とは思えないUTをやらせるのか、恐らく妥協案なのではないか、自分はずっとそう考えている。

 

ジェズス獲得によりアグエロはケガもあり一時スタメン落ち、そこから守備意識や最適配置を身に着け、シティの9番として再臨したと言われているが、それでは何故17/18シーズン冬の市場でラポルテ獲得に巨額を投じた中でサンチェスを獲りに行ったのだろうか。ペップがアグエロに疑念を依然として感じていたと推測せざるを得ない。

 

魔境プレミアと世界最高峰のCLの両立となる支配構造こそがコアUTポジショナルであり、UT性の強い選手を集めて自由自在の交換、レーンの横断を繰り返すことで相対する選手の変更や柔軟な布陣の選択を可能にすることで相手を幻惑する戦略をペップはバイエルン時代から理想としている。

 

バルサでのバイタル攻略、バイエルンでの強靭なWGの突破力、この二つを兼備したチームにするなら、前者はデブ神+シルバのIH起用、後者はスタリン+サネのWG起用で納得できる。では、その攻撃の到達点としてアグエロは最適なのだろうか、横断可能なUT生産者、それこそメッシのようなWG由来の選手なら納得できる。しかしアグエロは、この類の選手ではない

 

ペップのチームの作り方を見るにアグエロは『第1志望』ではなかったのではないか、WG転用可能な選手を9番に迎えたかったのではないか。

 

しかし獲得出来なかった。UTストライカーが獲れないなら、アグエロで良い。シティズンのアイドルで本人も慣れないスタイルに順応する姿勢を見せ及第点の出来を見せた、しかし順応とは言えば聞こえは良いが、それはシティ、アグエロ双方にとっての妥協と犠牲の産物であり、両者にとって良い関係だったのか、疑問を残す

 

 

④背反

 

アグエロUTフットボールで柔軟な動きを求められれば、それに沿うように努力した。ただ、その事によってロークロス爆撃の得意戦型が多様性尊重から絶対軸にならなくなるのも事実で、バルサでのメッシ、バイエルンでのレバに相当する立ち位置ではなくチームのゴールを奪う絶対軸の欠落を意味していた。

 

相手の5レーン防衛が進めば進むほど、チームの横断性は増加しポジションに囚われない最適配置の徹底と相手に的を絞らせない生産過程が構築されていった。

 

アグエロはUTというチームの土台に沿ったプレースタイルを受け入れ、弊害として最終生産能力は限界まで引き出されたとは言い難い。それにより長期的な支配構造が進めば進むほどに短期的な破壊構造が弱まる、という平均値が上がれば上がるほどに最大値が下がっていく背反を招いたのではないか?

 

ペップがメッシとレバを活かすシステムである偽9番、同足ハイクロス爆撃を備えたシーズン、1試合当たりの得点率はメッシ(10/11,11/12)は100%を超え、レバ(15/16)も82%程度と高い生産能力。勿論、相手とのパワーバランスが異なるしレバは1年という標本数の問題もある。

 

アグエロ(17/18,18/19)はペップシティが勝ち始めるようになった2年目、3年目の2年間では得点率が73%と両名よりも比較的低い上に、リーグでの得点をチーム総得点で割るとメッシ40%、レバ37%、に対しアグエロは20%と少ない。

 

アグエロはこれまでのペップチームの生産者と比べると絶対的ではなく、アグエロに点を獲らせると言うより、結果としてアグエロが一番チームの中では得点を獲っているだけに思える

 

UTフットボールの推進と的を絞らせない攻め筋という基本構造が進むに従ってアグエロの『犠牲』も進み、平均値は高く、トータルで見ると支配力は向上しているが、一発勝負における最大値は絶対的攻め筋の欠落により減退しており、この事が不利想定による奇策打ちに繋がるというのが自分の見立てだ。

 

ペップシティはコアUT性の推進と引き換えに『正攻法』で勝つ能力を減退させ続けているのが実態なのではないだろうか?

 

⑤進むUT、不変の背反

 

アグエロの耐久力に陰りが見え、ペップ政権4,5年目には遂にゼロストライカーでシーズンに臨む。ペップはアグエロの次に得点力のあるスターリングをUT生産者としてチームの核に据えるつもりだったのかもしれない。

 

4年目、ケガ人の多発に苦しみ、アグエロは不在、ジェズスは得点から見放された。スターリングも生産レベルはストライカーのそれを下回り、失望に終わった。そしてシルバが退団した事で独力完結できる選手の複合体へと前線は翌季に姿を変えた。

 

5年目、前方5枚の横断に加え、後方から6番手としてSBにボランチ化させてから前方レーンに突撃させ、前線には5,6枚の選手がWG,IH,CFの区別なくレーンを横断しつづけ、3度目のリーグ制覇、しかし大耳制覇には、あと一つ足りなかった。

 

結局のところ、アグエロが健在だった3年間、不在が多かった2年間、課題は明確でプレミアを支配するためのコアUTポジショナル構造に接続できるコアUT系の9番を獲得出来ず、リーグでの支配力の増強が強まるほどに一発勝負での苦しさに繋がり、最大値がバルサ/バイエルンの時よりも低いものになっている事だ

 

JUVやATLのような守り切れる盾もなく、ルベンが到来した事で盾の強度は上がったが、やはりメンディ離脱の常態化による5番の不在で覇権レベルにはなりづらく、矛も絶対的なレベルにならず苦しんでいる

 

そしてケインを獲り逃し6年目が始まった。

 

 

 

第2章 21/22MCI前期省察

 

2-1 各選手評

 

①S評価

 

20 覚醒 ベルナルド

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この男の活躍はシティズンならずともよく知られているはずだ。どのポジションでも最適挙動が出来、攻守に駆け回りチームに多大な貢献をもたらす。前半戦のチームMVPとしても誰も文句は言わないだろう。

 

チームに明確な点取り屋がいない状況を考えると僅差でのゲーム展開は、これからも増えていく可能性もあり、その都度緊張感が増しインテンシティの増強に伴ってベルナルドに走り倒してもらう必要がある。

 

今季のベルナルドを見ていると落合中日の浅尾を思い出す。得点が思うように奪えない中で僅差の展開で毎試合のように投げ続け数年後には壊れてしまった。ベルにも耐久力の限界はある。来季以降の放出もちらつくが無理のない運用を望みたい。

 

27 6番手2年目 カンセロ

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昨季、SBからボランチへと転移する偽SBからの前線に加勢する6番手、通称カンセロールとして大ブレイクした。今季も無謀な飛び込みで不興を買ったかと思えば、宝石のようなテクニックでSB離れした攻撃を見せている。

 

今のところ、カンセロベネフィットがカンセロリスクを上回るシーンは多いもののビッグマッチでの使いどころには迷うところだ。本来メンディにカンセロロールを落とし込む予定だったのだが『元祖』に頼る事になった。

 

昨季同様に後半に尻すぼみで終わる可能性はあるものの、6番手加勢スキームは有用に働くはず。昨季大耳決勝での外攻めの課題を解消する可能性もあり、この男の守備の安定に今季はかかっている。

 

3  主将 ルベン

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耐久力と安定感、そしてキャプテンシーの持ち主。後方の絶対防衛ラインを死守する役割をこなしている。UTが多いシティの数少ないスペシャリストであり、チームの絶対的CBとして君臨。

 

必然というべきか主将の腕章をまき、名実ともに主将の地位を掴むことになるだろう。何も言う事はないのだが、心配なのはケガになる。絶対的な存在ゆえに疲弊の蓄積が心配である。

 

大事な試合でいないと大きな問題になる。今季は守備ではウォーカー、ルベン、ストーンズと心中する事になるだろう。ストーンズの体調を考えると離脱はクラブの未来に直結する、無事に今季を駆け抜けて欲しい。

 

2   疾駆する壁 ウォーカー

 

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守備的RBの第一人者だった英国の決闘自慢は今季、ポジションを前へと上げてボランチ脇で素晴らしいパスを通したり、純正SBとしてサイドラインを駆け上がったりと、多彩なプレーを披露している。

 

いずれは偽偽SBとしてボランチ化した後に前線に加勢したり、純正SBとしてWGの補助に入ったり、持ち前の守備力を活かして3バックの右、4バックのCBなどにも対応する場面がストーンズの耐久力を考慮するとあるかもしれない。

 

貴重な選手の一人であり、怪我無くビッグマッチで起用出来るかどうかは重要な要素になりうる。カンセロがプロテクトとしてRBの控えとして機能すればよいのだがメンディの離脱によりLBの一番手になっている現状を考えると心配は尽きない。

 

16 独り立ち ロドリ

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ヤヤ、ブスケツ、ラーム、アロンソ、彼らはバルサの元4番ペップの指導したチームで4番を務めてきた名手たちだ。シティ初の大耳決勝のスタメンにロドリ、ジーニョというシティの4番の名前はなくギュンが起用され賛否を呼んだ。

 

その悔しさを晴らすべく、今季は絶対的な4番として覚醒した。LIV戦でのスーパークリアをはじめ、箇所箇所での判断ミスも減り、シティの『ヘソ』として一段上がった印象が伺える。判断力が向上しており潜在的な遅さを補えている。

 

サイドへのロングパンスでの散らしはクロスに耐えうる9番の到来が予期される来季への種まきとなるため、サイドチェンジの質を求めたいところ。長短パスの判断とコマンドの安定を極めて絶対的4番となって欲しい。

 

 

31 脱1番 エデルソン

 

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ペップはポジションとそれに紐づく役割を固定しない。そして様々な柔軟なポジション変換は偽○○として知られてきた。あらゆるポジションを偽化し、サッカー偽物語を紡いでいる。ただGKは勝手が異なる。一人だけ手を使える特異性がカバーの不能性をもたらし、またGKはフィールドプレイヤーとは異なるシャツを着る。

 

ペップはノイアーボランチが出来るか聞いた事があったそうだ。GKは偽は無理でもGKシャツを脱いでフィールドプレイヤーに転用される可能性がある。つまり脱GKとしてCBやボランチとして出場する可能性がある。

 

アーセナル戦でのCBの前へ出てのビルドアップ、勇敢なプレーだった。人にマークさせる戦略への応手であったのかもしれないが、いずれ、その先にエデルソンが左SBとして出場する日が来るのではないか、狂った考えかもしれないが、狂った指揮官と狂ったポルテーロなら、そんな日が来るかもしれない。

 

②A評価

 

47  真のUTへ フォーデン

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9番の獲得に失敗した今季、UT方針に合致し得点を奪い去れる唯一の希望にしてシティが誇るトッププロスペクト。IHやCFでのプレーも経験しており来季以降のストライカーのタイプに関わらず共存するための柔軟性を施しているのだろう。

 

得意の左サイド前方からのショットの精度をもう少し上げるのと、偽9番で出場した試合ではバイタルからのドリブルで積極的に仕掛けてもらいたい。シティのメッシになれる逸材であり、間違いなくデブ神の次の神になる男、いやならなければならない男ゆえに期待値は勿論高い。

 

デブ神の耐久力が減退し始めた今、攻撃で違いを生み出す数少ない貴重なタレントなので、今季後半は得点やアシストといった目に見える結果が欲しいところ。そのためにももう一段の成長を期待したい。

 

9 新境地 ジェズス

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互いのネットを揺らした数の優劣以外は評価されない。サッカーのシンプルかつ残酷なルールだ。背番号は9でポジションはFWとなれば当然期待されるのは得点。その要請に応えられず苦しみ続けたシティの『未来』は今季RWGへと仕事場を変えた。

 

元々守備力、動き出しには定評があったので難なくこなせているし、得点という義務から解放されることでかえって得点力が蘇る、という都合の良い展開は望みすぎかもしれないが、CHE戦の大一番で決勝点をあげるなどプロパー9番のいない前線に得点力の担保のために置いておきたい気持ちは理解出来る。

 

今のシティは自律主義からの転換を図りつつあり、その上で高い戦術理解と守備意識を持つジェズスは重宝するはずだ。アグエロの後継者路線からは外れたかもしれないが腐らず新境地で輝いてほしい。

 

10  一億£の色男 グリーリッシュ

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ベル離脱の保険、スターリング復活のための理解者、国産UT、様々な思惑で獲得されたグリーリッシュは早期に順応を果たした。自律と自己完遂を軸とするチームにおいて、王様として培ったスタンドプレーがマッチしたのだろう。

 

しかし本来の目的はIHとしてデブ神の出場機会を限定するプロテクターであったのだがメンディの離脱により、スターリングは依然孤立、フォーデンは他ポジで武者修行中なため唯一のLWGとして酷使気味の起用になったのは心配である。

 

IHでデブ神の出場機会を抑制しながらWGもこなし、前線での横断もこなせるコアUTが理想的な落としどころのはず。今季は安定的な出場をこなしながら慣れる事が先決、急がず着実に身も心もスカイブルーに染まる事を祈りたい。

 

21 NEXTビジャ フェラン

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今季は9番に挑戦中でWG起用可能なストライカーとして期待は小さくない。ただフォーデンほど絶対的な形を持っているわけではなく、今のところは様子見の起用でビッグマッチでもスタメンを外れた事を考えてもお試しストライカーの域は出てないか。

 

バーディのようなムービング9番というよりも同胞かつバレンシアの大先輩にあたるビジャのようなLWGもこなせるストライカーが理想の到達点。来季のストライカー獲得後にもLWGで得点出来れば最高だ。

 

何よりケガを直し後半はLWGでの起用も含めて、得点に絡む事、目に見えた結果を出せると道も開けてくるはずだ。バルサ移籍も噂されるが来季9番との共存も可能な貴重な選手なので残留に期待したいところ。

 

14 3番手 ラポルテ

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3番手としてラポルテを所有出来るのは素晴らしいのだが、先発させるには心配が尽きないのも事実なのだ。大一番での不用意なミスは相変わらずで、ストーンズを休ませる谷間の先発として有用だが、前期は谷間以上の出場機会を与えられた。

 

ルベンの相方として一定の出場機会を得られたのは移籍願望の抑制に寄与してくれるとありがたいと思う。ストーンズがコンパニ化し始めてる事を考えても残してはおきたい。左足のフィード能力の高さや足元のテクニックは健在、出場を求める試合も少なくないと思うので、残留して欲しい。

 

8 盤石の男  ギュンドガン

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出場すれば大きなミスはなく確実にパスを繋ぎボールを循環させ、昨季は得点も奪うようになったトルコ系ドイツ人MFは今季も堅実なプレーを見せてくれている。

 

ベルナルドとデブ神のような派手さはなく今季はカンセロロールの終点でもないため地味ではあるが、こういう選手を何枚ストックしておけるかがリーグでは小さくない違いを生む事になる。セルフ過重労働のベルナルドのプロテクターとして後期は更なる貢献を求めたい。

 

17 神の憂鬱 デブライネ

 

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右足から放たれる魔法は様々な感動と喜びを与えてきた。そんなプレイヤーを止めるためにはファウルしかないのが現実で、その蓄積は神の耐久力を奪い始めた。

 

代表戦で負ったケガを抱えながらどこか本調子にならず苦しんでいるように思える。手術で長期離脱するほうが良いかもしれない。選手寿命の問題もあるし、延命のために将来的にジェラードのように4番コンバートもあるかもしれない。

 

シティにとって大きな武器となり9番獲得の重要な要素になりうる神クロスは必須のものである。グリをIHで使うなりして出場機会を限定し乗り越えて欲しいものだ。

 

6 地位向上 アケ

 

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好機は突然やってくる。CBの4番手、LBの3番手という立ち位置のアケは今季早々にストーンズの不安定化、メンディの離脱によって立ち位置が一つ上がった。出場の機会もやってきた。

 

ヘッドでのゴールやセットプレーでの脅威にもなれ、LBでは貴重な守備力をチームに与え、CBとしても貴重なバックアッパーになれるポテンシャルは十分なのだがイマイチ活かしきれていない。判断力を出場が少ない中で培うのは厳しいのかもしれないが、ラポルテの移籍願望を考えると、もう一つ上の領域へ行って欲しい。

 

26 試される左足 マフレズ

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昨季の右翼の圧倒的スタメンは今季ジェズスのRWG挑戦によってスタメン争いに巻き込まれることになった。昨季同様のゼロ9番ゆえに、右翼にはストライカー上がりのジェズスを置いておきたいのは理解出来る。大外で得点できるタイプは今季の狙いの一つなのかもしれない。

 

マフレズに今季求められるのは結果だ。大耳決勝でも惜しいシュートもあったが、得点を奪う能力は昨季以上に求められるだろう。右翼専用機ではなく、偽9番や左翼、IHといった位置でも活躍し、横断可能なUTへの進化も求めたいところ。

 

2年前のスタメンラポルテが3番手に降格したようにマフレズも、いつスタメンの座を奪われるか分からない。捲土重来に燃えるジェズス、スターリングとの右翼競争に勝てた時、シティにとっても大きな武器となるだろう。

 

 

 

③B評価

 

5 耐久力という課題 ストーンズ

 

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やはりというべきか、回復力と耐久力に問題を抱えていたが、代表でのケガでビッグマチ出場は難しくラポルテに頼る事になってしまった。ほとんど出場していないのでコメントのしようもないのだが、後半はスタメンで頑張って欲しいところ。

 

今季のシティも矛に苦しんでいる。そんな中で守り切れる安定感のある盾の完成度は今季の出来に大きく関わる。絶対必要な柱ゆえ、是非とも後半戦ではコンスタントな出場を求めたい。

 

11 待つ男 ジンチェンコ

 

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プロスペクトを囲ってレンタル要員、換金要員として保持するスキームの中でカウントされていただろう中、デルフと入れ替わりでLBで活躍を見せ、出場機会に恵まれない時期でも腐らず、じっと耐え抜き出場すれば自身の真価を証明してみせる。そんな姿勢と愛くるしさからシティズンから愛されるウクライネは今季も正念場がやってきた。

 

カンセロがLBで地位を確保し、毎試合、SBとは思えない動きで驚きを提供し、その陰でベンチを温める日々が続いている。昨季もそうだった、しかし大一番での守備力の確保のためにジンチェンコは後期にスタメンを勝ち取ったが、今季は事情が違う。守備リスク覚悟の上でカンセロが使われている。

 

ただ、この状況でも腐らないだろう。チャンスは平等でなくとも確実にやってくる。そこで真価を発揮できるか、出来ればLBとしての守備力を上げて、左利きのウォーカーへと一歩ずつ向かって欲しい。

 

7 沈む英国の翼 スターリン

 

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今季は復活の狼煙を上げるシーズンになるはずだった。純正LBメンディ、代表で自身の特徴を知るグリをIH、ケインをCFとして偽翼のLWGとしてスターリングは復活するはずだった。しかしメンディ、ケインはおらず、グリはスターリングの代わりとしてLWGで出場している。

 

右翼に回ろうにもジェズスがプチブレイクでマフレズが控えに回っている。IHに入ろうにもデブ神は勿論ベルナルドが絶好調で外せない、ギュンドガンが控えていて、もはや前線5枚の中でプレーする事は厳しい。

 

バルサ行きも噂されるがチャビの違約金を本人に払わせアウベスを安月給で雇っているクラブがスターリングに出す金額など期待出来るはずがない。選手トレードが精一杯だろうし、シンプルに右翼で愚直にプレーして欲しいところだ。

 

25 迫る別れの時 ジーニョ

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ジーニョは銅像にはならないかもしれない。しかしヤヤの相棒としてシティの中央部を支え、ペップ政権では4番としてチームに安定をもたらした。いぶし銀のレジェンドボランチはロドリの一本立ちと共に出場機会が減った。

 

本人も4番の保険として今季はクローザーの役割に徹する姿勢も見せており、功労者も今季での退団が現実味を帯びてきている。全盛期ほどフィジカルと運動性能で無理はきかないだろうが、長丁場のシーズンで必ず活きる試合は来るはずだ。

 

功労者に相応しい花道として大耳を掲げて欲しいと願うシティズンは少なくないはずだ。残り短いスカイブルーのユニフォーム姿を目に焼き付けておきたい。

 

 

2-2 省察

 

①ペップシティ総論(仮)

 

ここまでのペップシティを振り返ってみよう。

 

大きく分けて3期に分ける事が出来る

 

(1)ロークロス爆撃集団

(2)コアUTポジショナル

(3)SAC

 

まずバイエルン時代と同様にWGのクロスを中央へ送り込みアグエロに得点させるスキームを採用。4バック主体のプレミアでは猛威を振るう5レーン攻撃でプレミアを支配し、スターリング、サネ、アグエロの3topによるロークロス爆撃が炸裂した。

 

ただ5レーン攻撃への対策が始まり、練り直しが求められ、チームはバイエルン時代を上回るUT性を帯びるようになった。

 

(2)のUTポジショナルが本格化し、スタメンにはUT性を持つ選手が選ばれた。レーンを横断し複数ポジションで本職のように振舞える優位性を用いて相手を幻惑し対策の対策としてUT性はかつてないほどに高まった

 

デルフ、ラポルテ、ストーンズ、ウォーカー、ジーニョ、シルバ、デブ神、スターリングが輝きを放つのとは対照的にサネが苦しんだのはスペシャリストゆえの苦しみだ。そしてアグエロという『聖域』もサンチェス獲得未遂という一件を招いた事からも明らかなように、UTがチームを支配していた。

 

そして、シルバが退団し、チームは自律性を強く有するようになった。自分はこのシティを見て、スタンドアローンコンプレックス(SAC)という言葉が浮かんだ。

 

名作SFである攻殻機動隊の造語だ。孤立した個人(スタンドアローン)でありながらも全体として集団的な行動(コンプレックス)を取ることを意味する。

 

最適配置を叩きこまれ、シルバがいなくなり、チームは自律する孤立した個人の集合体のような様相を呈している。単独で複数の選択肢を提示し相手の出方に合わせて後出しジャンケンで優位性を確保する。スタンドプレーの連鎖が結果的には組織として最適な手筋として完成する。

 

我々の間には、チームプレーなどという都合のよい言い訳は存在せん。有るとすればスタンドプレーから生じる、チームワークだけだ。

 

これは攻殻機動隊の公安9課長である荒巻のセリフだ。今のシティを言い表していると言える。このスキームゆえに、マフレズは輝き、今季新加入のグリーリッシュも左翼で輝きを放っていた。それとは対照的に有機的な動きを得意とするスターリングは苦悩に沈んだ

 

カンセロが突如としてSBで輝き始めたのも、以前に比べて自己判断に任せる事が多くなったからであり、自律し各々が正しいと思う事を思い思いに行い、それが結果的には組織的な動きを見せる

 

②鶴翼元年

 

今季はカンセロロールの一般化となるSBのボランチ変換の後の前線5レーンへの突撃を担う偽偽SBを左右SBに課す2323を採用した。左はメンディ、右はカンセロとウォーカーに役割を付加した。中央に相手を集結させて、サイドへ展開、そしてIHとWGの共同作業により崩すスキームが用いられた。

 

唯一の今季の新加入選手であるグリーリッシュは王様と言われていたが、SACスタイルのシティに容易にフィットした。

 

しかしSACには負の側面もある。シティは個で攻め、個で守るようになった。その事で守備における組織性が薄れ、大耳RB戦ではWGのグリとマフがペップに激しく指示を受けていたり、シーズン序盤は守備が乱れ、相手に容易にボールを運ばれプレスが空転する試合が少なくなかった。

 

そして、この状況でリーグCHE戦を迎えた。マンツー気味のワンサイド圧縮、個の力で対応し大耳王者の攻撃力を限界まで削いだ。そしてこの試合でSBのボランチ変換を辞め、純正SBの動きが見られた。

 

PSG、LIVの攻撃ユニットの前に合計4失点、やはりビッグマッチではアレグリユーベやシメオネアトレティコのような盾を持つにはLBに本職が欲しいところで矛としては9番が足りていないという構造的問題は、やはり残存している。

 

そして、今、ペップシティは第4の時代が始まろうとしている。SACによる多様な攻め筋の提示からネガトラ強化時代へと向かっている。

 

③第4の時代

 

SACを突き詰めたものの、矛の強度は覇権レベルにはならず、今季始めにはチームの組織守備力の減退が散見された。だからなのか分からないが、今シティはネガトラの強度を上げて盾の強度を向上させる新たな方向性が導入されている。

 

中盤ではベルナルドが重用され、前線はマフレズではなくジェズスが使われている。ボトムペンタゴンの23に関しても前の3でカウンター対策の強度を上げていて、柔軟な外攻めという攻撃面よりも守備面の方が狙いなのかもしれない。

 

SAC路線が進んだ結果として短期的なネガトラ強化月間のようなものかと思っていたが、どうやら今季の鶴翼Vフォーメーションの狙いは守備面での最終防衛ラインまでの有効なパスを消す防波堤の強化にあるように思える。

 

当然UT路線や積極的なスタンドプレーも許容はするだろうが、大耳での強敵に備えて防波堤を作り、SBの位置取りで相手に合わせて柔軟に応手出来るようにしたのが今季の前半戦と言えよう。

 

ネガトラで相手の攻め筋を防ぎ、通されればルベンを中心に442の要塞で受け止める、という守備を重視したアプローチを見せ始めている今季のシティ、これが新たな時代の始まりなのか、後期も注視したい。

 

 

第3章 展望

 

3-1 後期展望

 

235でネガトラを強化し、アレグリユーベ、シメオネアトレティコのように矛は劣っていても盾で守り抜く戦略で頂点を目指す今季のペップシティ。今のところ順調に乗り越え過ごせている。

 

ただ、心配なのは主力のケガ離脱である。少数精鋭気味になりつつある中でメガクラスとの試合では強度と技術両方共に求められ特にDF陣は離脱者が出るとクオリティは下がり、盾で守り抜く今季の方向性が崩れ去る。

 

フィニッシュもフォーデン、デブ神の質で押すか、カンセロのミラクルパスに期待する以上は、ここも離脱が致命的になる。だからこそ後期は色々なパターンを試しながら最適攻撃パターンをストックしていく必要があるだろう。

 

リーグではUTD、CHE、LIVといった強敵とホームで戦える利点もある。勝ち点を大きく落とすことなく、ルカクの落とし込みに手間取るCHEとネイションズカップを控え主力が離脱するLIVに、しっかりと振り落とされることなく先頭集団で走っていれば連覇出来るだけの戦力はあるはずだ。

 

大耳においては今季は耐える事、そしてネガトラを徹底して防衛ラインまでの着弾を減らすことだ。矛はなくとも盾で全員で戦う。そしてフォーデン、デブ神、カンセロの質的優位で相手に一発見舞う、それを愚直に繰り返す事が求められる。

 

大耳王者の歴史を考えても、矛を持たざるチームの戴冠は数少ない。確度は決して高いとは言えない。だからこそ集中し昨季のCHEを見習い、少ないチャンスを確実に決める事だ。やる側も見る側も忍耐と集中が後期は更に求められるはず。

 

攻め筋リビルドも叶わなかった今季、盾と結束で頂点を取れるか、大いに期待したい。

 

3-2 未来展望

 

①理想の9番

 

シティに合う9番を考える上で、シティの大きな武器と言えるのはフォーデンの左サイドからのシュート、そしてデブ神の神クロス。そしてUT性の高い選手が集まっている。

 

導き出される理想の9番は、デブライネの高速クロスに合わせられて、柔軟なポジションチェンジに対応できるテクニックを兼備した選手。だからこそ獲得が噂される選手は体格が良く足元のテクニックに優れたタイプなのだろう。

 

到来予定の9番を想定しているのか今季はSBが純正の挙動を示し、サイドからのロークロス、ハイクロスの攻撃は増えていて、RWGでマフレズよりもジェズスが使われているのはクロス攻め筋を植え付けるためなのではないだろうか。

 

そこで噂される9番候補たちをそれぞれ考えてみる事にしよう。

 

(1)ケイン

 

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プレミアでの確かな実績、代表でシティチームメイトと旧知、総合力が高く今がピークのスリーライオンズのNo.9。クロスにも対応し足元の技術も確か、何よりプレミアへの順応の心配もない事を考えても依然としてターゲットになりうる。

 

ケインが9番に入る事で左翼スターリングを復活させる可能性がある。これは重要な寄与であり、銅像が一体増える可能性もあり『英国のバイエルン』のブランディングを進めるうえでも重要な獲得になる。

 

デブ神、両SB、ジェズスからのクロスのターゲットになりえて『共演』経験のあるフォーデンやスターリングの良さも引き出せビルドアップの出口としても機能する9番。夏のターゲットになったのも納得できる。

 

課題は理不尽生産が厳しい事、チームを窮地から救う事は少なくスパーズで緊張感のある試合、成功体験が少ない事も気がかりではある。UT性はないが横断には苦労しないだろうし順応も問題はないはずだ。

 

 

(2)ハーランド

 

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多くのシティズンが望むターゲット。父親はシティの元選手であり高い身長と高い足元のテクニック、何よりも若く伸びしろもタップリと残し理不尽生産も可能で、時代を代表する選手になり得るトッププロスペクト

 

ただ揺らぎが大きく横断と組織戦術への落とし込みに問題をきたす可能性はある。ただペップシティはハーランドを落とし込むために準備を始めているのではないか。

 

シルバが退団し、チームは変貌した。自律したスタンドアローンの集合体へと変わり、各自が各々が正しいと思われる事を各自で自己完結させる方向性が強まった。スタンドプレーの連続が結果として集団としての最適化に繋がるという組織形態へと変わった。

 

自己完結性の高い選手の落とし込みをスムーズにするためにこうしたのか、結果としてこうなったのか分からないがハーランドのような単独でプレーをこなすタイプの順応に寄与すると思われる。

 

問題は代理人だ。獲得のハードルは低くなく、また年齢の割には転売のために早期の退団も予想され長期的なスタメンになるか微妙だ。ただクロスを生産に持ち込み、走り込みのセンスもあり横断に馴染めば大きな戦力となるだろう。

 

 

(3)ヌニェス

 

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ベンフィカ出身が多いシティにとって噂に上がるウルグアイ人ストライカー。カバーニ2世と呼ばれるだけあってスペースを見つけて飛び込む動きが得意な選手。おそらくカウンター主体のチームの方が輝くはず。

 

リーグのレベルを考えてもプレミアでどこまで出来るか未知数な部分もある。特に9番の新加入となればゴールが遠ざかると雑音は小さくないはず。アグエロの後継者としての視線やメガクラブの9番の重圧にどこまで耐えうるか、そこも気になる。

 

ただ体躯もあり、ロークロス、ハイクロス両方に対応出来、フォーデンとの協調にも問題はなさそうに見える。プレミアの圧力下でどこまでやれるか未知数ではあるが、ハーランドが獲れないなら賭けてみても良いのではないか。

 

 

(4)ブラホビッチ

 

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今夏移籍市場で突然名前が登場したセルビアの9番。獲得が噂されるユーベは同系統のモラタがいるので獲得は見送るかもしれないが、モラタによく似ていると感じる。

 

モラタと同じく、体躯を利用した『受け』からの反転ドライブが得意なように見える。シュートは強烈で、理不尽なゴールを奪う事も可能だろうし、チャンスが増えると思われるシティでは更なる活躍が見込まれる。

 

ただポストプレーや空中戦が高身長を考えると改善の余地がありクロス爆撃に耐えうるか疑問を残す。またオフザボールの質、周囲と連動しながらボールを運ぶ動きには改善の余地があり、シティに来たとしても、この部分の修正には時間を要すと考えられる。

 

良くも悪くも伸びしろはあるので、その部分を、どう捉えるかで話は変わる。獲得しても数年で転売されそうなハーランドよりは長期的にシティの9番として君臨する可能性も考えると獲得はアリかもしれない。

 

②Wonder Wall

 

ペップシティの最終到達点として目指しているのはコアUTを用いたペップバルサとペップバイエルンの融合にあるのではないか、と自分は推測している。

 

仮にケインを9番として獲得したとする。

 

前線の並びは

 

⑦デブ神

⑧ベルナルド

⑨ケイン

⑩フォーデン

⑪グリーリッシュ

 

が理想的。

 

必殺技はデブ神がボールを握ったところから始まる。デブ神からハイクロス爆撃を行い仮想レバミュラとしてケインとフォーデンの2topに向けてボールを送り込む。

 

もう一つの必殺技のキーマンはフォーデン。ケインが11番、フォーデンが9番、グリは10番に移動。ケインがLWGから睨みを利かせ外へDFラインを広げて、バイタルを空けフォーデンを解放、そこからグリ、ベル、デブ神との連携と個人技で中央から攻め倒す。

 

いわば、ケインに(レバ+ビジャ)役をやらせ、フォーデンに(ミュラー+メッシ)役をやらせる事で列の横断と交換によって、仮想ペップバルサ/バイエルンの得意戦型の両取りを目指す。フェランがクロスに合わせる能力が増せばケインの保険として機能する可能性もあるだろう。

 

(メッシ+セスク)の縦偽9番は(フォーデン+ギュン)で再現出来、ロッベンの外攻めロールはマフレズに任せる。

 

後ろの5枚は今季から取り組む23の形を継続するだろう。

 

CBコンビはルベンとストーンズで確定だ。ルベンはまだしもストーンズは偽CBをこなせるはずだ。列を上がってボランチにもなれるだろうし、そこからドライブで前線に駆け上がる偽偽CBにもなれるだろう。3番手としてラポルテが控える形が理想的だ。

 

SBとボランチはウォーカー、ロドリ、カンセロとなるはずだ。出来れば5番が欲しいところだが、今季は9番獲得に全資金を投下すべきだ。SBは両方ボランチ化した後に前線に駆け上がる偽偽SBやサイドラインをアップダウンする純正SBの動きを相手に合わせて打ち出すはずだ。4番も場合によっては前線に駆け上がる偽4番となるやもしれない。

 

ルベン、ロドリといったスペシャリストを除いてUT化出来る選手は後方から前方へ向かって加勢する可能性があるだろう。

 

9番を加えた前線のW字と後方のW字からなるWWフォーメーション、シティにゆかりのある人物の作品から引用してMM(マジックマジャール)よろしくWW(ワンダーウォール)と自分は呼んでいる。

 

来季到来する9番を入れてペップシティの最大値の向上に期待したい。

 

 

第4章 :Re "シティと"ペップ"

 

["シティ"と"ペップ"] by みどりのろうごくblog

 

アトさんが運営するブログ『みどりのろうごく』で自分の海外サッカーに関する記事6本をお読みいただいた上で、ご紹介を頂くという光栄に預かった。その中で、最大値形成に関するチャプターにおいて"改めてお聞きしないと分からない"と書いていらしたので、目には目を、ブログにはブログを、と言う事で笑、こちらで返信させてもらう。

 

4-1奇策

 

(1)『ペップと奇策』への私見

 

奇策を用いるから負けている、という言説に対し、奇策を用いなければならないほどの状況になっている時点で、既に劣勢であり、打ち手が敗着になったわけではないというのが自分の意見である。

 

リヨン戦は格下相手に奇策で負けた、と言われる試合だがケガ人の影響で、後方は経験不足のガルシアに本職がMFのジーニョまで担ぎ出さなければならない状況で、9番もアグエロは、そのシーズン後半は出場できない状況であり、ベスト16マドリー戦でもダブル偽9番といった奇策を打たざるを得なかった。

 

リヨンは前年に1勝も出来ていない苦手チームということもあり532のフォーメーションにぶち当てるように3421で相手WBを牽制し相手の攻撃力を削ぐのは理解出来る。

 

普段通りの4231なら勝てたとの言説もあるが、先制されて4231に戻した後に、2失点して負けてること、決定機をスターリングが外している事を考えると、普通にやっても普通に負けた可能性は低くないと考えられる。

 

チェルシー戦も、2度負けてる相手に対して、ミラーゲームになると予想される中で、フォーデンとデブ神を中央で使い、その質的優位で臨むのは正しいし、ギュンとスタリンを使ったから負けたというのは本質からは外れていると感じる

 

結局、絶対的な得点パターンのなさが埋められると何もできない状況を招き、LBの不備を的確に突いたチェルシーに失点し、更にデブ神が負傷退場したことで質で押せなくなり沈んだ、というのが実態ではないか。

 

結局、奇策で負けたのではなく、絶対的攻め筋の欠落による矛の弱さと守れるLBの不在という盾の不備、という慢性的な課題が大耳での敗因であり、そんな状況を変えるべく放たれた一手は敗着とは言えないのではないか、と自分は考える。

 

(2)消えた観客

 

アトさんのブログを読んで、納得したのは『クライフ主義は観客のためにプレーする事にあるのにも関わらず先回りし過ぎの"処置"によって、例えそれが結果"悲しみ"であったとしても観客の試合によって呼び起こされる素直なエモーションの噴出が阻害されたならば出口を塞がれてしまったならば、それは流派的にも罪であって、抗議する権利が観客にあるのではないか』という部分。

 

確かに、これはそうだなと。自分は敗着となったのは、どの手で、それは何故そうなったのか、といった部分しか見えていなかったな、と反省した。

 

自分も以前から、結局、勝敗という結果論に基づいて議論されている、特にペップやアレグリやトゥヘルのような智将のチームにおける挙動の認識のズレが大きくなり、勝てば官軍負ければ奇策ハゲに近い民意の形成を見るにつれ、高度に発展した脳内将棋は観客を消してしまうのか、と考えている。

 

ピッチ外がユニバーサルに増大する観客で溢れるのに対し、ピッチ内での事象の複雑さと応手の専門性という局地性の増強によって、外部と内部の乖離が広がりつつある中での出来事なのかもしれない。

 

 

 

4-2最大値形成

 

最大値形成における徹底とバリエーションという問題に関して、自分は以下で述べているようにリーグ、CLにおいては求められる素養が異なると考えている。

 

シティはリーガを制圧してしまっているので、自分がシティの課題について語る時にはCLでの支配力の増強、という事を念頭に主張を繰り広げるので、嫌と言うほど最終生産の話をするのも、CLを制覇するための絶対的な矛の欠落が課題なので、『徹底』したとしても相手が止められない武器の構築を訴えている

 

リーグを取るだけならばバリエーションを広げるUT路線でも問題はないとは思うが、強敵との一発勝負が続く短期決戦においては、70点の武器を2,3持つのではなく90点の武器を一つ有して、その武器で殴り殺す事が求められるように思う。

 

『改めてお聞きしたい』とアトさんが書かれていた部分に、お答えするのなら、CLのような短期決戦においては徹底が重要であり、どんな盾でも防ぎきれない矛の生成、どんな矛でも耐え抜ける盾の生成、のどちらかをやりぬく必要があるように感じる次第である。

 

 

 

(あとがき)伸びしろ

 

ペップシティを5年半見続けてきてCLで敗れても悔しさこそあれ、強い憤りや苦しみを感じる事は一度もなかった。というのも、自分はペップシティがCLの優勝本命だと信じた事がないからだ。

 

ペップはバルサ/バイエルンにおいてサイクル3年説を唱えてきた。なのにシティでは7年の長期政権を築こうとしている。常々、ペップは『チームを前進させる事が出来ないと感じたら自分は辞める』とも語っているので、シティは前進する余地があると考えているのだろう。

 

CL挑戦5年、初年度は論外として、2年目3年目はBBCマドリー、メッシバルサが本命であったし、4年目5年目もレバミュラバイエルン、ムバネイPSG、フロントスリーLIVが本命で『組分けに恵まれればワンチャン』枠を上回る信頼を自分はペップシティにはよせられていない。

 

攻め倒せる矛も守り切れる盾もなく優勝するのは、どうも想像しがたいからだ。

 

ペップはシティを伸びしろがあるチームと捉えているのだろう。ただ、それはチームの最大値としてペップが望むレベルに比べ出力可能なレベルが常に下回り続けているということでもある。

 

ペップシティは常に『余白』を残しているチームなのだ。だからこそ、前進可能性を感じてペップは長期政権を過ごしているのであろう。伸びしろが残る限りペップはシティにいる。しかし、それはリーグを支配する攻め筋の多様化思想が最終生産過程の絶対性を除去してしまうという背反する現在の構造的欠陥が続く事を意味する。

 

ペップ政権と完成度の高い覇権チームは背反しているのかもしれない。この背反が終わるのか、それとも背反したまま大耳を制覇するのか、時代を代表する指揮官の作る最後のクラブチームの行方を、これからも注視していきたいと思う。

 

 

付録 テクニカルターム

 

自分が良く使うサッカー用語をまとめたものを以下に付す。

 

(適宜加筆修正を加え、あの言葉って?的な質問へのアンサーまとめ書きみたいなのにするつもり。)

 

①ナンバリング

 

選手のポジションは自分はオランダ流で各配置に番号を振り分ける。オランダといえば両翼を大きく開いた433が有名で、派生形となる343はCBをDMFにDMFがIHに、IHがトップ下になるといった縦断的配置変換で実現されると認識される。

 

この方向性から後ろから順番に番号を振り、前線の5枚に関しては、かつてのWフォーメーションから右上右下真ん中左下左上の順に番号を振る事にする。

 

まとめると

 

GK(ポルテーロ)が1番
RB(右ラテラル)2番
CB(セントラル)が3番
DMF(ピボーテ)が4番
LB(左ラテラル)が5番
IH(インテリオール)が6番と8番
WG(エストレーモ)が7番と11番
トップ下(メディアプンタ)は10番
CF(デランテーロ)は9番

 

 

そして、偽○○の定義だが、自分の定義は○○を初期配置とし、特定の別のポジションへ再現性を持って移動するロール、と定める。つまりSBは後方端に位置する事とし、そこからサイドを駆け上がる動きは『SB』の見慣れた風景だとしても、それはWGに移行するSBからの移動として偽SBであると定義する。

 

カンセロロールはSBという位置から意図的に動く偽SBであり、ボランチの位置から意図的に動く偽4番も兼ねる。そこで自分はこれを偽偽SBと定義している。

 

②最終生産者

 

自分が作った造語というわけではないのだが、書籍で読んで使い勝手が良いので使ってる。ストライカーは原義的には全ポジション適用可能ではあるが、用法的に9番みが強すぎるので自分は、最終生産者と使うことにした。

 

ペップチームの構造を記述する上で支配層生産者の能力を最大化する火力の設定は外せないのでペップシティに欠落した部品として、よく言及することが自分は多い。

 

MLB用語からの引用

 

(1)コアUT

 

コア(主力級)でUT(ユーティリティ)な選手の事。近年のMLBは2番最強説に代表されるクリーンナップ(3,4,5番打者)が主力とは呼びづらいため、主力格をコアと呼称する傾向にある。

 

これは打順に紐づく役割のズレというサッカーにおけるポジションに紐づく役割のズレともリンクしているように思える。

 

UTとはユーティリティの略称である。自分はサッカーにおいて主力にUT性を付加して局面においてポジションチェンジを施す事で多様な攻め筋を実現する事を目指す方向性の事をコアUTポジショナルと呼んでいる。

 

(2)コマンド

 

制球力を指す、コントロールよりもスポットにボールを送り込む能力という意味。

 

(3)プロスペクト

 

有望株の事、その中でも特に素晴らしい有望株はトッププロスペクトと呼ばれる。

聖戦(21/22前期リーガCHE-MCIレビュー)

 

①聖戦前夜

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大耳決勝で相まみえた両チーム。トゥヘルの仕掛けた中央閉鎖を受け、サイド循環に希望を託したシティは崩しが空転し、デブ神の負傷退場によって質的優位を失いフォーデンの閃きでしか打開が難しかった。

 

9番がいないから詰むと主砲の一発がなく、5番がいないからウォーカーを食いつかせてサイド圧縮が間に合う前にワンタッチで運んでシティの左サイドで勝負すれば良い、というトゥヘルの指し手にシティは沈黙した。

 

あれから4か月、ペップは『宿題』であった外攻めの迫力不足解消の2323(WWシステム)へ変更偽SB×2と4番の3人を中央に配置しサイド援護を高め、更に、偽偽SBによってWGの補助へと6番目の攻撃者を出撃させるスキームを放つ。

 

9番は今季もいないが、それでも鶴翼の陣でウォーカーはパサーとして成長し、多少の戦術不備も攻守の質的優位で押しきってしまう、といった形で戦い続けてきた。

 

一方トゥヘルチェルシーは屈強な堅牢5バックをベースにしてランプスの残した若者たちを活かしながら、球界最高の頭脳のもと、相手の急所を徹底的に暴き叩いて潰す、圧倒的な強さと破壊力というより、気づいたら死んでいた、という具合にメガクラブ相手でも素晴らしい戦績を上げる事に成功した。

 

そんなチームにルカクまで獲得し、一躍リーガの優勝候補に。リーガでも無敗という戦績で余裕をもって、この試合を迎えた。ルカクのストロングポイントを探しながらチームの可能性を高め、更なる強靭化へと歩みを止めず、上品に毒を盛るロンドンの青組は完備性に人間兵器を迎え、無敵街道まっしぐらだ。

 

 

②開戦

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受けたトゥヘル

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 ただの『1試合』

 

無敗で迎えたトゥヘルチェルシーにとっては、ホームでの試合とはいえ、負けても甚大なダメージにはならない。上積みが殆どないリバポ、9番のいないシティの破壊力はそこまでないだろうし、下位相手に大きく取りこぼさない限り、現状でリーグテーブルを確認する事に意味はないと見ているはず。

 

むしろ、今の時期はルカクの落とし込み、選手の体調管理、年明けのビッグマッチに向けた手筋の整備が重要で、まだ慌てる時期ではない。優勝候補筆頭のチームにとって今季はリーガ制覇、そして大耳での上位進出、将来的なスカッドの青写真も考えたうえでの戦術整備、こういたところを考えているはずで、これから年末にかけてのスケジュールでの疲弊を考えても、本当の勝負は今ではないだろう。

 

3連勝している好相性のシティということもあってリラックスして臨める。酷い負けでなければ良いし、勝ち点1でも十分、というのが本音か。

 

コンディションが悪いと見られていたチアゴ神がベンチスタートなのを見るに、絶対勝利ではなく、あくまでもシティとの今季初戦であり、落ち着いて自分達の側へ引き込んで手筋を受け切った上で、ルカクとヴェルナーの迫力でシティに一発食らわせようという算段だったのだろう。

 

 532で『受けて』『刺す』

 

マウントもおらず、相手は2323で中央集権型を当てると見たトゥヘルが選択したのは532による『受け』だった。相手は9番もいないし、組織的なプレスも上手くいっておらずポゼッションもそこまでないはず、であれば空転ポゼを利用して迫撃で背中を刺せば勝てると踏んだのだろう。

 

まずシティの鶴翼23ビルドを殺すには4番への攻め筋を切り、偽SB×2を抑えるためにIHやSHがマークする。そうして外へ誘導して奪還する事を考える、セインツは両SBは非常に強烈で抑え込まれていた。トゥヘルも当然、これを採用しようとした。カンテ、コバの2人で偽SBを封じ、2TOPは4番への攻め筋を殺すというシティ対策の定番である。

 

中を切って、外へ誘導し、奪い去っての迫撃で刺す、それがトゥヘルのデザインで532という選択は鶴翼ビルド殺しとしては最適と言える。

 

ペップシティ対策としては、このようにボランチラインの4番+偽SB×2の3名を抑えて中を切って、外へ誘導させる、そして自陣深くに侵入してくる場合はボランチをDFラインに落とすか5バックを初期配置から採用して5レーンを埋めて耐える。というのは今後も増えていくと思う。そしてトゥヘルも同様の手筋を考えていたはずだ。

 

挑んだペップ

 

 『SB』化したSB

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ペップはコアUTポジショナルスキームを全面に押し出す監督であり、その反動としてポジションと紐づけられた役割に一般的な描像とズレが生じる事が少なくない。

 

その影響を最も受けているのはSB。DFラインの両端に位置し、機を見て駆け上がるという描像ではなく、ペップチームのSBはボランチ脇でウイングへのコースを作ったりカウンター対策をする偽SBや、ボトムペンタゴンの強度を上げるCB的な役割が多く駆けていく事が少ない。

 

そして、今季は鶴翼と偽偽SBというスキームに挑戦していて、SBがボランチ化した後に前線のペンタゴンへ加勢するため駆け上がる純正SBの動きも積極的に取り入れようと画策していた。それはチェルシーに対して外攻めが機能不全になった事を受けての改善であり、当然、この試合でも鶴翼をぶつけると見られていた。

 

しかし、チェルシーの532の弱点、届かないSB位置を活かす為にSBがまるで『SB』のようにプレーする事を選んだ。23ボトムのビルドを捨て、41ビルドを選択したり、カンセロだけ上げて疑似3バックでのビルドも見られ、今季の中では異質のビルドの様相を呈していた。

 

 右のコアUT大三角

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ビルドはノーマルでもペップシティの武器はコアUTだ。脅威になりうる相手LWBアロンソの攻撃力を削ぐため、攻撃力のあるマフレズを用いて牽制すると見られていたが、選択されたのはジェズス。これはペップの描いた三角形の頂点としてだった。

 

SBウォーカーはWG化

WGジェズスはIH化

IHベルナルドはSB化

 

コアUTを3種類組み合わせ、SB位置ではベルナルドがボールを持って配球を担った。アロンソに対し旋回大三角で混乱をきたさせ、更に左利きのベルを右後方に位置させ、偽9番フォーデンも含めた多彩なパスコースを相手に提示した。またジェズスの飛び出しによってリュディガーのドライブを牽制し、チェルシーのDFラインを揺さぶった。

 

 左のカンセロスキーム

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お馴染みの6番手攻撃スキームを担うカンセロだが、チェルシーの右を攻める上で欠かせないのが『守衛』カンテ対策だ。デブ神を左IHに置きカンテに意識を与える。実際デブ神がカンテを引きつけてフォーデンをフリーにしたり、カンテの『除き方』には工夫が見られた。

 

そんなカンテを封じるために、今試合ではLCBにラポルテが起用。ケガでの欠場が危ぶまれていたが、出場し、多くの貢献を果たす。ラポルテが持ち上がる事でカンテを引きつけカンセロを上がらせてサイドで数的優位を作り、相手を押し込もうとした。

 

グリとデブ神の共演は大いにチェルシーにとって迷惑だったはずだ。今後は右のウォーカーにも、この加勢スキームを実践させて235の完成へと向かうのかもしれない。

 

あの屈辱は忘れていないぞトゥヘル。外を攻め倒してやるからな。そんな意気込みを強く感じる指し手をトゥヘルにぶつけてきた。

 

 決死の4231外圧縮マンツープレス

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今季のシティのプレスはどこか散漫で組織性に乏しくボールを奪い切れない。しかしルベンとエデルソンの個人能力で解決し続けてきた。当然トゥヘルも研究済みだろうし、そこまでプレスも厳しくないのでは、と見ていたはずだ。しかし今試合でシティは狂気じみたハイプレスを見舞う。

 

ラポ⇒ルカク

ルベン⇒ヴェルナー

ウォーカー⇒アロンソ

カンセロ⇒ジェームズ

デブ神⇒ジョルジーニョ

ベル仏⇒コバチッチ

ロドリ⇒カンテ

グリ⇒アスピリクエタ

ジェズス⇒リュディガー

フォーデン⇒クリステンセン

 

といった具合にデブ神をトップ下とする4231マンツープレスを仕掛けた。受け渡すよりも明確にマーカーを付けて離さないように心掛けていた。

 

更に中へのパスを切りながら外へ誘導すると、サイドへ極端な圧縮を見せて、チェルシーはサイドで呼吸困難に陥った。逆サイドもしっかりと絞り、酸素を求めて前線に蹴るものの、ルベンとラポと狂人GKが強烈な2TOPを抑え込んでいた。ベルとロドリの2ボラと2CBの4人でしっかりと相手2TOPを閉じ込めていた。

 

大耳決勝でのサイド寄せのスピードでLSBが狙い打たれた事へのアンサーとも言える。『絶対にチェルシーの好きにはさせない』という強い意思が込められており、スカイブルーの戦士はチェルシーに何度も何度も食らいつきストレスを与えていた。

 

今回のマンツーは思考停止のマーカー完全固定というわけではなく、守備で無理の利くデブ神やベル仏はマーカーを柔軟に切り替えて局面ごとで対応を変更しており、マークする事を目的とするのではなく、ボールを有効な形で前進させないための動きを実施していた。特にベルナルドの献身は狂気の沙汰だった。

 

③熱狂と騒乱の中で

 

外されたトゥヘル

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事前のスカウティングで今季のシティの偽SB×2によるサイド攻撃の再整備、ボランチラインへ注目を集めてからの偽偽SBスキーム発動を見越し、マウントの不在も考慮しての532を選択するも、ペップシティは純正SBを選択し、混乱が生じた。

 

23ペンタビルドのシティに対して2TOPと3センターのペンタゴンで中を切る予定が、ボランチラインが4番しかおらず、面食らったはずだ。トゥヘルからすると『え、ペップさん純正SBもう使わない方向だったんじゃ。。』といったところか。

 

532では純正SB位置の選手を捕まえられない構造的な問題に苦しんだ。SBが深くに留まられるとIHの飛び出しでの対応は中央に隙が出来てしまうリスクがあるのとWBが飛び出すとグリやジェズスをフリーにするため飛び出せない。

 

2TOPの前プレもGK+2CBまたは2CB+4番によって数的優位で剥がされ前進されてしまうかSBにパスされ、安全にボールが循環していった。

 

シティの『SB』にいるのはカンセロとベルナルドという屈指のテクニシャンであり、トップペンタゴンへ向け自在にパスを出すことが出来るため余計に厄介であった。

 

シティにとってはケガでギュンの飛び出しが使えなかったのは痛かったが、ジェズスの裏抜け、偽9番フォーデンの引く動きによるチアゴを誘引してのデブ神アタックなど多彩な攻め手でチェルシーに混乱を与えた。

 

アロンソを上げて、こちらもSBポジに中盤選手と、コバチを変換させるも、そこにベルナルドが追いかけて来る。マンツーで絶対離さない。全力の強度でチェルシーから酸素を奪う。

 

中は切られているので、外へボールを回すと、そこには6人から7人ものスカイブルーの戦士がサイドへの圧縮で襲い掛かってくる。前線に逃がすも、シティDFによって封殺される。

 

シティの『SB』から放たれる左右の攻撃に苦しみ、やっとこさ奪ったらマンツー4231で圧迫され外へ逃がすと酸欠へと追いやられる。前線に渡しても残念そこはルベン神、裏へ蹴っても残念そこは狂人、シティの奇襲が炸裂する。

 

招かれざるカオス

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後半に入り、トゥヘル城が揺らぎ始める。それでもチアゴ神とメンディーの質の力で防衛線戦を保ち続けるも、セットプレーの流れからカンセロのミドル、そのもつれの中でジェズスのシュートがチェルシーの側からすると不運な形でネットへ吸い込まれた。

 

それでもシティは追加点を目指し、愚直に殴り続ける。ルカクのような怪物はおらずとも、計画したトゥヘル城陥落計画を淡々と進めていく。

 

チェルシーも必死に耐え忍び、少ない好機を2TOPの質の力で最終生産へと導けるように抵抗する。『次の1点』シティのゴールは明確。一方トゥヘルは考える。負けても甚大なダメージにはならない。532で受けて迫撃もアリだ。それでも、トゥヘルという男はペップ以上に、『サッカーで負けるのが大嫌い』な人間なのだ。より勝利に近づくための手を打った。

 

カンテに変えてハヴァーツを投入。有機的に違いを生み出すハヴァーツを入れて343気味に立ち位置を変えて反撃しようとする。ホームで易々と勝ち点3と持って帰られたくはないのは勿論。マンツー疲れで強度が止んだところで質で殴り合えばルカクのいるチェルシーなら勝てる。

 

そしてシティは強度が揺らぎ始める。4231でブロックを組むシティにトゥヘルがカオスを提供する。オープンな打ち合いが始まり、DFとGKの献身をFWの破壊力が上回るかどうかという最終生産戦争が開戦する。しかし、このカオス状況は両者リスクもある。というのも、このチームは似ている。秩序化された無秩序の創出、そして4番を軸として組立、である。

 

故に4番であるジョルジーニョとロドリはカオス空間においてコマンド力の低下と孤立を招いてしまうジョルジーニョに変えてチークを投入、シティもロドリのプロテクトとしてフォーデンに変えてジーニョ、疲労の見えたグリに変えてスタリンを投入。大耳決勝でサイドで沈黙したスタリンに勝ち試合を経験させ大耳決勝の屈辱をチーム全員で乗り越えるんだというペップからのメッセージにも思える。

 

そしてカオスが試合を支配し、混沌が時間を奪い、濃厚な90分の聖戦はシティのウノゼロリベンジで幕を閉じた。

 

④持つ/持たざる

 

青組の事情

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トゥヘルにとっては敗戦はそこまで痛くはないはずだ。むしろシティに感謝している部分も皮肉でもなくあるはずだ。今試合はジェームズの負傷退場というアクシデントに見舞われマウントも使えなかったし、そういう意味でもペップシティの鶴翼を包み込むような532は悪くない選択だったし、奇襲を不運な1点に抑えたところを見ても、チェルシーは素晴らしいチームと言えよう。フルメンバーで出来れば戦いたかったところであり、シティズンの自分としては最高峰のチェルシーとの試合が見たかったので、つくづくケガとは憎いものである。

 

現在進行形の欧州王者はルカクという最終生産者を迎え入れ、可愛げのへったくれもない完備なチームに破壊兵器を導入した。

 

開幕当初から絶大なる存在感、圧倒的なフィジカル、単純な足元パス一つから生産過程へと『引きずり倒す』ウルトラマン(超人)。ただ今試合では、まだ生産過程が不十分であることを露呈した。

 

ルカクはフィジカル馬鹿ではない。聡明でやるべき事を理解した上でプレー出来る。特にカオス空間でスペース目掛けて突進したり周囲と連携しながらネットを揺らすのは得意な選手のはずだ。問題は、それがジョルジーニョを中心とする静的なスキームに落とし込めるのか、という事だ。

 

昨季のチェルシーは持たざるものだった。だからこそ守備を5バックで固めながら、相手の急所を見定め、トゥヘルの修正力で最適手筋を粛々と実施して大耳王者になった。勿論運もあったが最終生産者なきチームで大耳を獲ったのは快挙に等しく、お世辞抜きに全世界の模範になりうる素晴らしい集団だ。

 

今試合もマウントがいれば違ったはずで、『安全地帯』となったSBへの応手、ルカクの組織への落とし込み、布陣の可変性の再考、様々な課題を、この早い時期に敗戦という分かりやすい形で手に入れたのはとても大きいはず。このチームはもっと強くなるはずだ。後期のバウトも期待したいし、何よりトゥヘルは、必ず答えを見つけるはずだ。

 

ウルトラマンルカクスペシウム光線を放てるようになった時、チェルシーの黄金期は強固なものになるだろう。完備性のあるチームと怪物の共存。どのような帰着を見せるのか、注目したいところだ。

 

水色組の事情

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4連敗は絶対嫌、それがペップの思いだったのだろう。この試合、オーソドックスな433に見えて、その実はマンツーハイプレスとサイド殺し、コアUT大三角、23ビルドの放棄と今季の中では飛びぬけて異様な策を打ったところにチェルシーへの並々ならなぬ執念が伝わる。

 

偽9番フォーデンは守備強度の面で大いに活躍したものの、攻撃面での輝きは限定的であったように見えた。おそらく、ペップシティの今季の最終系は2323鶴翼の陣の完成であり、ウォーカーの6番手スキームの導入、そして偽9番フォーデンの最終生産者への覚醒が到達点に思える。

 

この試合、チェルシーもそうだが、シティも『先んじた』感が否めない。ルカクをベンチに入れてスーパーサブとして使う方法もあったが、ルカクを入れてビッグクラブ相手で完備的な組織としての現状を見てみたかったのかもしれないが、まだ早い。そしてフォーデンもそうだ。今はIHを中心に中盤の『景色』に慣らす時期であり、年明けくらいから、偽9番でネオメッシにするのが理想だ。

 

今試合、チェルシーを奇襲で追い込んだにも関わらず、セットプレーの流れからの1点に終わったのは、ひとえに最終生産者がいない事の証左である。勿論、最終生産者がいれば必ず勝つとは言わない。しかし、今季のシティは鶴翼で我慢強く殴って、仮に手詰まりになれば、打つ手はなくなる。困った時に誰を目掛けて、どのようにプレーすればよいのか明確ではない

 

生産者を持つ事、この強みと弱み、その両方を今試合の両チームからは感じる。今回はシティに軍配が上がった。しかし、ルカクの一発に沈む可能性も十分にあった。後ろの質で誤魔化せてはいたが、やはり決める選手は必要

 

40分のジェズスの素晴らしい胸トラからの宇宙開発、60分のカンセロのクロスの絶好機にデブ神がペナ内にいるのに無視してのジェズスのシュートミス(チアゴ神ブロック)、この後のペップのペットボトルを投げつけて悔しがる態度、デブ神の呆れ両手を軽く上げての落胆。何度も繰り返された最終生産過程の失敗

 

チェルシーやユナイテッド、トッテナムのような武器がない。1人でリーグ戦25ゴールを決めるような選手はいないから、チーム全員でやっていかなければならない。これが今シーズンの課題なんだ 』

 

『こういった選手は獲得するのが最も難しい。長年セルヒオがいてくれたが、残念ながらこの1年半はケガであまり起用できなかった。だが良い意味で、彼がいなくても生き残ることができた。我々のプレースタイルにおいてだ』

 

私のキャリアでは常にストライカーがいた。GKと同じように、ストライカーは最大のスペシャリストだ。私ではなくクラブのために、次の年にはストライカーが必要だ。それはクラブも認識しているだろう

 

 

ペップをCLを取るために招聘された指揮官、シティズンの一部はそう思っているらしいがペップを10数年見続けてきて思うが、ペップは大耳を獲るというよりも、最適手筋を打ち続けるポジショナルプレーの伝道師であり、リーグマスターでしかなく、大耳を獲る事に長けた監督とは思わない。

 

大耳はリーグとは明らかに異なる。最大値で殴る競技だ。そこで必要なのは最終生産過程の確立である。ペップやモウ、カルロが大耳を獲ったのではない。

 

大耳を獲ったのはドログバ、メッシ、ロナウド、サラー、レバ、といった最終生産者を活かす最適スキームを考案したチームである。

 

最終生産者なきチームでも大耳は獲れる、トゥヘルのように、しかし確度を考えると、やはり決める人間は必須だ。生産者なき集団がシティのサッカーだと言われると純正シティズンでない僕は閉口するしかないのも、また事実なのであるが。

 

今季は走り倒して、相手の嫌がる事を全力で何度も繰り返すしかない。デブ神の悲しげな顔、ペップの怒りと落胆、ストレスフルな景色を眺めながら、戦うしかない。ただ、このやり方は心身共に消費が激しい。ルベンやベルが負傷離脱すれば厳しくもなる。

 

サッカーに答えはない。選んだものを正答に変えるプロセスこそサッカーなのだろう。シティの選ぶ道が正解へと変わる可能性もゼロではない、そういった希望を与えてくれたのが、今試合なのかもしれない。その意味で、最高の模範相手に勝ち切った、この勝利は勝ち点3以上の価値があるはずだ

 

 

⑤奇策なし?

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シティがチェルシーからの『宿題』にしっかりとアンサーを提示した今試合。球界屈指の名指揮官2人は勿論の事、両チームの選手たちに万雷の拍手を送りたい。特にシティは因縁のチェルシー戦に全精力をぶつけてきた。ペップの施した策はトゥヘルにとっても興味深い苦しみとして受容されただろう。

 

22のパラメータによる美しい多元連立方程式が名もなき土曜の夜を大いに楽しい時間にした事は事実。ただ、その試合を受けて興味深い一部のシティズンの反応があったので最後に触れておきたい。

 

『今回のペップは奇策をしなかったから勝てた』

 

今試合、23ビルドの放棄に加え純正SBの導入、偽9番フォーデン起用、4231マンツー、サイドへの極端な圧縮、個人的には対チェルシーのための『通常ではやらなそうな』奇策のオンパレードに思えるのだが、これが奇策ではなかった、というのはどういう事なのだろうか。自分は疑問を禁じ得ない。

 

勝てば官軍、負ければ奇策ハゲ、なのだろうか。今回の勝利はペップの講じた策がハマった部分は大きく、特にハイプレスは今季でも珍しいくらい過激だったはずだ。形勢も不利だったため、何かしらの策は打つとは思っていたが、ここまで奇策を並べ倒すとは自分も考えていなかったので面食らったのが正直なところである。

 

戦術理解の低さを糾弾したいわけではない。純粋に疑問を感じてしまったのだ。奇策と人が感じる時、それは一体、何を基準に判断されるのだろうか。

 

定義次第ではペップは毎試合奇策をしていることになるので、シティは毎試合奇策で勝ってるし奇策で負けてることになり、奇策とは何か、を改めて定義づけする必要があるのかもしれない。サッカー界の偽○○も同様だろう。定義付けないから、様々な言葉を巡り、様々な議論上の問題が起きているのかもしれない。

 

リチャード・P・ファインマンという天才物理学者がいる。とてもユニークで知られた氏は氏独特の言語と言い回しと表現で学問体系を理解していたそうだ。そして大学入学後に同級生と議論すると噛み合わない。それはそのはずで共通言語がないからだ。体系について述べる時に重要なのは『定義』である。その事に気づいた初めての瞬間だったそうだ。

 

ペップサッカーは多層的で見る人間によって様々な感想や考えを抱かせてしまうのか、それは高速化していく現代サッカーがもたらす新たな分断なのか、自分には分からないし、自分のアングルも正しいかは正直自信はない。

 

僕は疑いや不確かさを持ったまま、そして答えを知らないまま生きられるんだ。間違ってるかもしれない答えを持つより、答えを知らないで生きるほうがよっぽど面白いんだよ。               

 

氏の考案したファインマンダイアグラムを描きながら物理学の研究を続ける傍らでフットボールの行く末を眺め続けていたい。そう思わせるに確かな90分が、永劫回帰なる週末に存在した。交錯した2つの集団の未来に幸多からん事を祈るばかりである。

鶴の翼を広げて(ペップシティ21/22選手名鑑風)

 

第1部 選手名鑑

背番号 名前 年齢 契約満了年の順に記述

S班(絶対軸)

 

17 神 デブライネ(30) 2025

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形容する言葉を失う絶対的選手。カウンターに転じた際の高速ドライブからの圧倒的コマンド力で急所を刺す現代最高MF。最終生産性を兼ね備えていればバロンドールを毎年獲れるほどのメガクラック。

 

被ファールも少なくなく、年齢的にも欠場が増え始めている。グリ加入でIH要員が揃う今季は4番に挑戦してほしい。ペップが志向するトップペンタゴンへ加勢する6番手として『動くピボーテという新たな描像を示すか。カンセロ以外のボランチラインの選手は誰でも6番手として前線に駆け上がれるスキームを実装するのでは、と自分は見ている。神でいられる時間も減りつつある中で、ジェラードのようなキャリア晩年をシティで送れる事を祈りたい。

 

3 救世主 ルベン(24) 2027

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昨季加入し、442での退却守備の強度向上に貢献。CBの絶対軸としてチームに安定感を与え、コーチングや振る舞いで隣のストーンズの再生にも小さくない貢献を果たしキャプテンシーも発揮。4番に安定的スペースを与えるための自陣側に相手FWを引かせる誘導など守備攻撃両面においても絶対的な選手。引退まで囲いたい。

 

ケガされると本当に本当に困るので無理のない範囲で運用していきたいのだが、いるだけで安心感が全く異なるので無事にシーズンを過ごせる事を願うのみ。UT性実験を実施するか微妙だが、改造したとするとどうなるか、弄って変になるのが怖いからステイしているのかも。

 

2 一家に一台 ウォーカー(31) 2024

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ボトムペンタゴンの強靭化を任されて今季で5年目。スパーズ時代の面影も薄れ、すっかり守備的RBの第一人者。1VS1は抜群でワールドクラスのアタッカーでもしっかりと対応可能。

 

今季は独力突破性の薄いウイングの補助を目的とする純正SBとしての6番目の攻撃者の役割も担う可能性があり、更なる負荷がかかる、本人にとっても良い影響を及ぼすと良いのだが。左利きのウォーカーが欲しい。。9番がいないのであれば、守り切れる屈強なDFラインを築きたいので、左右互換版ウォーカーが欲しくてたまらない。

 

31 狂人 エデルソン(28) 2026

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恐怖を感じないモンスターポルテーロ。広大な後方のカバーに加えディストリビューションでも貢献するペップの求める最適GK。ペップGKの最適素養は足元というよりも失敗しても平気な顔で繋げる不動心。エラーはどうしても起こりやすいのでメンタルが結構大事になる。

 

心が壊れてる系の選手は突然退団希望を出してきたりするので、出来るだけ早くに契約延長で囲った方が良い。この類の選手は希少種なので、後釜は皆無に近い可能性もあるため契約延長は絶対急ぐべきと思っていたら無事に新契約更新。今季はCBよりも前に出てのプレーが見られ、リベロ型GKの更なる進化に期待がかかる。

 

20 岐路に立つ賢者 ベルナルド(27) 2025

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デブ神の離脱後、最適配置の理解と実践に加え偽9番も嫌な顔せずこなす。スペイン方面への移籍を画策しているそうだが、なんとしても残留させるべきスーパーな選手。

 

ただ実際一年で出て行くなら、左SBをやらせてみるのもアリ。ボトムからの加勢要員としての役割をこなす能力は十分あるはず。言い方は悪いが来季シティにいないとするなら『使い潰す』という判断もある。本当に申し訳ないが、こんなスーパーなUTは中々いないのだ。

 

 

A班(レギュラー)

 

47 運命の子 フォーデン(21) 2024

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ヘソ前すべてをこなすUTアタッカーにして、質で叩けるシティが誇るワールドクラスのプロスペクト。気になるのは耐久性であり、今後は悪質なファールも増えそうなのでケガにだけは十分気を付けて欲しい。

 

個人的今季の最大のキーマン。最終生産者の獲得に失敗した今、9番ポジで質的優位で押せる最高の選手だ。グリが左でやれるなら真ん中でチームに違いをもたらせる、シティのメッシになって欲しい。来季の9番到来も考慮しIHでのプレーにもチャレンジしており、前線5レーンどこでもプレー可能な素養の完全開花に期待したい。

 

5 頼れる壁へ ストーンズ(27) 2026

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数年、良かったり悪かったりを繰り返していたが、ルベン到来で昨季は見違えるように安定感を発揮した。スペ気味ではないのだが、どうしても回復速度が遅く谷間の先発を必要とする。しっかり休めばしっかり働くので使い方次第か。

 

契約も無事延長し、国産CBとして昨季に続く活躍が求められる。メンディの離脱で谷間先発ラポルテが駆り出され休養が少なくなり苦しむ事は避けたいところ。

 

26 覚醒の逆足レフティ マフレズ(30) 2023

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昨季は右翼で絶大なる存在感を発揮し、ビッグマッチでも得点に絡んだりするなど単独で複数の選択肢を提示し、最適な選択で後出しジャンケンできるようになった。スターリングが左で苦しむのと対照的に右は充実のシーズンだった。

 

レスターでは中央でもプレーしており、今季のシティにとっても偽9で降りて選択肢を提示する役割を任される可能性もある。それがハマればスターリングを右でも使えるので、偽9番をこなせるか、チームにとって大きな影響を及ぼす。9番獲得失敗によりジェズスのRWG起用による大外to大外アタックからの得点源として起用が増える可能性もある。更なるレベルアップでサラーのような圧倒的な選手になって欲しいところ。

 

25 安全装置 フェルナンジーニョ(36) 2022

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周囲に人がいなくなるとコマンド力が減退するロドリとは異なり、いつ何時も慌てずいるべきところへ顔を出す古参のマルチロール。コアUTとして多大な貢献を果たし、契約延長を勝ち取った。もうワンテンポ早くパスを出せたらと思う場面が少なくない事が唯一の文句か。フィジカル的にも加齢の影響は来るはずだ。残り少ないシティでの在籍期間がより良いものになると良いのだが。

 

昨季チェルシー戦で見せたゼロIHのようなシステムを用いるならボランチラインで無人と化す修羅で最適なカバーが出来る唯一のボランチになる。またメンディの穴を埋めるべく左ラテラルにも駆り出されることも考えられ、忙しい晩年を送ってもらうかもしれない。

 

8 突撃屋 ギュンドガン(30) 2023

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シティ6年目を迎えるトルコ系ドイツ人司令塔は昨季、カンセロロールからの最終生産者としてブレイク。平均点のプレーを繰り返しながらも、どこか期待に応えきれていない感のあった男が『スタメン』として認められたシーズンだった。

 

今季もIHを中心に飛び出しての最終生産も求められるだろうし、ケガなくシティの中盤選手としてのプレーが求められる。絶妙に気が利いて、数少ない最終生産をもたらせる選手なので、IHとして円熟味の増したプレーに期待したい。

 

16 絶対的4番へ ロドリ(25) 2024

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勝負の2年目に輝きを放ち正ピボーテとなった。周囲の選択肢の数で判断力が左右されてしまい、どうしても繋ぐ判断をしてしまうのは玉に瑕。絶対的な存在ではない事が大耳決勝でのスタメン外しに見て取れる。

 

ジーニョが来季退団で新4番獲得に動き始める可能性もあり、今季のパフォーマンスはシティでのキャリアに大きく響く可能性もある。4番には人一倍厳しいペップを満足させるようなプレーが求められる。スタメンクラスでも平気でポジションを奪われるのはラポルテを見れば明らかだ。今季は正念場になるだろう。

 

14 最高の3番手 ラポルテ(27) 2025

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5バック相手で得意の左足からのフィードの有用性が薄れ、大事な試合でミスをしてしまいがちな事とルベン到来で3番手に降格。ストーンズが回復に時間がかかるので、それなりに出場出来るが本人は移籍願望もあり来季出て行くか

 

数年前のスタメンがカップ戦やスタメン欠場時に出て来るのだから資本主義とは本当に恐ろしいのだが、3番手としては最高であるが遅かれ早かれ移籍はするはずで、アケの第3CBとしての育成にも時間を割くべき。左SBでの出場はあっても6番手としての加勢は厳しく、限定的になりそう。

 

27 6番目の攻撃者 カンセロ(27) 2025

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攻撃センスはあるが守備能力に不安を抱える攻撃型ラテラルは昨季にボトムからトップへの加勢する6番目の攻撃者としてカンセロロールと呼ばれ一躍時の人に。SBからぐんぐん上がっていき最後はギュンが決めるというパターンがハマりスタメンの試合も増えたが後半は守備面の厳しさからベンチが増えた。

 

今季はメンディの離脱で左SBでのプレーも増えるだろう。もうカンセロロールは見切られてる節もあるが、その攻撃センスは随所で光るはず。課題の守備面はリスクマネジメントには気を付けてもらいたい。前線に6枚を投下する攻撃のペップシティの新機軸のプロトタイプだが、このスタイルを偽SBにも求めそうな今季、『先輩』として、更なる活躍に期待したい。

 

10 一億£の男 グリーリッシュ(25) 2027

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ペップシティ今季唯一の補強選手。デブ神の負担軽減、国産MFとしての英国のバイエルン化のための補強、悩めるスターリング復活の為の黒子。移籍金額で外野が騒ぐかもしれないが、早期にシティに馴染んでおり活躍に期待がもてそう。

 

ヘソ前全てこなせ、偽9番へのトライもあるか。国産コアUTとして初年度からのフル稼働が望まれる。安心してデブライネを休ませられるかは、この男にかかっている。ルベンがストーンズを一人前にしたようにグリもスターリング復活貢献に期待。WGも出来るIHとしてデブ神をビッグマッチに注力させるべく、貴重な選手となる。是非怪我無く初年度を乗り越えて欲しい。

 

 

 

B班(準スタメン)

 

7 復権の翼 スターリング(26) 2023

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昨季は右翼マフレズがハマり、シルバも退団し、苦手の左で孤立し放出要員とも噂されたスターリングだが、EUROでも見せたように偽翼的に中に入っての仕事は出来、潰しはききそうな気配は感じさせた。

 

今季はSBのハイブリッド化で独力突破出来ないウイングの補助としてSBが上がるスキームに挑戦しており左翼スターリングは中での仕事が出来、周囲も選択肢を提示するため昨季よりは良くなるのでは。偽9番マフレズがハマれば右復帰も見込める。大事な国産選手、今季こそ主力としてのフル稼働を。メンディの離脱が厳しくなりそうだが、期待は小さくない。IHやCFといったポジションで新境地を開くか、シティのレジェンドになるかどうかの瀬戸際にいるのかもしれない。

 

21 勝負の2年目 フェラン(21) 2025

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獲得初年度はサイドでの突破が上手くいかずベンチ要員となった。ペップの最適配置理論にも苦しんだのかもしれない。しかし実力がある事はリーガでのハットトリックで証明されており、『先人』同様に2年目でのブレイクに期待がかかる。

 

偽9番に挑戦しているが、23ボトムからのパスへの選択肢づくりとしての引く動きに再現性がなく難しいかもしれない。サイドでの『横断』性はあるとはいえ、やはり得点に絡む動きが欲しいところだ。バーディーの様なムービング型の9番が着地点になりそう。LWGでもプレー出来、最終生産も可能なビジャのような選手になってくれるとありがたい。そうなると来季9番獲得後も共存の道が見えてくるはずだ。

 

9 変化 ジェズス(24) 2023

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昨季に限らず最終生産性がなく、前線のコアUTだが、いかんせん得点が獲れず使いどころも難しくベンチが増えてきており、ケイン獲得に伴い放出も噂された。

 

代表でも9番以外のチャンスメイクの部分で活躍しており、今季序盤もサイドで躍動する姿を見せた。特に今季のSBのハイブリッド化による加勢スキームは右ウイングでの起用時に味方するはずだ。新境地サイドで輝けるか、勝負の一年になる。

 

11 偶然を味方に ジンチェンコ(24) 2024

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昨季は前半は出番が少なく、フィジカル系のメンディ、技巧派のカンセロ、と並ぶと個性が弱く使いずらかったものの、徐々に定位置を掴み取った。守備面でも攻撃面でも一番バランスに優れ、そつなくこなしていた。

 

メンディほど強くもなくカンセロほど上手くもないがベターなLBとしては及第点を出す。出来れば攻め上がりの迫力を身に着けるか、フィジカルで競り負けない強度が欲しいところ。ベンチに置くUTとしては申し分ないがコアにはなりえないというのが現状か。メンディ離脱で空いたLBに入り込めるか。

 

6 一つ上へ アケ(26) 2025

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第4CB兼第3LBという保険の選手なのだが、今季はLBメンディが離脱し、来季はラポルテの退団が現実味を帯びており、保険の保険から保険への格上げが望まれる。テクニック面と理解度は高いがフィジカル面が心配。良すぎても移籍願望を抱く可能性もあるので『第3CB』というのも中々難しい。責任感の強さがコマンド力を低下させてる節もあるので精神的な落ち着きがカギを握るかもしれない。

 

13 貴重なバックアッパー ステフェン(26) 2023

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第2GKというのは当人にとっても球団にとっても難しい。良すぎると他球団に狙われるし悪すぎるとスタメンGKの保険としても心配になる。ステフェンは、この絶妙なレベルをもっている選手で悪くはないがエデルソンを脅かすことはないと断言できる。

 

そもそもシティのGKに求められる素養は特殊でエラーが発生する事も少なくない。そのうえで切り替えて何食わぬ顔でビルドアップしなくてはならないし難しいところだ。

 

C班(有望株)

 

48 未来の主砲 デラップ(18) 2026

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EDSの中で最も将来を嘱望される男。9番獲得未遂に終わった事で純正9番として出番は必ずやってくるはず。今季の鶴翼の陣において偽9番的縦断からのコマンド力の安定とターンして背負えるならスタメンも見えてくるはず

 

現状カップ戦要員で、スペースを突く動きやボックスの中での動きに特徴があるもののトップレベルの圧力下における技術低下度合いは未知数。両足どちらでもシュートを打つことに苦手意識はなさそう。収める力を9番で示せるなら未来は明るくなるはずだ。期待したい。

 

 

53 技巧派WG エドジー(18)

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デラップと同様にポジションが空いている事から可能性はある。右が本職で左に苦戦するスターリングに代わって出場する機会はあるはずで早速CSではスタメン出場していた。パスする際は右で蹴っているようだが、シュートの際は両足を使う事に抵抗はあまり感じられず、テクニックでヌルヌルぬいたりシザースを仕掛けたりするタイプ。

 

爆速で突破するというよりもヌルヌル前進したり『抜く』より『運ぶ』事の方が得意なように見えた。爆速でぶち抜けるならトップ起用もあると思うが、現状では厳しいか。CSでは途中で疲労から下がったようにスタミナ面も課題かもしれない。

 

90 若き6番 ラビア(17) 2023

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ジーニョの後継として見られているようだ。技巧に自信があるのか、ボールを低い位置で持っても即座に放さず少し保持してから動くことが多い。フィジカル的にもまだまだな感もあり、ジーニョというよりはスケールの小さいヤヤのように見える。

 

ラビアにとって不幸なのは世界一4番にうるさい男が監督を務めている事だ。バイエルン時代はホイベルグ、ガウディーノは期待されるも落とされたように4番としてペップチームで生き残るのは難しい。何かに特化するかSBへのUT性を見せるなりしないと厳しいかもしれない。キミッヒが最終的にRBとCBのUTとして使われるに至ったようにラビアもUTで活路を見いだせると面白い。

 

80 UT系MF パーマー(19)

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次のフォーデンとして期待のかかるパーマー(パルマー派もいるが)。最適配置を理解した動きでWGとIHの両方に対応し、長い脚を使ってのボールハントも出来、選択も間違える事は少なく190cm近い身長もあり、トップ帯同を許可されたのも納得がいく。

 

簡単に飛び込んで交わされてしまったりするので怖いのだが、個人的に4番起用を見てみたい選手。インテリジェンスがあり長い脚で前線の選手だったブスケツと被る部分もある。本人はアタッカー気質かもしれないが試して欲しい。チャビやイニがカンテラで4番を経験して成長したようにユース年代で『失敗が許される時期』に経験させたい。

 

89 左利きの魔法使い マカティ(18) 2023

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シルバを彷彿とさせる選手で、IHを主に左足から正確なパスを配球する。サイズはそこまでだが、献身的なチェイスも行っており守備意識は高い。ドリブルは抜くより運ぶドライブが中心でハーフスペースに侵入しての高いコマンド力が持ち味

 

ただ現状のシティにはハーフスペースでプレーできる選手で溢れかえっておりトップで立場を確立するのは難しいかもしれない。ベルナルドをお手本に守備面でもう少し強さを発揮できると良いのだが。

 

 

バルサは監督がトップがペップ、カンテラエンリケの時にプロスペクトで溢れていた。ペドロとブスケツという『成功例』に続けとばかりに、アゴとラファのアルカンタラ兄弟やバルトラ、ムニエサ、フォンタスのセントラル陣、ラテラルもモントーヤとグリマルドは将来を嘱望されていて、中盤のサンペール、ロベルト、前線ではテージョ、クエンカ、そして神童デウロフェウがいた。

 

今、バルサでプレーしているのは、ロベルトのみ。こんな事を誰が予想したろうか。それほど若手の未来とは不確定であるからこそ夢がある。シティのプロスペクト達も良い未来が待っていると期待したい。

 

 

 

第2部 展望と考察

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バルサでポジショナルプレーを極め、ドイツ『留学』でダブルペンタゴンシステムの可能性を探り、旧友の均したマンチェスターにペップは降臨して今季で6年目になる。

 

『試運転』だった初年度を除き、2年目から本格化したペップシティは5年目までの4年間で325システム(5レーンを攻め落とすトップペンタゴンと5レーンを防衛するボトムペンタゴンからなるダブルペンタゴンシステム)をインストールし、迫撃による『エラー』にも対処しながら国内で圧倒的な存在感を放った

 

大耳では、判定に泣かされたり、打つ手が空転したりと国内とは対照的に苦しんだ。その理由はシンプルで、最終生産者の不在である。

 

そしてボトムの強靭化を任されたメンディの低耐久力である。これによりLBは偽SB化可能なUTのデルフやジンチェンコやカンセロが駆り出され、守備面での穴となっている。

 

絶対的最終生産者不在と絶対的LBの欠如、これはペップシティ未解決問題であり、また5レーン封鎖によるトップペンタの機能不全の問題も浮上した。これらに対しどう向き合うか、一つ一つ見ていこう。

 

(1)最終生産者不在問題

 

バイタルでメッシにフリーでボールを持たせる、レバミュラにサイドからハイクロス爆撃を行う。これがペップチームの必殺技。しかしシティでは必殺技を見つけられずにいる。今まではスペシウム光線で怪獣を倒していたのに、シティではひたすら怪獣が死ぬまで殴り続けるだけだ。

 

アグエロは時に理不尽な得点もあげるが、メッシとレバと比べると理不尽生産に厳しく、また若い頃から耐久力には不安があった。大耳に関して言えば、ペップシティ4年目は決勝Tは全欠場、昨季もほぼ出場出来なかった。今季もケガで移籍先のバルサでのデビューも遅れている。

 

オーバメヤン、サンチェス、常に生産者候補の名前が報じられペップ自身も絶対的な得点源を求めていた。マドリーと結ばれたムバッペ、ライオラの息のかかるハーランドと難しいターゲットに苦しみながら、念願の最終生産者としてケインに狙いを定めた。

 

しかし、レビーの徹底抗戦にあい失敗した。ロナウド、メッシは、守備をしない『脱税者』に苦手意識のあるペップがむべなく拒否。最終生産者不在は6年目に突入する。

 

絶対的最終生産過程の不在が不安を駆り立て、奇策的な応手を『取らされ』一発勝負に沈む負のサイクルから抜け出る為にも最終生産者は必要。そう何度も自分は主張してきた。ペップチームの最大値は最終生産者で決まる。無慈悲な生産者かコアUTを獲得すべきだ

 

一発勝負のビッグマッチ、大耳決勝Tにおいては、最大値こそがモノを言う。分かっていても止められない理不尽な最終生産を持ったチームが確度高く大耳王者になってきた、ここ10数年を考えると、やはり絶対的な最終生産過程を担える選手は必要だ。

 

戦術には限界がある。シメオネ、コンテが大耳を獲れない所を見ても、絶対的な点取り屋がいなければ戦術でカバーできる限界はどうしてもある。現状でも可能性はあるが確率は高くない。

 

残された手はフォーデンの覚醒に賭けるのみ。ギュンゴールには今季も期待できるだろうが目くらましに過ぎず、フェランもどこまで出来るか未知数。現状では絶対的最終生産者がいないという状況に変化なく、天に祈るばかり。

 

しかし合理的にフットボールという偶発性の強い競技における安定的勝利の実現を目指すペップは別の手、昨季のカンセロロールのような妙手を腹案として持っている、それが今季の目玉布陣である鶴翼の陣である。

 

(2)鶴翼の陣と偽偽SB

 

ペップシティは昨季から新たなフェーズに入った。ペンタ対策としてのレーン埋めへの応手という第2期へ突入した。ボトムからトップに加勢する6番目の攻撃手を進撃させるというカンセロロールが放たれ、この6番目攻撃手スキームは今季も継続されると考えられる。

 

カンセロは初期配置のSBとしては守備面に不安を抱え、加勢する6番手というスキームは格上相手では棚上げ。そして昨季大耳決勝におけるサイド封鎖への応手という『宿題』への回答としての新たな6番手スキーム、それこそが235、かつてのVフォーメーションであり、鶴翼の陣である。

 

偽SB×2と4番の3枚でボランチラインを形成するビルドが採用され、4番と偽SB一人が相手FWを引きつけて、DFラインから空いた偽SBにパスが入ると、トップペンタのIHが動きを付けて相手を引きつけサイドへの攻め筋を作る。そして鶴翼は変形する。偽SBからIH、WGにボールが入ると、前線へと駆け上がり6番目の攻撃者へと変貌する。これを自分は偽偽SBと呼んでいる。独力突破性の低いWGの補助にもなりながら、前線へ圧力をかけるラップを内外で行う。

 

偽偽SBは内側に絞る偽SBの位置から純正SBの挙動も要求するもので、こなせる選手はそういない。フィジカル/テクニックという先天的なものが要求される。そしてペップシティにおける数少ない『伸びしろ』ともいえる選手が存在する。それがメンディ。

 

絶対的なLBのレギュラー不足、それでもペップは主だった補強に動かなかった。それはメンディを信じているからだ。WGもこなせそうな突破力、圧倒的なフィジカル、そして破壊的な左足、スペックは最高峰で覚醒すれば歴史的なLBも夢ではない

 

偽偽SBをこなせる可能性のある数少ないメンディに最適配置を叩きこみ、左翼で沈むスターリングを再生させる。そんな未来をペップは見ていたのかもしれない。しかし、これは夢と散る。メンディはシティでプレーする事は絶望的となった。あえて理由については書かない。

 

ウォーカーは偽SBとして235の機能性向上に貢献しているが、偽偽まで出来るかは未知数であり、左もカンセロという格上相手で使いづらい選手しか適合していない。ジンチェンコがこなせるかは微妙で、ベルナルドの転用も実施されるかもしれない。

 

235は前方に多くの駒を放射状に並べる。そしてボランチラインからの配球においてサイドでのコンビネーションの偽偽SBギミックに加え、9番には収められるタイプが求められ、降りてきて収めて最適コマンドで前方へ投げ放つ役割が求められる。フェランが出来るか微妙で、マフレズ、グリ、デラップあたりで出来そうな選手を探索していくしかないかもしれない。

 

そして、6枚を攻めに回す布陣は反転攻勢に対しての防御力の低下を招く。奪還までを想定する『読みの深さ』を攻撃時において意識する必要がある。

 

(3)格下虐殺機関になる恐れ

 

今季のシティは未知数があまりにも多すぎる

 

フォーデンの最終生産者化

収める9番の選定完了

鶴翼のリスクマネジメント

 

 

これらが機能して初めて今季の勝機が出て来る。偽偽SBをこなすには手駒のレベルに問題がある。自分の推測であるが今季、偽偽はリスクの方が高いと考えている。

 

鶴翼は反転攻勢への脆弱性を持つ。偽偽SBはリスクが増すばかりで、特に少数での絶対的最終生産過程を持つチームに対してはボトムは容易に破壊されるはずだ。PSGやリバプール、そしてUTDに破壊される可能性が高い。

 

偽偽SBは一端棚上げがベターだろう。単騎突破可能なWGが不在である事を考えると鶴翼を使いたいところだが、同格以上にはリスクが大きくスターリングにはベンチに座ってもらう必要がある。

 

23を維持しながらもペンタを崩さず上位にあたり、下位に対しては鶴翼の精度を上げるのが良いかもしれない。ただ、それでリーグと大耳を取る事が出来るのだろうか?

 

おそらく今季は厳しいシーズンになる事が予想される。昨季からの上積みが殆どなく新たな6番手スキームも不発に終わるとなると、下位に快勝出来ても、上位陣には苦しむ事が予想される。325だと『埋められる』と手詰まりになり、235で鶴翼展開して偽偽SBを発動すると反転攻勢に脆くなる

 

現実的な落としどころとしては使い分けが一番ベター。しかし、これだと質的優位で相手のペンタゴンを殴り殺す方法を取らざるを得ない。やはり最終生産者は欲しい。。

 

バイエルン2年目もサイドの突破力に依存せずWBを用いて対応したがケガ人も多いこともあり上位には勝てずデブ神やMSNにボコボコにされるなど不安定な闘いを見せた。その時とよく似ている。やはりサイドはSBの補助なしでも勝てるタイプを置くべきで、質的に劣る部分は量的な支出がかさみボトムの安定感を殺す可能性がある。

 

不安定な最終生産過程から奇策を放ち炎上する未来が心配でならない。twitterのTL上で『大耳負けた、ペップ死ね』が広がる景色を見るかもしれないと思うと心が痛くてしょうがない。

 

 

おまけ

 

ここでは、質問箱や直接DMなどで頂いた質問について述べる。

 

Q1 注目チームと選手

 

チームとしては、トゥヘルチェルシー、サッリラツィオ、アレグリユーベに注目している。特にチェルシーは大耳連覇も可能なほどに強靭化していて最終生産者の獲得は本当に羨ましい。完備性のある戦術と再現性、完璧なチーム。サッリとアレグリも新たな組織で何を見せてくれるのか本当に楽しみ。

 

選手としてはリーズのフィリップス、バルサのメンフィスに注目。フィリップスはジーニョ退団時の後釜にもなれそうで好きな選手の一人、メンフィスは開幕時に見た0トップの動きが洗練されており継続的に見たい選手。

 

メンフィスは以前デパイと自分は呼んでいたのだが、父親に捨てられた事への悲しみから父の姓のデパイと呼ばれるのは嫌と本人が感じているらしい、以後気を付けよう。

 

Q2 スターリングは復活するの?

 

今季は鶴翼でSBの偽SBとプロパーSBの両方の役割を担う事により、サイドで独力突破性に苦しむ選手にとっては追い風になる。スターリングは英国のバイエルンを目指す上において重要な国産選手であり、昨季1年の低調なパフォーマンスで切る事はしない、今季1年は我慢しながら様子を見るだろう。

 

ただ、それは『執行猶予』に過ぎず来季放出も十分あり得る。個人的にはシュートの精度の向上とサイドでの判断力を上げないと厳しい。今季の鶴翼は採用自体が厳しくリスクも高い、換金要員となるが、買い手がつくかどうかも難しい。

 

現実的なシナリオとしては昨季より幾何かマシのパフォーマンスは見せるが、決め手に欠き格上相手では後半戦はベンチに座り控えの9番へと向かい、そして契約更改交渉で本人が退団希望をちらつかせる、というものだ。

 

マフレズが偽9番をこなして右に戻るのがベストだろうが、ジェズスも右サイドで新境地を開いている。左で『抜く』のが厳しい以上、判断力を上げるなり、個人能力の向上がないと厳しいかもしれない。

 

右サイドでの突破要員、左サイドでは介護付きの偽翼、というのが現状であり、今季が本人にとっても勝負の一年になるだろう。

 

Q3 今季の移籍市場は大丈夫?

 

ケイン、メッシ、ブラホビッチ、ロナウドとターゲットが報じられるものの、グリ以外獲得なしで終わったシティ。この市場での振る舞いに不満を感じる人もいるのかもしれないが、個人的には何度も言うように最終生産者獲得は必須であった。

 

コロナ禍における市場の停滞で思うように選手を適正価格で換金できず、リスク/ベネフィットを考えた際に投下出来る金額の限界をケインに入札したものの、リビーは無視を決め込んだ。PSGもスパーズもそうだが、市場の停滞を考えて、トップ選手の放出によるプロスペクト集めも厳しいと踏んだのかもしれない。

 

スパーズにとってケインの国内クラブ放出は事実上のコンテンダーの放棄宣言であり、長期契約を結んですぐの放出はクラブのプライドが許さなかったのか。現実的なリビーらしくないオペレーションと自分は感じた。

 

シティ、リバプールチェルシー、UTD、レスターとトップ4を争うメンツは錚々たるものでELを制覇するかCLを上記のクラブが制覇するでもしないと厳しい。2年連続の大耳出場不可、となれば流石にケイン放出(というよりも当人の年齢と実力を考えると解放に近いか)も考慮する可能性があり、マフレズのように1年遅れ獲得になる可能性も十分ある。

 

なによりシティの本命はケインではなくハーランドだろう。この事がノイズになっている。ライオラは転売が三度の飯より大好きで、数年したらリーガへの移籍も十分あるためシティの長期計画に沿う9番か疑問もある。一番はハーランドの意思。ムバッペもそうだが原体験としての憧れがモノを言いそうで、そういう意味でも英国のバイエルンというブランド化のためにケイン獲得へ再度向かうかもしれない。いずれにせよ最終生産者獲得がなければ大耳獲得は厳しいと考える自分にとって、成功させてほしいオペレーションである。

 

メッシとロナウドに関してはグリに金を費やしすぎたこともあるかもしれないが、守備をしない最終生産者はいらない、というクライフ描像への遵守がペップの中にはあったのかもしれない。

 

Kane or Nothingが基本方針で、適正価格と適性給与は遵守する、という中でやれる限界の事はしたはずだ。マーケット最終日にSBの獲得の噂も出たが、攻撃的SBの評価を受ける選手は当たり外れが大きく、パニックバイするほどの選手か何ともいえない。

 

 

〇最後に

 

最終生産者を獲得出来ず、色男一人が加入して騒々しい夏が終わったマンチェスターシティ。プレミアはかつてないほどに金銭や人的資本が集中し世界最高峰のリーグへと肥大化を続けている。

 

個人的には今季は我慢や辛抱も多くストレスフルなシーズンになりそうだ、鶴翼の実装や新たな攻め手の開発にも着手するだろう、そして来季に最終生産者を招き完成の一年とするのではないか。

 

海原に

霞たなびき

鶴の音の

悲しき宵は

国辺し思ほゆ  (大伴家持)

 

 

ペップシティは、今季こそ大耳を制覇できるのだろうか。

 

最終生産者のいた故郷カタルーニャへのノスタルジアを抱えながら鶴の翼を広げたペップシティのスカイブルーの戦士たちは不安な霞が漂う明日へと向かっていく。

 

その終点がサンクトペテルブルグである事をただただ祈るばかりである。

 

始祖から連なる流転する多角形の物語

 

 

①始祖の宣教

 

 

ジェネシス

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1870年代、フットボール創世期、『母国』英国が中心の時代、現在のクラブチームが覇権を握る時代とは違い、ナショナルチームが先進的イシューを提示していた。ロングボールを中心とするダイレクトスタイルのイングランドに対抗するようにスコットランドではショートパスを中心としたテクニカルスタイルを志向していた。

 

19世紀にフットボールはユニバーサルな競技へと発展。この時の英国のフォーメーションはVフォーメーションと呼ばれる235が中心で5TOPが採用されていた。

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前線5枚というのは、横一列に並ぶ適切な人数として5枚が理想的という、おそらく帰納的な帰結だと思うのだが、現在の5レーン理論に通ずるものと言える。後ろ5枚は2人のフルバックと3人のハーフバックマンマークで5TOPを抑えていた。

 

 

〇始祖のまいた種

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マンチェスター生まれのイングランド人ジミーホーガンは

 

1910年オランダ代表を指導

1912年オーストリアのウィーンFCを指揮

1914年ハンガリーのMTKを指揮

 

彼の『巡礼』が世界のフットボールを動かす

 

ホーガンはスコットランド式のフットボールを好み、テクニカルで流動的なスタイルを3国へ布教した。この3国では、ある思想が発芽し、現在では『トータルフットボール』と呼ばれる。

 

1912年ウィーン布教は、1930年代オーストリア代表の強靭化を生む。偽9番シンデラーを中心とする3223のWMシステムで世界を席巻し、ヴンダーチームと呼ばれた。

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1914年ハンガリー布教は、1950年代にプシュカシュを中心とし、偽9番ヒデグチ擁するハンガリー代表を生んだ。システムは3232なるMMシステム。このMMを頭文字として彼らはマジックマジャールと呼ばれ支配的な集団として君臨した。

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戦争と政変が伝説的なWMとMMを過去の物としても、5人の守備者集団である底の五角形(ボトムペンタゴン)と攻撃集団である前の五角形(トップペンタゴン)による各員の持ち場を守るマンツー守備と5TOP攻撃のダブルペンタゴンが主なシステムだった。

 

 

〇ソリューション6

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『母国』を中心に生み出されたダブルペンタゴンは、『王国』によって破壊される。自国開催W杯となる1950年のマナカナンの悲劇から8年、若きペレのいたセレソンは424システムで初優勝。ボランチ2人は攻守両面での遊兵のように前線に入り6枚の攻撃を可能にし、また下がって6枚での守備を可能にした。

 

相手が5枚で攻守分業なら、こちらは6枚で攻めて守るシンプルな回答を提示した。攻守分業制の終わりとポジションに囚われない遊兵を作るデザインフットボールの世界に大きな衝撃を与えた。

 

そして時計仕掛けのオレンジが動き出す。

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ホーガンが1910年に指導したオランダ代表にはジャックレイノルズがいて、彼は1915年から30数年にわたりアヤックスを指揮し、テクニック重視の思想やウイングを用いた攻撃を植え付けた。その時の指揮下にいたのがオランダトータルフットボールの父ミケルスであった。

 

1970年代にミケルス監督のもとでポジションチェンジとオフサイドトラップを運用したコンパクトな布陣による『ボール狩り』を志向した433のサッカーでアヤックスは大耳3連覇を成し遂げる。その時の中心選手が偽9番クライフ。

 

この3連覇を見届けるように『始祖』ホーガンは1974年に深い眠りについた。

 

〇受け継がれるもの

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クライフは選手時代を過ごしたFCバルセロナの監督に就任し、90年代にエルドリームと呼ばれる栄光をもたらす。

 

システムはオランダ式343で中盤菱形のこのシステムは3つの六角形が見て取れる。

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4番を中心に3バックと3MFで囲まれる六角形

10番を中心に3MFと3TOPで囲まれる六角形

外周の3バックと3TOPで囲まれる六角形

 

2つの六角形が重なり合い、周りを囲むように大きな六角形がある、このトリプルヘキサゴンシステムはボールを保持するというよりも、ボールを狩るための陣形である。

 

433で許されていたポジションローテは最小限にし、ウイングが幅を取り、ひとたびボールをロストしても即座に3つの六角形が収縮し奪い去るという設計であった。しかしながら実際はボールプレーこそ美麗ながら、後のペップバルサのような即時奪還の苛烈さはなく、クライフの唱える2局面特化循環の理想までは具現化できなかった。

 

この六角形の中心となる4番と10番は重要ポジションであり、前者を任されたのがペップグアルディオラ、現在のフットボール界の中心人物の一人であり、クライフバルサでの大耳制覇から約20年後にバルサ指揮官としてトータルフットボールを進化させる。

 

クライフは狩りの際に秩序だった六角形を保持すべくポジション変更は最小限にしていたが、ペップはここにコアUTを加えて柔軟な動きを与え、幻惑戦法へと昇華させる。

 

 

②多角形構造の利点と運用例

 

ハニカム構造

 

平面充填(テセレーション)と呼ばれるものがある、早い話が平面に多角形を敷き詰めていくという事である。この場合正多角形一種類敷き詰めであれば敷き詰め可能なのは正三角形と正方形と正六角形である。

 

周長は頂点が増えるほどに円に近づくため短くなる。そのため正六角形を敷き詰める事で最も周を短くし敷き詰めに必要な材料を最小にして強度を高める構造としてハチの巣格子構造(ハニカム構造)が知られる。

 

自分は大学学部時代にグラフェンというハニカム構造物質に注目し、グラフェン中の電子の有効模型がディラック方程式で記述できることに興味を抱き、相対論的量子力学の体系を熱心に学んでいた。

 

ハニカム構造は、ハチの巣や様々な物に応用されており、サッカーにおける六角形構造は人の輪なので、周の短さは人と人の距離の短さに相当する。この事がボールを狩る際に最小限の移動のみで最適な攻撃姿勢の確保と等価である最適守備配置を可能にする。

 

ペップバイエルンでは、多角形構造の採用により、短距離移動(スプリント)は多いのに走行距離は少なく支配率が高くなる特異性が指摘されていた。

 

この多角形構造の適用が現代では一般的となっている。

 

 

〇運用例

 

ex.1)ラングニックのヘキサゴン

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ドイツで『教授』と呼ばれボール狩り戦術の最先端を行く男、ラングニック学派の生みの親ラングニックはRBライプツィヒで自身の戦術を反映させていた。

 

陣形は4222と言われるが、正確には(4+ヘキサゴン)である。

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中央で六角形を作り中央にボールが入れば六角形で囲い込み、奪い去れば数秒でゴールへ向かって一目散に走る。それを怖がってサイドへボールを通されると、サイドラインという『DF』と共同でサイドで圧迫させボールを奪い去る。

 

ラングニックのボール狩りも収縮する六角形構造を用いたもので、六角形を通過されればDFが飛び出し潰すというハイリスクな戦術。ハマれば強敵も食らうが、SBが相手ウイングに対して質的に劣ると厳しくなる。

 

実際、ラングニック学派のシュミット率いるレバークーゼンはペップバイエルンと対戦し、アロンソから対角パスをコスタに通されサイドは蹂躙され敗北した。

 

リスク軽減策として提案されるのが一人減らした五角形構造の採用

 

ex.2)フォンセカのペンタゴン

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20-21シーズンにASローマを率いたフォンセカは興味深い戦術を用いていた。システムは3421、実態は(5+ペンタゴン)である。

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中央で五角形を作り外へ誘導し外でボールを狩る。相手を前へ引きずり出して裏のスペースを突く『疑似カウンター』が主武器で、基本は撤退し、前へ出したところをスピナツォーラが裏を突く構造をしていた。

 

ビルドアップでもボランチを落した疑似4バックと4番の5人で組み立てるなど、面白いスタイルであったと記憶している。

 

しかし撤退されると何もできず、撤退守備を選択しても守り切れない組織的な問題で失点はかさみ上位チームに勝てず、モウリーニョ招聘へと至った。

 

 

ex.3)相ヘキサ

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また、クロップリバプールも20/21シーズン前半のシティ戦で六角形構造で中央制圧を見せると、相対するペップはリバプールのSBを抑制する六角形をぶつけるというヘキサゴンのぶつかりが見られた。同じ六角形でも機能と狙いが異なる。しかし目的はユニットで連動して攻守を両立させていることである。

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このように現在のフットボールは、線で並び1VS1という時代から面を構成しユニットを組むという時代へと変貌している。

 

この多角形構造は主にバイエルン時代に指摘され始め、日本では庄司悟氏がペップバイエルンに潜む多角形構造を指摘していた。庄司氏はクロップリバプールの失点減少に関しても4321のシステムの中にCB2人とIH2人とシャドー2人の6名による六角形構造があるとして、『魔法陣』と呼んでいた。

 

面によるユニット化を引き起こしたのはペップバルサの影響が大きく、人と人の間でボールを持ち捌き引きつけて正対でパスを繰り返すスタイルへの応手と見て取れる。

 

そんな多角形構造のトリガーとなったペップのこれまでを振り返る。

 

③ペップの多角形

 

バルサ時代

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バルサ就任2年間、圧倒的なポゼッションと即時奪還スキームにより、殆どの試合がハーフコートに押し込んでの展開が多く、コンパクトに攻め守る設計だった。そして押し込んでいる時バルサは235のような陣形を良く見せていた

 

かつてのVフォーメーションのような5TOPであり、初期配置として433からスタートするもののアウベスがRWG化し、メッシは中へ、両WGも中へ入りLBも上がっていた。

 

ビルドアップの際には仮想3バックを形成し保持すると後ろに2枚のCBを残し、チャビ、イニエスタ、4番(ヤヤorブスケツ)の3名が中盤を形成しメッシがそこへ参加する。かつてのダブルペンタゴンとは異なり各員が一定の自由が与えられており選手間距離を適切に保ち保持と即時奪還を両立させていた。

 

しかし幅を取るのはSBなので独力突破が出来ず詰みやすい事や高さがない事もあり苦しむケースに見舞われた。バイタル攻撃至上主義に殉じ不器用に負ける試合もあった。2枚のCBと3枚の中盤からなる5枚、両SBと3TOPからなる5枚、2332のようなダブルペンタゴンが試合中よく見られた

 

3年目にペップは構造を変更する。LBにシウビーニョやマクスウェルを用いていたが、アビダルを起用し、LBと2CBでの3バックへ変更、メッシを中央の初期配置へ変更し、ビルドアップが終わるとアウベスがRWG化し、WGのビジャとメッシが縦関係を形成、中央を4枚とする343へと変貌した。

 

時としてブルペンタゴンになったりトリプルヘキサゴンにも変容する。この3ヘキサ構造の導入による支配構造の高まりから38試合で失点21というリーガでの成績をあげた。ボールを延々と握り、奪われれば六角形が収縮するボール狩りが発動した。

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そして迎えた4年目に初期配置として3ヘキサの343を導入した。アウベスをCBに回して前線の幅取りはテージョといった純正WGにも託された。攻撃力は増し続け、クライフ時代の343と異なり、前線はレーンを『横断』しつづけるコアUTを用いた370とも評されたシステムをCWCサントス戦で見せていた。

 

しかし433から343へは行けても、343を初期配置とするとどうしてもLBが足らなくなる問題から3ヘキサから2ペンタに戻れなくなる問題が起きた。選手入れ替えが必要で厳しく、WGの質的優位にも苦しんだ。

 

そしてLSBのコアUTとWGが強力なチームにペップは向かう

 

バイエルン時代

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ロベリーという強力なWGを抱えトップペンタゴンは強靭化し、マンジュキッチミュラーといった屈強な選手は攻め手の柔軟さを与えた。ボトムではラーム、アラバ、ハビというコアUTの存在から柔軟な組み方が可能で、アラバのボランチラインへの移動は偽SBと呼ばれた

 

バルサ戦術の言語化として5レーン理論が提唱され、トップ/ボトムにペンタゴンを形成し5レーンをどう攻めどう守るかを中心とした落とし込みがなされ、2つの五角形による支配構造が明確に打ち出された。

 

バイエルン時代は特にコアUTを用いた『横断』を頻繁に用いて、ポリバレントにポジションを交換し相手を幻惑する戦術が盛んで史上最速優勝を決め臨んだ大耳4強でボトムは破壊されトップはロベリーの不調と最終生産性のなさもあって完敗し翌年がW杯明けという事も加味し構造を変更する。

 

2年目は大外はベルナト、ラファといったWBに任せ、初期配置の時点でボトムをfixedしておくことで変異遅れへのカウンター炸裂の予防をした。トップペンタも念願の最終生産者レバを獲得し、シャドーにゲッツェミュラーが起用された。

 

しかしWBは独力突破が出来ず、ラームやアラバの補助を必要とし、またケガ人の多さからロベリーは稼働できずハビは靭帯損傷でシーズンアウト、なんとかUTで乗り越えリーガは防衛するので精一杯だった。

 

迎えた3年目に同足のコスタとコマンでレバとミュラーの縦関係の2TOPへのクロス爆撃を中心として猛威を振るった。またダブルペンタゴンの強度を向上させると同時に343の導入にも成功した。

 

442を初期配置として両SBのラームとアラバがボランチラインに入り23ペンタゴンが形成され、ビダルという広範なカバーが出来る選手を底にして強烈な4トップからなるトップペンタゴンが形成しブルペンタゴンになる。

 

442を初期配置としてラームだけがアロンソの前でIHになりミュラーが10番になるだけで343が出来トリプルヘキサゴンとなる。ラームがボランチに入れば2ペンタにも戻りバルサ最終年の課題もクリアされ、理想の布陣を手に入れた。

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残念ながら大耳制覇はならなかったものの多角形構造としては理想形を手に入れたと結論出来る。

 

 

④シティの多角形

 

〇不変の4年

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バイエルンでの毎年の構造変革とは対照的にシティでは4年間ずっとダブルペンタゴンを採用し続け、起用する選手による差異こそあれ、基本的には4番とLSBのダブルボランチをウォーカーがRCBに入った3バックで支えるボトム、シルバとデブライネの2人がハーフに位置し3TOPはサネ、アグエロスターリングからなるトップで固定された。

 

基本的にはWMシステムが採用され、世代交代しながら安定的にリーグ優勝争いと大耳での上位進出という文化の形成のため、大規模な構造変更をすべきでない、とペップが考えたのかもしれない。

 

誤算だったのはLSBメンディのケガ体質と最終生産者の獲得失敗だろう。

 

2年目の大型補強でムバッペに破壊されたボトムの再建としてウォーカーとメンディは獲得された。ウォーカーとメンディを3バックの左右に入れるとDFラインの2CBは片側だけで十分となる。そこでCBがボランチラインに上がる必要がある。これが初年度のストーンズの偽CB的動きであり、ジーニョもこなしていた。

 

人的資本が不足した初年度、ケガ人で溢れかえった4年目は苦しんだが、4年間でダブルペンタゴンシステムはリーグ連覇、FAカップ優勝1回、カラバオカップ3回優勝という国内では圧倒的な戦績をもたらした。

 

すっかりユニットによる攻守の多角形構造モデルが模倣され、ペップシティは5レーンを埋めた相手と対戦する事が増えてきた。

 

 

〇時代は巡る

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5年目というペップの単一チーム監督歴を更新し、シーズン開幕から苦しみ続けた。ペップは終わってしまったのか、そんな声が大きくなり始めていた。

 

時を戻そう。ペンタゴンを壊した1958年のセレソンを思い起こそう。彼らはペンタゴンに対して遊兵を用いて6人を攻守にあてて数的優位性で破壊した。ソリューション6となった424で。

 

シティのトップペンタゴンに2ボランチの誰かが加勢すべく、偽SBでボランチに入る選手がトップペンタゴンに侵入していけば良いのだ。カンセロロールである。

 

ボランチにも回れるハーフ要員がボランチラインに入りボトムペンタゴンを増強したりボランチからトップペンタゴンに加勢、といった形で現代のダブルペンタゴン時代で優位性をシティは確保しようとしていた。

 

結果としてリーガ制覇、カラバオ制覇、大耳準優勝。ぺップは更に、このソリューション6戦略を進めていくと思われる。そしてペップの過去の傾向からシティでの終局も見えてくる

 

 

〇偽偽SBと円環

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バルサバイエルンではいずれも2ペンタと3ヘキサと初期配置は433と442の違いこそあれ、この3陣形を選手の入れ替えなしに円環するスキームを作りピークを迎えた

 

バルサは初期配置433から両SBが上がれば2ペンタ、アウベスだけ上がれば3ヘキサとなり選手を入れ替えずに支配する構造に3年で至った。

 

バイエルンは初期配置442から両SBが偽SB化すれば2ペンタ、ラームがIHに上がると3ヘキサとなり選手を入れ替えずに支配する構造に3年で至った。

 

シティではカンセロが上がり、ボトムにカバーが入らなければ3ヘキサ、カバーが入れば2ペンタの構造を可能にした。勿論選手の入れ替えなし。

 

しかしカンセロは守備で穴になる。そこで今季6年目は新機軸2323に挑戦している。かつてのVフォーメーションのようなシステムだ。

 

大耳決勝での外攻め封鎖に応手すべく、偽SBとハーフ要員とWGの3名の三角形で崩すために偽SBの位置が上がっており、加勢に入りやすくなる。またSBの偽SBによる内側への絞りに加えて前線への攻め上がりという純正SBの動きも加えて加勢し、仮に空けたスペースにカバーが入らなければ343となり、カバーが入ればペンタとなる。偽偽SBともいえるSBのハイブリッド化という新機軸である。

 

メンディは混乱していたが、フィジカル的に強くWG化しても十分な質的能力を秘めた選手だけに期待も大きいのかもしれない。

 

ペップが見るシティでの終着は433を初期配置として偽SB×2でペンタゴン化し、偽偽SBで前線に上がりヘキサゴン化433と2323と343を選手を変更せずに自由自在に円環するサイクルの形成こそ真の狙いなのではないか、と予想する。このスキームの左ラテラルはメンディ離脱によりカンセロしかこなせないのが課題で、そこをどう解決するか課題になるだろう。

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来季契約満了を迎えるペップ、どのような帰結を迎えるのか、注目したい。

 

残す最後のタイトル、大耳を獲得するため勝負の2年間が始まる。円環を目指すペップの冒険が幸福な帰結を得る事を心より願っている。

 

 

⑤終わりに

 

サッカーボールは正五角形12個と正六角形20個からなる32面体であり、縫い目は90か所である。ゴールネットは六角形が敷き詰められたものが多く(四角形のものもあるが)、サッカーには多角形で溢れている

 

サッカーの母国が生み出した五角形構造は、現在のフットボールでも頻繁に見る事が出来る。5レーン理論に基づく最適配置理論は必修単元となっており、5人ずつの2つのユニットによる分担はテンプレ化していく。時代は再び多角形のぶつかり合いへと向かおうとしているのかもしれない。

 

1953年、最強イングランドが初めて英国圏以外のナショナルチームにホームゲームで敗れた。勝利したのは英国から『裏切者』と呼ばれたホーガンのDNAを受け継ぐマジックマジャールだった。

 

監督セベシュは『今日、われわれが披露したのは、全てジミー・ホーガンが教えてくれたものだ。ハンガリーサッカーの歴史の中で彼の名は金字塔として輝いている』と感謝の意を示した。

 

始祖ホーガンから脈々と続く『トータル』思想は、レイノルズ、ミケルス、クライフ、そしてペップへと受け継がれている。

 

ホーガンはマンチェスター出身の英国人で、アヤックスで彼の思想を受け継いだレイノルズはマンチェスターシティの選手だったそうだ。

 

(マンチェスター)⇒(アムステルダム)⇒(バルセロナ)⇒(ミュンヘン)

 

ホーガンがアムステルダムで宣教し、クライフがバルサへ持ち込み、ペップがバイエルンへと輸入したトータルフットボールの旅は再びマンチェスターへと帰ってきた。それも赤いマンチェスターではない、レイノルズのいた水色のマンチェスターである。

 

ペップはホーガンやレイノルズを知らないかもしれない。しかしペップへ連なる縦糸にはホーガンとレイノルズがいる。彼らなくしてはミケルスもクライフもなく、ペップがトータルフットボールの宣教師になっていなかったかもしれない。

 

空から今でもホーガンは自身の縦糸に連なる後継者が率いるマンチェスターシティの試合を見ているかもしれない。上空から見るとピッチ上には様々な多角形が描かれる、特に今季はホーガンの時代の基礎フォーメーション235が頻繁に出現するはずだ。それを見て彼は何を思うのだろう?

 

初期配置と五角形と六角形という3つの状態を三界流転するペップの輪廻が、新たな縦糸の始まりとなり、ペップが新たな『始祖』となる、そんな瞬間を我々は目撃しているのかもしれない。

もう一度あの場所へ(21/22ペップシティ展望)

 

8/13から始まるプレミアリーグを前にペップシティの展望を話すとしよう。

 

①最終生産者問題

 

白い恋人ケイン

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目下、シティ最重要議題が『ケインは本当に来るのか』、個人的には獲得可能で市場閉幕前に駆け込み的に獲得されると期待している。というのもケインの売り時としては今がベストで、コロナ禍で収益も下がる今、高額売却を見逃すと思えない。

 

ペップシティにとって最終生産者は永遠の課題でシティズンのアイドル、アグエロは耐久性とUT性に課題を抱え、重要な試合でスタメンを外れる事は少なくなかった。ペップ到来以降、オーバメヤン、サンチェスの獲得に動いた事は証左だ。

 

アグエロ最後のリーガ戦、試合後ペップはインタビューで涙を流しながらアグエロについて『代えの利かない選手』と語っていた。アグエロの実父は『あの涙はTV用だ』と批判を加えた。おそらく涙に嘘はない。ペップは人間としてのアグエロは好きだった、しかし9番としては評価していなかった

 

そして、最終生産者としてスパーズのケインがメインターゲットとなった。

 

ケインはUT性を持つタイプではなく総合力で勝負する9番だ。ベストではないがベターな選択肢になりうる。このベストではない、というのは年齢面とUT性に問題があり、無理してケインなら一年我慢してムバッペorハーランドで良くない?を生む。

 

おそらくムバッペはマドリーに向かう。ハーランドはバイエルンでハランドフスキーになるだろう。ライオラが代理人の後者は高値を狙うだろうがバイエルン移籍が濃厚と思われ、シティはダシに使われるだけだろう。

 

ケインは偽9番的に10番に降りてスペースを作ったり、クロスにも合わせられて、プレミアでの長い経験からもシティにとって最終生産性をもたらしてくれるだろう。推しは推せるときに推せ、クラックは獲れる時に獲れ。今がその時だ。

 

何故メッシを獲らないのか?

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『うそ、人文系の単位足りてないって事は卒業出来ないんじゃ、、、』的な大学生が卒業要件見落としてました的退団という、ある意味、歴史的な退団を迎えたバルサの象徴メッシ。

 

ペップはメッシの獲得には動かない事を退団早々に明言した。金銭的な問題ではない。守備をしない最終生産者を抱える事はバルサ退団以降の路線の変更を意味し、クライフ描像である即時奪還戦略の放棄に等しく、受け入れられないのだろう。

 

ペップはバルサ退団時に『お互いが傷つけ合ってしまう』と言っていたが、それは守備をしない生産者を粛清した初年度のロニー切りをメッシには出来ない、という意味なのではないだろうか。

 

そしてメッシが加入したPSGに関して夢の3トップに沸く人々を傍目に自分は懐疑的な感慨を抱いている。おそらくパリが描くのはエンリケバルサの再現MSN2.0だ。

 

(バイタル覇者)メッシ⇒メッシ

(外攻め)ネイマールネイマール

(裏攻め)スアレス⇒ムバッペ

(戦う10番)ラキティッチ⇒ディマリア

(創造性推進力)イニエスタヴェラッティ

 

ヘソ前はエンリケバルサの再現が可能。しかしバルサではメッシが守備を放棄し、その分ネイマールが走っていた。守る時はネイが下がっての440ブロックが基本だった。そもそもMSNが攻め倒すので守る時間は短く、この守備人数の少なさは問題にならなかった。

 

ネイは何故バルサを退団したか、それは自身が中心となるチームを望んだからと言われるが、一番は耐久力の低下を考えて、守備負担の少ないチームへ移籍したかったからではないかと思われる。

 

ネイは被ファール数がとても多い選手で、その『蓄積』とバルサでの守備負担は確実にキャリア延命における重要課題となりうる、故にイブラが抜け、守備放棄が許されそうなパリ移籍を望んだのではないだろうか?

 

そして、再びメッシがやってきた。メッシの守備負担を背負い走る日々が始まる。ムバッペも走るだろうが、彼もまた爆速9番としてケガは増え始める時期だ。守備バランスと耐久性から来る共存が可能なのか疑問が残る。

 

肉体的にメッシ守備分の負担に耐えられるのか、精神的にまたもやエースの従者という地位を受け入れられるのかがネイの課題となる。

 

ポチェと近しい思想を有していたサンパオリとメッシが揉めたのも気になるところだ。基本的にビエルサ由来のカウンタープレスを主軸とする監督が貴族守備をどこまで許容するのか、正直心配である。

 

②グリ獲得問題

 

グリーリッシュ獲得の是非

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一億ポンドの移籍金でやってきた英国人は、シティズンからの期待と不安、そして何と呼ぶべきか論争という様々な混沌渦巻く中で背番号10を背負いシティの戦士として自身の憧れデブライネと共にプレーする日が近づいている。

 

グリの特徴としては被ファール数が多い事を見ても持って運べるのは勿論だがパスでボールを運ぶ能力もあり、奪還にも意欲を示す万能戦士だ。初年度はシティの最適配置理論の理解に苦しむかもしれないが、ヘソ前全てを『横断』する能力があり理想的な補強と言える。

 

 左サイドを起点に『横断』させるのもアリだが、おそらくIHを起点に組立仕事や低い位置からの貢献も求められるはずだ。デブライネをプロテクトする役割も期待されるが、シルバロールによるスターリングの補助も期待出来『左のスターリング』をチームに搭載出来る可能性がある。

 

HG国産コア選手

●デブライネのプロテクト

●シルバロールでのスターリング再生

●『横断』可能な前線コアUT

●ベルナルド放出時の保険

 

 確かに1億ポンドに釣り合うか疑問を持つ人間も少なくないだろう。しかしシティにとって大きな貢献を果たす可能性のある選手であり、安くはないが、値札を気にせず温かい応援に包まれることを願いたい。

 

国産化帰属意識

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アブダビ時代に入った2008年から、巨額を投資し、スカッドを強靭化しユースチームにも力を入れ、ペップ招聘に向けソリアーノとベギリスタインをフロントに引き入れ、マンチーニ監督時代に成功体験を掴みプレミア優勝、ペジェグリーニ監督時代にポゼッション導入と大耳4強、着実にメガクラブへの階段を登ってきた。

 

そして16/17シーズンにグアルディオラが降り立った。気が抜け、戦術的なデザインが抽象的なチームに確固たるスタイルが建築され、リーガ優勝は義務、大耳優勝が成功ラインというメガクラブの要請を受けるようになり、ペップ時代に3度のリーグ優勝を果たし、シティは尊敬と注目を集めるクラブへと十数年で変貌した。

 

シティはペップ時代を迎え成熟期に入った。しかしポストペップ時代も考えねばならない。一時期強いクラブではなく、サスティナブルにコンテンダーであり続けるクラブを目指している。

 

ペップを『クライフ』とする最先端戦術の具現体としてのブランドイメージの創出に加えて帰属意識を強める必要がある。国産選手や生え抜き選手は人気が出やすく出場機会が著しく減ったり構想から外れたりといった事でもない限りコンテンダーのクラブが望めば残留してくれ計画を立てやすくなる。

 

ペップも、『英国出身の選手を軸にしたい』と語っている。

 

19/20シーズン前、独力突破要員サネが退団した。ペップは残留させたかったはずだ。年齢的にも20代中盤でこれからの選手、しかしドイツ人にとってバイエルンは特別なのだろう、サネはバイエルンでロベリの後継者として赤い巨人の翼となった。

 

サネ退団はシティにとって小さくない被害を生んだ。大耳決勝でハーフとバイタルを封鎖され、外攻めで単騎突破出来ず詰み、そして負けた。サネがいればと嘆いたファンは少なくなかったはずだ。

 

そのために、シティは帰属意識の高い国産主軸選手を基軸とし、英国を代表するクラブへの道、という新たなチャプターを選択したのではないだろうか?ストーンズとの長期契約締結もその一歩だろう。

 

ウォーカー、ストーンズ、グリーリッシュ、スターリング、フォーデン、ケイン

 

彼ら6人の英国人がスタメンを担うチームを思い描いているのかもしれない。そのためのグリーリッシュ獲得。グリは選手としてではなく、英国のバイエルンのような文化形成という重要な計画のピースなのかもしれない。

 

ジーニョは契約を延長したが、退団は来季にもやってくるかもしれない。リーズの4番であるフィリップスあたりを狙うのも面白いかもしれない。

 

③退団希望者問題

 

ラポルテの場合

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2年前の絶対的スタメンも放出候補になるのだからシティは恐ろしいチームだ。ルベン到来で433でのハイプレスではなく442でブロックで退いて守れるようになり、たった一人でチームを変えた。

 

ストーンズも復活を見せ3番手に降格となったラポルテだがストーンズが回復力に問題を抱える為、インターバルを設ける必要があり、その『谷間の先発』としてラポルテは極めて有用な選択肢になる。

 

本人は絶対的な先発を望むだろうし、年齢的にもまだまだやれるはずだ。ただ値札は安くは出来ず、今季は残留orレンタル移籍でアフターコロナマーケットでの放出になるのではないだろうか?

 

シティとしてはアケの第3CB可能性を観察しながら、パウトーレス等を狙う可能性もある。昨季のリバプールのようなCB全壊による不振もシティでも十分起こり得る。CB部門の運用は今季も重要な問題となるだろう。

 

 

ベルナルドの場合

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グリの獲得で、放出候補にあがるベルナルドだが、数年前のミルナー放出に近しいものを感じてならない。複数ポジションをこなせて球際にも強くサポーターからの評価も決して低くはない、しかし誰の目にも明らかなものを持っているわけではない

 

コアUTとして複数ポジションに顔を出し戦ってくれる。しかし最終生産性があるわけでもなく独力突破が出来るわけではない。組織と指揮官によっては評価が大きく変わってしまう選手なのかもしれない。だからこそ高い値札を期待できない

 

本人は移籍願望がある模様でアーセナルアトレティコが候補にあがるが、今季移籍は現実的ではないだろう。金銭面での折り合いが付くか微妙で、1年レンタル移籍で、来季以降に金銭取引するスキームを提案するので精一杯ではないだろうか。

 

ジェズスの場合

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『我々はストライカーなしでシーズンに挑むかもしれない』というペップの発言がジェズスという9番に対する率直な評価が表現されていると言える。ポジション取りや献身的な動きは買うが、点が取れない、とにかく得点が取れない。9番でもゴールが遠ざかるだけで、バックアッパーの域を出ない。

 

残酷な表現になるが、得点能力の低い選手を9番起用する事は最終生産過程においては数的不利で戦う事になる。サッカーという競技は最終生産過程による得点と失点以外には一切勝敗には関与しない。 これがペップバルサ模倣の0トップチームが苦しみ続けた理由である。

 

IHへの『横断』が厳しく、飛び出しての得点はギュンが出来る事を考えても、残念ながら放出要員となる。シティとしても値札には期待せず売りオペが実行されるはず。レンタル放出で様子を見る可能性もあるがケインが獲得されればベンチ入りさえ困難で移籍先を探す方が本人にとっても良いだろう。

 

 

シティには何か出来る選手しかいない、苦しんでいる選手がいるとすれば、それは相対的な問題や肉体的な状態の悪さに起因するものであり、その何かを受け入れてくれるクラブはコンテンダーにも存在するはずだ。

 

ラポルテのフィード力、ベルナルドのコアUT性、ジェズスのポジショニング、これらを必要とするクラブで、彼らが幸福を得られる事を祈るばかりである。

 

④今季のイシュー

 

スターリング再生計画

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スターリングはサネと違い独力突破に優れたキャラクターではない、有機的に味方とボールを運びながら崩すのが得意なタイプで、3年かけてペップによって『横断する』能力も身に着けた。

 

スターリングは右翼から左翼に移ると選択肢が減る。シルバやSBが補助に入り、選択肢を他者との有機性で提示して崩しにかかる特徴がある。

 

ダビドシルバが退団した事でシティは自己完結性の高い選手が輝く事になった。単独で複数の選択肢を提示できる選手が生き残り、マフレズは右ウイングで絶対的な存在として君臨した。この事で右翼を奪われ、左翼でスターリングは苦しみ続け、そこにコアUTかつユース上がりのフォーデンが出現したことで、シティでは完全に沈黙した。

 

ペップはスターリング復活のために、IHで使いUT性を活かそうとしたが、思うようにいかず、数年で身に着けた『横断』にも苦しむ様子を見せていた。

 

ペップシティはシルバ退団以降、『横断性』の集団に変容している。常に9番は不在で全員がIHであり、全員がWGであり、全員が9番、というヘソ前は完全にコアUTポジショナルの具現体と化している。そのスキームの中でスターリングは後半に入って左翼に苦しみ、大きくパフォーマンスを落した。

 

出来ない事をやらされすぎて、出来る事も出来なくなってしまったスターリングはオフの放出候補ともささやかれ始めた。しかしオフのEUROでは躍動した。

 

イングランド代表ではスターリングは左翼に位置しても、そこからの突破よりも、むしろ中に入り最終生産過程を建築する偽翼として使われていて、マドリー時代のCR7のような立ち回りとなった。シティでの共産主義ペンタゴンローテーションシステムにおいて苦しんでいたスターリングは偽翼の左翼として輝きを取り戻した

 

ベスト8まで無失点という堅牢を後方に構え、LSBショーが左方をカバーし選択肢を提示し、フィリップス、マウント、フォーデンが黒子として支え、序盤は調子が上がらなかったケインも献身的に奮闘し、スターリングは躍動した。

 

ただシティでの再現は厳しい。得意の右翼には絶対的なスタメンとなったマフレズがいて、左翼しかない。ペップも国産のスターリングを1年の不振で見切るとは思えず、右翼でのプレーを交えながら左翼での復活を促すはずだ。LSBでのメンディの復活も重要なファクターになり得る。メンディの上がり、グリのシルバロールでの下支え、ケインの配置も寄与するはずだ。

 

シーズン前のCSでのメンディ稼働実験、中盤での黒子にもなれるUTグリの獲得、代表でスターリングと組んだ経験の多いケインの獲得、これら全てがスターリングの復活に向けたもの、と見る事も出来る。

 

21/22シーズンのシティにとって国産翼の再建は重要課題となるだろう。

 

新たな地平へ

 

(1) ペップの愛した多角形

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ペップはバルサ時代からずっと多角形をピッチ上に描くように選手を配置しているように思え、それはバイエルン時代に様々なアナリストや識者から研究題材としてペップがピッチ上に描く多角形として注目を集めてきた。

 

まずボールを支配するために三角形をピッチ上に多く作るようにポジショニングし、4番がボールを持った時には周囲に6人の選手が位置するような六角形(ヘキサゴン)が出現する。そして上から見ると2つの五角形(ペンタゴン)が見て取る事が出来る。

 

 バルサではブスケツかチャビが下りて疑似3バックを形成し、ボランチではブスケツorチャビとイニエスタ2枚が位置しペンタゴンを形成、前線では両翼SBと10番メッシがMFラインを形成し、ペドロとビジャがFWラインを形成してペンタゴンを形成。

 

このようにDFライン、ボランチライン、MFライン、FWラインの4ラインが3232となって2つのペンタゴンが出現する。

 

バルサでは両翼がSBのため外攻めが出来ず、スピードを求めたペップはバイエルンへ向かい、ダブルペンタゴンシステムを改造する。

 

CBが大きく開き4番が下りてDFライン形成、そしてボランチラインにはSB2枚が内側に入る偽SBが採用、そして純正WG2枚とIH一枚でMFラインを形成、前線はレバミュラが2TOPを作り、ダブルペンタゴンが形成される。

 

幅取りWG外攻めを取り入れ、SBの上下動を封印しカウンター対策とWGへの経路確保を徹底、レバミュラへのクロス爆撃でドイツを支配した。

 

ペンタゴン構造はナーゲルスマンが532を用いて4番を殺しサイド迂回からの回収即時攻撃というスキームで再現していた、ペップもサイドラインは最大のDFである、と語っており、汎用性のあるモデルとして注目を集めた。

 

また、このダブルペンタゴンはボールの位置を軸先としてボールが右に流れれば全員が右に流れる。そうやって図形が崩れないように配置する。これにより最小限の移動のみで最適配置を取れ、走行距離を減らして支配を高める事に成功した。

 

スプリント数とパス成功数の反比例則の破れ、そして軸向きに合わせた全員の旋回に伴う歪んだ多角形というカオスの発生、これこそペップが望む秩序だった無秩序の形成による試合の支配構造の確立である。

 

しかしCBにケガ人が増えたバイエルンではBBCやMSNやデブライネといった質的優位にDFラインが耐えられず、シティ1年目でもムバッペにボトムペンタゴン(DFボランチラインで形成される五角形)を破壊され屈辱の大耳16強で散った。

 

そこでSBにメンディ、ウォーカーといった肉体派を獲得し、ウォーカーをDFラインの一角とし、LSBはメンディーのケガでジンチェンコやデルフを偽SBとしてボランチ横に位置させる事で新しいボトムペンタゴンを作った。

 

更にバイエルン時代から取り組んでいたペンタゴン内部での『横断』、そうコアUT選手による旋回とポジション交換もシティでは推進した。トップペンタゴン(FW、MFラインで形成される五角形)では本職の位置以外でも機能を発揮するポリバレント性のあるタレントが並び、欧州制覇に最も近づいた昨季は0トップの本格導入で流動的な『横断』に伴う幻惑攻撃が可能となった。

 

またカンセロロールという偽SBを超越したUTを使い、シティ対策で硬直化していた局面の打開に使うなど、『横断』も新たな領域を見せ始めていた。

 

そして今季、ケインの加入(仮)、スターリング再生によってペンタゴンがどう変化するのか注目である。リキッドな部分とソリッドな部分が混ざった新たなペンタゴンが生まれるのでは、と期待している。

 

早速CSではメンディを偽SB化しボトムペンタゴンは23と変更されていて、ボランチラインとMFラインでは32というミドルペンタゴンが形成されていた。新シーズンどう仕上げるか注目したい。 

 

(2) 偽中盤

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2番最強説、これは現代野球で盛んに使われる。送るという2番打者の古典的描像に対し強打者を2番に置くというものだ。しかし、実態としては中距離打者を1番に置けば2番はバントで送る必要もないので2番性を捨てて3番打者を2番に置き、それに応じるようにクリーンナップ345番を234番に設置するという思想である。だからこそクリーンナップという言葉より最近はコア、という言葉が良く使われる。

 

ペップバルサの到来はサッカー界の景色を変えた。それは質に依存する攻撃面よりも守備者が備えるべき素養を喚起し、GKとDFの足元の技術は大幅に向上し、中盤性をDFが身に着けるようになり、11人が攻守においてアクティブ化するようになった。

 

中盤の潰し屋的な6番は足元の技術要求によって厳しくなり、司令塔の役割をDFとGKが担いレジスタは死んだ、とまで言われた。

 

ペップバイエルン2年目の大耳ポルト戦、1stlegで2点のビハインドを背負ったチームは恐ろしい狂気を見せる。424による前輪駆動サッカーである。そこに中盤はなく、後方からの組立は最小限に前線に次々に配球され、ボランチ1枚を残して前線5枚が総攻撃を仕掛ける戦術で見事に逆転での大耳8強進出を決めた。

 

この一種の中盤過疎化ビエルサ率いるリーズもリーガでシティ相手に披露していた。ヘソ前の5枚がレーンに入って高めに位置し4番は広大なエリアを走りながらのビルドアップを実施していた。

 

1番が2塁に到達する長打を打てるなら2番が送る必要がなくなり強打者を置くようになったのと同様にDFとGKが繋げるなら中盤はいらない、それならレーン埋めして攻め倒す『強打者』を並べよう、とも見れる。

 

リーガでのチェルシー戦でIHにはスターリングとトーレスが使われ、中盤にはロドリ一人がたたずみ、4105という狂気が展開されていた。前線5枚はコアUTなためレーンを『横断』し続け、バイエルン時代の4204の進化系を披露していた。

 

試合には負けたものの、この中盤過疎化、事実上の偽中盤システムを更に磨き上げたものも今季見られるかもしれない。

 

ちなみにリーズで過疎中盤の4番として使われていたのがフィリップスで、ジーニョの後釜に欲しいと本記事に書いたのも、実はペンタゴンシステムの4番はロドリ、過疎中盤ではフィリップス、といった使い分けで面白くなるのでは、と感じたからだ。来季の獲得に期待したい。

 

 

⑤最後に

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昨季、最後の試合、大耳決勝での敗北は多くのシティズンの心に大きな悲しみが去来したことだろう。しかし、新しいシーズンが始まる。忘れられない悔しさを抱え新たな闘いが始まる。名実ともに過酷で厳しい最高峰のイングランドプレミアリーグが始まろうとしている。

 

将棋棋士である羽生善治は天才、とよく言われる。個人的に彼の一番すごいところは『好機を生み出す能力』だと思う。将棋の7大タイトル独占も、前年に谷川浩司に敗れ6冠に終わった時、誰もが7冠独占は遠ざかったと思ったが、翌年、羽生は6冠全てを防衛し、もう一度谷川の前に挑戦者として現れ、7冠を達成した。永世7冠の時も永世竜王位のみとなって迎えた竜王戦で3連勝からの4連敗を喫するものの2017年に再び決勝に這い上がり、渡辺竜王を破って史上初の永世7冠を達成した。

 

一生に一度あるかどうか、そんな好機を逸してもなお、もう一度生み出して見せるところに羽生善治の凄さがあると思うのだ。

 

そしてサッカー界の天才ペップ・グアルディオラも、もう一度大耳決勝に返り咲けると信じている。去年の悔しさを是非晴らして欲しい。

 

マンチェスターシティのファンがファンである事に誇りを持てる仕事を』マンチェスターに降り立ったペップは、そんな言葉を口にしペップシティは始動した。シティが魅せるフットボール、内容を巡る議論の数々、ここまで多くの人々の頭と心を痛めるサッカークラブがあるだろうか。

 

ローマの地で大耳を掲げたペップバルサバルサを去って今季で10年目のクライフ(キリスト)の一番弟子ペップ(聖ペテロ)の冒険の到達点が聖ペテロの街、サンクトペテルブルクなら面白いと思う。今季の大耳決勝はサンクトペテルブルク・スタジアムである。是非、もう一度、あの場所へ、返り咲いてほしい。そして出来たらいつも通りの布陣で戦って欲しい笑。

 

 

今季、狙うタイトルはただ一つ、大耳のみ。

 

 

C'mon CITY!!!!!!

ペップバルサ総論

 

 

⓪once upon a time

 

クライフの予言

 

『攻撃か守備か、フットボールの未来を決める試合になるだろう』93-94シーズンの大耳決勝前のバルサ監督クライフの言葉だ。

 

10番無双時代、攻守は分断され多数で守り少数で攻める文化の中で単独で守備組織を破壊する天才マラドーナバッジョデルピエロにサッカー少年は憧れセリエAは世界最高峰のリーグだった。

 

10番無双を止めるべく、ACミラン監督サッキは攻守分断の体系を否定しコンパクトな布陣でボールを狩る守備戦術ゾーンディフェンスを考案。クライフが選手として牽引したミケルスのオランダ代表の守備戦術のアレンジだ。10番は包囲され中央で居場所を失った。442のラインで整然と囲い込んでボールを奪う手法の流行はスプリントの多さと運動量から選手に求められる素養として肉体強度が技巧よりも優先された。

 

そんな時代への対抗文化としてウイング活用、ポゼッション、ハイラインDF、リベロGKという攻守一体のトータルフットボールで世界を魅了したチームこそクライフバルサ。91-92シーズンにウェンブリーでサンプドリアを下し大耳を勝ち取る。その中心が4番ペップ。ヘソとしてワンタッチでボールを弾き続けチームに活力を与え、下部組織出身のチームの顔だった。

 

サッキミランを引き継ぎ守備的で強固なチームを作り上げたカペッロミランアテネにて4-0でバルサを下しフットボールの未来は堅牢ゾーン守備と、それを破る技巧のぶつかりが主戦局面となりクライフ描像は過去のものとなった

 

 

伏線

 

クライフがバルサ監督を辞し、ロブソン招聘、通訳モウリーニョカタルーニャへやってきた。 ロブソンの短い治世の後にファンハールが就任し強さを取り戻しかけたが主力と衝突、カンテラ軽視を問題視され任を追われ、クライフの顧問弁護士ラポルタがバルサ会長になりライカーが招聘、再びバルサは欧州で躍動。

 

中央をゾーンで潰され自由を奪われた10番はサイドで偽翼のファンタジスタとなりマドリーではジダンフィーゴが銀河系を構築しバルサではロナウジーニョがクライフ時代以来の大耳優勝をもたらした。

 

戦場が中央からサイドへと移行し、モウリーニョはWGに守備意識を求め、ボランチ、SB、WGで挟み込みサイドでボールを狩る組織チェルシーで『スペシャルワン』となり、そこに『ロブソンの通訳』の面影はなかった。

 

モウは4人のDFと2人のMFの6人で守り前線の3枚とトップ下の4名で攻撃するという攻守分断スタイル。堅牢な守備陣と攻守に働く10番、サイドの片側は労働者、もう片方は突破屋、トップに屈強な9番を置く。

 

マスコミ敵視、審判攻撃、舌戦で自軍へのバッシングを誘い自軍選手を徹底的に庇い士気をあげ、戦術的ピオリダイゼーションに基づく4局面循環理論を軸とする練習、徹底したスカウティングによる分析を用いて富豪の道楽と言われたチェルシーをビッグクラブへ引き上げモウは名将の仲間入りを果たす。

 

イカー政権終焉後の08年にモウリーニョ招聘が議論され始め、モウ本人もチェルシーを辞めフリーだったため、バルサ帰還が噂されるも、選ばれたのはモウではなくペップ。こうしてモウはインテル指揮官、ペップがバルサ指揮官におさまり平和に終わったかに見えたが、両者は2年後苛烈な戦争を引き起こす。

 

 

①08-09 クライフ主義

 

ペップの帰還

 

2001年にバルサを去ったエルドリームの4番ペップはカルチョで多様性を学び、ドーピング疑惑と戦い疲れ果て中東へ向かい、最後はメキシコで尊敬するリージョと共にフットボールの可能性を議論し引退後バルサへ帰還した。

 

バルサB監督(バルサの下部組織)を務めリーガ4部から3部へ昇格。その後はエンリケが監督を務め1部昇格権まで獲得するほどにカンテラは強靭化する(同組織のチームは同リーグにいられない規定で2部残留)。

 

バルサBでトレントプランチャルトを分析官に任命し、相手チームを研究するスタイルの構築、パススピードの向上とポジショニングの修正、守備意識徹底による攻守一体のクライフ主義をもたらした。当時バルサBは3部リーグから落ち、ピッチの内外における改革を求めていた。

 

ペップはクライフからトータルフットボールを学び、カルチョで守備的文化を学び、メキシコでリージョと議論した。バルサのトップチームの指揮官に就任する前にアルゼンチンへ飛び、11時間の対話をビエルサと交わす。そしてカンプノウへ帰還。ウェンブリーの歓喜アテネの悲劇、エルドリームを誰よりも知るクライフの『息子』はバルサバルサ化する

 

整備

 

バルサ監督就任会見でロナウジーニョ、デコ、エトーを含まないチームを考えている。彼らの行動を検討し判断を下した』イカバルサの中軸放出宣言に加えチームの規律を徹底。集合時間厳守、体重管理、夜間外出制限を徹底した。

 

08年は永遠の優勝候補と言われ続けたスペイン代表がEUROで優勝し監督アラゴネスは4番にセナを置き、ラウールというエゴの強いエースを代表から外し黄金の中盤を用いたポゼッションスタイルで優勝した。エゴを排しボールプレーに殉じタイトル獲得、ペップ改革路線導入においてラロハの成功例は説得力のあるものになった。

 

 

● GK

 

正守護神バルデスが健在で控えGKジョルケラが膝の故障で長期離脱していたが、レンタル中だったピントを買い取り。バルデスはペップの求めるリベロ的なポルテーロとしてペップ政権を支えた。

 

● CB

 

主将プジョルと4番適合可能なマルケスミリートを残しテュラムとオレゲルを放出、若返りのためカセレスエンリケ、後の大黒柱ピケ獲得。プジョルがプレー出来る時間が緩やかに減り始めた事で流動的な起用も増えた。

 

● SB

 

ザンブロッタを放出したRBに信頼のセビージャブランドのアウベスを獲得、メッシとの縦関係は相手の脅威になりバイタルへメッシが移行する際には右全域をカバー。攻撃的な『右』の影響から『左』はバランスに優れたシウビーニョとCBのアビダルが使われプジョルも駆り出された。

 

● CMF

 

バルサのヘソ、4番にはヤヤが起用、控えのエジミウソンが移籍したため、カンテラの教え子ブスケツ引き上げ。

 

● IH

 

デコはチェルシーへ放出、司令塔チャビの相方はカンテラの宝イニエスタポリバレントグジョンセンも控え、フィジカルに優れたハードワーカーケイタガナーズからフレブを獲得。

 

● WG

 

ロニーはミラン放出、偽翼の10番はメッシへ継承。左は前年度不調だったアンリが躍動し、ドスサントスが放出、ボージャンが控え、アクセントになるジェフレン獲得。

 

● FW

 

構想外エトーは攻守に著しい貢献で信頼回復し絶対的9番として君臨。ペップと衝突したプレイヤーとして扱われる事が多いが、練習態度が悪かったりするロニーやデコとは異なり、守備も厭わず全力でプレーするお手本のような選手で途中出場で不貞腐れていたのをロニーに批判されたことに対して感情的にメディアに発言した事が不安定分子とみなされただけで基本的には最高峰の選手の一人なのだ。

 

しかしエトーは全力で戦う事を認めてもらえたがりすぎる、というのが厄介なのだ。チェイスも厭わず実施するが、その事を評価して欲しいと強く主張しすぎる、この事が小さくない障害を生む。エトーバルサは自分のチームである、と考え、それを毎試合証明するために奮闘した、しかしバルサはペップの『輸血』によってカンテラ出身のメッシのチームへと変貌する。

 

 

どう、戦うか 

 

まずペップはライカー時代のクラックの閃き頼みを否定。再現性を高めたチームを建築。目指すのはボール狩りとボール保持の2局面循環クライフ描像の現代的表現

 

フットボールは4局面(保持、被保持、迫撃移行、被迫撃移行)、3フェーズ(組立、保持、崩し)に分けられる。ペップバルサは、この4局面3フェーズにおける振る舞いを定義しバルサに独特のイデオマをインストールした。

 

ボールをコンパクトな布陣を用いて全員で運び、奪われたら囲い狩り、攻撃の最終到達点バイタルエリアを解放し、最適姿勢で受けられるように試行し続ける

 

1、組み立て

 

GKは最後尾のパサーとしてロングボール陣地回復よりも繋ぐ。そのためパスコースを増やす為に前線へのプレス回避術として適用されるのがサリーダ(出口)。

 

前プレ人数+1でビルドアップ隊を形成。大抵2人でプレスに来るので2人のCB+仮想3番でプレス回避し第1ラインを超える。4番を降ろしての疑似3バックもあったがチャビが降りるのが最も安定的。プレス回避のための仮想3番が肝

 

2CBにボールが入ると仮想3番が降り、余ったCBがドライブしてボールを持ち運ぶ、4番はマーカーを引き連れ移動しドライブするための経路を作り。余りCBへのマーカーはおらず、敵の誰かがプレスすれば、その敵がマークしていた選手が空き、そこへパス。

 

仮想3番が寄せられると、一端後方にパス、中盤へマーカーを引き連れて移動し後方のビルドアップ隊が動きやすいようにスペースを創出すべく相手中盤の選手が出て行くには微妙な距離まで仮想3番は出戻る。

 

チャビが仮想3番ならチャビのIHエリアにメッシが移動、4番が仮想3番なら4番エリアにチャビが移動、ボールを受け中盤まで運ぶ。

 

 

2、保持

 

前プレを回避したらCB2名は対人に強い方が前残り相手FWにマーク、もう一人のCBはカバーし中盤で循環不全になった場合の逃げ場所を作る。DFラインは高くし中盤との距離を近くコンパクトにする。楔は対人CBが潰し、裏抜けはフォローCBとGKの飛び出しによって防御。

 

保持移行する際アウベスは仮想RWGとなる。RWGの位置にいたメッシは中盤へ移動。中盤でメッシ、イニエスタ、チャビ、ブスケツの4名が中盤を形成。9番は相手後方裏への牽制でDFラインを押し上げ、左翼も裏抜けや外突破でDFラインを牽制。パスは短い方が成功確率も高く安定的なポゼッションが望めるのでショートパスを基調

 

相手が中盤3枚(433とか4231)ならば4番がフリーになり、相手が中盤2枚(442)なら黄金の3人のうち一人が余り数的優位が確保。そして位置的優位を確保するために三角形を用いたポゼッションが発揮される。

 

相手を動かすためにボールを回し、受けられない時はマーカーを引き連れスペースを作る、という動きを繰り返す。ボールを奪われたらプレスバックとカウンタープレスで囲いボールを狩る。最良の位置取りで攻める事が最良の位置でボールを狩る事に繋がる、というクライフ描像に基づく攻守一体のトータルフットボールだ。

 

3、崩し

 

バイタルに運んだらコマンド力で得点機会を創出する。バイタルで持つと、DFラインは迂闊には飛び込めない、交わされたら最後だから。エトーはボックスの中でも外でも様々なフィニッシュパターンを持ち、メッシ、アンリもサイドから仕掛けも可能。

 

一番怖いのはメッシ。遠目からミドルも打て飛びついたCBを交わしてドリブルで突進したり、サイドのアウベスとのワンツーでペナルティに侵入し天下無双。このバイタルでのメッシ無双はバルサの大きな武器となり、それが偽9番を生む

 

4、ペップ描像

 

GKからビルドアップ開始

仮想3バックの3421で組立

アウベスが上がりメッシが中央へ移動し3133

奪われたら即時奪還ボール狩り発動

5秒で奪還出来なければ撤退442ブロック

 

これを機械的に繰り返すのがペップバルサだった。

 

ペップのデザイン力と圧倒的なコマンド力を持つ中盤と破壊力抜群の3topによってクライフ描像のアップデート版ペップ描像のバルサは猛威を振るう

 

 

進撃開始

 

シーズン開始当初はライカー時代からの急激な方針転換に戸惑い、リーガでは一分け一敗スタート。ペップ懐疑論も挙がったがアトレチコを6得点で退け波に乗りシェスターの首が飛んだマドリーはバルサ相手に引き籠るしかなく勝ち点差12で首位と、年内でリーガは決着の様相を呈していた。

 

マドリーが混迷を極め、2年前の欧州王者が攻守にハードワークすれば大抵のチームは倒せ、23節まで19勝3分け1敗という圧倒的な成績でリーガを支配。

 

しかし2月中旬から3月初旬に公式戦5戦勝ちなしという苦境。ペップバルサは毎年、代表ウィーク2月中旬に調子を大きく落とす傾向があり、プレスが空転し苦しんだ。

 

バイタル攻撃を終点にデザインされたバルサ対策も進み、バイタルを収縮させてローラインDFで守備特化するチームも増えた打ち合ってバルサに勝つことは出来ない、という諦念からバスを並べ耐え忍ぶチームとの勝負が増えたのもこの頃からだった。

 

ペップはある『実験』を大耳16強リヨン戦で試す。メッシの偽9番。勝ち点差12あったマドリーとの差は4に縮むも、『底』を抜け大耳8強でバイエルンを合計スコア5-1で退け大耳4強チェルシー戦、エルクラシコへ向かう。

 

バルサ相手に引き籠り単騎カウンターを狙うチームは、この頃『アンチフットボール』と呼ばれ、マドリーは、この不名誉を怖がりクラシコで殴りかかってしまうのだが、バルサは常に引き籠った相手をどう崩すか、が課題となり続けた。

 

 

押すか引くか

 

 ● VSマドリー(リーガ)

 

クラシコ前日の22時30分にメッシの携帯がペップからの呼び出しを伝え、オフィスに入るとペップはビデオ画像を指さしながら、メッシに言った、『このDFとMFの間のスペースが見えるか、このスペースで君は明日プレーする。』

 

試合が始まる前にチャビとイニエスタはペップから『メッシを中盤ラインで見つけたら迷わずに配球して欲しい』歴史的偽9番は静かに披露される時を待っていた。

 

チェルシーとの大耳4強1stlegでバイタル埋めドン引き戦術でカンプノウで完封され今季一度も勝てていない大耳ノックアウトラウンドでのアウェイ戦に勝てるかどうか不安を抱えながらクラシコを迎えた。

 

リーガで勝ち点差を詰めマドリーは逆転リーガ連覇の好機。前期クラシコはラモス政権発足数日というエクスキューズがあったが誇り高きマドリディズモはバルサが強くて打ち合えば勝てないので守備的に、は許さなかった(モウが来るまでは)

 

バルサはアウベス、ピケ、プジョルアビダルのDFに中盤はチャビ、イニ、ヤヤ、前線はメッシ、エトー、アンリ。

 

マドリーはラモス、メッツェルダーカンナバーロエインセのDFにマルセロ、ロッベンの両翼にガゴとラスの2ボランチ、前線はラウールとイグアイン

 

試合が始まり、数分してからペップは分析通りの挙動をマドリーが見せている事を確認し、指令を放つ。『レオ、中央へ』そして、混沌がマドリーの前に現れた。

 

ピケから裏抜けするメッシへロングパス、続けざまにチャビから裏抜けするアンリへロングパス、『裏のスペースが、がら空きだぞ、埋めなくて良いのか?』マドリーにボールで質問をぶつける。

 

マドリーの狙いはロッベンとラモスの右サイドの攻撃で殴る事。カンナバーロからロッベンへロングパスが通るとラモスが追い越しをかけクロス、中でラウールが右斜めへのランでピケを引っ張りながらプジョルとアウベスの距離を開ける、そこにイグアインが入り込みフリーでヘッド、先制はマドリー。

 

しかしロッベンは守備免除要員、つまり右の裏が弱点。10番化した9番メッシを潰す為カンナバーロが寄せる、空いたCBにはラモスがスライド、空いたRSBにはロッベンは戻らない、ラスが埋める。メッシから浮き球でラモスの裏へループパス、アンリが抜けだし落ち着いてシュート、同点。

 

そしてセットプレーからチャビのクロスがボックスに入る。ブラウグラーナの波が一斉にゴールへ向かう、一人のCBを残して、そうプジョルだ。フリーでヘッド、お返しとなるヘッドからの逆転弾で1-2。

 

メッシが中央へ降り、イニ、チャビ、ヤヤと共にボールを運んでいく。アウベスが右全域をカバーするためウイングのエトーも群れに加わる。マドリーは数的不利に陥り、ただ殴られ続け、運よく奪ったボールをロッベンに渡すだけ。

 

前半35分、ラスから高い位置でボールを奪ったチャビからメッシへボールが渡る。カンナバーロの必死のスライディング虚しくボールはカシージャスが守るゴールへと吸い込まれていった。歓喜バルサベンチ。ペップは手を叩くだけ。

 

守備に参加しないマルセロとロッベンの2人を残しバルサのパス回しに振り回され続け前半は終了。1-3というスコア以上の絶望がベルナベウを支配した。

 

マドリーの武器はロッベンとラモス。FKからロッベンの前線へのクロスにラモスが合わせ得点。バルサはセットプレーに弱い。セットプレーでのゾーンでの守備をマンツーに変えるべきでは?という質問を何度ペップは受けてきたのだろう?

 

マドリーが息を吹き返し、オープンな展開からの打ち合いへ様相を変える。前線で殴り合えば、まだ勝機はあると踏んだのだろう。ただそれは人と人の間のスペースが広がる事を意味する。バルサの中盤にスペースを与えるとどうなるか、

 

オープンな展開からボールを取り返し、チャビがバイタルでボールを受ける。圧力が一切ない空間でふわりと裏へ抜けるアンリへのラモス裏配球。落ち着いて決め、2-4

 

10番化するメッシを追うのか、放置して引くのか、その迷いがメッツェルダーの足を止め、その刹那にチャビとメッシのワンツーから10番の仮面を脱ぎ捨てた9番メッシがカシージャス目掛けて突進する。2-5

 

前線の単騎突破を主軸とする攻守分離のマドリーは攻勢が失敗すれば、中盤には広大なスペースが広がる。そのスペース目掛けてCBピケがドライブし、メッシに渡し、サイドのエトーへ。折り返しにピケが飛び込み2-6.

 

80分を過ぎ、惨劇のベルナベウから多くのマドリディスタが試合途中に続々と観客が退場していく、まるでAKB総選挙で指原莉乃が1位を獲った時のように。

 

リーガはバルサのものとなった。そして全世界に中盤に広大なスペースをバルサ相手に渡せば惨劇を生む、という教訓が2-6というスコアと共に打電された。

 

●  VSチェルシー(大耳4強)

 

カンプノウでの1stlegをスコアレスドローで封殺され、スタンフォードブリッジで迎えた2ndlegはバルサ対策を徹底するチェルシーの壁をどう崩すかポイントとなった。

 

バルサはアウベス、ヤヤ、ピケ、アビダルの後ろに中盤はブスケ、チャビ、ケイタ、前線はイニ、メッシ、エトー

 

チェルシーボシングワ、テリー、アレックス、コールの後ろに中盤はランパードエッシェンバラックマルーダ、前線はドログバアネルカ

 

バルサプジョルマルケス、アンリを欠いた中でチェルシーも得点が欲しいので攻撃姿勢は取るだろうし好機はある、というのがペップの狙いだったがプランは悲しくも早々に砕け散る。

 

クロス処理のもつれの中で、エッシェンのスーパーミドルが前半早々に決まり、チェルシーはウノゼロ狙いのドン引き戦術を80分やればいい、カンプノウで出来た事をホームで出来ないわけはない、

 

バイタルを埋めローラインを敷けば質的優位で壊せないビッグクラブならプライドさえ捨てればバルサを封殺できる、それをチェルシーは証明した。ペップは頭を掻きむしりながら苦悩に沈む。

 

後半に入るとアビダルアネルカへのファールでレッドで退場、勝機は完全に消滅した。しかしチェルシーは攻めなかった。あくまでもドログバへのロング一発を中心としたカウンターに攻撃は留め、引き籠りウノゼロ戦略を変えなかった。

 

80分を過ぎ、ブスケツを降ろしボージャン投入。エトーを左翼へ回し、イニエスタを中盤に入れ、中盤の指し手が鋭くなる。メッシは10番に固定され、黄金の中盤3枚でバイタルをこじ開けにかかる。バイタル攻撃に殉ずる揺るぎない意思が伝わる攻撃。

 

ひたすら殴るバルサ、耐え続けるチェルシー。右はアウベスがひたすらクロスを上げ続けるも高さのないバルサ攻撃陣には届かず落ち着いてブルーズがはじき返す。中盤からの鋭い攻めもバイタルを埋めていて弾かれる。詰み、そんな言葉が脳裏に浮かんだ刹那に試合は動く。

 

アウベスのクロスが流れ左のエトーからメッシへ渡り、3人を引きつけている間にボックスの前でイニエスタがフリー。ダイレクトでボレー、ツェフの右手の上に放たれたシュートはネットを揺らした。

 

歓喜の熱狂がバルサベンチに生まれ、ペップは喜びながら走り出し、イニエスタは黄色いアウェイユニフォームを脱ぎ振り回す。シウビーニョだけは冷静にペップに『まだ試合は終わってない』と伝え、グジョンセンとシウビーニョを遅延目的の交代で途中出場させアウェイゴールルールで熱狂は閉じた。

 

この試合はジャッジを巡り様々な波紋を広げ、ピケとエトーのハンドの見逃しもあり、特に後者の判定に対してはイニのゴール後だったので大紛糾し、バラックは主審に詰め寄りながら並走した(僕は当時、体育の授業の時のアップのランニング時にクラスメイトにバラック走りと称し詰め寄りながら走るモノマネをしていた笑)。

 

 

●  VSユナイテッド(大耳決勝)

 

ローマでの大耳決勝、3冠をかけた決戦を前に、ペップは映画グラディエーターの音楽にバルサのこれまでの名シーンを編集したビデオを見せモチベーションを向上させバルサの面々は燃え上がった。後日談であるが、バルデスだけは、『あの類のモチベ上げは負の影響もあるし浮足立つから自分はどーかと思う』と言っていた。

 

バルサはGKバルデス、DFはシウビーニョ、ヤヤ、ピケ、プジョル、中盤はブスケツ、チャビ、イニエスタ、前線はアンリ、エトー、メッシ

 

UTDはGKにファンデルサール、DFはエブラ、リオ、ヴィディッチオシェイ、中盤はパク、キャリックアンデルソンギグスルーニー、前線はロナウド

 

ルーニーは偽翼メッシ戦術の封殺目的だったがアウベスを欠くバルサに対してルーニーをサイドで攻守に走らせるのは得策だったのか疑問を残す。

 

ロナウドのFKがバルデスを襲い、開始10分間は前年度王者の猛攻を受ける。しかしペップは前半早々に応手。偽9番発動。

 

偽9番メッシの奇襲への困惑の刹那にイニエスタがボールを持ちドライブする、圧縮を始めるUTD、ウイングのエトーへパス。サイドに追い込めばボールは狩れるはず、だったのだが、ヴィディッチを交わしアウトサイドでシュート。名手ファンデルサールが触れるもボールはネットを揺らす。先制はバルサ

 

ギグスキャリックアンデルソンの3人に対し偽9番メッシを含めた4枚が中盤に君臨するバルサ、UTDの4バックはウインガー2枚でピン止めされる。偽翼から偽9番へと変容する新時代のペップ型UTに困惑の様相が広がる。

 

ロナウドは守備に参加せず、ルーニーとパクはサイドから身動きも取れず、バルサに中盤を支配され、カウンターを仕掛けるも、思うような決定機も作れず膠着。バルサからすればティキタカで回せば良いだけ。

 

後半にアンデルソンを降ろしテベスを投入442へ変形、カウンターを強める。しかしバルサの中盤は、より数的優位を確保し攻勢を強める。そしてサイドアタックとしてSBの上がりを解禁、ルーニーとパクを走らせ消耗させる。

 

疲れが見えるパクに代えて、ベルバトフ投入。創造性とリンク力に切り替えリスク覚悟で同点弾を目指すも、これが悪手となる。オープンな打ち合いになると中盤には広大なスペースが広がりティキタカが勢いを増す。

 

解放された中盤で攻め手を繰り出し続け、チャビのクロスにメッシがヘッドで合わせて追加点。UTDは前線の駒を増やすくらいしか攻め手が残されていなかった。

 

ギグスに代えてスコールズを入れ中盤の主導権奪還を図るも、バルサはアンリに代えてケイタを投入し試合を眠らせる。ボールを思うように奪えずロナウドはイライラからファールを連発。バルサが主導権を握り優勝。

 

 

 望外の3冠と課題

 

終わってみればトップチーム監督経験のない青年監督によってスターのエゴで空中分解寸前だったチームはパスサッカーという哲学を形成し、リーガクラブ史上初の3冠を成し遂げ、バイタル攻略バルサの出現はサイドを主戦場としたフットボールを変えた

 

VSバルサにて、バイタルを閉めて引くか、真正面から殴り合うか、という2択において前者を選択したチェルシー、後者を選択したマドリー、UTD、正解不正解は分からないが、高さを持たないバルサにとってクロス爆撃の選択がなくショートを基調としたパスもスライドが間に合ってしまう問題点があった。

 

シーズン終了後エトーは自身の活躍に対しての評価としてメッシを超える年俸とキャプテンの地位を要求し、この事がトリガーとなりバルサ姉妹クラブアヤックス出身のイブラヒモビッチとのエトー+4600万ユーロでのトレードとなった。

 

イブラの高さをバイタル攻めバルサの新たなオプションとして加えバイタル埋めへの応手を整えようとしていた。

 

シウビーニョ、グジョンセンエンリケカセレスが退団し、イブラと代理人が同じSBマクスウェル、CBチグリンスキ獲得。バイタル殺しのバルサは(UCLになってから)前人未踏の大耳連覇(決勝の舞台はマドリーホームのベルナベウ)を目指す。

 

 

② 09-10 連覇の夢

 

完璧な一年

 

バルサの3冠を横目にペレスが会長に就任したマドリーは世紀の大補強を敢行。バロンドール受賞者、ロナウド、カカに加え、アロンソアルベロアアルビオルベンゼマ獲得。指揮官はマラガで魅力的な攻撃的フットボールを展開していたペジェグリーニを招聘。VSバルサに向け戦闘準備を始めた。

 

イブラはバルサに早速フィットし開幕から5試合連続ゴール、新たな武器をバルサに持ち込んだ。足元のテクニックもあり、周囲と馴染むのが早く、前線での守備にも積極的に貢献した。

 

アンリがフォームを崩し、イニエスタはケガがちであったが、ペドロが全大会でゴールをあげる活躍を見せたり、ブスケツがヤヤから定位置を奪うほどの活躍を見せ、新シーズンに入ってから、スペインスーパーカップ、ヨーロッパスーパーカップクラブワールドカップの3つのファイナルを制し、2009年に6冠という前人未踏のタイトル数を記録した。

 

VS マドリー(リーガ)

 

バルサはGKバルデスにDFがアビ、ピケ、プジョル、アウベス、中盤がブスケ、チャビ、ケイタ、前線にイニエスタ、アンリ、メッシ

 

マドリーはGKカシージャス、DFがアルベロアアルビオル、ペペ、ラモス、中盤がマルセロ、アロンソ、ラス、カカ、前線がロナウドイグアイン

 

 

マドリーはハイラインを敷き素早い寄せでボールを奪い、カカがボールを運んでロナウドイグアインに渡すスタイルを選択。裏を攻められずバイタル狙いのバルサにとってはボールを持てず苦しい展開。

 

マルセロとのワンツーで駆け出すカカが横にスライドしアビダルが寄せたタイミングでロナウドにパス、バルデスのセーブで失点は免れる。バルサはボールを持てず、何より有用な攻め手もなくマドリーの速攻に押され続けた前半だった。

 

ペップは後半開始早々に動く。1トップで機能していなかったアンリに代え今季のイブラ投入。早速、アウベスがクロスを入れるとダイレクトボレーでゴールを沈め先制する。バルサ2年目の新たな武器、クロス攻撃が炸裂。

 

前がかりのマドリーを優雅に交わしていたバルサだが60分過ぎにブスケツが2枚目のイエローで退場。ペップは激怒しながら冷静にケイタからヤヤへの交代を行い4番を送り込む。ペジェは体調の考慮か、ロナウドを下げベンゼマを投入。

 

マドリーは一人多いアドバンテージを使って攻め込むも決定打がない。ロナウドを下げた影響か、枠内にシュートが飛ばないのだ。プジョルを中心に防ぎ続け、バルサも数度は決定機を作るも決め切れず、マドリーはラウルを投入するも試合は動かずペップバルサらしくないウノゼロ決着となった。

 

イブラの決定力が勝負を分けたが、65%の保持で試合の主導権を握りながら退場者が出ても落ち着いて対応出来た成熟度の差が大きかった。

 

揺らぐ王朝

 

年明け、バルサは国王杯でセビージャに敗北。誤審気味な判定が相次いで2度ほどゴールが取り消された敗戦だった。ハイプレスによる窒息と大雨の降った重いピッチがバルサには厳しい環境となった。ペップバルサにとって初めてのタイトル獲得失敗。ペップは自身の契約を1年延長し、3年目もペップ体制が決まった。

 

そしてイブラが得点力を失っていく。スランプに陥り、思うようにプレーが出来ない。ブスケツとヤヤの4番問題も浮上し、イブラかメッシ、ヤヤかブスケツどちらをエースにし、どちらを4番にするか。決断の時が迫っていた。

 

VS マドリー(リーガ)

 

バルサはGKバルデス、DFはプジョルミリート、ピケ、マクスウェル、中盤はブスケツ、チャビ、ケイタ、前線がペドロ、メッシ、アウベス

 

マドリーはGKカシージャス、DFはラモス、アルビオル、ガライ、アルベロア、中盤はファンデルファールト、ガゴ、アロンソ、マルセロ、前線はロナウドイグアイン

 

バルサアビダル、イブラを欠く中でアウベスをRWGで起用。メッシの偽9番を選択。マドリーは厳しくファールし続け、人的ファールリスクギリギリの守備を仕掛けた。

 

前半30分過ぎ、マクスウェルからメッシにボールが入り、近くのチャビは首振りでDF裏のスペースを確認、チャビにボールを渡しワンツーでアルビオル裏めがけて突進するメッシにボールが入り右足一閃、先制点を奪う。

 

後がなくなったマドリーはマルセロに代えてグティを入れ攻め倒しを選択するもバルデスの好守もあって得点が奪えない。ペップはボールを握るためにマクスウェルに代えてイニエスタを投入、中盤にティキタカが戻る。

 

メッシが中盤に降りてチャビにボールを渡す。チャビは首を振りギリギリまでボールを持ちながらアルベロアの背中越しを走ろうとするペドロにパス、裏抜けしたペドロは落ち着いて沈め2-0

 

ベルナベウの観客は昨季同様に席を立ち帰り始めた。ペップはクラシコ4連勝となり直接対決2試合の結果がリーガ決着にケリをつけた。マドリーとバルサの最終勝ち点差は3しかなかった。ペジェマドリーは強かった。しかし国王杯のアルコルン戦の敗北と16強敗北はペレスにとってペジェ解任の恰好の材料となった。

 

ペドロという裏抜け、イブラの高さが加わったバルサは穴が無くなり、選手層もブスケツとヤヤの4番競争、アンリとボージャンとペドロのウイング競争といった具合に競争力激しく、4231や532などシステムの多様性も増し、マドリーのホーム球場での大耳連覇の夢へ向け前進し続けた。

 

VS インテル(大耳4強)

 

アイスランドの火山噴火でバスでミラノ入り、一日かけて移動した疲れはバルサの面々に間違いなく降りかかっていた。

 

イニエスタが不在の中、ペップはイブラとメッシの縦2top4231を選択し両翼にはケイタとペドロ。

 

対するインテルはGKセザールにDFはマイコンルシオ、サミュエル、サネッティ、中盤はモッタとカンビアッソに10番はスナイデル、前線はミリートを頂点にエトーパンデフの両翼。

 

チャビがルックアップしても誰も走り出さず、ペップは大声で『繋げ、繋いでボールを運べ』と大声で指示を出すもパスは回らず、故にボール奪還のボール狩りの姿勢も不十分インテルの猛攻に3失点を喫し、ペドロのゴールはあったものの3-1で敗戦。

 

正直、戦術がどうと言うよりバルサの状態があまりにも酷すぎた。天変地異とは言えコンディションの悪さが試合を左右したと言える。このアドバンテージをもってモウはカンプノウバルサ封じを決行する。

 

カンプノウで迎えた2ndleg

 

インテルパンデフに代えてSBのギブにしたのみ。バルサミリート、ピケ、アウベスの3バックを選択し、ヤヤとブスケツの2ボランチにケイタ、チャビの2IH、前線にはメッシ、ペドロ、イブラが並んだ。

 

ペップはホームで2-0狙いの総攻撃。モウはリードを守る専守防衛に徹する。

 

モウは、この試合前年度のチェルシーと同様の策を打った。ローラインバイタル埋めである。これによってペドロの裏抜けを封じ、メッシのバイタル解放を封殺。モッタがレッドで前半早々に退場となり、専守防衛プランは試合を通じて徹底された。

 

しかしペップバルサにはイブラが居る。当然アウベスからのクロス爆撃が可能となるがインテルにとってイブラは昨季まで同僚。クセが分かっていたのかもしれないがルシオとサミュエルのCBコンビに完全に封じ込められ、中と裏と高さが封殺され完全に手が出せない状態にあった。

 

後半始めにミリートに代えてマクスウェル。外に活路を見出したい狙いがあったのだろうが、SBに堅牢の崩しを任せるのは酷。イブラとブスケツを降ろしボージャンとジェフレンを入れて4top攻めで圧力を高めるも1点止まりに終わり終戦。連覇の夢は散った。

 

結局のところ、イブラに高さを求めたものの、ゴールを挙げたのは前線でパワープレイを実施していたピケだった事を考えてもペップ自身『高さ』の攻撃が水物であるという一種の教訓を得たのかもしれない。

 

モウは喜びのあまりカンプノウのピッチを走り回って、メディアは『モウリーニョはペップバルサ対策の発明をした』と言ったが、それは違う。外捨てローラインバイタル埋めはヒディングが実施していたし、1stlegでのリードがものを言っただけで、火山活動が無ければ正直どうなっていたか微妙なところだ。

 

イブラとの衝突

 

ペップは2年連続で9番との不和を抱えた。有名なペップとイブラの衝突は何故起こったのか、多数はエトーの時と同様にエゴイストを嫌うペップが原因と言うのだろう。しかし、個人的には賛同しない。

 

『ペップはイブラを望んでおらず、イブラはペップの評価を求めたが、手に入らずメッシを中心としたチームで居場所を失い、その理由を自分のプライドを守るために全てペップのせいにした』が真実と思えてならない。

 

ペップはエトーを切った。それはエトーが自身の献身に対してチームから『お前がエースである』という承認を求めたからだ。放出を考えたバルサだが、そもそもエトーの給料は安くなく引き取り手に困ったところに左SBマクスウェルも付けてくれそうなライオラ案件のイブラとのトレード案が持ち上がったのではないだろうか?

 

イブラはバルサに興味を持った。ライオラに言いバルサ移籍をまとめるように言った。転売利益の欲しいライオラは喜んでまとめた。ではバルサはイブラを求めたのか?正確に言おう、ペップはイブラを求めていたのか?

 

ペップはビルバオジョレンテを求めていた(実はモウも)。バイタル埋めに対する応手は『裏』『外』『高さ』しかない。そのうち『裏』はローラインで無効化される、となれば残された選択肢は

 

・メッシを9番に固定し『外』を補強

・メッシの柱として『高さ』を補強

 

ペップは後者を選択した。ジョレンテを獲得し、メッシと縦に並べる。そしてバイタル埋めローラインに対してクロス爆撃で『上から』攻める。

 

 

ジョレンテの所属クラブ、純血主義のビルバオは契約満了以外での移籍は認めない独特のクラブ、当然契約の残っていたジョレンテは手に入らない。そしてイブラが選ばれた。ペップが求めていたのは守備『納税』し高さという武器をバルサに持ち込める選手だった。イブラは少し違った。

 

バルサは歴史を作ってて自分がその一員であることにとても満足だ。誰もやったことのないことをやろうとしている。僕はその道に途中から参加したが加われたことは幸せなことだ。』これはイブラの言葉だ。

 

イブラはペップバルサという伝説に加わりたかった。その一心だった。そしてペップに認められたかった。最初は良かった。ペップも積極的に話した。しかし年が明けると得点から遠ざかった。そしてサラゴサ戦、メッシは2戦連続のハットトリック、その試合の終了間際でメッシがドリブルで相手ファールによって得たPKをイブラに譲る。決めた後、屈辱を感じたはずだ。バルサの主役が誰か、痛いほどよくわかったはずだ。

 

そして迎えた大耳4強でのイブラの不振、引いた相手を崩す為の『高さ』は全く機能しなかった。試合後のペップへの『臆病者が』という言葉が2人の関係に終止符を打ってしまった。ペップは臆病だからイブラを交代させたのではない。イブラが全く脅威になっていなかったから交代したのだ。

 

イブラはメッシとの9番競争に敗れた。そしてメッシを活かす翼としてもペドロに敗れた。純粋な競争の敗北による放出だった。

 

イブラはマドリー移籍をちらつかせてバルサを退団し、10年間ペップの悪口を言い続けている。しかしイブラを追い出したのはペップではない。メッシだ。メッシを中心としたチームとイブラを中心としたそれ、比べれば当然なのだ。イブラはメッシを悪くは言わない、あくまでもペップとの不和が退団の原因と言っている。

 

また、イブラはマドリーには行けなかっただろう。第2次銀河系の主役はロナウドであり守備免除要員を2人も抱えるはずがない、特にモウリーニョは。

 

『君を中心とするよりメッシを中心とするチームの方が強い、そして君はそのシステムの中では活きないしペドロの方が上だ、だから君はベンチで高さが必要な場面が来るまで使い道はない』これがペップの本音だろう。

 

 

 

未来へ

 

イブラという『高さ』の移植に失敗し、メッシ偽9番システムの『濃度』を上げる事にした。初年度のエトーのようにウイングでも献身的に攻守に貢献し『裏抜け』出来るタイプ、もしくは外攻めが出来るタイプの獲得を目指した。

 

そしてビジャが選ばれた。生粋のストライカーでありながらスペイン代表でバルサ選手との相性も良くチャビも歓迎した。失望に終わったイブラとチグリンスキを放出しヤヤもシティに移籍し穴埋めとしてマスチェラーノ、左右両方のラテラル起用が可能なアドリアーノも獲得。

 

マスチェラーノは移籍金の一部を自己負担しペップサッカーの研究のために何度も映像で勉強し、ペップにも積極的に質問をし、バルサ不動のセントラルとして定着していく。プジョルの後継者がマスチェになる事をこの時の誰も知らなかったが、ペップはビエルサが若き日のマスチェをCBとして起用していた事を知っていた。

 

 

偽9番メッシを『中』で解放するため『裏』攻めが可能なビジャを偽翼とし2年前の3冠の再現を目指す戦いが始まった。そして歴史的激闘となる3年目が幕を開ける。

 

 

③ 10-11 VISCA BARCA 

 

 

銀河系2.0

 

第2次銀河系軍団マドリーの目的はただ一つ、バルサを止める事。インテルバルサを下しベルナベウで大耳を掲げたモウのマドリー招聘は必然の選択だった。そして銀河系はモウを加えバルサ王朝を止めるべく始動した。

 

モウは銀河系に実利性を与えた。

 

作るチームはチェルシーインテルと変わらない。屈強な4バックとGKの堅牢な守備を土台とし、マケレレロールと司令塔、ハードワーカーと突破力のある両翼に攻守に貢献度の高い10番に前線で体の張れる9番だ。

 

足らなかったピースとしてカルバリョ、マリア、エジルケディラを獲得。銀河系の一人カカは干された。守備意識の軽薄さと安定しない体調はモウに不信感を抱かせた。

 

9番に常に不満をモウは抱えた。ドログバのようにロングボールを収められてワンチャンスを決め切るストライカーという描像をベンゼマイグアイン両名が満たしていなかった。冬のアデバヨル獲得が、その証左。

 

守備範囲の広いペペと経験豊かなカルバリョのCBコンビが控え最後尾には守護神カシージャスが君臨、右は守備力の高いモウ好みのラモスがRSB、左は攻撃的なマルセロでバランスをとり、中盤はマケレレロールをケディラが担い、アロンソが司令塔、エジルとマリアが攻守に貢献し、ロナウドの突破力でゴールを狙うチーム。

 

ただドログバロールをこなせる9番が不在でロナウドは前線でファイトする選手ではなく、彼の不可測な動きを、どう落とし込むか結局答えは出なかったが、リーガではバルサを抑え首位を独走し、カンプノウでのクラシコへ向かっていく。

 

 

バルサという暴力

 

VS マドリー(リーガ)

 

進撃するモウマドリーはカンプノウで最強バルサと相まみえた。安定的な強さを見せていたマドリーは真正面から殴り合いを挑んだ。

 

バルサはGKバルデス、DFはアビダルプジョル、ピケ、アウベス、MFはブスケツ、チャビ、イニエスタで前線はビジャ、メッシ、ペドロ

 

マドリーはGKカシージャス、DFはマルセロ、ペペ、カルバリョ、ラモス、MFはアロンソケディラエジルで前線はロナウドベンゼマ、マリア

 

正真正銘の真正面からの殴り合いクラシコが幕を開けた。

 

バルサは仮想3番による組立、裏へのお試しロングパス、中盤での軽い球回し、による3分間の『診断』の結果、DFラインは浅め、マリアはアウベスマーク、ロナウドを右に置いての迫撃狙い、が本日のマドリーと算定。

 

ロナウドシザースからのクロスの際、ピケの足がバルデスの頭と肩にあたり治療で試合が少し止まった間にペップはアウベスを呼び伝える『マリアがお前に付いてきてる、RWG化してDFラインへ押し付けろ』

 

アウベスはすぐさまハーフラインを超えマリアをLSB化。メッシのループがポストを叩きマドリーはマリアを加えた5バックへ。アウベスが偽翼となりメッシを中央右寄りの位置、ペドロとビジャは裏を牽制。

 

メッシ、イニ、チャビ、ブスケツの4枚が中盤に君臨し、エジルケディラアロンソが抑えにかかるが、一人不足。チャビがターンでベンゼマをいなしフリーのブスケツにパスしメッシへ通す、チャビとメッシのワンツーからメッシはドリブルで威嚇しマドリーの収縮が始まったところでハーフにいたイニへパス。視線が左へ向く中でチャビは静かにペナルティへと走り出していた。到達後、手を挙げる。

 

火の出るようなキラーパスがカルバリョの横に位置するチャビに届く、ヒールでトラップし放たれたループはカシージャスの伸ばした手を乗り越えてネットを揺らす。ゴラッソ。生え抜き4人衆による圧巻の崩しで先制。

 

今季のバルサは中央突破だけではない、ラインの高いマドリーの裏へピケからロングボールがビジャ目掛けて放たれる。ビジャはサムズアップ。チームに裏抜けのオプションが付いた事を示す一幕。15分が過ぎバルサのボール支配率は75%を記録していた。

 

中央右側へメッシ、イニ、チャビが寄りボールを回す、ペドロが追い越しをかけようと走り出すもマルセロが押し倒れるペドロ、マドリー側の集中が切れたところで逆サイドでフリーだったビジャへとチャビがパス、次は左へ注目が集まるところで、右サイドのカバーへ走り出すマルセロの後ろを走る男がいた。先ほど倒されたペドロだ。ピッチは寝る場所ではない、戦う場所なのだ。ビジャのクロスにマルセロの後ろから追い越したペドロが合わせて2点目。

 

浅いラインの裏への両WGの抜け出し、数的優位を利用した中央制圧を繰り出すバルサに対しマドリーは裏へパスするもバルデスが飛び出し、ロナウドに渡すも思うように突破が出来ない。そして前半30分にロナウドがボールを保持できずラインを割りスローインという展開でボールを拾ったペップの胸を小突く。カンテラのアイドルへの無礼な行動にイニ、バルデス、ピケが激怒。モウ到来以降クラシコは小競り合いの連続だった。

 

後半からエジルを下げラス投入。中盤での圧力の向上を図ったが、ロナウドへのパス経路が減り、マドリーの攻撃力は減退。ロナウドへのロングパスをアウベスがカットしチャビとワンツーで右前方へドライブ、バイタルでメッシに渡り、裏へパスしビジャがゴール。アロンソはDFラインに吸収されていた。

 

次はラスからボールを奪ったチャビからブスケツ、メッシへと渡り、メッシがマドリーの視線を左へ引きつけて置き圧縮させたところで、ラモスの裏へパスしビジャが抜けだしてゴール、4-0

 

追いすがるマドリーをあざ笑うかのようにティキタカで交わすバルサ。ペップは身振り手振りで力強く鼓舞し指示を送るのに対しモウは座りながらカランカとと話したりメモを取るのみ。そしてペドロと試合終了間際に交代したジェフレンがラモスの裏から侵入し追加点。マニータ、モウのバルサ初陣は惨劇に終わった。

 

 

モウのVSバルサにおいて、

ラインを上げて挑んだ初戦は裏を取られまくり

偽9番にも対応できず

ラスを入れてもティキタカは止まらず

アウベス潰しも機能しなかった

 

ここからモウマドリーはバルサを止めるべく、次々に策を打つ。

 

 

モウの挑戦

 

当時の欧州サッカーにおいてバルサに勝つ事は欧州制覇と等号で結ばれていたために欧州制圧を狙うビッグクラブはVSバルサが最大の命題でバルサ対策を次々考案してた。

 

その筆頭が同リーグのモウマドリーで、バルサに勝つことを託されたモウはマドリーでバルサ対策のレベルを少しずつ上げる。カンプノウでのマニータではアウベスを消すためのマリアマークを打ったが、バルサの完成度の前に早期に崩壊。そしてここからリーガ後半戦、コパ決勝、大耳4強という4連戦でマドリーはVSバルサ決戦兵器としてアップデートを続ける。

 

(ⅰ)リーガ2nd

 

バルサは(バイタル攻め特化集団+裏攻めビジャ)であるため、まずバイタルを埋める戦術をVSバルサで固定。中盤はアロンソケディラ、ペペを用いる3ボランチ(トリボーテ)を打った。バルサのボール回しに付き合わず前プレも最低限に留め、中盤の保持段階で潰そうとした。

 

一定の効果は得たものの、やはりメッシは止められずペペが中盤起用されたため控えのアルビオルがCBで出場しており一発レッドでPKを取られ崩壊、ベンゼマを下げてエジルを投入しロナウドを復活させ、マルセロがPKを獲得し1-1エンパテ決着。

 

裏攻めビジャ対策としてのローライン、バイタル埋めのミックスは人的ファールのリスクがどうしてもあり、バルサにボールを渡す以上仕方はないのだが人的資本の質が落ちると攻め落とされてしまう事を露呈した。

 

またロナウドを活かす為にはエジルのようなパサーが絶対必要、またCBにもVSメッシとして質的向上が必要と判断した。そして偽9番メッシの止め方の一つとして飛び出すCBの必要性にモウは気づいた。

 

(ⅱ)国王杯決勝

 

CBにラモスを起用し偽9番メッシが10番化すれば前へ出て潰す。これによりメッシは本来の右翼へ押し出され、ラモス起用によりメッシ番ペペの役割はチャビとイニの妨害へ代わりIH起用。

 

中盤はトリボーテでバイタルを封鎖し、ローラインで裏も消す。ロナウドを前線に一人残しエジルをシャドーで使い、ボールを奪えばマリア、エジルロナウドのカウンターで刺す。

 

ボールを狩るのではなく人に付きマーカーを切らない守備と奪ってからの持ち運びというハードワークを徹底しティキタカを封殺した。これまでの引く守備から追う守備へと切り替えた。アグレッシブな高い位置でのプレス、奪えばバルサのSB裏を攻めてロナウドに渡す、を徹底。

 

前半はバルサは氷漬けにされるも後半マドリーの強度が緩み始めるとパスを回し何度か決定機を作る、しかしマリアからロナウドのヘッドでウノゼロ敗北。遂にモウはバルサに土を付けた。そして3冠を阻止しマドリーにタイトルをもたらした。

 

飛び出すCBラモスによる偽9番メッシ封殺

ペペのIH起用によるティキタカ妨害

マンツーで不規則配置への応手

トリボーテによるバイタル封鎖

ローラインによる裏潰し

 

これまでのVSペップバルサに喫した敗北から学んだ完璧なペップバルサ殺し。

 

この試合のペドロのゴール取り消しの判定に対してペップは不平を会見でもらし、モウは『審判の正しいジャッジに対して文句を言うユニークなグループが今夜誕生した、そのグループに属するのはペップのみだ』と挑発を送った。再三に渡る挑発的言動を受けてペップは大耳記者会見にて反撃を見舞う。

 

『Mr.モウリーニョが私をペップと呼んだので、私は彼をジョゼと呼ぶ。彼のカメラはどれだ? きっと全部だね。明日、私たちは20時45分にピッチで対戦することになる。ピッチの外でのチャンピオンズリーグは彼がすでに勝利をしたし、それをプレゼントするから、自宅に持ち帰って楽しんでほしい。彼はこの部屋の愚かな主人(Fuck Master)だ。私は彼と競いたくない。ただマドリーを祝福するよ』

 

ピッチ外での諍いに対して温厚なペップはカウンターを放った。スビサレータSDやロセイ会長は、止めようとしたが、ペップは立ち向かった。本来はフロントが、こういった事に対して言及すべきなのに動こうとしない所にペップは頭にきていた。

 

会見から帰ると選手たちが拍手で出迎えた。『よく言ってくれた』そんな気分だったのだろう。モウは素晴らしい指揮官でありペップバルサを最も苦しめた、しかしピッチ外での言いがかりは残念だったし、フットボリスタにはピッチ上でこそ戦って欲しいと思うのだが。

 

(ⅲ)大耳4強1st

 

完璧に機能したコパ決勝から、ホームマドリーが狙うのはウノゼロ。一方のペップはLSBにプジョルを起用し、アウベスの上がりを制限、引き分けでも構わない。という塩展開をモウに見せる。中盤はイニがおらずパスも回らない、アウェイ退き戦略を提示した。しかし、これがマドリーには厄介だった。これがモウマドリー最大の弱点、相手が殴って来てくれないと何もできない問題である。

 

殴るバルサ、交わしながらロナウドカウンター狙いのマドリーの構図が壊れた。殴ってこないバルサ、戸惑うマドリー。エジルを下げアデバヨルを投入し、案の定ロナウドは孤立。この悪手に加え、ペペがアウベスに足裏を見せるファールで一発レッド、この一枚のカードが試合を決定づける。執拗な抗議でモウリーニョは退場。ペペの退場はVSバルサ戦略の事実上の崩壊を意味していた。

 

トリボーテが解除され中盤には『酸素』が戻り落ち着きを取り戻すバルサ、ペペを失いバイタルは解放。ペペを中心に中盤を抑えているからこそのラモスのメッシ封じ、それもリスクが高く飛び込みづらくなる。

 

ペップは勝負手を打つ。裏中攻めが膠着状態になった時、サイドから外攻めを与えられる存在になりうると踏んで冬に獲得していたアフェライ投入。

 

ペップはマドリーを殺しにかかる。アウベスの右上がりを解除、アフェライの外攻めによりDFラインを外へ広げる。裏中に対応していたマドリーは混乱。アフェライが外を攻め落とし、メッシへクロス、マドリー失点。バルサらしくない塩前半からバルサらしくない外攻め得点。

 

外へのケア、ペペ不在、バイタルは当然空く。そして歴代最高のバイタル殺し最終生産者が暴れ狂う。メッシが単騎突破でマドリーを地獄へと落とす2点目を奪う。

 

ペペが退場しなければバルサは勝てていたか分からない。しかし外攻めというバルサらしくない攻め手こそがマドリーを苦しめた、という事実は興味深い。ペップバルサというバイタル殺し名人メッシの解放を活かす裏攻めビジャに次ぐ新たな武器外攻めの有用性が示された試合であった。

 

『中』のメッシを活かす為の『裏』と『外』の攻め手の装備、これがペップバルサの次なるフェーズとなり、11-12シーズンのセスク、サンチェスの獲得、テージョ、クエンカの抜擢に繋がる。

 

モウは会見でバルサの胸スポンサーがユニセフだからUEFAに圧力がかかったのではないかと話していた。それなら全チームのユニフォームにユニセフがプリントされると思うのだが。

 

 

中興の祖モウリーニョ

 

10-11シーズンの大耳4強は1stlegでほぼ決着していた。ペペ出場停止、モウはベンチ入り禁止、歴史的バルサ相手に0-2のスコアをひっくり返す力は残っていなかった。

 

ペップバルサを最も苦しめたモウマドリーは苦々しく受け止める人も多く、マドリディスタも品性を欠く言動の数々に呆れアンチモウも一定数いる。ペップバルサヲタの自分のモウマドリーへの所感を述べる。

 

自分は一貫してモウリーニョはマドリーを再建し、第2次銀河系を成功に導いた英雄でありカルロ、ジダンの2人による4度の大耳制覇はモウの功績によるものであり、マドリーのレジェンドと考えている。

 

大耳16強の壁を越えられず、歴史的バルサの後塵を拝していたチームをモウは変革した。最大の功績は現実主義を導入しマドリーに伝統はいらない、勝利したという結果がマドリーをマドリーたらしめる、という哲学を形成した事にある。

 

ペップバルサへの応手の数々は有用であり、手段を選ばず挑む姿は新たなマドリディズモを作り上げた。ビラノバへの目つぶし行為や記者会見での蛮行は決して正当化出来るものではないし自分もそこは否定的立場を取る。しかしモウはマドリーの中興の祖としてリスペクトされるべきと主張したい。

 

(1)カシージャス干しの是非

 

マドリーの象徴、カシージャスのケガに合わせモウはロペスを正GKとして起用し、カシージャスがチーム内情を恋人だったレポーターにリークした事への私怨、ペレスが嫌っていた事を代理した、と言われ続けた。

 

このイケル干しは波紋を広げた。しかし、この選択は正しかった。後任のカルロがイケルをカップ戦要員として使った事からも明らかなように、カシージャスには重大な欠点があった。それは守備範囲の狭さである。

 

偽9番メッシ用兵器CBラモスがレギュラーに定着し、スピードと対人能力の高さからDFラインの高低調整が可能になったマドリーにとって、カシージャスの裏への飛び出しの欠如はマドリーにとっての障害になる、と踏んだモウは間違ってはいない。

 

私怨から来るか、それは分からない。しかしカシージャスからレギュラーを取り上げるという操作はマドリーが強靭化するには必要だった。ある意味、その面倒な操作をモウは実行に移し一人でその罪を背負った。運動神経の高さによるカバーは加齢により、いずれ限界が来る。モウのイケル外しは間違ってはいない。

 

ラモスのCB起用もカルバリョと揉めた事に起因すると言われるが、キッカケは何にせよラモスのコンバートの正しさは歴史が証明している。モウは自軍選手と揉めた、と言われるが、残したものはもっと正しく評価されるべきだ。

 

 

(2)大耳での躍進

 

ペップがバルサで3年で2度大耳を獲ったのと対照的にモウはマドリーで3年で1度も大耳を獲れなかった。1年目はバルサに手の内を全てコパで見せてしまった事が原因だが歴史的チームゆえ仕方ないといえば仕方ない。

 

2年目は4強でPKでバイエルンに負け、3年目は4強でドルトムントに1点差負け、本当に、あと少しだった。能動的攻撃デザインが欠けていた、と言われるがモウマドリーは間違いなく最高峰のチームだった。

 

カシージャスを外しGKの守備範囲を調整し、CBラモスを定着させ、ペペの新たな可能性を広げ、ヴァランを抜擢し、エジル、マリアをワールドクラスへ引き上げた、そしてロナウドを終点とするカウンタースタイルの土台を築き、チームを欧州で戦える競争力のあるチームへ導いた。まぎれもない功労者だ。

 

ロナウドの9番転移に失敗した事が唯一の失敗であるが、偽翼ロナウドを活かす為の土台を作ったのはモウリーニョであり、後の4度の大耳に繋がる歴史的チームへの貢献を果たしたモウリーニョは再評価される人物である。

 

ジダン政権の大耳決勝アトレチコ戦でのボールの放棄はモウ時代の名残でもあり、勝つためならば如何なる手段も正当化されるという勝利至上主義的マドリディズモというモウが植え付けた精神を見た。

 

 アンチフットボールも勝てば正道、モウが与えた最大の遺産であろう。

 

完成

 

大耳決勝で待つ相手は2年前と同じUTD。復讐に燃えるファーギーは真正面から殴り勝つ戦略を選択したが、伝説的バルサは想像の遥か上のパフォーマンスを見せた。

 

バルサはGKバルデス、DFはアビダル、マスチェ、ピケ、アウベス、中盤はブスケツ、チャビ、イニ、前線はビジャ、メッシ、ペドロ

 

UTDはGKファンデルサール、DFはファビオ、リオ、ヴィディッチ、エブラ、中盤はバレンシアキャリックギグス、パク、前線はルーニー、チチャ

 

前回大耳決勝ではルーニーをサイドで起用したが、3年目のペップバルサの強みはアウベスと偽翼メッシにあらず、黄金の中盤によるメッシのバイタル無双と見極め、中央へルーニーを動かした。ルーニーの10番起用により4番ブスケツを牽制しながら、奪えば広大に広がるバルサDF裏へ走りこむチチャへのパスでバルサを刺すのがデザイン。

 

3ラインで一糸乱れぬ守備、442の陣形の中で10人の選手は誰一人任務をサボらず90分間連動し続ける近代サッカーの完成形であるUTDバルサは完膚なきまでに破壊する。バルサバルサである限り、UTDがUTDである限り、永遠に埋まらない差がより明確になっていく。

 

この試合でペップは最低限の指示はしたが、基本的には選手が決め判断した。指揮官ペップは必要なかった。なぜならピッチ上に司令塔チャビがいたから。この試合はチャビのベストゲームであり、ゆえに常軌を逸したポゼッションサッカーが展開された。

 

バルデスがボールを持つとCBは大きく広がり、仮想3番チャビが降りる。そして仮想3バックを作り、チチャとルーニーを引きつけさせてマスケにドライブさせボールを運んだり、ブスケツはマスチェを避けるように動きマーカーと共に進路を作る。チャビマークが厳しくなれば、引き連れて中盤へ戻りピケにビルドアップさせる。

 

チャビは特別な事はしていない、相手を食いつかせ相手を動かし、食いつかなければ限界までボールを持ち運ぶ、スペースを作り味方に常に優位性を譲渡し続ける

 

GKへ激しいプレスが来れば、ふわりとしたロングパスを前方へバルデスは蹴りだし時間を稼ぎ、その間にラインを上げて裏を狙うチチャを封殺する。DFのクリアも同じく大きく蹴りだして時間を稼ぎラインを上げてチチャを封殺する。この試合、チチャの裏抜けは完全に無効化された。

 

ルーニーブスケツへのマークをしながらも無効化されたチチャの援護に回っていた事に加え、中盤2枚に対して、メッシ、チャビ、イニの3枚で回され、ボールに触れる事さえ困難だった。アウトサイドハーフを絞らせ3枚で守っても、メッシ、チャビ、イニの三角形は旋回を繰り返してプレスを空転させてバイタルへボールを運び続けた。

 

攻撃が失敗に終われば網を張ってボールを狩り、再び保持へと移行するバルサに対してロングボールを前線に送るも、楔はマスチェが潰し、裏パスはピケが封殺し、バルデスも飛び出しハイラインの保険を形成。

 

偽9番メッシが中盤へ降り、ビジャが9番となり、アウベスがRWG化して、攻撃。バイタルへカンテラ三角形を中心にボールを運び続ける。チャビがバイタルでボールを持ちDFがアタックを仕掛けようと収縮した時、裏を走るペドロにアウトサイドパス、ニアをぶち抜き先制。

 

ギグスの起用により攻勢を維持したUTDはルーニーとのワンツーからゴールをあげ前半を折り返すも、ギグスバルサのビルドアップ隊に食いつくと、中盤はカンテラ大三角に蹂躙され続け、守備面でのリスクが厳しい展開を招いた。

 

チャビにキャリックがマンツーでマーク、チャビは涼しい顔で後方にパスしキャリックをサイドへ引き連れ、ボールはメッシへと経由される、メッシはパクとの1VS1、ここでもメッシはチャビ同様にパクを引き連れ前方へ移動しチャビにパス。アビダルとペドロが前方へ走りラインを引っ張る、空いたバイタルにビジャを残して。

 

ファーガソンは何もできず、顔を紅潮させて拳を握り続けるだけだった。

 

再三に渡るバイタル侵入を受け、バイタルを閉じローラインで裏を消す。バルサは深くサイドをえぐって折り返してミドルという手筋を繰り返す。この手筋からメッシのミドルとビジャのミドルが決まり、1-3でバルサが勝利、ボールを握り試合の主導権も握るというクライフ描像の勝利を見せつけた。

 

3年間で2度の大耳優勝、世界の模範であり、ラインDFの殺し方マニュアルとして教典となったバルサを作り上げたペップの未来は黄金に輝く、と誰もが思った。しかし、この優勝が長く続く大耳10年戦争の始まりであった。

 

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④ ペップバルサとは?

 

ペップバルサが与えた影響について見ていこう。

 

(1) 10番復活

 

ペップバルサによる2度の『王者』UTD殺しも相まって多くのチームでポゼッションスタイルが実装され、特に、ラインDF全盛のプレミアリーグでは、ライン殺しとしての『間で受ける』事が出来る選手が到来した。

 

(シティ)   シルバ

(ガナーズ)  カソルラ

(リバポ)   コウチーニョ

(チェルシー) マタ

(スパーズ)  エリクセン

(UTD)    香川

 

カルチョのゾーンが10番をサイドへ追いやったのとは反対に、バイタルエリアの崩しが主局面となり10番は再び『10番』へと戻っていった

 

間で受けてラインを殺す、というスタイルの実装がプレミア覇権の王手飛車取りとなった時代、UTDは香川の落とし込みに手こずり王者から陥落し、シティがプレミア覇権の中心となっていく。ペップバルサ時代以降、リーガが欧州で覇権を握りプレミアもBIG4という言葉が死語と化し始めた。

 

サイドに10番を追いやったゾーンと相対したクライフの思想を受け継ぎ、見事にラインDFを崩し時代を中央へと戻したのはペップバルサの大きな影響と言える。

 

 

(2) トータル性の実装

 

10番の流行と同時に、ペップバルサによる守備陣の組立貢献から4番性の装備、CBの繋ぎ、GKのディストリビューションが流行し始めた。

 

バルサではブスケツボランチとして潰しを担当しながらも4番として組立に従事し時にはバイタルのメッシに楔を打ち込んでいた。

 

この影響から4番をチームに設置し守備専用の潰し屋は徐々に淘汰され始めた。バイエルンのグスタボはハビマルに居場所を奪われ、そのバイエルンは大耳を制覇。シティではジーニョがヤヤの相棒に定着し、潰しながらも繋ぐプレーでシティの大耳で戦えるチームへの変貌に寄与した。

 

相対するチームも4番を抑えるために、44の2ラインでは厳しいため、45の2ラインという9枚ブロックが流行し始め、4231がデフォとなっていった。オシムは、この現象を『モウリーニョシンドローム』と表現し、正確に言うと、『4番抑制ブロック』だ。

 

そして偽9番メッシの躍動によりゼロトップも流行し、モウの応手であったラモスの飛び出しによる偽9番殺しが飛び出すCBの重要性を生み、また9枚ブロックへの応手としてピケのような繋ぎもCBに要求された。コンパクトにするためのハイラインを敷く上でのスピードの要請も加わり、求められるCBの描像はペップバルサ以降大きく変貌を遂げる。

 

飛び出すCBのリスクを考え3バックを採用するチームも増え、2014W杯は3バックが流行し偽9番ゲッツェが3バックのアルゼンチンから決勝点を奪ったのは2010年代中盤の描像の表現として好例と言える。

 

2010年代中盤はリーマンショックと欧州サッカーバブルにより格差がかつてないほどに広がり7枚を残し3枚の暴力3topで刺すバルサ/マドリーが9枚ブロックのチームを壊し続け、リーガが欧州の頂点に君臨していた。

 

アトレティコはリーガ第3クラブとして常にバルサ/マドリーと向き合う。最初は9枚ブロック横スライドで戦い続けるもボールを追うのに必死で逆サイドのボールへのアプローチを続けるうちに段々とブロックに穴が出来て崩される、という構造に気が付き、シメオネはブロック枚数の増加に着手する。

 

遂にブロックは10枚、フィールドプレイヤー全員が守勢をとった。レスターが10枚ブロックでプレミアを制覇し、人的優位性のあるリーガのような格差社会と違い、プレミアのようなリーグだとデザインされた崩しでないと勝てない時代が2015年以降到来した。

 

その崩し方は『ポジショナルプレー』と呼ばれた

 

そしてプレミアはBIG4時代以来となる新たなコンペテティブなフェーズへと入り、続々とコンテ、サッリ、トウヘル、クロップ、ペップ、モウ、エメリといった戦術家が招聘された。

 

 

(3) 前例の呪い

 

『我々はこの10年間、グアルディオラを間違って追いかけ続けた。グアルディオラフットボールを全員ができるわけではない。あのプレースタイルには、イニエスタやシャビ、メッシがいなければならない』

 

カルチョの名将アッレグリの言葉だ。ペップフットボールへの誤った解釈と人的資本のないチームでの実装が招いた悲劇を指した言葉だ。

 

偽9番はメッシ以外では成功例が乏しく、最終生産性を自ら潰してしまうためにゴールから遠ざかるパスで繋ぐスタイルであるティキタカも意図のない無駄なパス回しに終わりボールを奪われカウンターを招く事が多かった。

 

マイティアヤックスを研究する事でビエルサフットボールが生まれたようにペップバルサの即時奪還スキームはラングニックの研究成果と合わさってドイツではゲーゲンプレスを生み出し、ドイツで、その洗礼をペップは受ける事になった。

 

またペップバルサカンテラ、自家製の生え抜き選手が多くを占めた。バロンドール投票においてメッシ、チャビ、イニエスタの3名が3強を独占したのは快挙。そしてバルサカンテラ主義という生え抜き至上主義の純血思想が広がった。

 

カンテラ重視は結果論に過ぎない。ペップはカンテラに拘ってはいなかったし、あくまでも強いチームを求めた結果だ、しかしバルサでは今でもカンテラ信仰が根強く存在しており、ペップバルサという成功例の呪いに囚われている。

 

バルサはチャビ、イニエスタ、メッシがいたから強かっただけ、その証拠にペップはバルサ退団以降、大耳を制覇していない』

 

よく聞く台詞だ。実際ペップも、この類の質問を数度受けている。そして、いつも返事は変わらない。

 

『その通りだ、素晴らしい選手がいたから多くの成功を得られた。選手のおかげで沢山のタイトルを獲れたんだ』

 

メッシがいたからバイタル攻めを中心とした中央制圧をバルサは選択した。ロベリならサイド解放、レバミュラならハイクロス爆撃、アグエロならロークロス爆撃にする、

 

手元にある最終生産者の得意戦型の選択、それこそがペップサッカーであり、バルサはメッシを活かすスキームを選択した。ただそれだけだ。

 

人的資本に応じた戦術を選択し、相手を研究し微調整を加え最適応手を選択する。それを4年繰り返し続けたのがペップバルサだった。

 

ペップバルサという歴史的チームが与えた影響は凄まじい。ペップはバルサ退団以降、コアUTを用いたポジショナルサッカーによってバルサ時代以来の欧州制覇を狙い続け、大耳を逃す度バルサ時代の栄光と比較され、上記の様な質問を浴びせ続けられている。

 

ペップバルサという前例は様々な弊害をもたらした、しかし偉大なる前例の影響を一番受けているのはペップ・グアルディオラその人なのかもしれない

 

 

(4) 10年目の『5年目』

 

ペップはウェンブリーでの大耳制覇の翌季にセスク、サンチェスを獲得し、メッシという中の覇者を解放するための外攻め裏攻めの設置に挑む。しかしケガ人が相次ぎ、メッシの守備放棄も重なり即時奪還スキームも壊れ4年でペップはバルサ監督を辞する事になった。

 

ペップバルサ5年目があったとしたら、ペップは何をしただろうか、少々ドラスティックな推察だが、メッシ放出を選択したのではないか?

 

思えばペップは守備の税金を払わない『脱税者』を放出し規律への遵守を怠る人間を排除しバイタル攻め攻撃と即時奪還の両立を追求した、それがペップバルサだった。

 

メッシは明らかに守備を放棄し始めていた。しかしバルサの最終生産者メッシの守備放棄は攻撃のリターンによって十分にお釣りがくるレベルで、即時奪還を一部放棄すれば正当化出来る。

 

しかしペップは認めたと思えない。メッシを切って再編する想定をしていたのではないだろうか。

 

メッシ解放のための外攻めと裏攻めを任せうるクラックを獲得し、メッシの守備放棄を認める路線はペップのアイデアにはあったはずだ。そのアイデアは後にMSNとしてエンリケが具現化する。

 

メッシかバルサ、個人か組織、という2択において後者を選択するとして、メッシを放出するというのは事実上不可能で、この究極の命題にペップは苦しみバルサ指揮官を辞したのではないか、と想像するのだ。

 

だからこそメッシを出すのではなく、ペップ自身がバルサを出て、メッシを切った後の世界線を別に建築する事にしたのではないだろうか?

 

そしてバイエルン、シティではコアUTになり得るポリバレントな選手を最適配置理論に基づいて配置変換し続け幻惑するバルサとは異なる描像を打ち出す。

 

ペップバルサとは共産的な組織に見えて、その実態はメッシという稀代の天才コアUTの個人能力に立脚した組織だった。高いコマンド力とカンテラ純正培養による最適配置の理解力、これが簡単に再現できるわけがない、アレグリの嘆きは正しい。

 

ペップは、メッシという超人のいない世界線でポジショナルプレーをするという『仮想ペップバルサ5年目』を生きているように自分には見えるのだ。

 

メッシという超人を放出した『ペップバルサ』の別の世界線を生きる男の苦闘を我々は見ているのかもしれない。その意味で『ペップバルサ』は未だに続いていると言えるだろう、メッシを放出した超人なき『ペップバルサ』のβ世界線が。

 

2021年、長らく続いたエヴァンゲリオンが完結した。旧劇というα世界線の別世界線となるβ世界線を新劇は構築した。作者庵野秀明は、現実にγ世界線を建築し虚構の世界に囚われる人々の解放を描いた。エヴァもペップもアーカイブからの引用と脱構築性においてシンクロする部分が少なくない。

 

保持と即時奪還の両立というクライフ描像遵守における特異点メッシのいる世界線といない世界線、両者は昨季オフにメッシのシティ加入で交わろうとしていた。エヴァがQにおいてカヲルという特異点で交わったように。

 

しかし絶望に終わったα世界線とは反対に希望のある破壊によりβ世界線は現実というγ世界線を生み出した。

 

エヴァヲタの自分が『ペップバルサ』に熱中するのは、脱構築手法によって古典アーカイブの引用によって成り立ち、複数の世界線を建築するという極めてユニークな様相を呈しているという共通点を感じているからなのかもしれない。

 

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歴史的最終生産者メッシと脱構築の天才ペップは、どのような帰結を得るのだろう。

 

来季でペップはバルサを去って10年を迎える。メッシを放出していたかもしれない『ペップバルサ』の10年目の『5年目』が始まる

 

新たなコアUT生産者ムバッペという超人を加えて『ペップバルサ』的描像へと回帰するのか、それとも『ポストペップバルサ』的描像を追求するのか、楽しみでならない。

 

超人を超えた組織が生まれる瞬間を、ペップが『バルサ』を超える瞬間を見られる事を楽しみに、これからもペップサッカーを見続けたいと思う。その瞬間こそが『ペップバルサ』の完結の瞬間になるのだから。

 

 

⑤ 終わりに

 

ペップバルサのウェンブリーでの戴冠から10年の時が過ぎた。ペップは3年間で2度の大耳制覇を果たすが、そこから10年間大耳決勝から遠ざかる。あの時、僕がフットボールに強く惹きつけられた時代、バルサとレアルしか存在していなかった。決して過言ではなく、あの時代、クラシコこそが主役だった。

 

ペップ、モウが退任し

『中の覇者メッシを活かす為の外裏の攻撃設定』

『偽翼ロナウドを活かす為のカウンター攻撃設定』

 

という悔恨を残し不全に終わった両クラブの名指揮官が残した遺言を活かす為に両クラブは似通った経路を辿る。 

 

両クラブはMSN,BBCという3topによる前輪駆動へ変貌し、バイタルエリアを巡って火花を散らした時代から戦力を全面に押し出し相手を圧殺する質的優位の時代へ変わる。

 

2013-2014シーズンから5季連続バルサ/マドリーが大耳優勝を独占し、ペップとモウの去った両クラブは時代を謳歌した。最終生産者と、それを活かす2人の組み合わせは、守備戦術の発展と圧倒的な攻撃力ゆえの守備免除の絶対防衛ラインを超過しだし、一つの命題を与える。

 

守備をしない最終生産者を維持するか、否か。

 

前者をバルサが選び、後者をマドリーは選んだ。メッシのいるバルサロナウドのいなくなったマドリーもロナウドのいるユーベも大耳決勝に上がれずにいる。これが何を意味するのだろうか?

 

バルサ/マドリーはどこへ向かっていくのか。10年代最高のバウトを見せた両クラブは20年代にどのようなサッカーを見せてくれるのだろうか。

 

次世代の最終生産者、ムバッペにはマドリーの偽9番、ハーランドにはバルサの9番になってもらいたいと願ってしまう。それは事実上のペップバルサとペップバイエルンの仮想対決になるからだ。

 

偽9番ムバッペがバイタルで躍動し、ハーランドとファティの2topが前線をかき回し、殴り合うエル・クラシコを見てみたいのだ。

 

ペップの残した2つの描像が新世代クラシコの図式になって欲しい、そんなペップバルサに魅せられペップサッカーを追い続ける者の願望を付し、記事を結ぶことにする。

ペップの大耳10年戦争

10-11シーズン、異分子イブラを放出し、最終生産者メッシのバイタル解放を目的とする460システムを完成、モウマドリーに国王杯は獲られるもリーガ、大耳(CL)を獲得し、歴代最高のフットボールを展開。

 

スイーパー型GKバルデス

繋ぐCBピケ

右方全域をカバーするRSBアウベス

ワンタッチで延々とボールを握るMF陣ブスケ、チャビ、イニ

サイド牽制の偽翼ビジャ

プロセスを得点へ変換する歴史的生産者メッシ

 

クライフ描像の具現体ペップバルサは世界中の賛辞と共にあらゆるタイトルとおびただしいほどの勝ち点を獲得した。就任3年でリーガ3回大耳2回という偉業を成し遂げた世界最高の指揮官ペップは大耳決勝に上がるのは10年後となるのだが、そんな天才の10年を振り返る。

 

 

 

11-12 信念と共に

 

343への進化

 

メッシのバイタルフリーと得点が等号で結ばれた集団が全世界の模範でもあり研究対象であった時代、メッシマークを如何に分散するかがバルサの次のフェーズとなるのは自然。そのためサイド突破力向上、バイタル生産者増加をペップは考える。

 

補強としてロッシ(当時ビジャレアル)、サンチェス(当時ウディネーゼ)、セスク(当時アーセナル)といった面々がリストアップされ、サンチェスとセスクの獲得によってペップバルサはメッシを活かす多様性獲得へ歩を進めた。

 

サンチェスによって『外』の脅威が増し、セスク獲得で『縦』テンポ変え、を手に入れた。周囲はチャビの後継者としてのセスク獲得を歓迎したが、ペップは予想の上を行く。開幕ビジャレアル戦で披露されたのは343システム。チャビ、イニエスタ、セスク、メッシという名手4人を共存させた狂気のシステムで5-0マニータ。

 

ペップの親友で、WSDのコラムでお馴染みの御意見番ヘスススアレスの言葉を引く

 

『タレントは絶対に共存すべきなのだ。もし不可能だというなら、それは監督の能力に問題があるからにほかならない』

 

バルサやマドリーのような、その国を代表するクラブというのはそう簡単に時代の流れに翻弄されてはならない。 むしろ崇高な理想を追い求め新たな潮流を生み出していく事こそ彼らに与えられた使命ではないだろうか

 

この言葉に従うようにペップはセスクとメッシの共存、試合の完全支配のため343挑戦を選択した。

 

勇敢であれ

 

『中』のメッシを活かすには『裏』と『外』を強化すべき、という方針のもと、裏抜けし相手DFラインを牽制するセスクとビジャ、SBをピン止めし中央圧縮戦略を破壊するクエンカ、テージョを用いてメッシのバイタル解放に特化したペップバルサは歴史的な破壊力でシーズン前半無双。印象的な試合を。

 

モウマドリーとの前期クラシコ。GKバルデスのミスキックをカウンターに沈められた前半、ペップは343システムを強行し攻め倒しを選択。ペップの言葉を以下に

 

『0-1にされた後、4バックで勇敢に戦うか、3バックでさらに勇敢に戦うか。さらに勇敢に戦うことを決断した。』

 

サイドを捨てた中央圧縮守備からのカウンターというリアクション戦術に対抗するために開発した343でペップバルサは勇敢に戦う事が勝利への最善手であるというカルマを遵守しクラシコにおいても3-1の逆転勝利。この成功体験がペップを10年間苦しめる呪縛の始まりだった。

 

雨のサンマメス決戦となったビエルサビルバオとのリーガ戦、師匠ビエルサバルサ対策の最新作を披露。オールコートマンツーマンバルサからボールを取り上げる真正面からのソリューション、一人でも外されれば大惨事になる危険性もある選択

 

ゾーンの網目の間でボールを受け相手の判断よりも早くボールを弾き間で受けるを繰り返すポゼッションに対しマンツーをぶつけるビエルサ、4バックに4トップを当てるという魔策にペップバルサは溺れていく。そして、この戦術をバイエルンに渡ってからペップは大耳で選択する。

 

苦しむペップバルサを救ったのはメッシ、後半46分にこぼれ球を拾いシュート、2-2のエンパテ、勇敢なビエルサビルバオに苦しめられた試合を振り返りペップは

 

『最高級の試合。両チームが勝利を目指した時、こういった試合が生まれる。キックオフ直後からこんな試合になるだろうと分かっていた。』 

 

勇敢に戦う事こそ勝利への最善手でありビッグゲームほど最上級に勇敢さを見せねばならないという姿勢の大切さを深く感じたシーズンだったのかもしれない。

 

鐘が鳴る

 

CWCにてネイマール擁するサントスに、前線にチアゴ、アウベス、メッシ、中盤はブスケ、チャビ、イニ、セスクという攻撃的布陣、前年の460の進化系となる370を選択してきた。この370はメッシの解放を目指す460とは異なる哲学を具現化した、『コアUTポジショナル理論』。GKと3バックとブスケツ以外は縦横無尽にポジションを入れ替え続けても本職であるかのように振舞い、サントスは散った。

 

460時代の間で受けて弾いて受けるを繰り返すティキタカとは違い、選手のポリバレント性を活かしボールを交換する人も交換し続ける未来のフットボールを披露していた秩序だった無秩序の具現化のためのUT性の高いタレントによる無限ポジション変換と無限パス交換を主軸とする支配理論、これこそがペップの目指す真の理想なのだろう。

 

しかしビジャ骨折による今季絶望という事故もあった。外の生産者ビジャ離脱、そして世界一という達成感が緩やかにチームを変える。

 

プジョルはケガで出場できず、アビダルは病気でチーム離脱、ピケも調子を崩し始め、チャビはプレス強度減退、セスクはテンポの速いパスを選択しすぎてチームから浮き、サンチェスは息を吐くようにケガをし、ビジャは離脱、メッシは守備を辞めた。

 

このことがペップの作り上げてきた作品の精度を乱す。即時奪還と無限保持の2局面特化は陰りを見せ343も機能不全に。その原因を列挙すると

 

①運動量抜群RWBにしてインテリオールにも対応可能なコアUTアウベスがRWだとヨーイドンの突破力はなくRCBとしては単純にフィジカル差で潰され良さが死ぬ

 

②メッシマークを逃す為の外攻めがテージョ、クエンカ、サンチェスが質的に大きくメッシに劣るため捨てられる

 

③メッシ守備放棄により前線プレスが効かず後方に負担がかかるにも関わらずプジョルアビダルの離脱に加えピケの不調で守備がしんどい

 

この3点とペップの混乱も相まってリーガマドリー戦、大耳チェルシー戦の2つを343で落としペップは指揮官を辞し4季間に獲得可能な19タイトルのうち14ものトロフィーを獲得し、21世紀のエルドリームは静かに幕を下ろした

 

就任してからロナウジーニョ、デコを切り、リーガクラブとして初めて3冠を初年度に達成し、イブラという柱を用いメッシ解放へ挑戦、その後メッシと心中する460構築で再び大耳制覇、その後コアUTによる370、セスクを落とし込んだ343への挑戦と常に変化を恐れなかった、ソリッドなチームではなく変幻自在なリキッドなチームという哲学を具現化しペップバルサは伝説となった

 

ペップの343は間違った選択だったのか、メッシという中の覇者を活かす為の外攻めと裏攻めの設定、その答えは後にMSNと呼ばれることになる

 

ペップはColdplayの大ファンでチームバスで『Viva la Vida』をかけていたそうだ。絶大な権力を誇った王が失権し、かつての良き世を思う歌。

 

Hear Jerusalem bells a-ringing

エルサレムの鐘の音が聞こえる


Roman cavalry choirs are singing

ローマの聖歌隊が歌う


Be my mirror my sword and shield

汝の鏡、剣、盾となれ


My missionaries in a foreign field

異国への宣教師となれ


For some reason I can't explain

何と言えばよいか。。


 I know St. Peter won't call my name

聖ペテロは私を呼ばない


Never an honest word

真理なんてなかったのか


And that was when I ruled the world

それは私が世界を統べていた時の事

 

バルサ初年度ローマでチャンピオーネが歌われ宙を舞ったペップは就任4年目のカンプノウで聞いた試合終了のホイッスルの音に聖者必衰の理を抱いたのではないだろうか。この敗北を受けてドイツ、イングランドの2国を巡りクライフ(キリスト)にとっての一番弟子ペップ(ペテロ)は師の提唱する勇敢な思想を胸にバルササッカーの宣教師となる、そこで待ち受けるのは最終生産者メッシがいた時代へのノスタルジアであった。

 

安息の地バルセロナを後に冒険を始める。そして世界はポストバルサ時代へ向かう。ペップを失ったバルサ守備をしない絶対的最終生産者との共存という課題を背負うのであった。

 

 

12-13  休戦

 

ペップNYへゆく。

 

バルサ指揮官を辞し、ペップはアメリカNYへ家族で移住し次なる冒険を見据えていた。各メディアでUTD、シティ、チェルシー、PSGといったクラブ指揮の可能性が報じられる中、ペップの理想は、そのどれでもなかった。送り出すスタメンの如く予想を裏切る第一志望チームが彼にはあった。サッカーブラジル代表通称セレソンである。

 

バルサでクラブレベルで獲得できるタイトルを総なめにした事とバルササッカーの再現を行うに足る戦力を有したクラブはなく全とっかえをして軋轢を招く可能性から代表チームを選ぶのは合理的。

 

ネイマールコウチーニョ、モウラ、ガンソといった若手台頭に魅力を感じ、弟ペッレを通じてブラジルサッカー連盟に意欲を伝えていたそうだ。2014年自国開催のW杯の指揮官としてセレソンを優勝に導く野望にペップは燃えていた。メネゼス政権が風前の灯火にあり、連盟も考慮はするも、自国出身監督に拘りスコラーリが選ばれ夢は幻と消えた。実際スコラリは日韓大会で優勝経験もありベターな選択。それがあんな悲劇を招くとは。

 

用意周到な指揮官はバルサ4年目初頭の親善試合でバイエルンミュンヘンの上層部と密会し『ここ(ミュンヘン)で働くイメージが出来る』という思わせぶり小悪魔台詞で第2志望チームという滑り止めを準備していた。NYの地にてバイエルン会長ヘーネスとの間で13-14シーズンからの指揮で合意しドイツ語の練習に励みバイエルンを研究した。

 

ペップは大補強は不要と伝え、ドイツでのキャリアが動き出した。シーズン終了後に発表する予定であったがイタリア人ジャーナリストであるジャンルカディマルツィオがスクープし13年初頭の発表となりメディアでは新生ペップバイエルンの予想が盛んに報じられた。

 

ペップは最終生産者を求めた。当時バイエルンとペップバルサとの違いは外攻めの大駒であるロベリーがいる事、各ポジションには申し分ない選手を揃え、足りないのはただ一つメッシ。

 

最終生産者メッシをバイタルで解放するためのチームだったバルサのように明確な最終生産者として誰に点を取らせるのか、補強として9番を望み候補者は代理人が自身と同じスアレス、CWCで確認済のネイマール、ドイツで輝きを放つレバンドフスキスアレスが素行面で弾かれ、ネイマールも権利問題の煩雑さや本人のバルサ希望から消え、残る候補者レバは本人との合意も取り付け残り契約1年(ここで売らなければ再来季には無料で放出する事に)である事から獲得確実。しかし所属クラブドルトムントは一年延期しての無料放出を選択。

 

バイエルンフロントも焦りを覚え、新たなアタッカー獲得を考え始める。バイエルン所属のクロースと代理人が同じマリオゲッツェである。本人の移籍願望をクロースを通じて知ったバイエルンは移籍条項(金銭によってクラブの意向を無視し獲得出来るシステム)を行使し獲得に成功する。しかしゲッツェは最終生産者ではない。ペップにとって最初の誤算となった。

 

ペップのいない世界で

 

メッシのチームとなったバルサは343の実装を諦めビラノバのもとでセスクを取り入れた433の構築に着手。犠牲になったのはケガ明けビジャ。セスクの縦意識の高い高速攻撃によってシーズン前半は無敗という圧巻の出来。

 

しかしペップが危機意識を持っていた中央圧縮対策の必要性を後半に思い知る。ビジャをベンチに置いたことで外攻めのオプションは消失しデザインされた守備を持つアレグリミランサンシーロで2-0の敗北を喫し敗戦ムードが漂うもビジャの復帰とセスクのベンチ落ちによってバルサは大逆転でミランを撃破。

 

しかしメッシ依存度は臨界点を超え大耳8強PSG戦で2戦連続のドローによる進出。アルバとアウベス共存リスク、ピケとプジョルの不振と不調、チャビのプレス強度減退、サンチェスの不振、メッシケガという課題を誤魔化し続けてきたバルサに現実を突きつける。大耳4強で合計スコア7-0という大敗北、その相手こそバイエルン

 

昨季全大会2位という屈辱を受け、4番ハビマル、CBダンテ、運動量抜群のマンジュキッチを獲得しライバルドルトムントのプレス強度を見習い全員守備を徹底、攻守のハードワークとロベリーの破壊力を活かした攻撃で全大会1位という快挙を成し遂げ、ブンデス初の3冠を成し遂げた。

 

マドリーとバルサという2強を中心とした欧州サッカーシーンにハードワークしながら攻守が連動するドイツの2強、そしてスペイン2強に抗う反逆のシメオネアトレティコも台頭。プレミアではユナイテッドのファーガソン勇退し、時代は緩やかに動こうとしていた。

 

バルサ由来のパスサッカーの導入がプレミアで進み、バルサの即時奪還スキームをヒントにドイツではゲーゲンプレスが流行。世界はペップバルサという遺産から新たな戦術開発に着手し、メッシとロナウドのチームの大耳敗北によってハードワークとトータル性の高い戦術が叫ばれた、しかし皮肉にも、この年を境に時代は真逆の方向へと進む。

 

13-14 赤いUT

 

ティキタカという不協和音

 

ペップはバイエルンでの就任会見でドイツ語で受け答えした。通訳を付けず記者の質問に答え続ける姿はNYでの成果を見せると共に『チームを変えるのではなく自分が変わらなければならないという言葉に説得力を感じさせた。しかし周囲も驚くほどにバイエルンは最先端のコアUT理論の具現体へハインケスの面影の欠片もないほどに変貌する。

 

シーズン前練習でバイエルンは思うようにパスが回せない事、生産者不在を露呈する。ペップは選手のUT性を確認していく、リベリ、シャキリの9番適性を見たり、ラームの中盤転用の可能性を考え、MF出身のアラバの技術に注目。ペップは決断する、中盤を補強せねばと。そしてバルサからチアゴを一定の出場機会が無ければ移籍条項を行使できるというザル条件をバルサが見落としていた事でたったの2000万€で獲得。

 

モウチェルシーとの欧州スーパーカップ、クロップドルトムントとのドイツスーパーカップという2つの決勝をいきなり戦い1勝1敗、チェルシー戦ではPK戦にまでもつれ、ドルトムント戦では大敗を喫した。

 

特にドルトムント戦では0トップとしてシャキリが起用され質の低さを見せ、スペース管理能力の低いチアゴが4番で起用され稚拙なポゼッションが空転しカウンターを食らい続けるという前半、ロベリーを張らせた4231に戻し機能性を取り戻した後半、ペップサッカーの導入の難しさを感じる試合となった。

 

キルヒホフは実力不足を露呈しファンブイテンはピークアウト、バトシュトゥーバーはケガで出場のメドも立たない有様でハビマルをCBで運用せざるを得なくなってしまった(もちろんハビはビエルサビルバオ時代にCBを経験していてペップもCBとして計算はしていたフシもあるが)。このバイエルンとにかくCBいなすぎてヤバイ問題はペップ在任中解決されることはなかった。そしてケガ人との付き合いがコアUT理論への傾倒に拍車をかけることになる

 

ハビを後ろに下げたのでチアゴの獲得はあったが中盤は人数が足らず他ポジからの転用が考慮され控えがコンテントの左サイドバックアラバを回す余裕がなくラフィーニャが控えていた右サイドバックのラームが中盤でプレー。

 

『我々は群れで行動する、全員でボールを奪還し全員でボールを運ぶ、そこからは君たちの好きにすると良い。』このペップの基本方針はバイエルンの面々を混乱へとおいやる。バルサのようにパスを回さねばならない強迫観念と柔軟なポジショニングが出来なかった。ペップは決意する、『バイエルンにとってのイデオマを構築せねば』と。

 

低調で生産性のないパス回しに終始するペップバイエルン、マスコミやメディアもペップバイエルン批判を始めた。ペップがバイエルンの文化を破壊している、ハインケスの素晴らしいチームで無理やりティキタカしようとしている。

 

しかしペップは言う、『ティキタカなんてクソだ、パスをするためのパスに意味はないしパスは意図をもって行うものだ、バルサはティキタカとは無関係だ、すべてのチームスポーツの秘訣は敵を片方のサイドに偏らせるため同サイドに自分たちも集結することだ。同サイドに人を集め敵を引きつけ反対側で決着をつける。そのためにパスが必要で、そのパスは意図と意味のあるパスでなければならない。チームメートを集結させるためのパス。逆サイドで決着するためのパス。私たちのプレーは、そうあるべきだ。決して意図のないティキタカなんかするな』

 

整然とした配置につくため中盤で15本の連続したパスをしながら混乱させることができたらボールを持つことには意味がある。敵はボールを奪おうとしてピッチ中を追い回すことになり、気づかぬうちにすっかり混乱しているんだ。もしボールを失ったとしても、その時点でおそらくボールを奪った敵の選手は孤立している。周りを私たちの仲間が囲んでいるので、容易にボールを取り戻すことができる。少なくとも敵が守備のオーガナイズを整えるのを妨害できる。ボールをサイドからサイドへとUの字の形に循環させる毒にも薬にもならないやり方だ。ボールはサイドからサイドへ、足から足へ、本質から外れて循環する。いかなる瞬間も敵のラインを突破しようとしないから、敵は何の努力もしないで守ることができる』

 

『君たちがいま見ているものこそクソッタレのティキタカだ。このタイプのポゼッションは、私たちに何の利益ももたらさない。100%ゴミだ。パスのためのパスだ。私たちに必要なのは、高い位置まで前進するためにメデイアセントロとDFたちがアグレッシブに飛び出して、敵のラインを壊すことだ。このUの字は終わりにしよう。』

 

『もし、私の前に5人のディフェンスラインがあるとする、彼らは私にサイドからサイドへパスを出させようとする。サイドからサイドへ、深くもなく危険でもないパスを。この5人のラインと、その後ろの4人のライン間のスペースはコンパクトだ。2つのラインはサイドのスペースへ私を追い詰めて、危機を回避しようとする。だから私は、2人のウイングを深く広く配置し他の攻撃陣を敵のライン間で動き回らせた。そして、5人のディフェンスラインをあざむく。左右に揺り動かし混乱させサイドに行くと見せかけた瞬間、パーン。攻撃陣に向けてパスを打ち込む。それでおしまい。』

 

ペップは偽サイドバックと呼ばれる戦術を授ける。しかしこれは戦術と言うよりはコアUTを用いたローテーションで、ある指導原理に基づくものであった、現在フットボールを議論する際の必須学問体系となった『ポジショナルプレー』である

 

 

コアUTを主軸とする最適配置理論

 

バイエルンの練習場のピッチに縦線が4本引かれ、2つのサイドレーン、2つのハーフレーン、1つのセンターレーンに分割されることになる。GKを除く10人の最適配置を決める指導原理が導入された。

 

①一列前の選手は同じレーンに配置しない

②二列前の選手は同じレーンに配置する

③一列前の選手は隣のレーンに配置する

 

この5レーン理論に代表される配置理論の目的はクリティカルな決定機をコンスタントに発生させる事と奪取時の囲い込みのセーフティネットワークの両立にある。

 

バイエルンにおける絶対的武器はロベリー。1対1での勝率の高い両翼突破を利用してサイドを切り裂きCBを引きずり出し敵陣最深部へ侵入して決定機を創出する事を目的とした。SBがハーフに配置し敵マーカーを移動させウイングへのパスコースを空ける。SBからウイングへの斜めパスが通ることで、ウイングが1対1で前を向けてバイエルンの必殺攻撃へと持ち込める。

 

ビルドアップのフェーズにおいては2人のCBが横に大きく広がりボランチのラームがCBのポジションまで落ちて疑似3バックを形成(サリーダデバロン)するバルサ流に加え、2人のIHのうち一人がボランチに降りる、大抵クロースでスペース管理に問題がある、そこを助ける目的と前述したウイング活用のためアラバは内側に絞る偽SB戦術を採用。

 

CBがSBのレーンに入るので一列前のボランチ列に入るアラバは内側に絞るのは指導原理に従うもの。ただ疑似3バックとは違いアラバは一時的なボランチとしてだけでなく本職ボランチとしてもプレーできる選手、コアUT選手なのだ。

 

ペップバイエルンはロベリーを活かす外攻めの為にペナ角(ハーフスペース)で有効的な立ち位置を取りCBを引きずり出し致命傷を与えるべく複数ポジションで本職のように振舞えるスタメンクラスの選手を複数起用し無限循環させデザインされた混沌を生み出し試合を支配するコアUTポジショナルチームへ変貌する。

 

 

 無双する巨人

 

5レーン理論の遵守とアラバ、ラーム、ハビといったコアUTを用いたポジショナルプレーは世界の耳目を引いた。3冠を成し遂げたバイエルンにとって必要なのは世界的知名度の獲得。UTD、リバプールバルサ、レアル、ミランといったブランドに肩を並べるべく、異なった指揮官による異なったプレーモデルによる3冠再現という巨大プロジェクトの旗頭ペップは、もう初年度の時点でフロントを満足させる結果をあげていた。

 

ペップやバイエルンを好む好まざるに関係なくサッカーシーンの話題であり続け、コアUTを用いた先進的なフットボールは間違いなく『主語』でありつづけた。そのフットボールを学ぶため後のミラン監督ガットゥーゾや後のマドリー監督ジダンが見学に訪れていた(ジダンは2015年春に見学)。

 

リーグ無敗記録53、史上最速の27節(残り7節=21勝ち点を残し)で優勝に加えドイツカップもクロップドルトムントを破って優勝、クラブワールドカップ、ヨーロッパスーパーカップも優勝、とハインケスの欧州王者のチームを受け継いだとはいえ、素晴らしい結果を残すことになった。

 

そんなペップバイエルン1年目の印象的な試合を。

 

VS ドルトムント(リーガ)

 

 ペップバイエルンのリーガにおけるライバル、クロップドルトムントとの一戦。スーパーカップでは空回るポゼッションを鋭いカウンターで刺殺されポゼスタイルを放棄してハインケス時代のカウンタースタイルに変更せざるを得なかった苦い試合を経てリーガで相まみえる。この試合、両チームともにケガ人がおりドルトムントフンメルス、スポティッチ、ギュンドガンバイエルンはシュバイニーとロッベン

 

バイエルンは中盤にハビ、クロースのIHに4番にはラームを配置。ラームとハビという2人のコアUTを用いてドルトムントを幻惑し、コアUTポジショナル理論を見せる。

 

ビルドアップ時にはCBが大きく開きボランチのラームがCBの位置まで降りる(サリーダデバロン)、その後クロースがボランチの位置に降りてハビはトップのマンジュキッチの位置まであがる。両SBはWBのようにあがる。

 

この配置から激しい前プレに対しては無理せず前方のマンジュ、ハビの『高さ』に逃げたりシャドーのミュラーを裏抜けさせたりロッベンの外攻めを発動するロングボールで逃げた。交わせる前プレなら丁寧に剥がしていくものの厳しいときは無理せず柔軟に逃げる、を繰り返しドルトムントは有効なカウンターを打てなくなってしまった。ただこのロング逃げも3年間かけて恐ろしい暴力的戦術へと仕上がる

 

ここからコアUTの恐ろしさを見せつける。

 

まずマンジュキッチを下げゲッツェに交代、0トップ発動。またラームはボランチからIHへ変換、ハビはボランチに変換し中央制圧。前プレが空転し激しさが止んだ55分過ぎにポゼッション確立、更にボアテンに変えチアゴを投入し試合を眠らせにかかる。ハビはボランチからCB変換、ラームはIHからボランチ再変換し中盤ではワンタッチでボールを動かし続ける。

 

ドルトムントからすれば相対するプレイヤーが変わり、手筋もロング主体の空中戦からショート主体の地上戦へ変容しドルトムントは主導権を完全に掌握される。

 

その混乱の最中、ゴールネットが揺らされる。右に張るロッベンの近くにいたミュラーからラフィーニャ、ラームと渡りミュラーに戻して中央へ移動するロッベンがDFラインを引っ張り、バイタルが広がり、0トップのゲッツェが解放されパスを受けたゲッツェがダイレクトアウトサイドキックで裏切者へのブーイングが響くかつてのホームを絶望へ沈めた。

 

リーグ勝ち点差は負ければ7となりリーガは絶望の様相を呈す、負けられないクロップは力を振り絞り戦う、バイエルンの中盤制圧に負けずボールを獲れると少ない手数でゴールへ迫る。ラフィーニャの後ろ残りのミスで好機を作るもノイアーを中心とするDF陣で弾かれ続ける。

 

ボールを持てる展開ではハビは有効なCBになるが守勢に回るとオバメヤンのスピードにやられている、前述のラファのミスを受け、ペップはラファに変え純正CBファンブイテン投入。ハビはCBからボランチ変換、ラームはボランチからRSB変換。

 

前がかりのドルトムント陣営へ向けチアゴからのロングパスが通り世界最高のデスコルダード(前残り)ロッベンのカウンター攻撃が炸裂しGKヴァイデンフェラーの頭上を舞うループシュートで追加点。

 

中盤でパスを繋ぎ外のロッベンへパス、右から左へドリブルで侵入する後ろからUT変換したラームが追い越し、ラームへパスしてからワンタッチでボックスで待つミュラーへパスしミュラーのシュートで勝負あり、3-0で敵地で完勝。

 

この試合のラームとハビは

ラーム    DMF→IH→DMF→RSB

ハビ        IH→DMF→CB→DMF

 

という4回にわたるUT変換を見せた。移動しても本職としてプレー可能な複数選手の設置とボールの位置によって最適配置を取り続ける指導原理の遵守。試合を支配するための方向性が示されていた。

 

 

 戦争の始まり

 

ペップバイエルンの怒涛の進撃は27節ヘルタ戦を境に鈍化。ホッフェンハイム戦を3-3、それまで27戦で13 失点のチームが3失点。その後アウグスブルグドルトムントに破れ無敗優勝は夢と散り失点は急増。もちろん心理的な安心から来る油断は否定できないが、一番の原因はケガ人多発とバイエルン対策の向上。

 

5レーン攻撃対策としてレーン埋めが打たれた事と、ゲッツェの最終生産性のなさ、マンジュキッチのUT性のなさと技術不足、ハビとチアゴとバドのケガ体質、リベリが背中の痛みに苦しみ、ロッベンも体調不良に陥った、バルサ4年目と同様にケガ人と体調不良選手の多さからパフォーマンスを落しバイエルンも緩やかに落ち込んでいった。

 

優勝が決まってからもセットプレーの脆さ、ロッベリーが止められると手詰まりという弱点が明らかになりリーガ、ドイツカップ、大耳の3タイトルレースにおいてクローズしていなかった2つのカップ戦で大きく苦しむ。

 

マドリーとの大耳4強、ベルナベウでのアウェイ戦で1-0で負け、2ndlegのホームでの試合、バイエルンは地獄を見る事になる。マドリーはバイエルンを研究しておりロッベリ対策とセットプレーの弱さ、コアUTを用いた幻惑戦術も理解していた。

 

マドリーもコアUT理論を実践していた。ディマリアだ。マドリーはアトレティコとの試合を機に433で攻め442で守る布陣を採用した。マリアは433のIHと442のSHを担当しマリアのUT性を用いた可変系によりバイエルンに応手した。

 

2ndlegにおいて現在まで続く大耳ペップバッシングの起点『奇策溺れ』が始まった。424をぶつけてバランスを大きく崩した。433でバランスを整え構えれば良いものをリベリの『攻撃的にいきたい』というコメントを受け、ロベリと心中すべくロベリと2topの前線4枚で攻撃を加えるシステムを採用。ロベリーが封じられ、U字パスを繰り返し、可能性のないクロスが跳ね返されてカウンターを受け、バイエルンの『群れ』の後ろの広大なスペース目掛けてベイルとロナウドが駆け抜けて0-4で敗北。

 

敗因はマドリーの2CBラモスとペペのコンビを中心とした屈強な守備力にマンジュ、ロベリーが完全に封殺されてしまったことだ。今季のバイエルンはロベリを活かす為のシステム構築が中心で433をぶつけたとして勝てたか、は何とも言えない。

 

ペップバイエルンは2年目までロベリーという翼を解放するためのシステムに全精力を注ぐもロベリーは最終生産性がメッシほどなく、メッシほど耐久力もないため主軸として不適、という判断を下すのに時間を潰しすぎたのが課題であった。

 

仮にレバンドフスキを1年目から獲得出来ていれば結果は変わったか、その答えは翌年の2年目に明かされるのだが、そこで分かるのは逆足ウイングとレバの共存の難しさで、ペップはロベリーという翼を活かす構想を捨て去るようになる。ペップバイエルンにはロベリー卒業というサブタイトルが付されていた。

 

バイエルン1年目は終焉し、ブラジルW杯が開催。そこでは大半のチームが5バックを運用し、SBに本職CBを配置するなど守備的なスタンスが見られ、攻撃的なポジショナルチームは沈んでいった。オランダの5バックシステムのデスコルダードとして奮闘するロッベンバイエルン出身者の多いドイツ代表はネイマールとシウバを欠くセレソンを7-1で下し、その勢いのまま決勝5バックのアルゼンチン相手にゲッツェのゴールで優勝を果たした。

 

 

 

14-15 折れた翼

 

 

UT3バック

 

ロベリの耐久性と依存度への懸念から選手獲得に動く。アラバをLSBからUT化させるため、控えの質向上のためバレンシアからベルナトを獲得、絶対数が少ないCBにローマからベナティアを獲得、そして待望の最終生産者レバンドフスキを獲得、そしてバイエルンの生え抜きクロースとマドリーのアロンソを交換。純正4番の獲得によって4番起用されていたラームのUT性も増す。

 

『今季は3バックでいく』ペップの開幕前のミーティングでバイエルンのリキッドなシーズンは幕を開けた。開幕戦のボランチにガウディーノが起用され(ホイベルグ、ガウディーノはペップが目を付けた若手4番だったが両者共にバイエルンでは輝くことはなかった)、ロッベンはWBで使われカオスの様相を呈していた。

 

そして2年目の新機軸3421の正体が判明する。3421は4321の可変系であり、3バックは左からアラバ、ハビ、ボアテンで中盤は左からベルナト、アロンソ、ラーム、ラフィーニャ、前線はレバを先頭にシャドーにゲッツェミュラー

 

ベルナトとアロンソの獲得によるアラバとラームのコアUT化により、アラバは3バックの左にいながら攻撃時には433のIHとなりラームは2ボランチの一角から攻撃時には433のIHとしてタクトを振るう。

 

このシステムの狙いとしてロベリーという外の暴力を用いずにシャドーとWBとUT化したSBの3名でサイドを崩すコンビネーション攻撃というオプション、前年のマドリーのカウンターを受けたことを反省しWBを下げ5バックとして守備増強の狙いがあった。

 

しかしプランは大きく狂う。ペップバイエルンお馴染みのケガ人がとにかく多すぎる問題。チアゴは昨季3月からプレーが出来ず、シュバイニーもトップフォームに戻らず、ロベリ特にリベリはケガに苦しみハビは開幕して右ひざ十字靭帯断裂で今季絶望、シーズンが進んで11月になるとラームも数か月の長期離脱に見舞われ、シーズン佳境ではアラバが離脱し呪われたシーズンとなった。

 

2年目はとにかくケガ人が多く常に満足なスタメンが組めない状況。ペップは就任当初からチームドクターのヴォルファールトの姿勢に不信感を抱いており練習でのケガに対して離れたクリニックで治療を行うという独特の風習にも疑念を持ち、この事がペップと医師団の対立に繋がった。1,2年目はまだしも3年目はケガ人さえ少なければ大耳優勝の可能性は高かったと言え、慢性的なケガ人の多さはペップを苦しめ続けた。

 

苦しみ

 

前述したケガ人の多さに苦しみながらも、ポリバレントな運用でスタメンが発表されても配置や戦術が何も分からない、という嘆きがマスコミから漏れた。UT性の高いスカッドゆえ『乗り越えてしまった』2年目はペップバイエルンの中で最弱であった。

 

ミュラーはレバの周囲を衛星的に飛び回るセカンドしか出来ずウイングに置いても飛び出し以外では貢献は皆無、中盤では技術力もなく転用も出来ない、故にペップは取り扱いに困った、レバとセットで初めて輝く事に気づき翌季から切り替えた。

 

望まぬ『子供』ゲッツェもペップは取り扱いに困った。0トップとして使っても技術力はあれど10番でしか輝かずウイングではスピードがなく、IHでは攻め急ぎすぎてボールロストも多い。そもそもペップが最終生産者を望んだのに、何故10番を獲ったのか誰も得しない補強だ。

 

クロースが居なくなりシュバイニーも使い者にならなかったので純粋なIHは一人もおらずバイタル攻めはダブルシャドーの役割になったのだが前述の通り、あまり機能性もなく外攻めのロベリありきのチームなのにロベリは片側しかいない状況が続きコンビネーション攻撃も同格以上には全く機能せず、そればかりか戦術整備のされた中堅クラブには負けてしまうレベルであった。

 

格下なら戦力の質で押せ、リーガは独走、特に宿敵ドルトムントバイエルンに負けず劣らずの野戦病院であり降格か、というところまで落ちバイエルンは苦しむことなくシーズン前半を過ごした。

 

後半に入ると、リーガではデブライネにバルサ時代のウィルシャーよろしくプレスを無効化され血祭。デブ神を中心にヴォルフスブルグはポカールで優勝し、5500万ポンドでマンチェスターシティへと移籍し、2年後ペップと味方として再会する。

 

シャフタール戦で、後のレバミュラを輝かせる必須兵器コスタと出会い、ロペテギ率いるポルトが仕掛けてきた4番潰しで3-1のビハインドを背負うもアロンソを経由しないロングボールを用いて4TOPに配球する戦術を選択、偽翼にラームを配し中盤を経由しないゼロIH的な中盤省略型だがラームの気の利いたプレーと省略されているアロンソの相手のマルティネスを誘導する動きであったり猛烈なプレスと中盤を省略して前線の圧力で押し切る新たな手筋を手に入れた瞬間であった。

 

 

 悪夢の再会

 

ドイツカップPK戦の末、自軍全員がPKを外す珍事で敗北。結局今季はドルトムントがボロボロだったこともあってリーガのみ獲得という寂しいシーズン。そして最も印象的だったのは大耳4強バルサ戦。昨季BBCに続きMSNという凶悪トリデンテに向き合う。

 

前年度のベイル、ベンゼマロナウドの3topはマリアというコアUTにより442でサイドを封殺し433でカウンターアタックの変則布陣の最終生産ユニット。最終生産者ロナウドを活かすため、運び守るベイルとボックスで影として動くベンゼマのトリオ。ロナウドの良さは運動神経の凄まじさとボックスの中での冷静かつ正確なフィニッシュにあるため、そこを活かす3人だった。

 

バルサが誇るMSN、メッシ、スアレスネイマール。このトリデンテはメッシの良さを活かす3top。メッシの良さは前述の通りバイタルエリアでのコマンド力にあり正確な判断で最適なフィニッシュワークを演出する最終生産者にして歴史的なコアUT選手。では、この『中』の天才を活かす為にはどうすればよいのか。その答えはペップがバルサ監督時代4年目に提出していた、『裏攻め』『外攻め』の囮を用いてバイタルをこじ開ければ良い

 

メッシ解放のため、ペップは『裏攻め』のセスク、『外攻め』のテージョを準備したものの機能しなかった。彼らがメッシに比べて怖さがなかったからである。このペップの残した『メッシ解放マニュアル』をバルサは忘れてはいなかった。

 

ペップの4年目の取り組みは間違っていなかった。ただ囮の質が低かった。正確に言えば最終生産性の高い『外』と『裏』であればメッシは解放される。バルサは、それを信じペップ退任後1年で『外』のネイマール、2年で『裏』のスアレス。ピースは埋まった。ティキタカ戦術を守備として使う為にボールの動くカテナチオ逃げ切り戦術としてスーパーサブのチャビ、といったバリエーションも豊富。3topを攻撃に専念させるために中盤は走る10番ラキティッチを起用し、MSNはペップが考案したメッシ解放スキームの完璧な具現体として猛威を振るった。

 

ペップはMSNの恐ろしさは十二分に理解していた。自分が描いた理想なのだから。違いがあるとすればハイプレスを課すか否か。そしてソリューションも理解していた。ブスケ、チャビ、イニ、セスク、メッシの同時起用で挑んで最も苦しめられたチームはどこだったか、ペップは忘れてはいない、ビエルサという狂気じみた暴力を

 

リーガのビルバオ戦で見せたオールマンツー。あの戦術によってバルサがどれだけ苦しんだか。ペップは『家』カンプノウでMSNに3バックをぶつけ、マンツーを選択した。勇敢なカウンタープレスは早々に怪しさが漂い始める。当然だ、ラフィーニャがMSNの誰にぶつけたとしても抑えられるはずはない。セルヒオラモスが3人いるチームだけが成功する戦術だ。

 

ペップは早期に4バックへ変更しゲームは拮抗状態へ。ノイアーのビッグセーブもあって75分間0-0で凌いでいたゲームは、かつてのビエルサビルバオの時と同様にメッシの輝きによって2ゴールをあっという間に奪われ、バルサはチャビを投入しティキナチオ発動。攻めかかるバイエルンをあざ笑うネイマールのカウンターからのシュートで万事休す3-0で大耳制覇の夢は散った。

 

この敗北を昨年に続き奇策で負けた、と表現するメディアもあったが、これは正確ではない。おそらくどうやっても負けたはずだ。アラバ、ロベリー抜きでMSNと戦うなど無謀極まりなく敗北は妥当である。

 

メッシという『中』の王を活かす為には『外』と『裏』に囮が必要でネイマールを抜かれ『外』候補としてデンベレが獲得されるも順応に時間がかかっている間にスアレスの守備意識が衰え始めメッシシステムの維持と守備組織の両立という極めて難しい課題を抱え、2021年現在も未だに苦しんでいる

 

今季をもってペップはロベリを捨て新しい翼を手に入れ、レバミュラという最終生産コンビを活かすチーム作りに着手する。そして3年契約最終年、ハインケス時代再現となる3冠を達成すべく、最後の戦いへと挑むのであった。

 

 

15-16 完成

 

集大成

 

ケガでまともなプレーを殆ど出来ていなかった生え抜きシュバイニーを放出しユベントスからビダルを獲得、そして新たな翼、左利きコスタ、右利きコマン(レンタル)を獲得した。レバミュラを活かすべく同足ウイングを用いた4top布陣を選択。

 

開幕すると、同足ウイングのコスタの単騎突破からのクロスが炸裂、ブンデスのDFを切り裂き続け中で待つレバミュラは得点を量産、コマンも徐々にフィットし同足クロス爆撃をレバミュラが決める、というパターンが確立。

 

1年目にロベリー解放のためのワンサイドに密集してボールを回してからのサイドへの展開というパターンと中央をパスで崩す戦術を落とし込んでいた事と、2年目に戦術的な幅を広げるべく様々なポジションでプレーした経験が合わさり変幻自在の攻撃パターンで前半戦は無双。ゼロIHの424で爆撃を食らわせ、IHを加えて334で中攻めも加えたり、と破壊力はペップ政権史上最高レベル。代表的な試合を。

 

VSドルトムント戦(リーガ)

 

バイエルンは334の布陣で3バックは左からアラバ、ハビ、ボアテンで中盤は底にアロンソ、両脇にチアゴとラーム、前線は両翼にコスタとゲッツェ、中央はレバミュラ。

 

対するドルトムントは指揮官が俊英トゥヘルに代わりポジショナルサッカーの導入に着手し、この試合でバイエルンの中盤3+1(ミュラー)にぶつけるように中盤を菱形にした442をぶつけた。トップ下は香川真司

 

ペップバイエルン対策でもあるビルドアップの起点を叩くため4番アロンソに香川をマークさせCBからのビルドアップもオーバとミキタリアンで阻害。また暴力ドリブラーコスタには本職CBのソクラテスをぶつけ、コスタを封殺するギミックを採用。

 

バイエルンは慌てない。ハビとアラバがミキとオーバを引きつけ、ボアテンから長距離パスが外のコスタ、裏のミュラー、中のレバへとピンポイントで供給。1年目のドルトムント戦のプレス回避の『逃げ』と違い、明らかにコントロールが向上しておりボアテンは、この試合で2つのアシストを記録する。

 

ボアテンのロングで裏へ抜けだしたミュラーが先制点を奪い、ドルトムントの深い位置で攻撃が失敗したのを見逃さずロングカウンターが炸裂しミキがチアゴをボックスでファールしPK、4312では外攻めは鈍重でSBにソクラテスを使ったツケもあった。

 

ここでトゥヘルは4231に変更しミキを偽翼へ。クロップ時代のSBオーバーラップと偽翼の中央圧縮による中央制圧の策を打つ。そして中央で香川、ミキの2人の10番による幻惑でミキにバイタルでボールが入り、そこから中央圧縮したバイエルン守備陣を交わすように外のカストロにパスを出し折り返しをオバメヤンがゴール、前半を終える。

 

そして後半早々ボアテンからロングでレバが裏抜けし追加点、後がなくなったトゥヘルは香川に代えてヤヌザイを入れた433に変更、これにぶつけるようにペップはIHのラームをRSBにコア変換し4231に変更。

 

システムが噛み合うと、質的優位性がモノを言いドルトムントのカウンタープレスは交わされまくり攻撃的な『意図を持った』ティキタカで前進しゲッツェのクロスからレバがゴール、致命的な4点目。その後もチアゴゲッツェのコンビネーションから追加点を奪い、ドルトムントは大敗。

 

この事を教訓にトゥヘルはペップバイエルンに対しては532のようにして5レーンをまず潰す事とレバミュラ2topに対抗すべく受け身で構え、リーガ後半戦では0-0ドロー、ドイツカップはPK決着。しかし翌季にフンメルス、ギュン、ミキを奪われる厳しいシーズンが幕を開ける。

 

この試合を機に迫力を増し続けるバイエルンであったがロベリは、このシステムでは異分子と化し、逆足独力突破が主武器の翼はレバミュラとの相性が悪く適合に苦しんだ、またケガ人多すぎて草も生えない問題が再浮上し、ゼロセンターバックと呼ばれる純粋なCBが一人もいない布陣も組まれた。

 

このCB誰もいない問題発生時にキミッヒというラームの後継者が見つかるという副産物はあったものの、ボアテンがいないとロングが打てず苦労する事も少なくなかった。

 

 

最後の戦い

 

年が明け、声明が発表。ペップ今年度退任アンチェロッティ来年度就任の報である。こうしてバイエルンでの冒険は3年で終わる事が決まり最後の戦いへと歩を進める事になった。取り残した最後のタイトル大耳を目指す戦いだ。

 

リーガは独走、ドイツカップも順調に勝ち進み、大耳では16強で強敵アレグリユーベと相まみえる、ペップバイエルンの中でも最高のバウトとなった2ndlegでの大逆転劇はペップバイエルンの集大成ともいうべき試合であった。

 

ユーベホームの1stlegは2-2で折り返し、迎えた2ndlegアレグリはペップバイエルンを研究し尽くしていた。ポグバとモラタの2topにサンドロ、ケディラクアドラードの3枚を加えた5枚でバイエルンに猛プレスを加えた。身長の低いラームにポグバをぶつけロングで競り勝ちボールを前進させて、あっという間に2点を奪い去って合計スコア4-2でバイエルンを窮地に追いやり、ペップバイエルンワクチンである541による5レーン埋めとサイドアタック対策を実施し逃げ切りを図る。前任者コンテが残したバルザーリボヌッチ、キエリーニというBBCトリオが立ちはだかる。

 

2年前と同様に『BBC』に屈するのか、いや今季の暴力的なバイエルンは挫けない。ベナティアに代えてベルナト、アロンソに代えて元ユーベのコマンを投入。キミッヒとアラバのCBコンビを残し、4番にはビダルを起用し、バイエルン3年目の集大成424、RSBラームは偽SBとして動き、ビダル、チアゴ、ラームの中盤で中央を制圧し密集を作ってサイドを解放する1年目のギミックを発動。

 

ユーベは受けの体制でパス回しに過剰に食いつかずゴール前を徹底して死守。コスタがサイドを破り続けクロス爆撃を開始、また新翼コマンも右からクロス爆撃を始め、守るユーベ、クロス爆撃のバイエルンという構図。

 

コスタは中央に位置し、パスを散らしながら自身も突破を続け(スパーズ晩年のベイルロール)ユーベの壁が遂に崩れる。コスタのクロスからレバ、コマンのクロスからミュラーが点を奪い延長へ突入、攻めざるを得なくなるもディバラを欠くユーベの攻撃は空転しカウンターから2失点、バイエルンは強かった。

 

この勢いのまま鬼門の大耳4強、相手はシメオネアトレティコ、1stlegはミュラーをベンチにおいたバイエルンの一瞬のスキをついたサウールの飛び出しで失点し1-0で敗北する。『次の試合に負ければ殺してもらって構わない』ペップの鬼気迫る会見での言葉が大耳への執念を強く感じさせる

 

そして迎えたホームの2ndleg、ペップバイエルンは怒涛の攻めを見せる。4411で守るアトレティコ城を殴り続けアロンソのFKで先制し、そしてPKを獲得する。しかしミュラーが失敗、前半を終える。あと一点、迫るバイエルンのケガからの復帰戦となったボアテンのミスでグリーズマンが抜けだしアウェイゴールを奪われる。必要なのはあと2点、コスタを下げコマンを投入、逆足のリベリと同足のコマンの両翼から殴り続け、遂にレバが決める。あと1点、しかし、その1点は永遠に訪れなかった。

 

試合終了のホイッスルと共に3年連続の大耳4強敗退が決まり、ペップは怒りと悲しみに支配され、選手たちも大きな悲しみを負った。ドイツカップでは541で守り抜くドルトムントとの激闘の末、PK戦で決着。勝利が決まった際にペップは人目もはばからず涙を流した。ペップのバイエルンでの戦いは終わった。

 

 

成功か失敗か

 

就任3年間でリーガ3連覇、ドイツカップ2回、大耳4強3回、という主要タイトルの成績で終わったペップバイエルンに対して、多くの識者とサッカーファンは失敗の烙印を押した。ペップを擁護する人を見つけるのが困難な状況だった。

 

個人的にはペップバイエルンは成功したと思う。大成功だったか、と聞かれると疑問符が付くとは思うが。

 

そもそも、何故ペップはバイエルン指揮官に選ばれたのか、ハインケスの後任という3冠達成チーム引き継ぎ事業のリーダーに何故選ばれたのか、ペップ、モウリーニョアンチェロッティの3名の中から何故ペップだったのか。

 

バイエルンが望んだのは3冠チームに刺激を加えられる人物であり、ビッグクラブから誰もが知るメガクラブへの進化を促せる人物、それがペップだった。

 

ペップバイエルンは3年間、様々なメディアに取り上げられた。公開練習には多くの見学者が殺到し、ミュンヘンから遠く離れた日本でも多くのサッカークラスタに話題と議論を喚起した。海外サッカーを語る上でペップバルサの影響の是非、ペップがバイエルンで取り組む5レーン、偽サイドバック、コアUTを用いた変則布陣に代表される様々な事象に触れずに済ませる事は困難だ。

 

ベッケンバウアーマテウス、カーンといった著名人はペップを失敗と断罪した。圧倒的な戦力を誇るバイエルンの国内での成績は良くて当然であり、国外でのタイトル成績こそが全てである、という考えに基づくものだ。

 

ペップであれ誰であれBBCとMSNには負けていたろうし、3年目が唯一大耳優勝の可能性があったと考えられ、ケガ人がこれだけ出しながら乗り越えられたのもコアUTを主軸にチームを組み立てるペップだから、トゥヘルドルトムントは強かったし3年目のリーガ獲得は評価はされるべきと思う。

 

3年間、サッカー界に少なくない話題を提供し、多くのサッカージャーナリストに飯のタネを提供し続けたペップはバイエルンフロントの期待には応えた、そしてFCハリウッドとも言われるスター軍団のエゴを抑え結果を出す事が、どれだけ難しいか、後任のアンチェロッティコバチが苦しみ続けた事からも明らかだ。

 

ペップバイエルンはロベリを切るのが遅すぎたと言える。同足コスタコマンを中心としてレバミュラへのクロス爆撃システムの構築が遅れたしケガ人が出すぎた。

 

ペップ退任4年後にフリックの下で念願の大耳を獲得する。そのチームではペップが魔改造を行ったアラバがCBを務めキミッヒがRSBを務める。中央では攻めず、レバミュラに向けてサイドを崩しボールを供給し続けるチームだ。ペップが残した『レバミュラ活用メソッド』である。

 

このメソッドがあるのに、アンチェロッティミュラーをサイドで起用する433を使ったりハメスを獲得してミュラーセカンドトップから外され続け苦しんだ。コバチになってからも、この傾向が続き、両者共にロベリを捨てきれず同足翼からのクロス爆撃をレバミュラに供給するというメソッドを引き継ぐことはなかった。

 

レバミュラがロッベリーに代わる新機軸の中心になったのは最終生産性、つまりゴールを獲得できる能力、そして何より耐久力である、レバンドフスキはタフなプレイヤーでオーバーターンをしなくても全力でプレー出来る(このレバが離脱したことでフリックバイエルンは大耳連覇を逃した)。

 

大耳獲得に必要なのは耐久性のある最終生産者を活かすメソッドの開発、でありロナウドを活かすマドリー、メッシを活かすバルサ、レバミュラを活かすバイエルン、といった具合だ。

 

そしてペップはバルサ時代の旧友チキとソリアーノが待つマンチェスターへ向かう。そして、満足する最終生産者がいない苦しみが始まる。

 

16-17 絶望

 

トランスフォーム

 

ペップがマンチェスターに降り立った日、『マンチェスターシティのファンである事に誇りを持ってもらいたい』という言葉を発し、シティをペップ色に染める。

 

シティはペップサッカーを具現化するためには全とっかえに近いトランスフォームが必要と思われる程にスカッドは厳しい様相を呈していた。カタール資本の金満クラブを選んだのも、憧れのプレミア上陸を考えた際に、どのクラブも大幅な改造が必要で、その試行錯誤を我慢してくれる耐性がある事と、改造が可能で移籍計画における権力を掌握できるクラブとしてシティが最適だったのだろう。各セクションごとに見ていく。

 

①GK部門

 

英国産ハートはスイーパーとして展開力をもったキック力はなく、ペップは群れを作って鳥かごでパスを回しながら一方向に集める、というスキームを選択するためDFラインは非常に高く、ハイラインの後ろを狙った相手ロングボールの除去、またビルドアップへの参加が要請されるため、不適で、補強は絶対必要

 

補強ターゲットはシュテーゲン。シュテーゲンはバルサではカップ戦要員として使われていて獲得に動いた。しかしシュテーゲンを渡したくないバルサが正GKの座をシュテーゲンに約束し、リーガのスタメンGKブラーボをシティに移籍させた。

 

しかしブラーボは言語能力とコミュニケーションによってケアするタイプで純粋なシュートストップには問題があり、守備範囲も決して広くはなかった。ペップが望んだノイアーロールを上手くこなせず無謀な飛び出しで失点を生んだりして、ペップシティの守護神になる事は残念ながら叶わず、ケガもあって2ndGKとしての運用に翌年移行落ち着いていった

 

バルサで正GKとなったシュテーゲンがシティに来ていればどうなったか、それは誰にも分からないが、

 

 

② CB部門

 

大黒柱コンパニはケガ続きでマンガラは努力家ではあるがハイラインでプレー出来るかは未知数でオタメンディはデュエルに強いが足元には不安がある。デミチェリスも退団してしまったので、足元の上手いCBが頭数的に最低1人は必要。

 

ターゲットはユベントスボヌッチチェルシーも昨季冬に狙ったエヴァートンストーンズ。そしてビルバオにいる左利きのラポルテストーンズは獲得出来たものの、ラポルテはビルバオが移籍を認めたがらない傾向(エレーラUTD移籍で緩和)もあり難航したものの来季冬に獲得。ボヌッチに関しては子供が病気を抱えていて通う病院の関係で国内からは出たくない、との事で破断。

 

また、もう一人、ビジャレアルバイリーも獲得リストに載っておりペップが誘ったそうだがライバルUTDに獲られてしまった。UTDはシティが望む選手を掻っ攫う傾向がこの年から始まるが奇妙な事に誰一人戦力にならないという不可思議を毎度我々に提供してくれる。

 

ストーンズは守備面に不安を抱え、3バック時の配置が頭に入っていなかったのかパスミスがあったり戦術面においても不安を残した。コンパニは永年休業状態でオタメンディが徐々にビルドアップ能力を身に着けだしたのとSBが本職のコラノヴがCBで使えるメドがある程度着いた。

 

③ SB部門

 

右はサバレタ、サニャ、左はクリシ、コラノフと実績と名声を兼ね備えたプレイヤーが並び、若手枠でマフェオ、アンジェリーノの2人がいて補強は見送られた。ペップとしても4人ともにタイプが異なり偽SBもこなすだけの戦術理解力は、あるものとみなしていたのかもしれない。そして、この見落としがシーズンを暗黒へと誘う。

 

④ MF部門

 

ボランチを見ると怠惰だが体躯とパススキルがあるヤヤ、中盤より下ならどこでも順応出来るジーニョ、潰し屋でCBマスチェに似た起用が出来そうなナンド、左利きでボールを収める力のあるデルフ、魔法使いの如く偽翼で10番ロールをこなしていたシルバ、そしてペップバイエルンを惨殺した神デブライネが所属していた。

 

シルバ、デブ神のIH起用は確定で残る4番はジーニョかヤヤ、IHに頼れる選手が一人欲しい。ドイツ時代を良く知るギュンドガンを獲得。シーズン前にヤヤをCL登録から外した事に対して代理人がペップを批判したことを受けてヤヤ構想外の処置を下し、ギュンも後半はケガで棒に振ったのでMFは人材不足を露呈した。

 

⑤ WG部門

 

クロス爆撃実施可能性のあったナバス、大金をはたいて獲得したドリブラースターリング、これではウインガーが少ない、こちらもドイツ時代から知る暴力的突破が可能なレフティドリブラーサネを獲得。サネはフィットに時間はかかったがバイエルン時代のコスタの如く破壊力抜群の突破でチームの浮上のきっかけを作った。

 

⑥ FW部門

 

シティの顔アグエロと長身CFナチョを抱えていたが、ペップはアグエロの利他的な動きの少なさ、UT性のなさや守備貢献度の低さから新たな9番の獲得を目指していた。候補はドイツ時代に苦しめられたオーバメヤン。しかし獲得は難航し、最終的にはウイング転用可能なコアUTノリート、ブラジルからリーグの日程上冬からの加入となってしまったがジェズスを獲得。

 

ノリートはマンチェスターにも馴染めず性格面でも難を抱え早期に戦力外となった。ジェズスに関しては悩めるシティの救世主として、そしてペップが望むコアUT系9番としてチームに驚きと希望を与える。

 

こうして手を加えられたスカッド。SBに補強なし、最終生産者の不在、新加入選手ブラーボ、ノリートは役に立たず、ギュンは前半のみ、サネは後半のみの活躍に終わった。

 

 

苦闘

 

シーズンが始まると、基本布陣は三角形成に優れる433を採用。DFは偽SB運用に加えストーンズとオタメンからビルドアップが始まり、4番に便利屋ジーニョ、IHにシティが世界に誇る名手シルバとデブ神、ギュンドガン、前線にはスターリング、アグエロがスタメンとして使われ、アクセントとしてナチョ。ノリートが早々に構想外となった事とサネが順応に時間がかかった事からデブ神がウイングで使われてギュン、シルバ、神の3人同時起用も少なくなかった。

 

シーズン初頭、チームで一番の名手デブ神とシルバをバイタルでフリーにして、そこからサイドへ渡しロークロスでアグエロが決めるのがお馴染みのチェックメイト。こちらも新任のモウUTDとのマンチェスターダービーを制すると、その勢いのまま勝ち点を獲得し続ける。しかしスパーズ戦でカウンターに沈んだ。ここからシティは厳しい様相を呈していく。

 

そもそもデブ神とシルバに最終生産性がない事、これはバイタルで受けられたとしても出し手を消せばよいだけ、スターリングも最終生産性は低くコンビネーションタイプゆえ怖さはそこまでない、ノリートとナバスは突破もなく、早々に攻略された。

 

シティ最大の問題、『結局このチームって誰に点を取らせる目的のチームなのか分からない』問題が浮上する。結局のところアグエロと飛び出すギュンドガンの2名以外期待できる生産過程がないのだ。ボール回れどネット揺れずという光景が広がっていた。

 

そして再現性とデザインされたポゼッションが空転する、故にボールの取り所が予測できず一線級のアタッカーにストーンズジーニョが引きちぎられてストッパーの役割をこなせないブラーボにシュートの雨あられが降り注ぐ

 

GK+2CBからのビルドアップは円滑に行くが、補強の無かったSBは偽SBとして4番ジーニョと共にボールを前進させるが、これが上手く行かない事が多くカウンター対策のための偽SBもいとも簡単に突破され破壊されていた。そこに加えて最終生産性の低さ、である。トップレベルの戦いは勿論、ある程度聡明な指揮官に率いられたクラブでも勝つのは難しくないレベルにあった。

 

前半戦最大のハイライトは大耳バルサ戦でのシルバ、神、ギュンの3人の融合が成功し勝利したこと。後半に入ってからサネ、ジェズス、スタリンがハマりだし、何より外を質的優位性でぶち破れるサネと有機的に動きながら得点するジェズスはチームに活力を与えた。

 

ただ終わってみればペップがトップリーグの指揮官に就任して初めて無冠に終わり、間違いなく失敗のシーズン。最終生産性の低さ、SBの質不足、MFの駒不足、そして全体のクオリティ不足による必然の敗北のシーズンだった。

 

 

17-18 革命のはじまり

 

整備完了

 

昨季の失敗を受け、各セクションを見直し大型補強を施した。

 

① GK部門

 

失望のブラーボを2ndに格下げし、新たなGKの獲得へと向かった。広い守備範囲を可能にする身体能力とビルドアップに参加可能な足元のテクニックを兼備したGKとしてエデルソンが獲得された。低弾道ロングパスを左右に蹴り分ける圧倒的な技巧をシーズン開始当初から見せつけ、シティの絶対的なポルテーロの位置を確保。カップ要員となったブラーボも昨季の汚名を晴らすべく奮闘した。

 

② CB部門

 

コンパニは計算できず、成長著しいオタメン、若さゆえ伸びしろもあると思われるストーンズ、マンガラは対フィジカル要員、補強ターゲットはファンダイクを狙うも金銭面から撤退し引き続きラポルテ、加入は年明けから。左足から放たれる正確なフィードでスタメンを奪取、しかしストーンズがフォームを崩すのと同時であった。

 

③ SB部門

 

昨季の元凶となったポジション。4名全員放出というフルーツバスケット。偽SBになってもフィジカル担保で盾になるウォーカー、そしてコアUTとして破壊力のあるドリブル兵器メンディ獲得。そして左右どちらでもプレー可能なダニーロも獲得。

 

ターゲットとしてはダニアウベスを狙っていたのだが獲り逃し、アウベス獲得後の世界線は後にダニーロのトレード相手カンセロが見せるのは、まだ先の話。左SBに関してはメンディがケガに次ぐケガで、ジンチェンコ、デルフといったMFをコンバートした。

 

④ MF部門

 

シルバ、デブ神、ギュンドガンに加えて中盤に厚みをもたらしWGでも出場できるコアUTとしてベルナルド獲得。4番は引き続きジーニョ。確かに組み立て能力としては純正な4番には劣るかもしれないがセカンドボールの取り合いによる激しいフィジカルバトルの中で安全装置となりうるジーニョは最適な存在であった。

 

冬にはフレッジを狙いにいったのだが、ライバルUTDに掻っ攫われた。アウベスに続き金銭面で押してきたシティには珍しい事象。

 

⑤ WG部門

 

暴力的突破のサネ、コンビネーションで崩すスターリングは両名共に成長していてジェズス、ベルナルドがサイドでプレーが出来るものの本職は一人欲しい、マフレズの獲得を狙った。同足のスタサネとは違う逆足単独突破からの最終生産も可能で狙いに行ったが獲れなかった。

 

⑥ FW部門

 

最終生産者アグエロは今季はペップのオーダーに応えるべく生産性を向上させながら守備への貢献やポジショニングにおいて大きな飛躍を見せた。ジェズスは得点感覚を失ってしまい苦労のシーズンであった。

 

ペップはコアUT型の最終生産者を求め冬の市場でサンチェスを狙うも、フレッジ同様にUTDに掻っ攫われた。金銭面でUTDの方が好条件を出したからだそうだ。サンチェスはムービング型の9番なのにルカクという明確な9番のいるUTDにおいてサイドの独力突破要員を任され鳴かず飛ばずで後にインテルに飛ばされた事を見るに、両者にとって本当に残念な移籍劇であった。

 

 

こうして整えられたペップシティ2.0はプレミアで猛威を振るう。開幕初頭は532でウォーカーとメンディという補強の目玉選手を両翼に置くシステムを採用、メンディが左翼を一人で攻め守れるためサネとの食い合わせの悪さが問題だった。

 

しかしメンディが早々に壊れ、433に戻るとサネの左翼突破が輝きを放つ、ひとりで突破出来るので裏のSBはカウンター対策および偽SBに適したMFの転移が求められ、デルフが左SBのファーストチョイスとなった。

 

前年よりも向上した偽SBの守備力と後方からのビルドアップの安定とポゼッションの再現性によって首位を独走し、難敵リバプールとの試合もマネの一発レッドで試合が壊れ大勝し充実の前半戦を過ごした。

 

迫撃に死す

 

38戦32勝2敗4分で得失点差は+79、勝ち点、総得点、得失点差は新記録を樹立するという圧倒的なリーグ成績でプレミア制覇。ブラーボの健闘もあってカラバオカップも制覇し国内を制圧、クロップリバプールを除いて。

 

ペップバイエルン初年度のように強力3topサラー、フィルミーノ、マネを抱えるリバプールのストーミングサッカーに大耳で沈められてしまった。

 

1stlegではギュンを偽翼として使う4231を採用、アグエロとメンディを欠く中でジェズスが1topに入りギュンが中に入りついていけば大外が空くシステムをぶつけるも、サネのパスミスを拾ったミルナーからカウンターが発動し失点、またウォーカーがぶち抜かれ2点目を奪われ、ラポルテが不慣れなLSBに入ったためか対応を誤りぶち抜かれ3点目を奪われた。卓越した個の能力を軸とするカウンターに沈む、というお決まりの負けパターンにハマってしまった

 

ジェズスが降りたスペースをスタザネ両方が突かず外で張るのみで最終生産性のない攻撃が空転し続け2ndlegでは3421に代えて攻め続けるも個人技と誤審にも泣き大耳8強で敗退する事になった。

 

アグエロを活かすロークロス爆撃というスキームがアグエロの不在とジェズスの得点能力の喪失によって攻撃不全。これはシティの特徴でもあるが有効な指し手を打ち続けていれば自ずと得点は獲れる、という一種のカルマを信奉している節があり質的優位で押せないビッグクラブとの対戦ではパス回れど得点獲れず、という悪いパターンが展開されてしまった。サンチェスの獲得失敗も小さくなく影響した。

 

アグエロの耐久性の不安とUT性のなさはペップを悩ませ続ける事になる。思えば1年目夏のオーバメヤン獲得未遂、冬のジェズス獲得、2年目冬のサンチェス獲得未遂とマーケットが開く度に最終生産者の獲得に向かっていて、不満はあったのだろう。しかし幸か不幸かアグエロがペップの要請に応えるべく努力するためファーストチョイスはアグエロであり続けた。

 

シティのウィークポイントとなった左SBは破壊兵器メンディーが耐久力が一切なくケガをする度に劣化していき控えのいない位置ゆえにデルフ、ジンチェンコという本職MFの選手のコンバートで乗り越えていたが、ビッグゲームになるとクロス対応を含め課題は少なくなかったが、ここもジンチェンコの努力とラポルテの起用で乗り越えた。

 

18-19 不足

 

対策への対策

 

集大成3年目は補強としてジーニョの後継候補かつ司令塔型4番としてジョルジーニョをターゲットとした。本人と合意したのだが所属先ナポリの判断でチェルシー移籍でないと認めない、という謎展開から逃した。昨季から狙っていたマフレズは獲得にこぎつけ逆足ウイングを手に入れることが出来た。左SBは補強が見送られ、デルフとジンチェンコのポリバレントに頼る事になった。

 

シーズンが始まると昨季猛威を振るったポジショナルなシティ対策としてレーン埋めを目的とする541もしくは451を敵軍が選択する事が増えた。SBとCBの間のハーフスペースに位置するMFが曖昧な位置をとる事で相手を幻惑しCBを引きはがしシュートチャンスを作るギミックを抑えるために必ず5レーンに誰かいる、という状態を崩さない事を徹底する、というものだ。

 

そして攻める時は4番をぶち抜けばいい。ギュンドガンジーニョを振り切ることが出来ればDFは剥き出しとなり潰せるオタメンディは不調でコンパニが潰しを担っていたが基本いないのでしんどかった。特に偽SBデルフはよく狙われていた。

 

ペップバルサが中央圧縮によるバイタル縮小に悩み、『裏』と『外』を攻める事を目指して343を開発したように、サッカーとは良く出来たもので、全てのエリアをカバーする事は出来ない。必ずどこかが空くように出来ている。

 

どこが空くか。そう自軍CBとMFの間である。これにより4番とCBはFWのチェックが緩むのでロングボールを用いた戦法が有効となった。故に4番ギュンドガンが効いた。またジーニョをCBで出しながらも、どうせ放置されるのでジーニョがDMF化するコアUTを利用した偽3番も使われた。

 

第25節から最終節まで14連勝という凄まじいラストスパートで勝点98で2位のリバプールと勝ち点差1というデッドヒートを制しリーグ、FAカップカラバオカップイングランド史上初となる国内3冠を達成した。ストーンズは年明けにフォームを崩し、ジーニョやデブ神もいない状況であったが見事な国内制圧だった。

 

リーグ優勝を決定づけたレスター戦、お馴染みの5レーン埋めに対してCBコンパニのミドル弾で1-0で勝利した試合は今季のプレミアを象徴していた。レーンが埋められCBと4番がロングで対抗するシティ、前線にハンマー型がいれば破壊力も増したはずだ、そのハンマー9番がいるチームに泣く。

 

 

非情な結末

 

昨季に続き大耳8強スパーズ戦、1stlegでアグエロがPKを外し0-1で敗れ、2ndlegはジョレンテのハンド疑惑ゴール、VARでアグエロのゴールが取り消され合計スコアはイーブンのアウェイゴール差で敗退。バイエルン3年目以来最も大耳に近づいたチャンスはVARとシティズンが最も忌み嫌うUEFAに全てを壊された。

 

この試合の後、絶望に包まれる中、練習で一人気を吐いていたフォーデンがリーグで活躍する、というリアクションは見せたとはいえ受け入れがたい苦しい敗戦であった。

 

天敵リバポに1勝1分け(引き分けはマフレズのPK失敗含む)となったのは4231システムによってこぼれをミルナーに拾われカウンターを食らいすぎた事への反省からベル、ギュン、ジーニョを中心にセカンドを拾わせず戦い抜いたから。そのシステムをスパーズとの大耳アウェイでぶつけた。

 

リバポと同種のストーミングに対抗するため4231で対抗しスパーズホームで1失点に抑えた、アグエロのPKが決まっていれば1-1事実上の勝利。ラポルトは6試合フル出場の影響からか精彩を欠き3失点を含め結果に大きく関わってしまった。ストーンズがトップフォームを崩していた事も含めCB陣の出来が悲劇を招いたと言えるだろう。またロング戦略でも高さのないシティFW陣にとっては攻め手も限定されてしまい苦しかった。

 

指し手自体は間違いがなかった。それでも負ける時は負ける。どれだけ再現性の高いフットボールを実施しても最終生産過程の出来のみが勝敗を決めてしまう。非情な世界がペップを大耳制覇から遠ざけた。

 

19-20 衰退

 

 

サイクルは終わったのか

 

失望に終わった大耳以外全てを取りつくした最強シティ。ペップがバルサ時代に精神的に摩耗した『4年目』へと向かいピークアウトしていく。バイエルン時代はドルトムントかデブ神のような突出した人的資本のチームくらいしか苦労しなかったもののプレミアは違う。下位クラブでも上を『食う』力はある。

 

補強は念願の4番ロドリダニーロとのトレードでカンセロを獲得。懸案ポジションでもあった高さのあるFWや課題だったLSB、最終生産者は全くの手つかず。

 

迎えた新シーズン、天敵リバプールをPKでコミュニティシールドで破り幸先の良いシーズンが始まると思われた。しかし、これがシーズンの最初で最後の幸福な瞬間になる。

 

シーズン始まってすぐにラポルテが半月板を痛め半年の離脱、ストーンズも負傷離脱、更に前線で破壊力のある突破が出来たサネが前十字靭帯損傷によりシーズンアウト。そこに来てオタメンディがトップフォームを崩し、ジーニョがCB、ロドリを4番で起用する布陣で戦い続けた。メンディはモナコ時代の面影は一切なくコンパニも退団した事でCBの頭数が足らなかった。

 

FAカップは落としたがカラバオカップは何とか獲得し初年度以来の無冠は回避することが出来た。しかし明らかにペップサッカーに必要な質的優位性と配置の優位性が崩壊しており満足なスタメンを組めず苦悩のシーズンであった。4231でないとカウンターを防げないほどにプレスが低下しており、4231を選択するからボールを前進させれず確実性のない攻撃しか展開出来なくなってしまった。

 

 

ジダンとの決闘

 

ペップシティの16強1stlegは今季最も面白いバウトとなった。

 

①ベターなジダン

 

ジダンマドリーの強みはマドリーらしさ、即ち質的優位性に優れる人的資本を使ってフットボールの4局面全てで高品質(だが全局面において特化したチームほどではない)の構えを持っていて苦手戦型を持たない将棋の羽生先生を彷彿とさせるチーム。

 

CLのノックアウトラウンド以降の180分においては得意戦型だけで押し切るには長すぎて、どうしても苦手戦型と出会うことになる、そんな大会において無類の強さで3連覇したジダンマドリーは総合力の勝利と言えるベター派の一つの帰結。

 

そんな伝説的3年の後に無冠に転落したマドリーに再任して迎えるジダンマドリー第2期の今季、CR7という歴史的最終生産者を失った中で、異常な得点力を有する左ウイングを活かすシステムの歪さを感じながらも銀河系の穴は銀河系で埋めると言わんばかりにアザールを獲得し、リーガでは開幕数試合はもたつくものの、しぶとく首位争いにも絡み大耳でもパリに苦しむものの、16強でシティと対戦。

 

マドリーとしてはCRシステムを改良し、ポジショナルな振る舞い、ストーミングな振る舞いという現代トレンドをベターに取り入れるべく外攻め駒としてアザール、インテンシティに優れたバルベルデを取り込んだポストCRシステムの構築を狙う中で、シティというコアUTポジショナル理論を実践するチームとのバウトで求められるのは、相手の苦手局面の出現を促す手を打つこと、即ち短距離追撃、保持に優れたシティが苦手とする、被保持体勢、被追撃のフェーズを繰り返すこと。

 

つまり、保持できる選手と追撃可能な選手のミックスとしてのスタメンで臨むために、走れるヴィニシウス、保持のためのイスコ、中盤で戦えるバルベルデをスタメンに盛り込み、スペース管理に欠点を持つクロースは外した、というのがジダンの考え。

 

②ペップの苦悩

 

 ジダンマドリーとは対照的に保持とカウンタープレスという保持即時奪還2局面特化循環型のシティにとって総合型のマドリーに対しては、おそらく完全支配することは不可能で、苦手局面の出現は不可避で、その時間帯に失点をして劣勢に立つ心配はある。であるならば格上用として建築し続けてきた442を実装させて、ベルナベウでは耐え抜こう、というのが考えられる。

 

今季はリバプールに走られ、ケガ人も多発し、守備も崩壊の様相を呈し、UEFAからはFFP違反による欧州カップ締め出しも食らうという散々な1年。やはり保持の失敗によるミスからの失点に代表されるロドリの不適合、ジーニョの危機管理能力を中盤で発揮できないこと、ラポルテのケガ、ストーンズの不調に伴う潜在的な最終防衛者の質の劣化が重なりリーガは終了の気配。

 

CLにおいてはペップは特にアウェイ戦において相手への応手で奇をてらいすぎて自滅するパターンが続いているのですが、擁護するならば、狙いは分かるが、いかんせん結果に結びつかないことも多く、そこはペップの工夫の受難ともいうべき難しさを感じるところ。

 

今回も例にもれず、格上用442実験として、コアUTによる即時交換を可能にするためUT性のないアグエロは外され、ケガの影響を考えてスターリングはベンチに置いた。しかし今回の奇策は奏功することになるところに、この試合の面白さがある。

 

 

③試合の手筋分析

 

 序 ペップとジダンの新作発表会

 

 CR7がいなくなったマドリーは歴史的得点源を失ったのと引き換えに総員守備体勢の陣を手に入れ、そのことによりオールコートマンツーマンをビッグマッチで採用する手筋を手に入れた。

 

元々人的優位性には優れているのでマンツーではめてもある程度上手く行くのと、局地的数的優位性の確保を阻害することも出来るので作りこみの甘いポジショナルなチームを破壊出来、ジダンは今回もネオマドリーとしてマンツーをかましてきた。

 

しかしながら強度の高い試合においてマンツーは負担も大きく、剥がされたときのファールによる人的リスクがあり、また90分間稼働させるには体力的にも、きつすぎるといった弱点も。

 

一方ペップは格上用442を陣形として選択。守備時の陣形としてジェズス、デブ神を2トップ起用しながら442で守り、ビッグマッチでマンツーを選択できるようになったマドリーを警戒してコアUTポジションチェンジで幻惑しながらもリスクの低い攻撃を心掛けながらアウェイ戦を丁寧に戦おうという意図が見える。

 

また適応に苦しむロドリ、ビルドアップで詰みやすいオタメンディ、メンディーを抱えている以上は丁寧なビルドアップでかわすよりも長いボールで逃げるというのも合理的解決法、あえて中央の急所の弱点をさらして油断したところでコアUT発動による幻惑戦法で勝ちたいところ。

 

キックオフ直後からマンツーで嵌め殺すマドリーと無難にロングを選択するシティ、にらみ合いを続けながら、互いの手筋を確認しあいながら次の手を探す。

 

マドリーからすればシティの442の弱点はボランチ前の急所、そこでボールを握り中へ通すor外に渡してぶっちぎるという形で最終局面までいけば強度の足りないDFラインを壊せば良いだけなので、落ち着いてコアUT幻惑戦法への準備もしながら相手の出方を待てばよいだけ、あくまでもホーム、失点しなければよい。

 

動いたのはシティ、マンツーで来るなら、当然マーカーを幻惑させて思考スピードで差をつけていきたいところ、そのためのコアUT軍団なのだから当然。マーカーの動きが変更して厄介なのは縦変化。縦にポジションを入れ替えられると本当にしんどい、ベルナウド、ギュンが縦に並びデブ神の偽9番を発動、これぞシティという対応、このことで中央での数的優位が発生、偽9番の最大のメリット、相手CBがマークする相手がいないi,e,どこかでマーク出来ないフリーマンを自軍に作ることが出来る。

 

またマフレズ、ジェズスによるサイド牽制により威力も強化。しかし百戦錬磨のマドリーも流石の対応力で応戦。カルバハルをメンディーにぶつけてマンツー。こうしてマンツーで嵌めるレアル、コアUTで幻惑するシティ、応手でマンツーのループが続く。

 

シティはジェズスをウイング、ベルナウドを前線に起用する同時コアUTを用いて急所防衛力の向上とマフ、ジェズスの逆足攻撃も披露。確かにアグエロではコアUT性がないため翼になれず前線で孤立するため、ペップのアグエロベンチ判断も一理ある。

 

ここでペップが見せてきたのがデブ神、ベルナウドというドブレ偽9番。この手はバルサで見せていた攻撃力増強のためのメッシ、セスクのドブレ縦偽9番とは違い、守備力を上げる横偽9番。

 

これらの幻惑UT戦術にマドリーは戸惑い、決定機も作られるが、クルトワのファインセーブで凌いで対応して徐々に慣れてマンツーの組み方を変更して沈静化する、を繰り返した。現代サッカーの魅力、コアUTと柔軟なマンツーの殴り合いは見どころ抜群。

 

 

破 誤魔化しを許さない魔境

 

コアUTで幻惑するシティとマンツーでついていくマドリーの膠着状態はシティの潜在的弱点から生まれる。ロドリ、オタメンはビルドアップ能力が低い。そもそも、そういった弱点をカバーするための安全策としての442。

 

外から中へシフトする偽翼イスコにより、メンディーは浮き、カゼミロはフリーに。これ、実は皮肉なのは442というシステムに対して4番を浮かせるべく433,343を用いたのがクライフバルサ、その時の4番がペップ、面白い。

 

こうした展開でもなんとかマドリーの攻撃にシティが前半耐えながら両者0-0で前半を折り返し。ロッカールームで何があったか、ジダンマドリーはベター派4局面網羅型の真骨頂を後半に発揮。シティの格上用442に対して格上扱いをすればよい、上からたたくのではなく、下からたたく。

 

マドリーは前半の433から442へと陣形を変更し、全体のプレス強度を下げながらシティに対してポゼッションを要請。保持に優れた陣形ではないとはいえ、ポゼッションは大得意、後半はシティが攻め込み、マドリーがはじき返す様相が強くなる。

 

マドリーとすれば狙ったのはシティの組み立て、保持における奪取からの速攻。そして狙い通り後半15分に先制点をカウンターから奪取。あとは逃げ切るのみウノゼロ作戦へと移行。

 

シティとすれば格上用442で安全に蹴って逃げて隠していたロドリ、オタメンの組み立て能力の低さ、そして絶対的なDFラインの強度不足という弱点が、ここにきてアキレス腱となる。しかしペップ相手に退くとどうなるか、モウレアルを思い出そう、あの時はペペが大活躍してアグレッシブなファールが連発されたように、どうしてもヒューマンエラーが発生する。

 

先制点の前にもモドリッチバルベルデがイエローをもらい、このことが後になってきいてくるので大耳において潜在的弱点の誤魔化し、カバーが難しいということを思い知らされる。

 

レアルは、ここから中央圧縮を意識しながらの撤退守備へと移行。ペップは中を閉じるなら外から攻めましょうとばかりに、スターリングをベルナウドと交代で投入して攻め手を増強。

 

マドリーにとっては耐えてウノゼロが理想。モドリッチバルベルデがもうイエローをもらえない中で、とにかく耐えてヴィニシウスの加速力で陣地回復、イスコを使っての中攻めのカウンターをシティにちらつかせながら時計とにらめっこ。

 

ここで前半からのマンツー疲れ、幻惑コアUTへの対抗疲れから70分過ぎから徐々にマドリーの守備強度が弱くなる。そこでジダンはヴィニシウスからベイルへと交代、カウンターでの脅威を向上させようと試みる。

 

CBのラモスが前線に上がっていく様を見ても、随分と焦っていたのでシティに対する恐怖を感じていたのかもしれない。確かに守備力増強の一手もアリだが相手の守備力増強を担っていたベルナウドが下がったのを見て、『守りながらも1点狙おう』という意思をピッチに伝播させたかったのか。

 

集団で秩序立て守り続けてきたマドリーはデブ神の超絶クロスからのジェズスのヘディングで同点に追いつかれる。ペップが命じた外攻めからの神がかったプレーを見せたデブ神によりウノゼロ計画は夢と散った。

 

その後もスターリングのドリブルをファールでカルバハルが止めPK、デブ神が無事に沈め逆転、そこからジダンも動くが、時すでに遅し、シティの逆転勝利。やはり魔境はリスクを最後まで隠そうとすることを許さない。改めて大耳の恐ろしさ、そして個の暴力の凄まじさを感じる。

 

 

急 加速していく世界で

 

 現代サッカーの全てが詰まっていたような激闘の90分の今試合、アップデートされていくフットボールが見せる凄まじさ、個人能力、集団の連動性、ポジションに囚われないUT性、そしてなによりインテンシティの高まり、高速で展開していくフットボールの進化を強く感じる1戦。両者共に素晴らしかった。勝者も敗者もいない本当に素晴らしい試合。

 

しかし結果とは残酷なもので内容そのものを否定してしまう。そしてこの試合を受けてのマドリディスタの反応が『ベイル投入がミス』『マドリディズモを感じない』『負けられないシティとの違い』といったものが多く、個人的に感じたのが、もはや感情論でしか総括できないほど高速化しすぎたサッカーという競技の観戦の難しさ。

 

サッカーは選手のフィジカル能力と最適対応手の考案能力が大きく向上し続ける中で超高速で展開していきフォーメーションの変更は即時実行され、一部の賢明な観戦者しか理解できないレベルへと昇華されてしまっている現状がある。そして、その高速化によるサッカーの難解さが導くのが究極の結果主義と感情論。

 

この試合、80分過ぎまでウノゼロで抑えられていたペップがこのまま終わっていたら格上用442、コアUTによる横偽9番の工夫など無視されて、『アグエロを使わなかったペップのミス』『奇策に溺れたペップ』と非難されていた。

 

今回のジダン批判も似たようなもので、ベイル投入に関しても、カウンターの強度向上は見込み大舞台での経験が浅いヴィニススを途中で下げたのも理解は出来る。むしろオールマンツーと442転移による網羅型トラップなど素晴らしい戦術を見せていたし、この試合を決めたのはデブライネの超絶技巧で、それは監督の責任ではない。

 

サッカーとは結局、デブライネの超絶技巧、クルトワのスーパーセーブといった最終防衛線におけるラストプレーに左右されるもので、そこに監督の能力が入り込む余地はない。

 

今試合も素晴らしい試合として何度も分析して両者を讃えるよりも、感情論と結果論による誹謗中傷といった程度の低い議論が一部で発生するのも高速化する世界とユニバーサルにライトファンの増殖を続ける世界の一致という悲劇なのか。

 

2ndlegを無事に終え、ペップシティは課題の8強へと向かう、そこで対するのはリヨンであった。ペップは、この試合で物議を醸す。

 

 

敗因は奇策?

 

不調になって年が変わっても大耳での8強で散るという結果は変わらない。ユーベを16強で下したリヨンが相手。この試合3バックをペップは選択する。ラポルテ、ガルシア、ジーニョの3バックに大外がウォーカー、カンセロ、2セントラルがギュン、ロドリで前線はジェズスを1topにスータリングとデブ神がシャドーに配置され、リヨンの352をはめ込む布陣となった。

 

リヨンは3バックの両脇を広げアンカーをケアするロールを担うジェズスをピン止めしWBを前線に上げて数的有利を作り先制点を挙げる。ペップは慣れた4231に戻し同点弾を奪うも今度はリヨン本来の布陣の良さが活きてくる。

 

前プレの時は4バック、引いて守る時は5バック、という切り替えでミスを誘発しラポルテのミスからカウンターが発動し失点した。スターリングも決定機があったが外してしまい、追加点を奪われ終了。シティズンを中心にペップの奇策で敗れた、と罵詈雑言の嵐を巻き起こすのであった。

 

ただ最初から4231で挑んだとしても普通に負けていたと思う。4231になってからリヨンを崩すことが出来なかったのを見ていると厳しかっただろうし仮にリヨンに勝ってもバイエルンには勝てなかったはずだ。そこでMSNバルサの時と同様に対応策は打つはずで大敗していたと考えられる。そして罵詈雑言がまた起こっていたはずだ。勝てば官軍負ければ奇策ハゲ、厳しい世の中だ。

 

 

20-21 復活

 

メッシバルサ退団希望により歴史的最終生産者が市場に出たオフ、メッシを誰よりも知る恩師ペップのシティも獲得調査を始めた。

 

『寂しくなってきたよ、都会(シティ)にはなんでもあるけど、君がいないから』という小林賢太郎のセリフのようなメッシとペップの結びつきが最終生産者を欠くシティの大耳獲得に寄与する新たな可能性が取りざたされた。

 

しかし7億ユーロもの違約金と様々な団体からの反対にあい、メッシは残留。ペップシティの最終生産者不在問題は終わらなかった。

 

 

コアUTで甦る

 

停滞したシーズンを受け、コマ不足に陥ったCBにルベン、WGトーレスを獲得。シーズンが始まるとレスター戦で5失点。簡単に点は失うのに点を取るのは難しいという悲惨な状況はリーグ14位という危機を招いた。

 

シルバが退団した事でデブ神に負担が集中し思うようにビルドアップが出来ず得点も取れず、失点もかさんでいた。ペップシティの終わり、一時代の終わりだと皆が思っていた。かく言う自分も最終生産者メッシを取り逃した時点で昨季と同様の結果に終わると考えていた。

 

しかしペップは既に指し手としてシティズンが忌み嫌う『奇策』を静かに仕込んでいた。ペップがバルサ退団以降取り組んできた事、コアUTポジショナル理論の実践、この窮地でペップは、あるコアUTをテストしていた。ガナーズ戦そしてアルビオン戦。その戦術は後に『カンセロロール』と呼ばれる。

 

デブライネを助けるために疑似IH化し中盤に侵入しビルドアップを助け、その後に中盤に深く入る事でウイングへのマークを分散し外攻めを助ける、これによってマフレズは猛威をふるい続けた。カンセロの2番4番6番ウイング転移というバルサのアウベスが担っていたロールを復元した。

 

守備面でルベンが大ヒット、復活したストーンズと鉄壁のコンビを形成。耐久力に不安があるストーンズの事も考えるとベンチにラポルテが居るのは心強かった。アグエロ、ジェズスという9番不在の中、躍動したのはギュン。カンセロからの裏一発に抜け出すギュンは最終生産者の不在に悩み続けたシティにとっての救世主となった。

 

シティも災難であったがリバプールはもっと酷かった。CBのスタメンクラスが全滅し昨年のシティ同様に厳しい状況であった。チェルシーはランプス政権が風前の灯、スパーズもクライシス、優勝争い出来るのは個人能力まかせのUTDしかいなかったのも大きかった。勝ち点86でプレミア優勝、カラバオカップも優勝し、開幕頃の不安は何のそのでコアUT軍団の底力を見せつけた。

 

優勝勝ち点86は、ここ5シーズンで最低の数字であり、リバプールが万全のスカッドであれば優勝出来ていたかは疑問を残す。今季のプレミアは盤石のチームが少なく、その中でペップシティは新たなUTとゼロトップで覇権を獲得した、最終生産者の不在とUT理論の実践というペップシティらしい優勝であった。

 

 

あとひとつ

 

そして今季は、これまでとは違い大耳でも8強の向こう側へ進めた。鬼門のベスト8でドルトムントを倒しバイエルン時代の鬼門ベスト4でもパリを倒し決勝へと駒を進み、10年ぶりの大耳決勝、あの史上最強のペップバルサを率いてUTDを完膚なきまでに叩きのめしたウェンブリー決戦以来。相手は途中就任のトゥヘル。チェルシーをランプスから受け継ぎ見事に再生させた名指揮官だ。

 

ペップクラスタ、そしてシティ初の大耳決勝に胸躍る多くの人々が見守る決戦でペップはギュン4番でフォームを崩していたスターリングを先発させ、またも奇策と騒がれる中で1-0負けで涙を飲んだ。

 

まずトゥヘルはペップシティ対策を徹底してきた。シティが使うスペースを徹底的に封鎖する、バイタルはジョルジーニョとカンテがしっかりと閉め、大外レーンもWBがしっかりと封鎖、そして何よりシティの幻惑に対してバイタル、ハーフの2つは必ず封鎖する事を徹底するためシャドーのマウントとハフェルツは素早く埋める。

 

シティとしては大外をスタリン、マフレズで張らせて偽SBジンとベルがハーフに位置し偽9番デブライネが高めに位置して裏を狙い、ギュンが底で散らしながら、フォーデンはフリーに動く。

 

チェルシーはアスピ、ジョルジーニョ、ジェイムズ、ハフェルツを右側に集めサイドアタックを仕掛け、カンテも積極的に顔を出し(守備に転じても間に合う運動量)ヴェルナーが裏に抜け続ける。しかしキープ力と得点力のないヴェルナーはさほど脅威にはならない。LSBに本職のいないシティに対して左狙いの右サイドアタックは合理的だ。しかしトゥヘルの狙いは右でジャブを打ち左で刺す事にあった。リュディガーは基本的にパサーとしては死んでいるので左より右を抑えにかかるシティ。そこに罠があった。

 

アゴからチルウェルにロングが出てワンタッチでマウントにパスし裏をヴェルナーが走る。このチルウェルにロングワンタッチでマウント、ワンツーでチルウェルが貰い前進するという手筋が得点を生む。

 

GKから同手筋を打ち、ヴェルナーが裏抜けで引きつけ、ギュンとストーンズの間をマウントが鋭いパスで打ち抜く、全体が右へ寄っている。チェルシーのもう一人のシャドーハフェルツを誰がマークするのか、ジンチェンコだ。ハフェルツは裏へ抜けだしジンチェンコを抜き去る、DFが全員抜かれた裏のカバーはGKの仕事なのがペップシティ、よってエデルソンが飛び出す。落ち着いてかわしゴール。

 

縦横バイタルハーフ埋めを受け続けるも丹念にギュンが散らしながらも点は獲れない。こうなると質的優位で潰すしかない。そんな矢先デブ神がリュディガーに潰され負傷交代。残された違いを生み出す駒フォーデンはコンビネーションでバイタルまで侵入し、BOXで得点力を放つアグエロ投入までのお膳立てはした。しかし我慢強い守備の前に扉は開かず、ペップシティの大耳決勝はウノゼロ敗北に終わった。

 

この試合最大の論点4番ギュンの是非であるが、ジーニョであれば我慢強くパスを散らせていたかと問われると難しく、失点シーンもスライディングで防げたか、と言うとそれも何とも言えない。不正解の選択肢を選んだというより選んだ選択肢を正解に出来なかった、というのが正しい

 

スターリングの選択も幅を取りハーフを攻め、根気強く攻撃し続けるためには必要な駒であり独力突破の出来るサネの放出、代わりに獲得したトーレスの適合不全が響いたと言え。幅を獲って深く掘れるのはスタリンしかいないので妥当と言えば妥当である。

 

チェルシーに勝つためには根気強くバイタルハーフを開くために殴り続けるしかなく、分かっていても止められないレベルの個人能力が必要だったが、それを持つデブ神が退場したのは辛かった。何より最終生産者不在が重くのしかかった。

 

バイタルとハーフを埋めて大外もしっかり閉じて幻惑には乗らずに無視して守り、ジンチェンコのいる左側で勝負、を徹底したトゥヘルの勝利だ。

 

最終生産者の不在を誤魔化し続けてきたが大耳という魔境はそれを許さなかった。ペップは授与された銀メダルにキスをした。誰も望まないメダルとは言え、それはペップが10年かけてバルサという歴史的大作を更新しようと働き続けた勲章であった。

 

 

 

coldplayの something just like thisの歌詞の一部を。

 

where’d you wanna go?

どこへ行くつもりなの?


How much you wanna risk?

どうして、そんなにリスクを払うの?


I’m not looking for somebody

僕らが求めてるのは


With some superhuman gifts

飛びぬけた何かじゃなくて

 

Some superhero,Some fairytale bliss

超人的でも伝説的でもなくて


Just something I can turn to Somebody I can kiss

素朴にプレーする、そんなあなたのチームが見たいんだよ

 

I want something just like this

そんな事分かってるよ、僕だって、そうなりたいんだ。

 

最終生産者の不在による完備性のある敵軍への恐怖、自軍への不信、そこから来るオーバーシンキング。もっとシンプルにプレーしたい。3バックで応手なんてしたくないのかもしれない。でも、そうは出来ない。大耳で負け続けるペップの背中は色々なものを語っているように感じる。

 

フットボールはシンプルなスポーツだ。だがシンプルにプレーするのが一番難しい』

 

クライフの言葉は、今のペップにはとてつもなく重い言葉なのだろう。

 

 

 

21-?? 11年目の戦争

 

勝者から学ぶ 

 

 

ペップ・グアルディオラは『大耳優勝以外は失敗』という極めて高いハードルを課された指揮官だ。そもそも大耳は極めて難しいタイトルであり偶発性やケガ人といった要素に大きく影響を受けてしまう。だからこそペップは普段からプライオリティ最上位はリーガである、という姿勢を崩さない。ペップが施す策は時に『奇策』と呼ばれ大耳で実施し負けようものなら『奇策ハゲ』扱いである。しかし奇策を打つから負けているというのが本質なのか。

 

そもそもフットボールとは収支を+にする競技なのだ。得点数が失点数を上回っていれば如何なるプロセスも正当化され、下回れば如何なるプロセスも否定される。そしてそれは戦術も同様だ。メッシ、ロナウドは守備貢献度が極めて低い選手として知られているが彼らは前残りしながらも攻撃に転じれば高確率で得意戦型にハマれば得点を挙げてくれる。一人分の守備力の減退を上回る得点期待があれば収支は+になり正道となる。

 

全てのシステム、全ての戦術、全ての選手に+とーがある。問題は、その収支が+になっているかである。シティの左SBはメンディの低迷による本職MFの起用で常に守備では穴になる。しかしジンチェンコは偽SBとしてビルドアップで貢献するという+を生んでいて、それが守備面の不安という-と足し合わせた時に+になっているのか、が重要になる。

 

ペップの奇策溺れが印象に残りやすいが、大耳でペップが負ける時(殆どだが笑)は戦術云々というより普通に人的資本が足りていない。相手の得意戦型を受け切れないというのが殆どだと思う。10年戦争の9年間のペップの大耳挑戦を見ても、バルサ4年目、バイエルン3年目、シティ3,5年目以外の5年間は戦術をどう打とうが普通に負けていたはずだ。シティ1年目はメガクラブと呼べるかどうかも怪しいレベルであった。

 

BBCレアル、MSNバルサ、クロップリバポ(2019)、ハンジバイエルンの得意戦型に対してペップの当時のチームは成すすべなく負けていたはずだ。そして大耳で安定して勝つために必要なのは、このような絶対的な武器、最終生産過程の確保である。困った時、絶対的な力でチームを助ける得点を奪える選手、そしてその生産者を活かす絶対的な手筋、それを持たない限り安定的に勝ち進むことは困難である。

 

ケガが少なく常時出場可能で最終生産性の高い選手、の確保。これがペップはバイエルン退団以降叶っていない。もちろん簡単な事ではないが、必要だろう。勿論トゥヘルチェルシーのような特例もあるが、大耳優勝クラブには絶対的最終生産者がいる

 

そして過密日程の回避も重要な要素となる。リーグ、大耳、リーグカップの3冠を達成したクラブは2000年以降インテル1回バルサ2回バイエルン2回の計5回である。リーグ戦38試合(ブンデスは34試合)を戦い抜きながらカップ戦まで、となれば極めてタイトであり特にプレミアは異常なスケジュールで更に大耳の試合数を増やそうとするUEFAの動きを考えると負担は更に増すはずだ。

 

 この負担に対してファーガソンやクロップはリーグカップ戦のメンバーをユースチームで構成する、という作戦で対応していた。これは賛否別れるだろうが現実的に考慮に値すると思われる。コアUTだとポリバレントな変換によって過密日程を耐えてしまう、という事情からペップシティはカラバオカップに異常に強いのかもしれない。

 

 

大耳戦争に勝つために

 

以上の事を考えて、ペップシティへの提言をする。

 

① ケイン獲得の為に換金、トレード

 

アグエロの退団も加味すると現行の0トップスタイルはリーグ、国内カップでは有用でも同格格上との一騎打ちにおいては厳しく策を打たねばならない状況になってしまう、それを避けるべく殴り合っても自分達は勝てる、と自信を持てる最終生産過程の創造が望まれる。

 

そのために最終生産者の獲得は必須となる。候補としてベストはコアUTムバッペだが金銭面で非常に厳しい。シティズンが望むハーランドはレバ2世として期待出来る柱となれるが金銭面と代理人がペップと不仲のライオラである事を考えると厳しい。

 

残るターゲットはケインしかいない。スパーズのエースにして英国のNo.9は現実的なターゲットと言える。しかしコロナ禍の影響で資本の余裕のない今では獲得は金銭が足りない可能性がある。故に余剰戦力の換金、トレードを模索すべきと考える。

 

ラポルテ、スターリング、メンディ、ジェズス、この辺りをトレードの弾にする事を考えるべきではないだろうか。それ以外でケインを獲得する手段はないように思える。

 

①' フォーデンの最終生産者変異に賭ける

 

最も現実的な提案としては、0トップを維持し最終生産性を全員で補うプラン。しかしそのためにも偽9番フォーデンを固定しシティのメッシになるのを祈るしかない。フォーデンはドリブルの出来る衛星タイプだが、メッシの様な変異も期待できないわけではない。

 

不動という事ならトーレススターリングが苦しんでいるウイングに一人補強は必要でグリーリッシュを狙うのは理解出来る。しかし個人的に推したいのが柱の確保である。高さ不足に困るケースにおけるソリューションが必要だ。ジルーのようなタイプが一人いるだけで変わってくると思うのだが。

 

また本職LSBは一人欲しいところだ。ジンチェンコはビッグゲームでは辛く、メンディの退化を嘆くところだが、スピードもあり対人に強いLSBにビッグゲームは託したいところなのだが。。

 

② 国内カップを捨てる

 

全ての試合への完全コミットメントを信条とするペップには理解し難いかもしれないが試合数が増大し続ける現代フットボールにおいてはオーバーターンを超えた一種の『捨て』が大事になる。クロップが一度過密日程を理由にユースチームを送った事があり物議を醸したが現実的に考慮すべきだ。

 

FAカップカラバオカップと大耳どちらが重要だろうか。大耳覇者の事は思い出せてもFAカップカラバオカップの覇者など数年すれば誰もが忘れる。ペップシティの狙いはリーグと大耳の2冠、その目的のために国内カップはユースチームの実戦的な大会として使うべきだ。

 

大きな物議を醸すだろうが、ヨーロッパスーパーリーグ発足も試合数が増加し続けるUEFAに対する慢性的不満がコロナ禍の金銭不足で爆発したのが原因だ。国内カップにユースを送り込み続ける事は選手を集金装置としか捉えない現在のフットボールに対してのメッセージとなるはずだし、ペップはリアリスティックになるべきだ。コアUT理論による負荷減退も有用であるがFAとカラバオはユースに任せても良いと思う。

 

リーグと大耳が取れなければ無冠でも良い、それぐらいの割り切りがないと戦争は永遠に終わらないだろう。

 

③ リーグは流動、大耳は不動を徹底

 

ケイン獲得、フォーデン期待、どちらになったとしても大切なのは、リーガはコアUTを用いて柔軟な起用で乗り越えながらビッグチーム相手で最終生産過程のブラッシュアップに時間をかけるべきだ。

 

 リーグはケガの予防と戦術の拡充と実験も兼ねてフレキシブルな起用を心掛け、同格格上との闘いが続く大耳やリーグの重要な試合ではスタメンを完全に固定するのが良いと思う。

 

 433を基調に偽9番フォーデンに両翼がマフレズ、スタリン、中盤3枚はデブ神、ベルナウドのIHに底はロドリ、4バックは右からウォーカー、ストーンズ、ルベン、ジン、GKはエデルソンといった面々で固定すべきだ。逃げ切る際はポリバレントダイナモジーニョを投入、攻め手が欲しい時は飛び出すギュンを投入、で良い。

 

出来ればスターリングの代わりのウイング1枚、純正LSBに1枚、高さのあるFW1枚が欲しいところだ。

 

 

 

終わりに

 

イカバルサのCWC決勝を横浜のスタジアムで観戦しグダグダだったチームがペップという一人の男の下で圧倒的な変貌を遂げていく姿に心を奪われペップバルサを観戦する事から僕のフットボールライフは始まった。初年度の3冠に始まり、3年目の美しい歴史的バルサ、あの美麗な景色を忘れる事はないだろう。ウェンブリーでのファーガソン相手の3-1、歴史が変わったエポックメイキング、あれから10年。義務教育の中にいた僕は今、大学院で物理を学んでいる。あの日の僕は今の僕を見て何を思うだろうか。

 

ペップは10年間、様々な決断と選択をしてきた。その中で様々な喜びや悲しみを人々にもたらしてきた。ペップバルサ終焉以降、世界を制したのは戦術ではなく戦力だった。メッシやロナウドの才能が世界を統べた。戦術進化、テクノロジー進化、分析進化、そういった進化がもたらしたのは皮肉にも才能によって差が付いてしまうという残酷な景色だった。

 

バルサ以外では勝てない、と言われた男はバイエルンで強固なチームでドイツを支配した。プレミアではパスサッカーは不可能と言われた時もシティでイングランドを支配した。そしてペップは終わったと言われたときは今季のように見事に復活して見せた。

 

いつかペップも勝てない日がやってくる。かつての宿敵モウリーニョの様に。そんな日が来る前に彼にはもう一度大耳を制覇して欲しいと切に願っている。ペップは大耳を獲れない、そんな声を覆す成功を心の底から応援している。

 

人生は選択の連続だ。それはまるでゲームの様に目の前にある選択を選び取るようにして未来は作られていく。しかし人生はゲームとは異なる。ゲームにおいてはあみだくじの様に選択肢は必ず正解か不正解かが決まっている事が多い。しかし人生はそうではない。明確に正解の選択肢があるのでなく、選んだ選択肢を正解にしていく過程こそ人生そのものである。

 

ペップはこれからも様々な選択をする。その中には理解に苦しむものもあるだろう。しかし選んだもので成功すれば正道となる。邪道も勝てば正道。選んだ選択肢を正解に導いていくプロセスを深夜3時でも目をこすりながら追いかけたいと思う。

 

 

ペップは大耳を獲得して戦争は終わるのか、この長い10年を超えた戦争がいつか終わる時を願いながら、途方もなく長いブログ記事を結ぶことにする。